誕生日プレゼントに告白。……それはいいけど、畳みかけるのはやめたげて!

女同士の静かな争い程怖いモノはないよな。うん。

【誕生日プレゼントに告白。……それはいいけど、畳みかけるのはやめたげて】


 お、よぉ。この前ぶり。今日は七月十六日、つまり土曜日だ。今日の昼頃に、修一は沙友里さんとカフェに行く約束がある。だからお昼は食べずに行くそうだ。

 修一は朝ご飯を食べて部屋でうでうでしている。

「あれ、俺沙友里さんとLINE交換してたっけ」

 噂をすればなんとやら。沙友里さんがメッセージを送ってきたみたいだ。

『今日は楽しみにしてるよ!』

「『俺もです』っと」

 修一、顔文字とか使った方が良いんじゃないか? 知らんけど。

「あ、顔文字とか入れた方がよかったかな……んー、いらないか」

 おぉ、沙友里さん既読早いな。送ってすぐに付いたぞ。

『うん! またね(・ω・´ )』

 返信も早い、流石現役女子大生。そしてこの顔文字可愛いなぁ。そういやこの前、この顔の筋肉猫ちゃん描いたな。ほらこれ、可愛いだろ?

 最近ちょっと出番少なくて可哀想だから、はい、見てて。見せちゃいけないものあるわけじゃないけど。

 ちなみに背景の花畑は、昔美智子と行ったどっかでっかい公園のところのやつ。綺麗な花畑に筋肉猫、シュールでいいだろ。

「あ、服、どうしよ」

 っと、修一が服を悩んでいる。

 普段気にせず手を伸ばした先にあるもん着てるのにな、流石に女子相手だからそうもいかないか。

「心音ー! ちょっといいー?」

 お、女子に意見仰ぐか。確かに妹がいるとそれが出来るし、便利だな。

「なに?」

 隣の部屋にいる心音は呼んだら直ぐに出てきた。

「今日さ、沙友里さんと少し出かけるんだけどさ、服どうしたらいいと思う?」

「そんなの、ネイビーとブラック合わせときゃそれっぽくなるわよ」

 なぁ心音、ネイビーって何? ブランドかなんか?

「ネイビー? なんそれ、ブランド?」

「色だよ……」

「色か」

 心音、そんな呆れた顔しないえやってくれよ。

 色か。そういや聞いたことあった気がする。

「ちょっと見して」

「持ってるじゃん。これがネイビー色、日本語で言えば濃紺」

 お、詳しいな。これネイビーなんだ。無駄に洒落た名前だな、なんかワインみたい。

「兄貴、顔はいんだからなんでもそれっぽくなるわよ」

「じゃ、そう言う事で」

 あ、行っちゃった。

「あぁ、ありがと。……ん、心音! 今俺の事褒めた? ねぇ心音!」

 あれま逃げられた。しかしまぁ、よかったな修一。顔はいいってよ、俺も学生の時よく言われたわ。

「とりあえず、いつものでいいか」

 まぁそれでいいんじゃない? デートってわけじゃないし。

「兄貴!」

 わっ、っくしりたぁ……心音か。

 そんな反復横跳びみたいなスピードでまた顔出して、どうしたんだ。

「うおっ! なんだ、ビックリしたな」

「沙友里さんっと出かけるって、で、デート?」

 あぁ、そゆこと。

「いや、ただ用事に付き合うだけだけど」

「そっか」

 また反復横跳びみたいなスピードで戻って行ったな。

「? 心音、どうしたんだろ」

 さぁなぁ。修一も、少女漫画とか読んだら分かるんじゃないか?

