犬猿ならぬ、林檎葡萄……ゴロ悪っ!

 ……っ! もう、いきなり移動してこないでよ、ビックリしちゃったじゃん。やぁ、こんにちは。僕の名前は、

「あー! もう、なんなのよー!」

 えー、名乗らせてくれないの? まぁ、いいけど。進行上に問題はないよ。

 今叫んだのは、修一くんの妹である心音。放課後の教室で、机に伏せて叫んでいるのは、一つの机を囲んで、三人の女子中学生が談笑している最中の出来事だよ。

「中井さん、どうしたのさ?」

「分からない。私は自分の気持ちが分からないっ!」

「もしかして、恋ですかねぇ? このこの心音ったら、青春か!」

「うぅ、その一言で済ませられたら一番だよ……」

 あぁ、そう言えば、昨日心音ったら、修一くんが彼女さんといちゃついてるところを見ちゃったってね。それからなんだか、モヤモヤしているらしい。

 思春期だもんなぁ。懐かしいなぁ。僕にもそんな時代があった。心音のもうそんな歳なのか、感慨深いものだね。

「兄貴がね、彼女を部屋に連れてたの」

「ほう、お兄さん高校生だもんね、彼女の一人二人いても可笑しくないしね。それで?」

「それで、兄貴、彼女に胸見せてもらってて、私、そのタイミングで部屋にはいちゃった」

「ありゃー、それは気まずいところに出くわしちゃいましたな」

「そうなの! 朝ご飯の時、兄貴はなんも気にしてない感じだったし『昨日のことは気にしないで、忘れて』って言い出して……兄貴が気にしなくとも私は気にするっ!」

 机を叩きつけながら立ち上がる。それはもう、勢いだけの語り。

 そりゃまぁ、心音も中学生だしそういうのは気にするでしょう。身内の恋愛事情は知って気持ちのいい物ではないしね。

「それはもしかして、心音、お兄ちゃんの事好きになっちゃったぁ?」

「ない! それだけは絶対にない!」

 その全力否定じゃ、逆に怪しく見えちゃうんじゃないかな。

「けど、お兄ちゃん普通に頭いいんでしょ? この前中井さん家に遊びに行った時少し話したけど、優しい人だったし、顔も結構いいじゃん」

「それを上回る変態なのよ。部活、美少女研究会とかいうやつだし、気持ち悪い」

「ギャップってやつだよぉー、このこの。羨ましいぞー」

「他人事だと思って……」

 僕的にも修一くんは悪くないと思うけどな。あぁけどあの子、巨乳の方が好きっぽいんだよな。僕は貧乳ぎみの方が好きだけどね。あと、ツンデレっていいよねぇ。あ、これどっちも心音だ。

