【緊急会議】皆、君の性癖を教えてくれ!

 教室に戻ってからは、特に見せる程でもない普通の学生の生活が進むわけだ。相変わらず修一は体育だけはてんでダメでな。体育の教科担任の古金先生は、まぁ朝の事があったせいか今日は少しやる気がないように見えたが。

 しかしこういう形であるとはいえ、俺もまた学校通うようになるなんてなぁ。やっぱり俺の時とは違うところもあって、面白い。

 あー、思い出すなぁ。この頃の美智子、すっげぇ美少女でな。あぁ勿論今も美しいと思うけど。とにかくさ、もうほんと、乳がデカくて。走る時揺れてて、正直にな、めっちゃ興奮した。

 時代的に美智子ほどの大きさなんてほとんどいなかったから、そりゃ女子からも男子からも注目集まるわけで。ま、俺はそんな美智子の彼氏だったけどな! なんと、美智子の方から告白してくれたんだぜ。短かった俺の人生の中で、一番に張るほど自慢できる事だわ。頼んだら触らせてくれるんだぞ、羨ましいだろ~。

 なんて告白されたと思う? それはなぁ、「貴方に興味があるの」だ、いいだろー? まぁ、美少女からなら何言われても嬉しいけどな。

 修一も共学にすりゃよかったのに。あぁけど共学だとあれだな、目移りして怒られるんだ。これ経験談な。怖かったなぁ、直ぐには怒られねぇんだよ。ただ、一緒に帰っている時にすっげぇ笑顔で「貴方の彼女は今目の前にいるでしょう?」ってさ。心臓ヒュってした。まぁ、俺が悪いんだけどな。

 けど、不思議だよなぁ。なんで美智子は俺とずっと付き合ってくれたんだろうか。だってさ、俺、一歩間違えたら直ぐ浮気する男だぜ? そりゃ美智子の事はすっごい好きだけどな。まぁ、自分で言うのもあれなんだけどな。あと多分、修一もそうだ。だってどう見たって俺の遺伝子だもん。

「ねぇ修造」

 んー、林檎か。学校で俺に話しかけない方がいいんじゃないか?

「大丈夫、僕も今の君と同じく人外だからさ。その気になれば認識阻害できるんだ」

 そっか。で、どうした? 修一に何かあった?

「修一は見ての通りだよ、田中くんと戯れているさ」

 まぁそうだな。それで要件は?

「んー、修造は淫魔についてどれくらい知ってんのかなぁーって思ってさ」

 どれくらいって、お前等から発信された情報くらいしか知らないぞ。んなもん修一の件で初めて知ったもん。

「そっかぁ、まぁそうだよね」

 どうしたってんだ?

「いやねぇ、君も修一も、同族のにおいがするんだよねぇ」

「既に誰かに手をかけられたような気がして止まない。けど実際見てみれば修一は処女で、君は処女ではないけどそれを奪った相手は美智子じゃん」

 いざ俺が処女じゃないって言われるとすっごい変な気分。

 俺、そういうの良く分からないけど、気のせいじゃねぇの?

「そうだといいんだけどねぇ」

「あーあ、早く修一の処女喰いたいなぁ」

 その時があるならなるべく、お手柔らかにな。肉体的にもそうだけど、精神的にも。

「善処する」

 おいそれ信用できないやつ。九割実行しないやつ。

「けど僕、女として振舞うのあんな慣れてないんだよねぇ。いつも即喰いするから」

 即喰いって……ん、どこ行くんだ林檎。

 無視したって事は、認識疎外解除したのか?

「修一」

「うおっ、なんだよ林檎」

 おぉ、バックハグした。あれは女として振舞うと言うより、色仕掛けだな。

 ……当たってるよな、あれ。柔らかそう。

「勉強って結構難しいねぇ、僕困っちゃった。ねぇ修一、今度教えてくれない?」

「それは構わないけど……当てるなって」

「えー! 修一くんは偽物のおっぱい当てられて興奮しちゃうんですかぁ?」

「ちげぇし!!」

 そもそも偽物じゃないだろっていう話しだけどな。学校ではそう言う廷だ。だけど修一、その赤らめた顔で否定してもそんなに説得力ないぜ。

「林檎。修一から離れろよ」

「なんでかなぁ? 田中くん、僕が修一から離れて、君にメリットある?」

「こんな夏に暑苦しいだろうが!」

「さっきまで修一とベタベタしてた人に言われたくないねぇ!」

 おいおい、喧嘩すんなって。やっぱ林檎は結構喧嘩っ早いのな。というより、火が燃える方向にもって行くというか。修一困っているじゃんか、やめたれよ。って俺が言ったところでなぁ。

「あれって痴話喧嘩か?」

「痴話喧嘩っていうより、女を取り合う男の喧嘩だろ」

 おいおい、クラスメイトに言われてんぞ。というか修一、女認識されてるぞ。

「中井ー、そう言うときは言うセリフがあるだろー?」

 近くの席のクラスメイトくんがそう言った。

 多分アレだな、よくあるテンプレートな。

「はぁ? そんなんあったっけ?」

「ほら、少女漫画のヒロインが言うアレだよ」

 ここで修一も何か分かったようだ。しかし、自分が言うようなセリフなのかを疑っている。

「あぁ。え、あれ言うの? 俺が?」

「そうそう。言ったれ言ったれ」

 こりゃ愉しんでますな。

 修一言うの?