 

 まぁ、適当に時間潰しているうちに約束の時間だ。駅近にあるカフェだから駅集合らしい。修一は約束の五分前について、その二分後に沙友里さんもやってきた。

「ごめん修一くん、待った?」

「いや、俺もさっきついた所です」

「じゃあ行こうか。こっちにあるんだけど」

 沙友里さんがスマホでささっと地図を出して、その方向に歩く。このカフェ、名前からしておしゃれな所だろうなぁ。これフランス語だよな。しゃれてんねぇ。

「実はね、修一くんに付き合ってもらったのには理由があってね」

「今ね、あそこのカフェでカップル割引って言うのをやっててね、カップルで来たら全品十パーセントオフサービスやってるの」

 カップル割なんてあるんだなぁ。それで修一を。

 大智くんだと姉弟だってバレるかもだもんな。普通に顔似てるし。

「あぁ、それで俺が彼氏役してほしいって事ですか?」

「そうなの。あそこの商品美味しそうなんだけど、少しお高めで。ね? お姉さんが奢ってあげるから」

 綺麗なウインクだ。

 沙友里さんは大人の余裕を見せたいらしい。大学生って事は、多分バイトしてるあろうし、ある程度お金に余裕があるのかな。少なくとも、奢れるほどには。

「あ、俺の分は俺が払いますよ。悪いですし」

「いいのいいの。年上からの奢りは断った方がマナー違反なの。そーれーにっ」

「修一くん、明日誕生日でしょう?」

 誕生日プレゼント替わりって事か。物はなにあげたらいいか悩むし、ありなんじゃね。

「え?」

 ん、修一もしかして。

「言われてみれば、そうでしたね」

「そこは、覚えておこうよ」

 誕生日くらいはなぁ。去年も忘れてなかったか? ある程度歳とりゃ浮つくようなイベントじゃなくなるんだろうけど、高校生だろ。プレゼントも貰えるんだしもうちょっとワクワクしようぜ。まぁ、俺からは何もやれないけどさ。

「修一くん。まだ若いのに、誕生日あんまり好きじゃないの?」

「好きじゃないって訳じゃないんですけど……」

「俺の父さん、俺の産まれた時に死んだみたいで。なんか、俺が父さんの命を犠牲にして産まれてきたんじゃないかって思っちゃって」

 あー。

 間違っちゃねぇけど、それを気にされるとな……。

 気にするなって言っても、伝わらないよな。

「んー、下手に私が何か言うのもなんだと思うけど、そうだな」

「たぶん、お父さんは気にしてないと思うよ。修一くんの思う事が本当だとしたら、気遣われた方が嫌なんじゃないかな」

「そうですかね」

 そうそう。ありがとう沙友里さん、マジで助かる。

 そりゃまだ俺も生きれるもんなら生きたかったけどよ、折角譲った命なんだ、気にせず使ってほしいよな。

 っと、んな事話してる間に、ついたみたいだな。外見おしゃれだなぁ。インスタ女子とやらがこぞってやってきそうだ。

「修一くん、彼氏としてお願いね」

「はい」

 お、看板にも書いてあるな。カップル割をご利用の方は注文時にスタッフにお申し付けくださいってさ。

 修一と沙友里さんは四人席の所に座って、メニューを見た。

 どうやらこの店の代表商品はパンケーキらしいな。

「やっぱりパンケーキだよね。んー、ブルベリーもいいけど、このフルーツ盛り合わせってのもいいなぁ。修一くんはどうする?」

 おぉ、フルーツ盛り合わせパンケーキだって。豪華ぁ。えっと、リンゴとモモとブドウとメロンとキウイか。ふっ、狙ったような組み合わせだな。

「じゃあ、チョコと生クリームのパンケーキで」

「じゃあ私このフルーツ盛り合わせにしよ」

 早速注文呼んで、やってきた綺麗な女性店員さんに注文を伝える。

「あ、あと、このカップル割お願いします」

「そちら確認が必要ですが、恋人さんで間違いないですか?」

「はい、大丈夫です」

 店員さんの確認に、修一は流れるように噓をついた。

「承りました」

 まぁ、嘘だとバレてもそんななんも思わないだろう。そういう客結構いそうじゃん。

 頼んだもの来るまでの少しの間、修一は沙友里さんとちょっとした雑談をしている。

「修一くん、学校での大智はどう?」

「至って普通ですよ。強いて言うなら、最近ちょっと距離が近いくらいですね」

 確かに、最近林檎とかがいるからか前よりも近めだよな。元々大智くんは距離感近い方だったけど。

「ふーん、距離近いんだぁ」

「まぁ昔っからの話ですし今更気にする事じゃないんですけどね」

「じゃあさ、心音ちゃんとはどう? 仲良く出来てる?」

 そう訊く沙友里さんはかなり前のめりだった。

「たぶん、それなりには」

 なんだ、自信なさげだな。

 まぁ血のつながりがないって分かってから、心音が少し挙動不審じゃないけど、そんな感じしているから、そこが付かかってんのかな。

 ん、あれ、もしかして心音?