 けど、やっぱ大学生くらいがいいよね、あの大人になっているのにまだ若々しい感じね、いいよねぇ。木乃香さんにもそういう時期があったなぁ……可愛かったよ。

 心音のリクルートスーツも楽しみだよ。あ、その辺り超えたら、結婚とかもするのかなぁ。僕的にはドレスよりも白無垢が見たいな。

 まぁ、僕の好みはどうでもいいか。心音は愚痴じみた話をグダグダ続けて、お友達はそれを聞いてくれている。

 そして、雑談の声を聞きつけた教師が、教室を覗いた。

「中井、佐藤、佐野、まだいたか。用がないなら帰れよー」

「はーい!」

「そろそろ帰ろっか。中井さん、佐野さん」

「そうですな」

 帰るみたいだね。僕も戻ろっかな。女子中学生の帰り道の雑談も聞いていて楽しいからね。

「そういえば聞いて。昨日私のお兄ちゃんがね、夜なにやら騒がしくてさ。なんか、女の人とずっと話してたんだよね」

「彼女さんと通話?」

「ううん、お兄ちゃんに彼女いないよ。私は寝たかったから耳栓して寝たんだけどさ」

「うん、それでそれで」

「朝ね、お兄ちゃんの様子がなんか可笑しかったんだよ。もじもじしてるというか、恥ずかしそうというか」

「それでね、お兄ちゃんに『夜中にチャットするならもっと静かにしてよ』って言ったら、お兄ちゃん顔赤くして、誤魔化すみたいに、ごめん! って」

「ほう、それは怪しいですな。もしや、営みですかな」

「可能性はあるよね」

 ふーん、佐藤さんのお兄ちゃんもうそんなに。僕高校生の頃は男友達としかつるんでなかったのに、ちょっとズルい。初めての彼女大学生になってからだったんだよ、僕。

 ほんと、羨ましいなぁ……ん、よく考えたら、僕、木乃香さんとしたの一回だけじゃん! コスプレとかしてもらった事はあるけど。あぁ、惜しい事した。

 どうせなら後二人子供欲しかった。けど、どちらにせよ死んだら見守る事しか出来ないのか。意味ないや。

 家についたね。ん、あぁよそに行くの? 君は忙しい子だねぇ。分かった。また機会があればね。



 わかる! やっぱ乳はデカい方がいいよなぁ~。

 うおっ、いつの間に戻ってたのか、早かったな。すっかり油断してたぞ。

 そうだな、まぁ今は美少女の胸は大きい方が良いか小さい方が良いかという話しをしていた。こんなにも真面目な顔してな。

「甘いですぞ部長さん! 女子の色気は胸の大きさではないでしょう! 小さいからこそ出せる幼さをのこした色気というのよさをわからないのか?」

「いいやその考えは邪道なり! あのたわわな胸は女子しか持たない神聖なるもの、大きいに越した事はない! 私はEをお勧めする!」

「いいや、大きくともCです! 小さい胸を気にする女子こそ至高でしょう!」

 なんか、政治家の議論が白熱している時みたいだなぁ。話している事、おっぱいの話だけど。

「「一年くん! 君はどっちだ?」」

 おー、これは面白い。修一と大智くんはどうする?

「大きい方が」

「俺、貧乳派」

 同時に出した答えは真逆の物で、「ん?」っと二人は顔を合わせる。

「くそっ、また引き分けか……」

「やりますな、部長」

「君こそ、やるではないか」

 ははっ、三年がこんなシーンで友情を深めちゃった。川辺で殴り合った訳でもないのにな。

 お、そんな所で顧問の先生が部室に来たな。

「おー、白熱してるなぁー、お前等」

「っと、今日の議論は貧乳か巨乳かか」

「ちなみに、先生はどちらで?」

 部長が尋ねると、先生は少し考えてから答えを出す。

「俺ー? そーだなぁ、俺的にはぁ」

「そのキャラの属性による」

 そりゃ、それを言ったらお終いだ。

 顧問の一言に皆納得し議論は終わった。そんで家に帰ろうと、修一と大智くんは帰路に就く。

 うむ、なんだ。帰り道の他愛のない会話は興味ないのか? じゃあ俺の語りでもどうだ、聞くか? おけ、わかった。そーだなぁ、若い頃の美智子の話なんだけどな、あ、ちょいまて! 別に惚気じゃねぇって、最初の最初で帰ろうとすんなよ。美智子はな、ああ見えて凄く強い女だったんだぜ。

 そうそう、二十歳の時にな、まぁ俺が酒呑んで記憶ない間にやらかしたみたいでさ。そんでさ、夜中に突然知らない女が俺の住んでいたアパートにとつってきたのよ。玄関の扉やべぇ勢いで連続ノックされてさ、ずーっとなにか叫んでいるわけ。

 俺怖くってさぁ。だって酒呑んでるから記憶ないのよ、本当に口すべらせて付き合うとか言ったんじゃないかって。そんときにはもう美智子と付き合ってたし、ただじゃ済まないじゃん? その女は玄関先で叫んでいるしさ。そん時な、美智子が夜中だってのに駆けつけてきてな。「修造は私の男だ! お前に用はない!」って。あれはかっこよかったぁ。

 けど、俺、その事美智子に連絡してないんだよ。不思議だよなぁ。

 でさ、その女の件はどうにかなったけど、まだ俺は怖くってな。だって、酔っているとは言え彼女がいるのに、酒場で一人呑みしている女の誘いに乗ったんだぜ? 絶対怒るし、最悪別れられるじゃん。手始めのビンタ一発は覚悟していたら、本気の拳骨喰らわされたんだ。すっげぇ痛かった。

 そんでさ美智子言ったんよ「私がいるとき以外、外でお酒呑むの禁止」って。けど、美智子の価値観では、故意じゃなければ浮気にならないって。なんか、まぁお仕置きで許してくれた。

 ほんと、良かったよな。絶対別れられるって思ったもん。その後、またその女が寄ってこないかしばらく側にいてくれてさ。ほんと、すっげぇ安心したのは覚えてる。これ本来、俺がこうであるべきなんだけどなぁ。

 美智子、若い頃も本当に可愛くて、俺好みだった。なんて言ったって乳がやわら――

「あら、お帰り修一」

「ただいま母さん」

 おっと、もう家についていたようだ。一応、本人の前では言わないでおこうかな。聞こえてないだろうけど。

「ねぇ、修一。貴方手当たり次第に女の子に手だしたりしてない?」

「え、何いきなり。俺そもそも彼女一人もいない」

「それならいいのだけど。修一、日に日にお父さんに似てきているからねぇ、あり得ると思って」

「父さんに?」

「そう。すっごい女好きでねぇ、学生の頃は女好きで有名だったのよ。すぐどっか行こうとして、私の所に留めておくのも苦労したんだから」

 あれ、俺そんなにひどかったっけ? んな、世話が大変な子どもみたいだった? なぁ美智子。聞こえないだろうけど答えてくれよ、俺そんなにフラフラしてたっけ? なぁ美智子?

