世界三大美人は織姫、織姫……織姫なり!
あらら、これは傑作。あの淫魔二人が喧嘩を始めたそうですね。修造さんもそちらに巻き込まれたそうです。
あなたは、逃げてきたのですか? 正しい判断です、ずっとあの場面を見ていた所で、同じような口喧嘩の繰り返しですから。
あぁ、私ですか。どうも、初めまして。日本に知らぬ者はいない有名人、絶世の美女と言ったらこの私。織姫でございます。えぇ、織姫です。
あなたは今こう思ったでしょう、いや仕事はいいのかよ、と。お答えしましょう、最近機織りも機械化が進んでおるのです。
まぁそんな事はいいのですよ。さて、ただいまの状況を説明させていただきますね。まず、修一くんは大智くんの家に逃げ込みました。幸い、家は近所ですので。
「悪いな大智、いきなり」
「気にすんなって! 父さんも母さんも帰り遅いし、どっちにしろ家には俺しかいないから、突然訪問大歓迎だぜ」
突然の訪問ですが、嬉しそうです。
大智くんは歓迎ムードでジュースを差し出します。
「どうせなら泊ってけよ! 母さんいつも夕飯多めに用意するから、俺じゃ食べきれないんだよ~。母さんはオッケーしてくれるはずだから」
「いいの? 俺、パジャマとかなんも持ってきてないけど」
「パジャマは俺の使えよ、サイズちょっと大きいかもだけど許容範囲内だろ。歯ブラシとかは来客用があるし、な?」
どうやら修一くんとのお泊りがしてみたかったようですね。ここぞとばかりに誘っていますね。明日の九日は土曜日ですし、いい機会でしょう。
「ならお言葉に甘えて。あ、けど母さんに連絡しないと」
ポケットにしまっていたスマホで、母親に電話をかけます。
「あ、もしもし母さん。ほんと突然で悪いんだけど、大智の家泊っていい?」
『随分いきなりね……まぁ、いいよ。修一の分の夕飯は明日の朝ご飯に回すわ。大智君に迷惑かけるんじゃないわよ?』
「分かってる。じゃあ、また」
どうやら許可は取れたようですね。電話の声を聞いていた大智くんも嬉しそうです。
「いいって」
「おっしゃ。じゃあさ、夜通しゲームとかしようぜ、俺一回やってみたかったの」
「いいな、俺もやりたい」
あらあら夜通しゲームですか、楽しそうですね。
夜通しと言えば、彦星様も体力が有り余っておりまして【自己規制】も素晴らしくて。本当に、男らしい方。
彦星様の【自己規制】とかも随分理想で、とくに【自己規制】が……。ほれぼれしちゃいますわ。やはり、そんちょそこらの人間とは格が違います。彦星様本人だけじゃなく、【自己規制】までもが優秀で、濃厚なのです。
ヤりつくしてから二人で迎える朝より至高なものはないでしょう。分かりますか? まぁ、あなたには分からないでしょうね。
おや、話がそれてしまいましたね、すみません。心なしかあなたの表情がしかめっ面になっている気がしますので。ま、私からはあなたはただの黒い靄にしか見えませんが。人間は他人の惚気話は好かないと聞きましたので、勘弁して差し上げます。
「修一、先風呂入っていいぞ。ほら、これパジャマ」
「お、サンキュー。ふふっ、お前の匂いだなぁ」
「ははっ、まぁ俺の着てるやつだからな、臭くねぇよな?」
「大丈夫、柔軟剤のいい匂いだ。じゃ、風呂借りるな」
「おう!」
修一くんはお風呂に行きましたね。お泊りこそ初めてですが、何度か家にお邪魔した事はある様なので、案内はされなくとも場所は分かるようです。
さて、どうしましょうか。男の入浴シーンは需要あるでしょうか。あなたが女性か男性かは存じ上げませんが、男の御色気には興味ありませんかね? まぁ、そういうのも需要ある層にはあるので、見に行きましょうか。私も、彦星様以外の男の裸体にはさほど興味がありませんが。
ここにどこからかやってきた筋肉猫ちゃんのイラストがありますので、お見せ出来ないものが映った時はこれを使いましょうか。ふふっ、見事な胸筋。
では参りましょうか。
修一くんは湯船にいますね。森の香りの入浴剤が入れられたお風呂は、心地よさそうです。
それにしても、淫魔が好みそうな体ですねぇ。体も細いし、まるで幼子のような【自己規制】です。それになんというか、この雰囲気。そりゃ処女狙われますわ。淫魔の好物じゃないですか。
しかし、この身体が淫魔の四人分のデカブツを受け入れられるとは思えませんね。一回だけでも壊れそうですが、あの四人そこらはきちんと考えているのでしょうかね。
「あ、パンツどうしよ」
今それ思い出しますか。私は先程から気になっていましたよ、下着はどうするつもりなんだと。
流石にパンツを借りるのは気が引けます、ですから修一くんはこの結論に至りました。
「ノーパンでいっか」
泊るのは友人の家、問題ないだろうと判断したのです。
おや、体でも洗うんでしょうかね。人の家の風呂場は遠慮して使いますが、修一くんもそれは変わりないみたいです。いつもより若干少ない量をポンプから取り出します。
これは、いい香りのシャンプーですねぇ。優しい香りです。これは確かに、大智くんの香りですね。
そういえば、大智くんはどうしているのでしょうか。せっかくだし、見に行ってみましょうか。
っと、部屋はここでしたよね。失礼します。
あら、随分と静かに盛り上がっていますね、一人で。
心の声がうるさいんですよ。あぁ、聞こえませんか。お聞きになります?
