第4話 忘れたくないよ!

「ねぇ、マーリン、これ何?」


「藤原和布刈さんの復活体ですよ。骨格再生、受肉、魂を探して、定着、

あっ裸なのがお嫌でしたら、お好みでセーラー服でも、巫女姿でも、お着物でも、、、」


「違う違う、むしろ裸でよかったよ、じゃないとすぐには異変に    

 気づかなかったよ。これ、ゾンビなの?」


「大丈夫ですよ、アメリカや韓国ドラマみたいに人を襲って食ったり、仲間を増やすなんてしませんから、映画の見過ぎですよ。まぁ、今のところ、生きているとは言えないですけど」


「生きる屍として復活させたわけか?魂一億の代価が死霊のフジさん?

 お前、許さんぞ!」


今や世界の半分を支配下に置き、望めば、一瞬でこの日本中の人々を幽閉世界(ファントムゾーン)へ移動させることができるソンは、

殺意をマーリンと名乗る魔術師へ向けた。


「ダンナ、お待ちを、まだ途中ですよ途中、ここからが本番、

 ここからが大事なんですから」


マーリンは、途中で人格が変わることがあり、そのたびに口調が変わり、

感情や情緒は、不安定だが、思考と知性は安定している。

 

「ソン、まともに考えてみろよ、この世界のフジさん、御門純花さんの

 魂はすぐに浄化されているに決まっているだろ。魂の浄化という言葉

 は、知っているとは思うけど、浄化されて、綺麗な状態で新しい世界へ

 行く。まぁ、地獄か極楽か魔界か異世界かは別にしてさ、でも浄化と

 いう言葉の真の意味は、この現世で、不浄なものを洗い落として消える

 ということ。この意味分かるか?

 世間でお化けとか霊とか呼ばれているものの大半は、この洗い落として

 残された不浄な残留思念で、恨みとか苦しみとか憎しみの塊なんだよ。

 でも、虚な存在だから、人間程度がお経を唱えるだけで消えてしまう。

 ところが、大きな恨みを抱いて死んだり、大量に、そして、同時に、

 さらには理不尽に、人が死んだ場所は強い不浄の残留思念が塊となり、

 悪霊と呼ばれる強力なものになる。生前、強力な魂の持ち主は、その

 残りカスも強力。お前さんのフジさんの魂は死んですぐに浄化された

 けど、その不浄残留思念をかき集めて、今、この肉体に定着させて

 やったんだろうが、少しはありがたく思えよ!。」


  その可変種があまりにも分かりやすく、落ち込んでこんいると、

マーリンは、軽いキャラにチェンジして、


「さてさて、お立ち会い、お立ち会い ! これにありますは、ドラえもんの

 出す道具にも負けない代物。名前は雲外鏡でございます。この鏡を利用

 して、誰にもできないチートな魔法を使います。

 さてさて、普通、消えた魂はもう消えちゃってるから、

 呼び戻せません。それではクイズです。

 どこになら、あなたの知っているフジさんの清らかな魂はある

 でしょうか?正解者にはハワイ旅行もれなくプレゼント!」


「お前、本気で殺したろうか!」


「焦るなよ、宇宙人、答えは、鏡の国のアリスだよ。ファンタジー小説の

 異世界のことはよく分からん。でもな、俺という存在も、お前たち

 みたいな宇宙生物も多次元宇宙世界、つまり、並行世界には存在する

 のさ。だから、当然、御門純花、つまりお前の藤原和布刈もいるんだ

 よ。どこかの次元にソックリなやつが。その魂をいただくのさ。」


「そんなことが、可能なのか?」


「どんなに強大な存在でも、次元転移は不可能だ。

 なんらかのアクシデントで次元を超えることはあっても、

 小説のように肉体を持った存在は次元を超えられない。

 だがな、水や時など多次元にまたがる存在はそれなりにあるのさ。

 そこでこの雲外鏡の出番さ。

 正確には雲外鏡の抜け殻だが、このマイナーな妖魔は鏡を見る人間に

 最も恐れる幻覚を見せて、その心を凍り付かせる程度の妖だ。

 ハリーポッターの映画に出てくるやつさ。東洋にも西洋にもいる

 妖魔だが、死ねば消滅する。それを消滅前に固定しているのがこの

 雲外鏡だ。この雲外鏡は、驚くべきことに多次元全ての鏡を結ぶ力

 がる。だから、この雲外鏡を通じて、現存する最も純粋なフジさん

 の魂とこちらのフジさんの死魂を交換する。死霊の魂は、向こうへ、

 向こうの魂がこちらへ。どうだ、お前の単細胞な宇宙頭でも分かる

 だろ。ただし、チャンスは一度、この妖魔はすでに死んでいる。

 あと一度使えば、消滅だ。」


 「なぁ、魔術師よ、ひとつだけ聞いていいか?