「それでよく結婚したね……」

 まって、凄い勘違いされている気がする! いや確かに、女の子は、というか美少女が好きだった。お前みたいに。だけど、そういう倫理的なあれは守っていたはずだ。たぶん。

「ふふ、それでも浮気はしなかったのよ。貴方もそうだと思っているけど、もしあれなら、社会的にどう思われるかはきちんと考えなさいよ」

「ねぇ母さん、今俺すっごい勘違いされている気がするんだけど、気のせい? ねぇ母さん!!」

「……まさか」

 っと、いきなり走んなよビックリしたな! 追いかけるぞ。

 一体何があるって……って、なんかいる!

 あ、いや、修一の部屋に全裸の女が、いやよくみたら女じゃなくて、全裸のふたなりで、なんと驚き、モノ丸出しだ。

 うん。がっつりアウトだな! ほら、こんな時の為に用意した筋肉猫ちゃんだ! これでも見てろ、流石に裸体は見せられないからな。

「な、な……」

「待ちわびたぞ修一」

 あぁ、こいつあれだな、あの二年くんの処女を取って行った淫魔だな。見た目が情報そのまんまだ。黒髪のポニーテールみたいな髪型で、紫色の目をしている、そしてなにより乳も【自己規制】もデカい。

「誰だお前! な、デカっ」

 修一もびっくりしている。そりゃこんな黒人並みにでっかい【自己規制】だ、度肝抜かれるわ。

「デカい? どちらの事をいいたいのかは分からないが、【自己規制】の事であったら当たり前だぞ。【自己規制】平常時十八センチ以上は淫魔の基本だ」

 淫魔は自慢するように胸を張る。まぁなんとも、こちらも大きいこと。

「やっぱ淫魔かよ! 林檎の仲間か?」

 修一が仲間かと聞くと、淫魔は大きく訂正してきた。

「仲間ではない! 林檎は私の好敵手だ、覚えておけ」

 それはもう、気迫が凄い。

「林檎め、毎度毎度私の獲物をことごとく横取りしやがって……今度こそは私がありつくのだ!」

 どうやら林檎にライバル意識を持っているらしい。戦意に満ちた目で、こりゃ戦場に向かう前の女軍人みたいだ。下手すりゃ殺されそう。

「私はこれまでに数多くの男の処女を喰ってきた、だから修一、安心して私に処女を与えると良い」

「童貞でいいなら喜んで」

 返答は分かっているが、修一は一応攻め側なら喜ぶという事を伝える。だが、淫魔はそんな修一に憐みの目を向けた。

「修一、お前は淫魔をなんだと思っているのだ? 淫魔が男に犯される存在だとでもおもっているのか、哀れなものだ」

 ははっ、これが理想と現実ってやつか。

 そんな風に言わないでやってくれ、大体のエロ同人はそうなんだから。お前だって、淫魔つーのはあぁ言うのだと思うよな?

「それはこっちのセリフなんだよ! というか服着ろ名乗れ!」

 お、二段階ツッコみ。そういやまだこいつの名前を聞いていなかったな。

「そうだったな、名乗っていなかった」

「私の名は葡萄。淫魔だ」

 あ、やっぱ淫魔なんだ。そりゃそうよな、巨乳の美少女の【自己規制】付きだなんて、普通の人間ではない。

「分かったのならけつをだせ。処女をいただこう」

 この淫魔も攻めるなぁ。肉食の極みだ。

「だーかーらーっ、嫌だ!」

「何故だ?」

「なぜって、それ訊く? 俺、男なの!」

「男の処女喪失は格別旨いものだぞ」

「ヤバい、話が驚くほど通じない」

 まぁ見てる側からしたら結構面白いぞ。

 って、脱がしてんじゃないよ! せめて少しは躊躇をしろ、見せられないから!

「あ、ちょ、何する、おい脱がすなコラ!」

 これは見せられないから、サイドチェスト筋肉猫ちゃんでも見ていてくれ。

 それにしても、修一、結構小さいんだなぁ。

「これは、オスとして失格だな」

「うっせぇ! 遺伝だよ!」

 ちょっと修一! 俺は平均くらいだぞ! 平均よかちょっと、ちょーっと小さかったくらいだ!