「えー、じゃあ」

 お、言うみたいだ。

「俺のために喧嘩しないでっ!」

 わーお、ヤバい程静まり返った。しかも、教室中。

 修一、大丈夫か? やってからすっげぇ恥ずかしくなったみたいだけど、よくある事だから。な?

「おいこら松村! なにやらせてんだよ!」

「ふ、ふふっ。中々、面白かったぞ、中井」

 クラスメイトくんのツボだったようだな。凄い笑ってる。

 そして林檎と大智くんは、こんな感じだ。

「今の、悪くないね」

「あぁ。良かった」

 何か分からないけど、良かったみたいだな。

「ヤバい、すっげぇ恥ずかしい」

 だろうな。今のはな。

「大丈夫だぞ修一! 可愛かったぞ!」

「フォローになってないっ!」

 そうこうしている内に、そろそろ修一達が部活に行く時間だな。今日は何するんだろうか、楽しみだな。

 林檎と一緒に修一と大智くんで部室に行くと、先に部長と副部長が着ていて他愛のない会話をしていた。

 扉を開くと、一年三人がやってきた事に気付いて、部長は笑みを見せる。

「やぁ、一年くん」

「ぶちょー、こんにちはー」

「お、果樹園くん。よく来てくれたね、美少女研究会へようこそ。いやー、こう言う部活だから部員は少なくてねぇ、ありがたいよ」

 林檎と部長が顔を合わせるのはおそらく二度目だろう。それにしては馴染んでいるというか、仲よさそうな雰囲気だけどな。

「果樹園くんじゃないか、いらっしゃい! 部長から話は聞いてるよ、女装男子だってね」

「ねぇ、よければなんだけど、果樹園くんの女装過程を見せてくれないか! 実は僕、コスプレをしてみたいと思っていてね。どうやったら女になれるんだ?」

 んー、その言い方だと何か、嫌な予感するなぁー。

「副部長さん興味あるんですか? じゃあ今度教えてあげますよ~、誰でも手軽に、『女』になる方法」

 こりゃダメだ。林檎が言っているのは全く別の意味だこれ。

「けど副部長、入試の勉強がどうこう言ってましたよね? 大丈夫ですか」

「うっ、中井くん、痛い所突くねぇ……そうだな、うん。果樹園くん、今の話は忘れてくれ」

 お、回避させた。そっか、副部長も三年だからそれがあるのか。考えたな。

「そうですか、それは残念。じゃあ修一が女になる?」

「いや、俺はいいや。その領域は興味ないし」

「そっかぁ」

 そもそも女になるって言い方がなぁ、含みあんだよな。そりゃ素直に受け取れば性転換か女装かだろうけど、言うのが淫魔だからな。

 林檎も今ので引っかかるもんだとは思ってないっぽく、冗談だったのだろう。大智くんからの明らかな敵意の眼は無視して、部長に話しかけた。

「ぶちょー、今日は何するんですか?」

「そうだなぁ、たまに部員一人一人が資料作って、それで会議やったりするけど、基本は好きな事する部活だからな。果樹園くん、何かあるのかい? フリーの日なら要求に応じるぞ」