  魂を奪われた向こうの御門純花さんはどうなるんだ?」


 「ジョーク抜きで、わかんね〜。確かめようがない。

  向こうの体に死霊魂が拒絶されて、消滅するか?

  ここと同じで生きる屍に変貌するか?

  それとも想定外の存在が生まれるか?

  そもそも、誰もやったことがない術式だぜ。ここで中止するか?」


 「リミットは?」


 「二十四時間、すでに一時間経過したから、後、二十三時間、

  中止にしても魂一億は払い戻し出来ねぇぜ。

  だけど、責任を持って、この屍は消しといてやるよ!」


「スマン、独りで考えさせて貰えるか?」


「じゃ、二十二時間後にまたな!」

 

 強い光を放ち、マーリンは消えた。


 ソンは、あの海峡花火大会で出会った頃の服をフジさんの体に纏わせ出会った頃のフランス人少年に姿を変えて、その屍の手をひき、思い出の場所を巡った。手を引けば軽く。でも、自分では歩かない。口もきかない。どこを見ているかわからないその瞳を見るのが辛く苦しくかった。最悪、僕の命をかけてでも生き返らせたいと願ったが、この世界では、死者は

生き返らない。ラノベ世界のようにはいかないんだ。


 あるカップル、一人は宇宙生物、一人は生きる屍ではあるが、和布刈神社から、大きな橋を見上げている時に、微かだが言葉が聞こえた。


 「ゴ、ゴクウちゃん、、お、お願い。」


 気のせいか?全く口は動いていない。それっきり、言葉は聞こえない。


 フジさんの実家である神社へのつながる商店街をゆっくりとした足取り

で歩いた。味覚がなかった僕が初めて食事するスキルを身につけた回転焼きの店、少し勇気が必要だったが初めて食べたお刺身とお寿司。僕は、彼女の声優スキルを通じて多くの能力を開眼させてもらったし、人間らしさのスキルも彼女からの贈り物だった。


 藤御門神社の境内について、お参りしようと本坪鈴を鳴らした瞬間、

言葉というより思念が頭の中に入り込んできた。今度はクリアにハッキリと、


「ゴクウちゃん、お願い、今すぐ、私を消滅させて。

 これは間違っている!」


  これがフジさんの本意だ。そして、そんなこと、こんな大それたことを引き起こす前から分かっていた。でも、やめられなかった。その瞬間、殺意を帯びた矢が飛んできた。


「何だお前たちは、しかも、姉さんに化けてくるとは、いい度胸だ!」


  御門月也さん、僕のフジさんの妹だ。もちろん、初対面だ。フジさんのブレスレットとして、月也さんのことは知っている。純花さんと違って、その戦闘力に特化した霊力もブレスレット越しに分かっていたが、

目の前で対峙すると、こんなにも怖い人だとは、その月也さんが、死んだ純花さんの姿をした屍を実家であるこの神社で、目撃し狂気的な殺意を

向けて攻撃してくる。


「チョット、待って、この人は、、、」と言いかけてやめた。


「この人はリビングデッドだけど、君の最愛の姉さんで、

 本人は死者としてこのまま消滅したいと言っているけど、

 弟子の僕は、異次元の純花さんの魂を抜き取ってでも、

 この屍をあなたの知っている純花さんに戻すから、

 攻撃しないで少し協力してよ。」って、


言えるわけないのだ。


悪者らしく、捨て台詞を残して、古びた時代劇の忍者の真似をして、

この場からフジさんと共に瞬間移動移動し、マーリンとの儀式の場、

城山霊園近くの人が近づけない空き地へ飛んでいた。


  まるで、時代劇の忍者が使う霧隠れの術みたいな煙が消えた後で、

御門月也は、悔しがっていた。懐からスマホを取り出し、電話をした。


 「剣ちゃん、やはり、変な奴が現れた。変すぎて、頭に血が昇って、

  しくじった。次は仕留める。剣ちゃんも応援に来てくれる?