「あっ、兄貴」

「心音じゃん」

「沙友里さんと行くの、ここのカフェだったんだ」

 心音はちらっと沙友里さんを目にして、直ぐに逸らした。

 この感じ、知っててきたな。

「心音ちゃん、こんにちは」

「こんにちは沙友里さん」

「ふふっ、今日は一人でカフェを愉しみに来たのー?」

「今度友達と来る予定があるので、散歩がてらその下見です」

「そっかぁ」

 なんか、怖い空気だな。

『あ、修造さん。どうもですー』

 優音さん、どうもー。

『意気込んで出かけたと思ったら、なんというか、修羅場ですね』

 一応睨み合いで済んでいるみたいですけどね。

「折角だし心音もなんか食うか?」

 まぁ、こいつは分かってないみたいですけど。

「うん、じゃあそうする」

 修一の隣に詰めて座った。これは多分、マウントだ。なんというか、やっぱ怖いな。この静かな威嚇。

『女の子は暴力とかしない代わりにマウントの取り合いしますからねぇ』

 分かります、それ。しますよねぇマウント合戦。

 なんというか心音と沙友里さんの間の空気だけ静電気宿ってますよね。

『確かに』

 それにしても、心音のツインテール久しぶりに見た気がしますよ、小学校の低学年以来ですかね? いいですねぇ。

『ですよねぇ、やっぱ心音は二つ結びが似合うと思うんですよ』

「そういや心音、ツインテールとか珍しいな」

 修一も気付いたみたいだな。

「変?」

「いや、可愛いと思うぞ。やっぱ心音はツインテール似合うって。学校それで行ったらいいんじゃない? モテるぞー」

 あ、心音ちょっと照れた。

「嫌よ。ぶりっこだと思われるじゃん、こういうのはね、休日だからいいの」

「あと普通に校則違反になる」

「それもそっか。やっぱ中学校は厳しいからなぁ」

 そういえばそうか。中学校は耳より上に結んじゃダメだったな。

 中学生のセーラー服姿でツインテールとか、めっちゃ美味しい組み合わせなのに。まぁ校則なら仕方ない。お前もどんなプライドがあっても校則は守れよ?

『修造さんは中高生辺りが好みで?』

 やっぱ若い子の方がいいっちゃ良いですけどねー。あ、美智子には言わないでくださいよ? こんな事言ったら叩かれちゃいます。

『言えたら言いたいんですけどねぇ、ご生憎彼女とは話せない物でして』

 それは良かった。

「中学校はねぇ。心音ちゃん、やっぱりモテるんじゃない? 彼氏とかもういたりするのー?」

「いや、そんなモテた事なんてないですよ」

 わぁ、また始まった。

 パンケーキを持ってきた店員さんも、その空気に気付いて一瞬戸惑っているような顔をしたが、仕事があるから速やかに机に皿を置いて仕事に戻った。

「心音ちゃんくらいの子ならいっぱいモテると思うけどなぁ、男子ったら見る目ないんだから」

「褒めても何もだしませんよー?」

 まぁぱっと見はアハハウフフって感じだ。分かる人には分かる敵意は漏れ出しているが、見て分かる通り、修一は分からない人で。

「二人っていつの間に仲良くなってたんだなぁ……あ、これめっちゃうま」

 修一は嬉しそうに二人の様子を眺めながら、パンケーキを食べていた。


 心音はお昼を食べたから、そんなにお腹空いてないと飲み物だけ注文して飲んで、まぁ不穏な空気を含ませつつも、カフェでの食事はことなく終えたわけだ。

「ありがとうね、修一くん」

「はい、こちらこそ。ありがとうございます。じゃあ」

「あ、待って心音ちゃん」

「はい?」

「これから時間あるなら、今度は女子だけでショッピングなんてどう?」

 お姉さんの微笑みで、沙友里さんは心音を誘った。

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