雪乃 千紗


作・月風 瑠風


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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


登場人物紹介


雪乃 千紗 女性:


暁月 冬哉 男性:


冬哉の妹 女性:


ナレーション(N.):



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

↓本編はここから↓


千紗「冬哉!早く早くぅ〜!」


千紗(M):私の名前は雪乃 千紗(ゆきのちさ)、天ノ川大学に通う大学生


冬哉「っちょ、そんなに急いでどうしたの!」


千紗(M):で、こっちは──幼馴染の暁月 冬哉(あかつき とうや)、同じく天ノ川大学に通う大学生。


千紗「いいから!」


千紗(M):私たちは今、旅行に来ている。

冬哉とは、幼い頃から家族ぐるみの付き合いで、長期休暇はよく一緒に旅行している。部屋も家族ごとに分かれるのではなく、男女で分けるため冬哉のお母さんや妹とは、仲がいい。妹ちゃんなんて、


妹「冬哉にいのお嫁さんは千紗ねえじゃなきゃやだ〜!」


千紗(M):なんてて言われてて正直照れちゃうな...


冬哉「っちょ、早いって!怪我でもしたらどうするの?ほんっと千紗は...って──」


N.

舗装された山道を駆け上がり、息を整えてから千紗に一言かけようとした冬哉が見たもの、それは──


千紗「きれ〜ぃ!!!」


冬哉「すっげぇ〜!」


N.

目の前に広がるのは立派な花々が咲き誇る広大な花畑、吹き抜ける風が花弁を舞い上がらせ、まるで花弁が踊っているかのようだ。


冬哉「こんな場所があったなんて...」


千紗「ほらね、言った通りだったでしょ?」


冬哉「あぁすごいよ...」


N.

そう言って冬哉は千紗の顔を見る。

銀色の髪を靡かせ、花畑を見つめる赤い瞳は光り輝く宝石のようだった。そして、千紗に見惚れていた冬哉はうっかり口にしてしまった。


冬哉「綺麗...」


千紗「ねぇ、すっごく綺麗...」


N.

しかし、千紗は相変わらず花畑を眺めていて気づいていなかった。


千紗「ねぇ、見て。この花の名前知ってる?」


N.

千紗がそう言って指を差した花、それは「アスチルベ」と言うユキノシタ科・チダケサシ属の花だ。別名、アスティルべ、泡盛草(アワモリソウ)や曙升麻(アケボノショウマ)と呼ばれている。


千紗「この花の花言葉は...________」


N.

急に強い風に吹かれ、冬哉は最後まで聞き取れなかった。


千紗「なんか急に風強くなったね」


冬哉「そうだな、風邪引く前に戻るか」


千紗「そうね」


N.

旅館に戻る頃にはすっかり陽も落ちて、街には夕飯のいい香りが広がっていた。そんな中、千紗の我儘に付き合わされているお腹を空かせた冬哉はぐーぐーとお腹を鳴らしながら、ぶーぶーと不満を呟いていた。


冬哉「まだ買い物するのかよ...」


千紗「いいでしょ?旅行なんて滅多にできないしここでショッピングできるのも最後かもしれないんだよ!?沢山買っておかなきゃ!」


冬哉「沢山買うのはいいが、その荷物...誰が持つんだ?」


千紗「もちろん冬哉だけど?」


冬哉「おいおい、俺はお前の荷物持ちじゃないぞ!まったく...」


千紗「文句は言うけど、結局全部持ってくれるのよね〜、ありがと、冬哉♡」


冬哉「持つけど_____はぁ...こりゃ勝てねぇや...」


N.

思わずため息を漏らす冬哉だったが、すぐにある疑問が生じる。


冬哉「千紗、お前さ...そんなに買って、お金足りるの?」


千紗「え?多分足りると思うけど、足りなかったら冬哉貸してくれるでしょ?だから安心して買い物できるじゃん!」


冬哉「ちょっと待て、前貸したやつ返してもらってないぞ!?」


千紗「え〜?そうだっけ?」


冬哉「え〜?そうだっけ?っじゃねえよ!返す気ないだろ...」


千紗「でも冬哉、私が困ってたらお金貸してくれるでしょ?」


冬哉「まぁ、千紗が困ってんなら貸すけどさ...」


千紗「じゃあいいじゃん!」


冬哉「あのなぁ...」


N.

その後も冬哉は、夕飯までの時間千紗のショッピングに付き合った。


N.

千紗は冬哉の事なんて気にせず、あれこれ買いまくるため、冬哉は買ったものを置きにショッピングモールと旅館を3回ほど往復したのだった。


N.

次の日、帰りの車の中で冬哉はある事を思い出し調べていた。


冬哉「そういえば、アスチルベ...だっけ?あの花も花言葉、風のせいでちゃんと聞こえなかったな、調べてみよ」


冬哉「アスチルベはユキノシタ科チダケサシ属の多年草植物で...花色はピンク白赤などがあり開花時期は5月〜9月ってそうじゃなくて俺は花言葉が...」


冬哉「っと、あったあった!えーっと、なになに〜自由、気まま...こっちには繊細って書いてあるな、落ち着いた明るさって書いてあるところもあるなぁ、うーんまぁ全部千紗に当てはまんのかな?w」


冬哉「ん?もう一個あるぞ、【恋の訪れ】...?」


N.

