【自己規制】が無ければ、【自己規制】がなければ……っ!
〇
んぁ、あ、よぉ。ここは大智くんの家だぜ。俺も起きたらここにいたんだ、不思議だよなぁ。
さて、修一はというとまだ大智くんと仲良く寝ている。休みの日の午前七時だ、いつもはこの時間くらいに起きるが。
「ん……あ、そっか。泊ってたのか」
お、案の定起きた。漏らした声が耳に入った大智くんも目覚めたようだ。
「おはよ、修一」
「おん、おはよ」
「早起きだなぁ、お前。まだ七時だろ?」
「大智、休みだからって昼間で寝てるんじゃないだろうな」
「ははっ、バレた?」
「やっぱり。そんなんじゃ彼女一生できないぞー」
すっげぇブーメランだけど、気付いてないのかなぁ。
「お前だって出来たことないくせに」
「うっせ! 今は彼女とかそう言う暇ないの」
「何、淫魔?」
「そうそれ。あぁ、【自己規制】さえなければっ。そう思わないか大智! 特に林檎とか、すっげぇ好みなのに」
「そうだなぁ」
本人がいないから好きかって言ってるな。まぁたしかに、気持ちはわかるぜ。それにしても大智くん、淫魔の話になると険しい顔になるよな。
まぁ、友人の非処女になるとか、あんま考えたくないか。
そして何を思ったのか、大智くんが修一に訊いた。
「なぁ修一、仮にだよ、仮に俺とあの淫魔だったら、どっちの方が許容範囲内?」
「えー、難しいこと言うな。淫魔に関しちゃふたなりは許容範囲外だし、けど、見た目はめっさ可愛いし……けど、お前は同性だけど仲いいし、お前ならワンチャンありかなぁ。うーん」
「そっか、どっちも同じくらいって事か」
「いや、もうちょい考えさせて」
「そんな真剣に考えなくていいぜ、仮の話なんだから」
そう言う割には真剣に訊いているけどな。
まさか、この子っ――
最近の子も隅に置けなねぇなぁ、頑張れよー!
「あれー、おもしろい話してるねぇ~。モモも混ぜてよ」
わっ! びっくりした。誰だ?
あ、あのな、いつの間にか部屋の窓が開いて、そこに美少女が座っていたんだ。ピンク髪のツインテールに黄色の瞳、谷間の所にハート型の穴が開いている服を着ているな。けど、この感じ、確実に人間ではない。多分、淫魔だ。
「お前は……」
「モモはモモだよ~。ふふっ、モモの獲物、やっと見つけたぁ」
ぶりっこといった感じのおそらく淫魔は、ベッドの上にうつ伏せになり、修一を上目遣いで見る。
獲物という言葉から、二人もこのモモとかいうやつが淫魔だと気付いた。そしてモモは、核心的な事を口にする。
「しゅーいち、この淫魔一可愛いモモにしゅーいちの処女をちょーだい」
語尾にハートをつけるように言うと、修一は逃げるように大智の背後に隠れた。
「もー酷い! モモよりもその男がいいっていうのぉ~」
「それはぁ……淫魔としていただけないな」
高かった声が低くなり、モモは修一に目を合わせる。そうすると、修一の体から力が抜け、大智くんに寄りかかるような形になった。そして、大智くんの体も縛られたように動けなくなる。
って、大丈夫かこれ。モモも本気そうだし。
「林檎も葡萄も、もたもたせずにこうすりゃいいのにねぇ。しゅーいち、いい子にしてればヨくしてあげるから、大人しくしてね」
おーっと、筋肉猫ちゃんだ! ギリセーだな。
「おい淫魔! 人ん家でなんちゅうもん出してんだコラ!」
「そんなに言うなら君は後で奪ってあげるよ。そこで見てな、しゅーいちの処女喪失」
修一に手を伸ばすと、また今度は違う声が飛んできた。
「も、モモさん! 無理矢理だなんて、そんな手段はダメです!」
小さな叫びに全員がそっちに目をやった。勿論、俺も今そっちを見た。
これまた、日本じゃお目に掛かれないぞ。緑色の眼だ。しかしまぁ、このモモよりからいそうだな、茶髪だし。それにしても、乳がデカい。本当に……。
「あ、メロンじゃーん」
「いいですか、淫魔たるもの、獲物の心を得てから処女をいただくのです! そんなレイプのようなやり方はいただけませんっ!」
ヤバいガン見しすぎた。若い頃の美智子くらいだ、触りてぇ。
あ、淫魔には俺見えるのか。やめとこ。
「メロンはきれいごとばっかぁ、つまんなーい」
「つ、つまらない……」
あー、ショック受けちゃった。つまらないなんて言うから。
