その心、明かす時。
ん、扉の向こうに気配があるな。っと、誰だー? あ、大智くんか。来てるなら呼び鈴押せばいいのに。
手に持ってるこれが誕生日プレゼントかな? なんか、やけに包装凝ってんな、また去年よりグレードアップしてね? さっすがぁ。
「誕生日プレゼント、これで良かったかな……いやけど、ちょっとラッピング凝り過ぎたか? きもいって思われないかな……」
おっと、呼び鈴押してこなかったのはそう言う事か。大智くんったら、考えすぎちゃって。修一はそんな事思わないから、大丈夫だぞ。
「お、大智、来てたのか」
「しゅ、修一! いや、今ピンポン押そうと思っててさぁー。ほら、これプレゼント! おめでとうな」
「おう、ありがと。今年もまた梱包頑張ったんだなぁ、開けるの勿体ない気がしちゃうな」
「中身が本番だからなぁ~」
去年は確か、ペンケースあげてたよな。今修一が使ってる奴はそれだぞ。
「開けていい?」
これから学校だか、開けるだけならそんな時間もかからないだろう。一度貰ってしまうと中身が気になって仕方ない修一は、大智くんに今ここで確認しても良いか訊いた。
「おう、いいぜ」
「おっし、ありがと」
ラッピングは丁寧に空けて、これはまた別で取っておく。片手サイズの小さ目な箱の中には、これはコインケースだな。
「お、コインケースか! お前、よくわかったな。俺が地味に欲しかったものだよこれ」
そういや、修一の財布は小銭を入れる部分が取り出しにくそうだもんなぁ。小銭出す時少し手間取ってたのを見てのチョイスだろう。この皮の感じも良いし、去年のペンケースといい、大智くんはセンスがいい。
欲しいなとは思うけど自分で買うほどでもないラインの物って貰うと嬉しいよな。お、これポケットが五種類ある。あれだ、小銭ごとに分類しておけるやつだ。便利ぃ。
「ありがとう、嬉しい。早速使わせてもらうな」
修一は鞄から財布を出して、そこの小銭を全部貰ったばかりのそれに移動させた。
「お前、意外と会計大きいので済ませちゃうタイプだもんなぁ」
「だって、時間かかるじゃん」
分かるそれ、色々と面倒なんだよな。そのせいで小銭が溜まるが。
「そういや、修一。今日はあんま寝れなかったのか?」
お、大智くんも気付いたか。眠れてない人の様子って、結構分かりやすいのな。
「あ、お前も分かる? そんな分かりやすいかなぁ……まぁ、うん」
「そっか。なんかあったの?」
「誰にも言うなよ?」
「おん」
「実は昨日、心音に告白された」
教えると、大智君は足を止めて声を漏らした。
「え」
驚きかショックか、どちらもでもありそうな反応だ。
「そ、それで、修一はどうするんだ?」
「答えは出してない。なんか色々と分かってないんだ」
「心音は確かに好きだぞ。だけど、ずっと妹だと思ってて、これからもそうだと当然のように思ってたから……けど、異性として好きって言われると、なんだろ、分かんないんだよ」
このごちゃごちゃしたのを片付けようと考えていたら、ろくに眠れないまま朝になっちゃったわけだな。
「そんな時に俺がさ、更に告白重ねたら、お前、大変なことになりそうだな」
「そうだなぁ、考えることが多くなるからな」
「考えてはくれるんだな……」
なんか、どうしたんだ大智くん? あぁ、そっか。大智くんもそうだったな。
「ん? そりゃ、親友だしな。直ぐには答えられないよ」
大智くんの様子の変化に、修一も気が付いたみたいだ。そりゃ何か含んだそうな言い方をここまで顕著にされたら分かるだろう。
「大智?」
「じゃあさ。俺の事も含めて、考えて、くれるか?」
「じゃ、じゃあ俺ちょっと早く行く用事あるから! 先行くな! またな!」
真剣な顔して告げた後、大智くんは逃げるように先に走った。
「あ、ちょ、大智!」
「今のは、つまり……」
まぁ、そう言う事だな。
「モテモテだねぇ、修一」
っと、林檎か。流石に少し慣れたぞ。
「んだよビックリしたな! お前かよ!」
「君結構ビビりだよねぇー。うん、僕だよ」
林檎も学校に向かうところか。道が同じだから、そりゃ出くわす。と言っても、こいつの場合九割方狙っての事だろう。
「で、どうするんだい? 君、一番の親友に告白されたんだよ? 受けるの?」
修一は答えなかった。というより、答える事が出来なかっただな。それ以前に、答えが分かっていないから。
「ふーん、やっぱ出せないか。まぁ、可愛らしいと思うよ」
「大丈夫、きっと心音も田中くんも待ってくれるさ。たーだーしっ」
「僕達がいる事を忘れないでね。淫魔だからって除外されちゃぁ困る、僕達だって君を狙うヒーローなんだからさ!」
この場合のヒーローは、英雄とかそっちじゃない方の意味だな。
ヒロイン、修一の方なんだ。この状況だとそうかも。
「いや、ヒロインじゃないのかよ」
「ヒロインは君だよ。全員狙いは君なんだ、順当に考えればそうだろう?」
そうなのかな? 修一、ちょっと不服そうだけど、反論はしないみたいだ。
「学校、行くぞ」
「うん!」
んー、この絵だけ見れば女子と男子の微笑ましい通学シーンなんだけどな。なんか、絵が綺麗だなぁ。この感じ、懐かしい物がある。
じゃあ、俺等も行くか。あ、学校には来ない? そっか。じゃあまた後でな。ただ、お前ちょっと心臓に悪い現れ方するからなぁ、次はもっと普通に登場してくれよ? じゃ。
〇
……おや、どうも。あなたって人はほんと、よくわからないタイミングでやってきますね。一体普段は何をしているのです?