「【自己規制】の大きさって遺伝なのか?」

 葡萄もそこは気になったみたいで、手を止めて真面目に考え始める。

「いや、知らんけどさ」

 確かに、どうなんだろうな、それ。

 まぁ、今はそういう話しじゃないけど。

「って、真面目に考えるとこそこじゃねぇーよ!」

 修一が葡萄に蹴りをかまそうとしたところで、避けられた。

「やはりお前は受けがお似合いだ。そんな【自己規制】じゃメスを満足させることは到底できん。大人しくしてれば酷い事はしない」

「いや、男の処女を取ろうとしている時点で酷い事だよっ!」

 これは、かなりの切実だな。多分俺でも同じ事言うわ。

「葡萄、レイプはよくないなぁレイプは」

 っと、そんな言い合いをしている所に林檎登場だ。

「レイプとは失敬な、たったいま同意を得ようとしている所だ」

「下脱がせた時点であれだよねぇ。それにしても修一、修一の【自己規制】すっごい可愛いね」

 わぁ、すっげぇ可愛い笑顔ですっげぇ残酷なこと言うな。【自己規制】が可愛いって。

 まぁそれは置いといて、林檎の言う事は粗方正論だろう。同意を得る前に脱がせた時点で割とアウトだ。

「葡萄、今度の獲物も僕のものだから、君は他の男にしときな」

「何を言うか林檎。私の方がいいに決まっている、そうだろう修一」

「そんなことないよね修一、僕の方がいいよねぇー?」

 喧嘩をする二人の淫魔。淫魔じゃなくて、普通の美少女だったらよかったのになぁ修一。

 修一はそりゃもう、迫られて恐縮している。

「どっちも嫌です……」

 かなり小声での否定だ。しかし、二人には間違いなく聞こえていただろう。

「え、聞こえなかったなぁ」

「あぁ私も聞こえなかったな。もう一度、大きな声で」

 聞こえてはいるが、納得いく返事ではなかったらしい。随分と、圧が強い。

 どちらか選ぶまで逃がさないと言った感じか。こりゃ大変だな。修一、どうするんだ?

「あははは、ちょっと俺、用事思い出したっ!」

 あ、逃げた。

 けど確かに、俺が修一の立場だったら逃げるわ。だって怖いもん。

「もう、葡萄が圧かけるからぁ」

「それはお前だろう? 林檎」

「あ?」

「可愛い子面もはがせばただの野蛮者だなぁ」

「へー、君も大して変わらないと思うけどぉ?」

「言ってろ」

 あーあー、めっちゃ睨み合ってる。火花散ってるよ。

 やっぱりさっきの葡萄の発言通り、二人はあまり仲良くないみたいだ。もしかしたら、一周回って仲良しかもしれないな。あれだ、喧嘩するほどなんとやらってな。

 てか、修一どこ行ったんだろ。

 ちょっと探して――

「修造!」

 はいっ! ……って、今誰呼んだ?

「僕だよ。君が決めてよ、僕と葡萄、どっちが修一の処女奪うか」

「あぁ。第三者が決めた方がいいだろうな。勿論、私だよな」

「僕だよねぇ?」

 いや俺の事見えるのかよ! だったら言えよ地味に恥ずかしいだろ!

「淫魔だからね」

「淫魔だからな」

 ず、随分息ぴったりだな。あぁ、そういう? 人外だから見えるとか、そういうのあるんだ。

 嫌だよ。てか、修一追わないと。

「ダメ」

 ダメっつわれても……。

「メロンとモモが修一を見つける前に、決着付けないといけない。という事だ、修造、私を選べ。私の方がテクニックがいい」

「修造、葡萄はダメだよ! エスっけあるから、修一痛めつけちゃうかも。僕の方が優しくしてあげられるよ!」

 なぁんか演説始まっちゃった。どうしよ、これ。今俺もすっげぇ逃げたい。

「何を言うか、隠れドSめ。お前の方が獲物傷つけているだろうが」

「印象操作はよくないよ。僕ほど優しい淫魔はいないじゃん」

「あ?」

「やんの?」

 あー、喧嘩始めちゃったよ。その間にずらかるか。

 じゃ、さようならー。

「ダーメっ」

 うっ……ちょ、林檎! そこ引っ張るなそこ引っ張るな! 絞まる! 首絞まるからそこ!

「もう死んでるから首絞まろうが関係ないよねぇ」

 そういう問題じゃない!

「修造は僕の方が好みなんでしょー? だったら僕の方がいいでしょ」

「修造の好みと修一の好みは違うであろう」

「えー、事前調査ちゃんとしてないのぉー? 修一は修造と好み同じなんだよ~、何のためにセーラー服調達したと思ってんのさぁ」

 あ、いやそんなこといいから手離してくれませんかね? 幽霊だって痛覚あるんだよ? ねぇ、林檎さん? 人の話聞いてくれません!?

「僕!」

「私だ!」

 どうしよ、どっちも驚くほど話聞いてくれない。

 って、待てお前! お前だけ逃げようとするなよ! ちょ、お前さぁーー!

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