それをみた時、冬哉は千紗の事を思い浮かべ少しドキッとした。そして少し間を空けてから、首を横に振った。


冬哉「いやいやないでしょ!俺と千紗が恋なんて、あいつとは兄弟みたいなもんだし?あいつも俺のことそんなふうに見てないだろうし!」


妹「千紗姉は、案外そういう目で冬哉兄の事見てるかもよ〜?」


冬哉「はぁ?何言ってんの?んなわけ...」


妹「冬哉兄って鈍感なのね、まぁそういうものって当たり前だと思ってるからそう思うだけで、本当の気持ちは失ってみないとわからないのよね〜」


冬哉「失って気づく本当の気持ちか...

俺って、千紗にずっとくっついてたけど、それって千紗のためになってんのかな?千紗は見た目もいいし性格も...まぁ悪くないし、普通にモテそうなのに、俺がずっとくっついてるせいでまともに恋愛できてないんじゃないか?それって...」


妹「はぁ、こりゃダメだ...」


N.

妹は諦めた。


N.

その一方で、千紗は...


千紗「冬哉とおそろ買っちゃった〜!こういうのしてみたかったんだよね〜、私全然男寄ってこないから冬哉とするしかないけど...でもまぁ冬哉、結構イケメンだし?普通にしてればモテそうなのに...」


N.

そう、冬哉と千紗は美男美女で、大学では有名な二人組だ。当人たちはただの幼馴染の付き合いで一緒にいるだけだが、周りから見れば美男美女のイチャイチャラブラブカップルに見えるのである。そのせいで、お互いに異性が寄ってこない。


N.

そしてその日を境に、冬哉は千紗と距離を置くようになった。


千紗「冬哉!私クレープ食べたい!...って冬哉?___あれ、いない...」


千紗「いつも勝手に着いてきてるのに、最近付き合い悪いなぁ、荷物持ちにしたの怒ってるのかな...?そんな事じゃ今まで怒らなかったし、気のせいよ、うん」


N.

千紗はぶつぶつ呟きながら、行きつけの喫茶店へ入って行った。


千紗「さてと、本でも読もっかなぁ〜、マスター!いつものお願い!」


N.

千紗がカバンを置き本を取り出そうとした時、窓の外に女の子と仲睦まじく歩く冬哉を見つけてしまった。


千紗「へ?」


N.

咄嗟の出来事に理解ができない。いや、脳が理解するのを恐れているのだ。そんな事あるはずない、冬哉が私を差し置いて他の女の子と仲良く歩いてるなんて、頭の中が真っ白になり、ただその光景を眺めていることしかできなかった。


N.

そんなはずはない、何かの間違いだ。頭の中がぐちゃぐちゃにかき回される。胸が締め付けられるようで、今までの事が嘘のように思えてくる。幼馴染でずっと一緒にいた、このままずっと一緒にいられる、どこかでそう思っていたのかもしれない。当たり前だった日常が音を立てて崩れ去ってゆく、いくら拾っても、治しても、どんどん崩れてくる。認めたくない、冬哉がそんな事するはずない。人違いだ、そう自分に言い聞かせても目の当たりにした事実は変える事はできない。そして、1つの結論へと辿り着いた。


千紗(M):別に私達は付き合っていたわけではない、幼馴染の付き合いで一緒にいただけ...


千紗(M):だから、冬哉が誰といたって私には関係なくて、冬哉を縛り付ける理由にはならない。


N.

そう、千紗と冬哉はただの幼馴染で少し人より付き合いが長いだけだと言う結論へと...


千紗(M):でもだったら、この胸を締め付けるような痛みは何?私は冬哉の事を...


千紗「な訳ないよね、ずっと一緒にいたのにいきなり他の子と一緒に歩いてるのみてショックだっただけよ、うん!親にべったりだった子が急に親離れした時の親の気持ちみたいなものだわ_____さてっと、今日はなんだか疲れちゃったからサクッと帰ってシャワー浴びよ〜っと!」


N.

千紗は泣いていた、頬を伝う感覚に気づかないふりをして。

それを認めたくない一心で自分の気持ちに嘘をついた。


千紗(M):それから1週間、冬哉が私についてくる事は無かった。一人の生活もだいぶ慣れ、寂しさも紛れてきた、ちょうどそんな時だった。


N.

昼休み、千紗が昼食をとっていると1人の女子が声をかけてきた。


女子「ねーねー、1人でお昼?よかったら一緒に食べない?」


N.

そう言うと、返事を待たずに隣に座った。

その子は、あの日冬哉と仲良さそうに歩いていた子だった。

あの時の事は未だ鮮明に覚えている。

思い出すと、また胸が苦しくなり食事どころではなくなってしまった。

そんな事は露知らず、隣の子は美味しそうに食事をしている。

そして、千紗に話しかけてきた。


女子「千紗ちゃんってさ?冬哉くんとよく一緒にいたよね?仲良いの?私冬哉くんの事気になっててさ〜、よかったら冬哉くんの事教えてくれない!?」


N.

しかし千紗は、頭の中が真っ白になっていて会話どころでは無かった。


N.

千紗が全く返事をしないので、その子は諦めて食事を済ませ千紗に一言、吐き捨て去っていった。


女子「千紗ちゃんが冬哉くんと付き合ってると思ってたから今まで遠慮してたけど、付き合ってるわけじゃないみたいだし?私、もう遠慮しなくていいよね?」


N.

その言葉は千紗の胸を簡単に貫き、千紗は机に伏せるように倒れ気を失った。


N.

コーヒーカップは回り出す、恋する乙女を乗せて...

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