モモが油断したおかげで、修一も大智くんも自由を取り戻して、大智くんが修一を守るように背後に回した。
「ちぇー、今回はメロンがただしいかぁ」
「ま、しゅーいちの処女をとるのはモモだからね、今日はいいや。モモのかわいさに惚れさせてやんだから」
そんな捨て台詞を吐くと、モモは姿を消した。
部屋に残された男子高校生と淫魔一人、なんとも気まずい空気が流れる。
「えっと、すみません修一さん、と、お友達くん」
「お、おう」
襲われそうになった手前、どういう顔をしていいのかが分からない。ただ頷くと、メロンは焦りだした。
「ご、ご安心くださいお友達くん! 我々淫魔にも、淫魔精神がありますので、それに乗っ取ったやり方をします、お互い頑張りましょう!」
それはどういったフォローだろうか、そもそも淫魔精神ってなんなのだろうか等、色々疑問があるが、メロンは急ぐようにそこから姿を消した。
「めっちゃデカかったな」
「な」
男子だな。確かにそれは俺も思う。デカかった。メロンのメロンはメロンってわけだな、こりゃ。ははっ、触りてぇ。
そういや美智子もあんくらいあったなぁ、マジ柔らかいのよ。こう、むにってしててさぁ、そんでさぁ……あ、やべ、たった。
幽霊の性欲とか、矛盾しすぎだろ。まぁいっか、トイレ借りよ。その間、筋肉猫ちゃんの肉体美を眺めていてくれ。じゃ、直ぐ済ませてくるぜ。
「なぁ修一、お前ってなんでそんな淫魔に狙われてんだ?」
「そんなの俺が訊きたいよ。はぁ、俺そんな絶好の的かなぁ」
「あれじゃね、変態だからじゃね」
「変態は心外だ」
「そうだな、お前はむっつりだったな」
「むっつりもなんだかなぁ……。もっといい響きなのないの?」
「ないだろ」
「そりゃそうか」
「けど、そういう大智だって大概だろー? 俺の事言えねーぞ」
「否定はしない!」
「しろよ、つまんないな」
「ははっ、変態は誇っていい事だぜ、知らんけど」
「んなことよりもよ、ゲームの続きしようぜー。うち、休日の朝ご飯は九時くらいだからさ」
「わかった。今日こそ負けないぞ!」
「やってみろ!」
ふいー、すっきりしたぁ。
お、ゲームやってんじゃん。これ楽しそうなんだよなぁ、俺もやりたい。憑依とかできねぇんだよな、幽霊のくせに。
さてと、今日はゆっくりできそうだな。流石に淫魔四人も大智くんの家に乗り込んでこないだろう。
あ、大智くんエロ本とか持ってないかな。探してみよー。
「大智ー、朝ごはん出来たってよー?」
っと、そうはいかないみたいだな。
母親にしては若い声だったな、もしかして姉さんとかか。
「おっ、姉ちゃんが呼んでる。行こうぜ」
ビンゴ、やっぱ姉さんだ。
姉かぁ、いいなぁ。羨ましい。
修一と大智くんがご飯を食べに行った。そこにいたのは、大智くんの家族一同、母親と父親とお姉ちゃんだ。
「あら、修一くんおはよう」
「おはようございます」
「あれー、修一くんじゃん。久しぶり~」
「大智のお姉さん、お久しぶりです」
ほー、大智くんの姉さんは父親似か。美人さんだ。
彼女は修一に「大智のお姉さん」と呼ばれるのは好きじゃないみたいで、少し不満そうに頬を膨らませた。
「もう、沙友里って呼んでいいって言ったのにぃ」
「姉ちゃん、あんま修一に絡むな!」
「少しくらい話させてくれてもいいじゃない。こんな可愛い男の子、滅多にいないんだから。ねぇ、大智」
わざわざ立ち上がって修一をぎゅーってする。そしてにやっと笑って弟に話を振った。
「ちょっと姉ちゃん!」
大智が声を上げた所で、友人の姉の腕の中で修一は困惑する。
「可愛い、のか? 俺は」
どうせなら、カッコイイと言われたいものだな。分かる分かる。けど俺は、喋らなければイケメンって言われていたんだ、きっと修一もそうだって。
「沙友里、離してあげなさい、修一くん困ってるぞ。あと、男に可愛いは、ちょっと」
「そう言えばお父さん、若い事カッコイイって言われたくて色々しても可愛いしか言われなくて不満そうだったってね」
おっと、それは娘にだけは知られたくないエピソードだな。
大智くんのお父さんは、怪訝そうな顔して妻を見る。
「ごめんなさい、つい口が乗って」
「はい、じゃあご飯にしようか。修一くん、ここ座っていいよ」