『同じ学校に行けたはいいけど、何の進展もないままだった、けどここで予期せぬお泊りイベント! これはチャンスだ、修一の好感度をあげる! いいや、好感度は十分、問題は修一に「男でもいい」と思ってもらえるかどうかだ……少しずつ詰めていけば、大丈夫、いけるぞ大智! あんなパッと出てきたよくわからん生物に修一を取られてたまるか!』
いやー、燃えていますねぇ。短冊に想いをつづるわけですよ。
同性愛者なのかって? 甘いですよ、そこの名の知らぬよくわからない人。「男が好きなわけじゃない、好きになったのが男だったんだ」というやつです。
腐っているのでしたら好物でしょう? あぁ、カップリングにもよりますか? まぁ、どちらが攻めかはあえて公言しないでおきましょうか。
「大智、風呂ありがとな」
あら、修一くんがあがりましたね。話を戻しましょうか。
「おう!」
「お前、意外と骨格いいんだな。ちょっと大きいぞ」
「あはは、なんかあれみたいだな」
「彼シャツ?」
「そうそう、それ」
「俺のぶかぶか誰得だよ、こういうのは美少女がやるからいいんだよ」
「そっかぁ。じゃあ俺も風呂入るから、それからご飯食べような」
「そのあとゲームしようぜ」
「うん!」
いやこれ多分、大きめのサイズのやつ渡しましたね、あの子。彼と修一くん、服のサイズほぼ同じですもん。ふふ、なかなかやり手じゃないですか。しかし、夏なのに長袖渡すのは違和感ですよねぇ。
「てか、あいつ絶対間違えてるよな、夏なのに長袖って。頭いいくせにこういうところバカなんだよなぁ」
そりゃ気付いてますよね。流石にこれに違和感を持たない人は、何と言うか。えぇ。
「ま、部屋クーラー効いてるし、いっか」
あ、それでいいんですか。単純ですね。
もしかして、その為のこの環境問題無視な温度設定ですか。しかし、これは流石に戻ってきたら下げるでしょうね。なんだか私も寒くなってきました。
「わりぃ修一! よく考えたら渡したパジャマ長袖だったわ」
あら、話をしてれば早速。
服を脱いでから気付いたみたいですね、なんと全裸です。【自己規制】は、まぁ平均くらいでしょうか。少なからず、修一くんよりかは大きいですよ。
「って、この部屋さむっ!」
どうやら、設定温度は素で間違えていたみたいです。
「お前が設定したんだろ」
「わりぃわりぃ、ずっと部屋いたから感覚麻痺してたわ。一旦切るな。あと、これ半袖」
おや、ちゃんと半袖も用意していたのですね。まさに用意周到。一回見る事が出来たらよしなのですね。
「あー、そこ置いといて。部屋が常温になったら着替えるわ」
「りょーかい」
「てかお前、家だからって全裸で出てくんなよ」
「いいんだよ、母さんも父さんも今いないし」
「俺がいる俺がぁ。まぁいいけどさ、お前だし」
あらま、素でそんな事言いますか、お前だからとかお前だけだとかは、好きな人に言われたら結構キュンと来るんですよね。
「そういや、お前寝るところどうする?」
「なんか客人用の布団とかないの?」
「ないな……あ、じゃあ、二人でベッドで寝るか?」
お、切り出しましたね。まぁおそらく冗談として言っているでしょうが。
しかし、大智くんが思っていたよりも、修一くんは懐が大きかったようです。
「お、いいなそれ」
「いいの?」
「クーラーつければ暑くないだろ。なんだか修学旅行の時みたいで楽しいなぁ」
そういえば、修一くんと大智くんは既に一夜を共にした仲でしたね。この二人、同室でしたから。ふざけてじゃれ合っていたら、二人で寝落ちしたのでしたっけね。まぁなんとも可愛らしい事。
思わぬ返事ではありましたが、大智くんにとってこの予想外は嬉しい事です。
「あぁ!」
とても嬉しそうに微笑み、修一くんをベッドの上に招きました。
「とりあえず、飯食いに行こうぜ。母さんが用意してくれた奴があるから」
「うん。おばさんの料理美味しいんだよなぁ、楽しみ」
仲良さげに二人は部屋から出て、夕食へと向かいました。
しかし、これはあの淫魔が大変な事になっていそうですね。男に負けるのはふたなり美少女淫魔としてはプライドが許さないでしょう。修一くん、大丈夫でしょうかね。いや、今は修一くんより、修造さんの身を案じるべきでしょうか。まぁあの人なら大丈夫でしょう、大人ですし。
そうですね、修造さんの様子見てみますか。ではまた。
だからー、そういうのは俺に言われても困るの!