「あ、じゃあ、僕皆の性癖知りたいでーす!」

 そう来ると思った。

 性癖なんていつも話してるけどな、この子達。というかこの部活自体がほぼ毎回性癖語りだろ。

「お、いいな。じゃあ二年くん達が来たら始めようか。とりあえず好きな席に座りたまえ」

「はーい! じゃあ僕修一の隣座るっ」

「いや、俺が隣だ」

 おいおい、席くらいで睨み合うなよ、小学生じゃないんだから。

「まぁまぁ。机移動は許可しているから、仲良く三人で並べよ」

「ははっ、中井くんはモテますなぁ。羨ましいよ」

「どうせなら、美少女にモテたいですけどね」

 副部長に苦笑いで答えると、林檎が肩を叩く。

「修一、ほら見て。僕、美少女」

 視界に映った顔面は、確かに修一好みの美少女だった。

「女装男子は含まれねぇよ!」

「えー、僕こんなに可愛いのに?」

 きゃぴっと可愛らしく自分の頬に指をさす。典型的なぶりっこアイドルみたいだ。

 けどまぁ、結局モノはついてるからな、修一としてはそれが許容範囲外になる原因だろう。

「あ、もうみんないる」

「ちわーす」

「おはようございます」

 そして二年組が揃ってお出ましだ。

「おぉ二年くん達も来たか。紹介しよう、新入部員の一年くん、果樹園林檎くんだ」

「林檎でーす。よろしくね、先輩」

「こんにちは、果樹園くん。佐藤博一です」

「二年の安藤卓也だ。よろしくな」

「安藤と同じクラスの大野遥です」

 俺、何気に二年達の名前きちんと聞いたの初めてかも。これは覚えなくていいと思うぞ、俺も直ぐに忘れるから。人の名前覚えるの苦手なんだよなぁ。

「佐藤先輩と安藤先輩と大野先輩ですね、覚えました!」

「果樹園ですか、初めて聞く苗字ですね。果樹園さんはどちらの出身で?」

「青森だよ」

 それ、今適当に思いついた所だろ。

 あ、いやけど、案外間違っちゃないのか? 淫魔って日本に生息してるもんなのか。知らねぇよんな事。

「なるほど、確かに青森は果物の名産地ですね」

 そういう解釈するんだ、確かにそうだな。

 林檎、狙った? 訊いても今は返事できねぇか。

 部員は揃ったし、そろそろ始まるかな。

「自己紹介は済んだところで、今日の部活を始めようか」

「今日は果樹園くんのリクエストで、性癖を話し合おうと思う。それぞれ自分の好きな美少女を語ろう、まずは私からだ」

「既に知っているだろうが私は美少女であれば男の娘であろうとふたなりであろうと行けるクチだ。強いて言うのであれば、女王様系が好みだ。切に、攻められてみたい。あと、巨乳派だ」

 そう言えば、淫魔が来た時攻めたいか攻められたいかでそんな話してた。確かあの時は、部長と二年二人が部長派の意見だったんだよな。

 まぁ、その紹介は林檎にとってはまさに都合のいい獲物となるのに十分なものだった。

「ふふ、そっかそっかぁ」

 獲物を見つけて喜んでいるような、そんな眼だ。

 そして、次は副部長の番だ。

「そうだな、やはり貧乳がいい。小さな胸を気にする美少女というのは至高でしょう。あとは、小悪魔系を啼かせてみたいが、淫乱な顔を持ち合わせた清純系というのも一興ですな。弱みを握って脅してみたい」

 やっぱ副部長への性癖への反応はいまいちだな。S的思考は好きじゃないのかもな。

「なるほどぉ……」

 あ、違うこれ。調教しがいのある獲物とか思ってそう。そういや林檎もSだった。

 一応一人一人述べていく中で、林檎が一番興味を示したのは部長と副部長だった。そんな中、最後に修一の番だ。

「えっと、まぁ俺は巨乳の方が好きですかね。部長と同じで美少女であれば基本なんでも好きですけど、ふたなりは許容範囲外になります、普通におっぱいが好きです」

 率直だな、俺もだけど。

 修一のそれは、半分林檎に言っているようなものだろう。わざわざ許容範囲外の話をしたんだから。

「どうだい果樹園くん」

「はいー、いい話聞けちゃいましたぁ。皆とは仲良く出来そうです」

 そういや前に、モモが林檎と少しキャラ被ってるとか言っていたけど、確かに少しかぶってるよな。こう、ぶりっ子というかわざときゃぴきゃぴするというか。

 って、危ないな! なんで殴るんだよ!

「ど、どうしたんですか? 果樹園さん」

「あ、いやちょっと蚊が飛んでいたような気がしてさぁ。気のせいだったみたいです」

 なんだ、ぶりっ子って言われるのが地雷なのか、それともモモと一緒にされたくないのか。どちらにせよ、良かった。今の普通に痛そうだった。

「蚊って殴って殺さないんじゃないかな?」

「そうでしたぁ、いやーつい癖で」

 いや、どういう癖だよそれ。

 まぁ、それはともかく。軽い性癖披露会は終え、それからは普通に会話をして活動時間を終えた。

 帰り道は方向が一緒だから、修一と大智くんと林檎で帰る。

「それにしても、予想外だったよ。まさかとは思っていたけど、部活内に喰われた人がいるとはねぇ」

「佐藤先輩の事か?」

「うん。あの感じだと、葡萄が食べたんだろうねぇ。ウオーミングアップを済ませたって言ってたけど、あの人かぁ。やっぱり男子校はいいね、美味しそうな獲物が沢山」

「食わせねぇぞ。他の奴も、俺も」

「いいねぇ、威勢がいい方がやりがいあるってもんだよ」

 なぁ林檎、本当に女として振舞う気あるんか? まぁ、これこそ本当に癖なんだろうけど。

「そうか。あぁ、林檎、俺このあと大智の家でゲームするから。母さんには朝に夕飯までには帰るって伝えてあるけど、一応よろしく」

「りょーかい。じゃあね、田中くん」

「あぁ、また」

 一応いい感じに振舞ってはいるが、どちらも内心に溢れるのは敵意で、二人が話す時は空気に静電気が走る。あれだな、ヒロインポジはどちらかと言うと修一だな、こりゃ。

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