「あ、はい、ありがとうございます」
修一は用意されていた予備の椅子に座って、人の家の朝ご飯を一緒に食べた。
五人もいると結構賑やかな者で、特にお姉さんの世間話が大半。バイト先の先輩がどうとか、そういうの。
その後に、思い出したかのように大智くんに話を振った。
「そう言えば、大智は彼女とかできないの?」
「姉ちゃんだって、彼氏いないだろ」
「話逸らさないのー。で、いい子いないの?」
「男子校なんだからいねぇって」
答えると、そっかと呟いて、何かを閃いたような顔をする。そして、直ぐに問いかけた。
「じゃあ、良い男とかいない?」
「え……姉ちゃん、高校生に手出すつもり?」
「私だって一年前までは高校生だったのよ、許容範囲の歳の差でしょー」
あ、今チラって修一見たな。
「ねぇ、修一くん、大学生のお姉さんに興味ない?」
おーっとすっげぇ踏み出してきたー! 修一、結構なチャンスだぞこれ!
「お姉さんキャラですか、確かにそれもいいですね!」
んー、そうじゃない。修一、今のは違う。場所と時間があれならあっちのお誘いだぞ!
「そっかぁ、そういう感じね」
「姉ちゃん」
「あはは、ごめんごめん」
しっかし、修一もモテるなぁ。俺主観で対人関係図書くと、こんなんだろ? ほら。
え、見えない? それもそうか。ま、粗方察してるだろ。
修一を賭けた戦い、その火蓋は切られたって訳だ。お前等は誰に勝ってほしい? ま、答えられても分かんねぇけど。
ちなみにこの筋肉猫ちゃん、俺が描いたんだぜ。すっげぇだろ、利便性はバッチリだ。じゃあ、この筋肉猫ちゃんのサイドトライセップスでも見てろ。じゃ、またあとで。
おや、あなたですか。どうも、織姫です。
さて、今私は修一くん宅のあまり使われていない和室にいます。あと、淫魔四人がいますね、なにやら会議をしているようです。議題は、あら、これは面白い。修一の処女を奪うにはどうすればいいか、ですって。
「やっぱりぃー、モモは無理矢理にでも犯しちゃえばいいと思いまぁす」
モモは相変わらずこの意見のようですね。今朝も修一くんがレイプされそうになったと聞きました。
メロンが何多言いたげな顔をして口を開きかけましたが、それよりも先に葡萄が意見を述べます。
「淫魔精神を忘れたかモモ、いいか、いついかなる時も同意を得てからだ」
「つまり、同意を得ればいい。どんな手を使ってでもイエスと言わせればこっちの勝ちだ! 契約書なんてどうだ、処女をいただくことを遠回しに長ったらしく書けば、修一は読むのが面倒になって同意するであろう」
安心していたメロンの意に反し騙し討ちをするなどといいだした葡萄に、メロンは必死に反対しました。
「ぶ、葡萄さん! そんな法の穴を突くようなやり方はよしてください!」
「あはは、葡萄ったら野蛮だなぁ」
メロンはともかく、笑った林檎にはイラっと来たようで、腕を組みながら敵意満開に尋ねます。
「なにっ、そういう林檎は何か手はあるのだな? 修一はふたなりは許容範囲外だそうだが、無理矢理でもなく騙しでもない手でどう処女をいただくつもりだ」
その問いに、林檎は人を殺してはいけないという常識を教えられた時のように、当たり前だろと言わんばかりに首を傾げ、妖艶な笑みを浮かべます。
「好意を持たれるまで女として振舞って、相手が盲目になるくらいメロメロになったところでまた犯していいかを訊く、そしたらイエスって言うさ。淫魔精神に乗っ取った、よくある僕達(いんま)の手じゃない」
「確かに、そうだな」
「まぁそうかぁ、特にモモは可愛いから直ぐにしゅーいちメロメロにできちゃうね」
「それでしたら、私も意義はありません」
皆さん、その方針で決まったようですね。一応平和に決定されてよかったです。しかしまぁ、本当に結託されているかどうかは、分かりませんけど。なんせこの四人ですから。
四人の意見がまとまったところで、林檎はにこにこ笑いながら、隠していた紙袋を取り出します。
「じゃあ、皆でこれ着よっか!」
あら、これはまた、コスプレのメイド服ですね。ご丁寧に猫耳までついています。
「め、メイド服ですか?」
「うん、修一こう言うのも好きみたいだよ」