「あー、葡萄、修造困らせたー。いけないんだー」
「お前もだろう林檎! 私に全て責任転換するんじゃない」
なぁいいからさ、そろそろ喧嘩止めてくれません? あと、林檎、手離して。
「兄貴! さっきから何騒いでるのうるさい!」
わっ! 心音か。って、いつの間にか戻ってきている。
えーっと、そうだな、どこから説明したらいいか。とりあえず、今の状況からだな!
林檎と葡萄が騒ぐものだから、しびれを切らした心音が怒鳴り込んできた、以上。
「あ」
心音は兄の部屋にいる二人の少女(ふたなり)を見て、何かを察したような顔をした。
「なんか、うちの変態兄貴がすみません」
「わー、妹ちゃん。修一もいない事だし、おしゃべりしようか、女子だけで」
おーい、林檎。俺いるぞ? 都合のいい時だけ見えないもの扱いしないでくれない? お前等は見えるんだから。そりゃ、心音のいる前でいる者扱いしたら可笑しいかもしれないけどさ。
「あ、あのー。本当、うちの兄貴がすみません。まさか、二股するほどだったなんて」
どうやらすっごい勘違いされているな、二股かけた乱交兄貴みたいになっちゃったよ。妹にその印象持たれるのはキツイなぁ。
「その点においては大丈夫だ。まだ私も林檎も修一の処女を奪えていない、よってまだどちらも付き合っていない状態だ」
葡萄も流石にその勘違いは訂正してくれた。
ナチュラルに処女を奪えていないなんて口走らなければ完璧なフォローだ。案の定違和感を覚えた心音は、首を傾げた。
「処女……?」
あー、そうだよなぁ。そこは変な感じするよ。だってこの淫魔、見た目は美「少女」だもん。
「そのとーり。ふふ、僕達ね淫魔なんだ。君も知ってるでしょ?」
「淫魔って、な、何言ってんの? そんなの、エロ同人じゃないんだから」
当たり前だが、心音は林檎の言う事を信じていない。引いたような顔をして、若干の距離を取った。
「あぁー、残念だけど、エロ同人を漁る男諸君が望むような存在じゃない、僕達はね常に犯す側」
「はぁ? 何バカな事を、そんなのあるわけないじゃない。大体、アンタ等女じゃ」
「女? 何を言っているんだお前は」
「あー、勘違いしてるねこの子。見せてあげた方が早いか」
「不本意ながら同意だ。見せるか」
ちょ、え、お前、まさかっ、待て! ダメだ止めろ! 相手は女子中学生だぞ! 法でガチガチに守られたお子様だぞ!
「はい、一回はどっかでみたことあるでしょ、【自己規制】」
あー、やっちゃったぁ……。
ん、あれ、心音いないじゃん。あぁー、察知して逃げたのか! セーフだセーフ! 良かったぁ!
「あれ、いないな?」
「どうしたんだろうか、急用でも思い出したのか?」
「さぁ?」
さぁって。いや、さぁって。
感性は、違うものなんだな。はは、危なかった。
というか、心音の後ろになんかいたな。なんだったんだろ。
な、な、なんだったの今の!
まだ心音は彼氏できたことないのに、嫁入り前の娘に見せようとするなんてっ、僕の娘はまだそんな歳じゃありません!
あぁ、君か。もう、びっくりしちゃったよ、あの子達いきなりモノ見せようとして来るんだもん。
「あれ、私、なんで部屋戻ってんだ?」
もー、急いで連れ戻したから、変な風になっちゃったじゃん。けど、心音は大丈夫そうだね。うん、よかった。心音の純粋は守られた。
というか、淫魔。そんな非現実的なのがいるのか……僕も非現実的か。
けど、僕の記憶にある淫魔は【自己規制】ついてない。もしかして、ふたなりって事! そんな特種性癖持ちなのか、修一くんは。いや、今まで見てきた限り、修一は巨乳好きのノーマル性癖なはず。
「あの感じだと、ふたなりって事だよな……ふたなりの淫魔、処女を奪う……って事は」
「兄貴の貞操がヤバい!」
そう言う事か!
それはどうにかしたほうがいいよね? とはいえ、何も出来ないな。
「淫魔ってお祓い出来ないのかな……えっと、スマホは、枕元か」
え、ちょっと、心音、お祓いはダメ。僕も消える。
「うげっ、結構高い。別の手考えるか」
あぁ良かった。命拾いした。お祓いが高値で助かったと思ったのは人生で初めてだよ。終わっているけど。
そういえば、修一くんの部屋に誰かいた気がするな。気のせいかな。
って、もうこんな時間か。そろそろ心音は寝る時間だ。今回も短かったけどここでお終い、またね。それじゃあ、いい夢を。
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