  ええ、ありがとう。詳しくは、来てから話すね。」


   城山霊園を飛び越えて所定の場所に着地したソンは、左側上半身、

 肩から半分が吹っ飛ばされていた。破魔の矢とは違う、何か恐ろしい

 ものが彼の体を貫いていた。少しズレたら、、それにものすごく痛い。

 痛覚遮断が効かない。


  小倉の田舎にある朱鷺御門神社から、従兄弟の御門剣也が藤御門神社

に到着したのは夜九時過ぎだった。剣也は、まず、仏壇に参った。仏壇には10年前に死んだ月也の姉の純花と5年前に死んだ妹の雪風の位牌が置いてあった。


 「それじゃ、純花ちゃんソックリだったわけ。

  その異様な少年と一緒にいた女性は?」


 「確かに、変幻した形跡が感じられなかったけど、

  純姉の死を私は目の前で見ているし、その時、側にいた異様な女の子

  の姿も目撃した。そして、今日、境内にいた外国人の少年は、

  純姉の死に関係ある女の子と雰囲気がすごく似ていた。」


 「純花さんの死、その時に近くにいた女の子、それと、、」


 剣也は、言葉を慎重に選びながら、、、

 「それと、5年前の雪風ちゃんの急死、原因不明だから、

  変死に部類するけど、そして、うちの神社に現れた不吉な予兆、

  そして、今日の出来事、僕は偶然というものはないと思っている

  から、必然的に繋がっていると思う。」


 月也は、

 「剣ちゃん、ところであの破魔の矢は、一体何。我が家に伝わる矢

  とは、全く異質なものを感じるのだけど、、」


 剣也は、困った表情で、

「今は勘弁して、今度、落ち着いたら全部話すから、

 まずは、今後の対策を練ろうか?」


 初恋相手の従兄弟、剣也の指に光るリングが気になりながら、

月也は、今の世界に起きている異常とこの日本の不穏な空気、

そして、自分の身の回りに起きている怪現象をどうにか繋げようと

頭を巡らせたが、こんな時に、賢者の純花姉さんや戦略家だった妹の雪風が生きていれば、とつい考えてしまう。月也の得意は、体力と戦闘力、考えるよりは行動派なのだ。


  その頃、霊園近くの広場では、ソンはもがき苦しんでいた。全く思う

ように身体が再生できない異常な事態に陥っていた。このままでは、初期化するしかない。かろうじて作り出したスライムレベルの分身体を記憶装置にして、スキルを保存。問題は、本体の初期化だ。


これは記憶を失うということを意味している。もう時間がない。ソンは、分身に命令コマンドを与え、初期化再生すると同時に、本体と合流、全てのスキルをロードして、フランス人少年の形態になるようにセッティングした。

 

 「おい、マーーリーーン!!見てんだろう、お前でもこの状況は

  どうしようもないよなぁ、だから、決断を早めた。今すぐ、雲外鏡を

  つかって、御門純花さんの魂交換を始めてくれ。たっ、頼む!!」


  その言葉を最後にソンは液状化とゲル化を繰り返しながらオレンジ色

の光を放ち出した。


 「契約同意確認、それではソン様、もう、お会いすることも

  ないでしょうが、お元気で!」


 マーリンは、雲外鏡の前に、熊でも全身が映りそうな大きな鏡を出現

させて、屍の御門純花を正面に立たせた。ところが何も写っていない。

程なくして、鏡の先に驚きの表情を隠せないほど困惑した、別次元の御門純花の全身が映り込んできた。その瞬間、マーリンが何かを叫ぶと、雲外鏡が怪しく光り出し、それぞれの世界の純花さんに鏡から飛び出した触手が突き刺さった。その触手から、こちら側の御門純花には眩い光が、鏡の先の御門純花には、漆黒の闇が放たれた。それ終わると、雲外鏡はゆっくりと煙となって消失していった。


 マーリンは、目の前でドロドロに溶けた灼熱のガラスのような物体を

見下ろして、


 「ミッションコンプリート。契約完了。

  なぁ、宇宙生物、これからは、お前の責任だ。」

 

と言うと姿を消した。


 それから、一時間ほどして、あるフランス人の少年は肩を揺さぶられる

感覚で目を覚ました。とても、疲れているし、お腹が減っている。

それにとても寒い。


 目を開けると、美しい、とても清らかな笑顔の女性が立っていた。


「ネェ、君、誰?ここはどこかな?私、御門純花と言います。

 そうか、外国人なのね、日本語分かるかしら?」


その少年は、どういうわけか涙が溢れて、


「日本語、わかります。でも、僕は誰なのでしょう?」と小声で囁いた。

 


  

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