「あ、猫耳もある~。これでにゃんにゃんするわけだね、モモこういうの得意だよぉ」
「確かに、これは恥ずかしいが成果は大きそうだ」
早速着てみるみたいですね。では、私はひとまず退散といたしましょう。女子の体を移してはいけないと聞きましたのでね、ご想像にお任せしますよ。ふたなりを女子に入れていいのかは分かりませんけどね。
あら、これは早速次の対象がいますね。心音さんと優音さんです。相変わらず、お元気そうで。
そうだ、心音さんの容姿の話をしていませんでしたね。では少しだけ。光の当たり方によっては茶色に見える、すこし明るめのセミロングの髪です。どちらかと言えばストレート気味ですが、毛先の方だけ少しくせがあります。学校などの時は一つに結んでいますが、今は家ですので解放された状態です。そうですね、ジャンル分けするのであれば……可愛い系です。
まぁ、一般的な可愛らしい日本人ですよ。説明が面倒なのでこのくらいでいいでしょう。親切な私に感謝してください。
さて、そんな心音さんは修一くんの部屋の前でうんうんと唸って何かしています。
そのせいか、優音さんが心配そうですね。これは、後押ししてあげた方がいいですかねぇ。という事で、背中を押しましょう。地理的に。
えい。
「わっ、え、何?」
驚かれてしまいました。
「まぁいいや」
「えっと、失礼します……」
おや、修一くんの部屋に入って行きましたね。では私も、失礼いたします。
心音さんは兄の部屋をキョロキョロと見渡して、何かを探している様子。
「あった」
これは水色のノートですね。
そう言えば、この前このノートを修一くんに貸していましたね。確か、修一くんに数学を見てもらった時に使っていたノートです、答え合わせの為に修一くんが持っていたようです。普通に言って返してもらったらいいのに。
いや、これは、本題はノートではないようです。ノートにはさんでいた紙に問題があったそう。
「よかったぁ」
すこぶる安心した様子で、その紙だけを取り出しました。
十点中二点の数学の小テストを小さく折りたたみ、ズボンのポケットにしまいました。
あれです、酷い点数のテストを使わないノートにはさんで隠していたら、そのノートを渡してしまったっていうパターンです。
しかし、こう言った場合そのまま帰してくれないのがご定番でして。
「あら心音、修一の部屋でどうしたの?」
「ギャーーーーーッ!」
「叫ぶならもっと可愛らしく叫びなさい。で、何してるの?」
「あ、い、いや! 何でもない!」
「なぁんかあるわねぇ」
美智子さんはやけにズボンのポケットを庇う心音さんに勘付き、そこに向かって素早く手を向けます。
そして、呆気なくその小テストは見られてしまいました。そして、美智子さんの表情も曇ります。
「いや、その、隠していたわけじゃなくて、えっとタイミングを見計らってたわけでして……」
取ってつけた事は見え見えな言い訳ですが、そんなの心音さんだってわかっているでしょう。美智子さんは、呆れ半分で微笑み、テストを畳みます。
「まぁ、後はお兄ちゃんに任せておくわ」
「ちょ、やめてよ」
「塾には行きたくないのでしょう? お母さんとしても、塾はちょっと高いから勘弁してほしいわ」
「むー……分かったよ」
渋々納得したようです。
「じゃあ、お兄ちゃんに連絡しておくわね」
美智子さんはそう言ってテストを人質にリビングに戻ります。心音さんは、気が重そうに自室へ帰りました。
そして直ぐ、心音さんのLINEから二件の通知が届きました。
『母さんから聞いたけど、小テストで二点はヤバいって』
『もうすぐ期末だろ? 昼頃に帰る予定だから、その後教えてやる。せめて平均点は取ろうな』
「兄貴、めっちゃやる気じゃん……」
文面から伝わってきた「容赦しないぞ」感。心音さんはそう呟いて、重いため息を突いたのです。
そう言えば、今年の心音さんの願いは「教師モードの兄貴がもう少し優しくなりますように」でしたね。去年は「兄貴が変態じゃなくなりますように」でしたけど。来年から本格的に受験が始まりますから、それに向けてでしょう。心音さん、頑張れです。
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