それはともかく、日にちが飛んでいますので、そちらの説明が必要ですね。只今、七月の十九日の夕方です。ここにいるのは修一くんと、沙友里さん。そして場所ですが、田中家の沙友里さんのお部屋です。
事の経緯をお話しましょう。まず、朝、修一くんが学校に行こうとしたら、玄関先に沙友里さんがいました。そして彼女は、彼に「夕方、修一くんの事借りていい?」と申しました。断る理由もないので受けたのですが、お部屋に入れられるとは思っていなかったようです。
二人分のオレンジジュースが白いローテーブルの上にあり、修一くんのはもう半分も減っています。流石の彼も、女性の部屋に入って緊張しているのでしょうね。
「あの、沙友里さん。今日は何の用ですか?」
「この前のお礼がしたくてね。カフェ、付き合ってくれてありがとうね」
「そんな、お礼なんて大丈夫でしたのに。俺も好きで付いて行ったんですから」
ここで修一くんの中にちょっとした疑問が上がりました。
それだけならなぜ家に、しかも部屋に呼ばれたのかと。お二人の関係は間接的な者でしたからね。
「ねぇ修一くん。大智に告白されたの?」
微笑みながらそう尋ねた沙友里さん。なぜ知られているのか、修一くんはそう言いたげですが、呑み込んで答えます。
「はい、そうだと思います」
「それで、どうするの? 受けるの?」
更に重ねられた質問に、修一くんは直ぐには応えず、間を開けてから微苦笑を浮かべ、「分かりません」と答えました。
答えは出せていないという答えです。
「そっかそっかぁ……」
「じゃあ、私にもまだチャンスはある。そう言う事でしょ?」
沙友里さんは瞳を歪ませると、すっと立ち上がり修一くんの隣に座ります。
……おや、これは。
おやおや。大和撫子も積極的になったものですね。
修一くんの顔が真っ赤で、まるでトマトみたい。この感じだと、ファーストだったのでしょう。
「女もね、狼になれるんだよ」
「答えはゆっくりでいいからね、修一くん」
これは、ヒロインですね。修一くんが。
「は、はい。考えておきます」
状況の処理が追い付かない修一くんは、そう答えるしか出来なかったのです。
まさに畳み掛けですね。告白ラッシュは彼の心に悪いものがあります。さて、どうするのでしょうかね。
「じゃ、じゃあ俺そろそろ帰りますね」
おや逃げ足の速い事。あれじゃあ狼に喰われかけた兎ですね。
男は狼とはいいますが、今時女の方が狼なのかもしれませんね。勿論、個体差はあるでしょうが。少なからず、修一くんは狼になれそうもないですよね。あと、修造さんも。
面白そうですね、ついて行きましょう。
「母さん!」
頼る先は母親ですか、納得ですね。
「あら修一、どうしたの? そんな連続で告白されてどうすればいいのか分からなくなっているみたいな顔して」
「ピンポイント大正解! なんで分かんだよ!」
おや、結構混乱してますね。美智子さんも凄い物です、まさにピンポイント大正解。
「んー、母親だからかしら」
「それにしても、息子がモテモテで鼻が高いわぁ。私の遺伝子があるだけあるわね。しかも、七人中五人は選んだら貴方が受け手に回るじゃない。流石ね」
「なんの流石だよ! そんな、俺はどうすりゃいいんだよ……」
おや、そんな顔して。困り顔は中々母性が疼きますね、後ついでに加虐心も。もっと虐めたくなっちゃいますが、それはよしておきましょうね。
「好きな子選べばいいだけの話よ。ゲームで散々選んできたでしょう?」
「それとこれとは別問題だ。だって、断ったら、今までの関係壊すことになるだろ。それならいっそ、ずっと引き延ばして自然消滅させて……」
修一くん、それは一番ダメな選択ですね。気持ちは分からない事もないですが。
私は生涯彦星様一筋ですので、そのような悩みに直面したことはありませんが。あなたも察する事だけならできるでしょう。彼の心の内は非常に複雑です。説明するのも難しいわだかまりは、思春期の心にはあまりにも突然過ぎたのです。
ただでさえそうだったというのに、沙友里さんのアレが拍車をかけたのですね。
「そうね、修造にでも相談してみなさい」
「え、父さんに? しても答え貰えないだろ」
少しは落ち着いてきたみたいで、冷静にツッコミます。
「とりあえず、部屋でゆっくりしてなさい。今はその事を深く考えちゃダメよ。余計混乱するだけだから」
「脳みそは、使わない時間も重要よ」
美智子さんは母親としてそう言ってやると、修一くんは小さく頷いてから、言われた通り部屋に戻りました。
修造さんは、ずっと心配そうな顔で息子を見守っていました。
まぁ、育てられていなくとも、彼はずっと「父親」ですから。
……仕方ありませんね、特例を許しましょう。私を楽しませてくれているお礼です。神には内緒ですよ?
では、いい夜を。
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