第六話 湖岸の洞窟
洞窟内は岸辺の明るい雰囲気とはうって変わって、陰鬱な様相を呈していた。
「で、どこにそのおかしな金属板ってのはあるわけ?」
居丈高な態度で訪ねるブレダに対してリューザは足元の岩盤を見ながら探し出すそぶりを見せる。
「ええっと……」
「ちょっと!場所くらいちゃんと覚えておきなさいって!」
「ごめんごめん」
怒りを露わにするブレダにリューザは慌てて板の場所を探そうとする。
「あっ!あったよ!」
リューザは見つけた前日の金属板を指差す。その金属板は確かによく見れば他の岩と比べると異なる材質のものであるのは見た目からも明らかであったが、洞穴の薄暗さも相俟ってか、ぱっと一度見ただけでは見落としてしまいそうなほどにうまく擬態していた。
「あらこれのこと?金属っぽいけど、アンタよく見つけられたわね。どれだけ暇なのかしら」
「あはは……辛辣だね……」
「で?これをどかせばいいわけ?」
「うん、頼むよ」
「はあ……仕方ないわね」
二人は板を挟んで反対側に立つと板と地面の石の間に指を入れ込む。
「うう、錆びてるところがザラザラしてて気持ち悪い」
「それじゃあいくよ!せーのッ!」
リューザの掛け声とともに二人は一気に上方向へと力をかける。
「って、重っ!!」
想定以上の重さにブレダは喚声を上げる。
「ブレダッ、頑張ってっ!」
なんとか踏ん張って二人は漸く金属板をどかした。
「もう!こんなに力が必要なんて思わなかったわ!? アンタ、よくもこんな面倒なこと押し付けてくれたわね!!ホントあ……」
予想外の重さに怒りを抑えきれないブレダを横目にリューザは今しがた金属板をどけた場所を見た。そこにはなにやら人一人が少し余裕を持てるくらいの大きさの穴があり中にはずっと奥の方へと空洞が広がっていた。どうやら、この下に向かって傾斜気味に洞窟が続いているようだ。
「うーん? なんだろうこの穴」
「ちょっと退いてみなさい」
怒り尽きて落ち着いたブレダがリューザの方へといつの間にか近づいてきていた。そして、言われた通りリューザが洞穴の入り口部分の場所を空けると、ブレダは岩の洞穴の奥に向かって手に持った小石を投げ入れた。石は地面に音を立てて弾かれ、暫くすると水に落ちるような音がした。
「あら?奥は湖と繋がってでもいるのかしら?」
「そっか」
そう言うとリューザはその岩穴に覗き込むような形で頭を突っ込んだ。
「ちょ、ちょっと!?アンタまさかこの中に入る気なの!?」
「うん、せっかくどかしたんだからちょっと中を覗いてみたくて。ブレダも見てみる?」
「絶対嫌よ!服が汚れるし、中になにか変なもんでもいたらどうすんのよ!?」
「大丈夫大丈夫、さっき覗いたときにも特に変わったところはなかったからさ」
リューザは再び穴の中の岩に手をかけると、頭からゆっくりと狭い岩穴へとその小柄な身体で這い入っていく。
「全く……本当にアンタって怖いもの知らずね」
躊躇なく進むリューザを見てブレダは呆れる。
暗闇の中、リューザは這い蹲っていく。そして、一歩手を伸ばしたその時。
「うわ! 冷たい!」
突然、冷たいものに触れリューザは悲鳴を上げる。どうやら、岩穴の奥は水で満たされているようだ。
そして、そのさらに奥、岩と岩の隙間に不自然な蒼い光をリューザは見つける。よく見てみると、それは細長い棒状の物体であり手に治まるほどの大きさをしていた。
「うん……なんだろう、これ?」
リューザはその光を放つ物体に手を伸ばす。
「何かあったの?」
「ちょっと待って……もう少しで取れそうなんだ」
身体を捻ってさらに手を伸ばすと、水中に顔が埋まる。
「えっ、嘘!? なら早くアタシに献上しなさいよぅ!!」
新たな発見への期待にブレダは少し興奮気味になっているようだ。
リューザはもう少しと手と棒との距離を縮めていく……。
ついにその光に手が触れた。その瞬間、息が切れて水が一気に鼻口を伝って気管に侵入してくる。リューザは空気を求めて、急いで身体を引き上げ岩穴を脱出する。思いっきりむせ返ってしまい、何度も咳込んでしまう
「もう、軟弱者の癖に無理するからこうなるのよ!」
「金槌のブレダに言われたくないよ」
リューザの軽口にブレダは憤怒の声色を見せる。
「口答えする気!? リューザの癖に生意気よ!!」
「ごめん」
他愛もない会話の後、二人はリューザの手に握られたものに目をやる。
「で? これがアンタの気になってたものってわけ?」
「そう……だと思うよ……」
金属でできた棒だろうか、ずっと放置されていたせいか錆や腐食で一切の原型をとどめていないようだ。
「何よその棒切れ。ガラクタか何か?錆びついているように見えるんだけど」
「うーん、おかしいなぁ。さっきまで光ってたような気がしてたんだけど」
リューザは不可思議に思って首をかしげる。
一方で、拾ったものがあまりにも下らないと感じたのかブレダは機嫌をすっかり悪くしている。
「あーあ。結局、何も面白いことなんてなかったじゃないの! ちょっとだけ期待したアタシがバカだったわ!! パパの来客の正体を暴く方がまだ有意義な時間を過ごせていたでしょうね。もうアタシ帰るわ。じゃあね、リューザ」
ブレダはそう言い放つと踵を返して、村の方へと一人戻ろうとする。
「ああ、ブレダ! 待ってよ!」
少し傾いた太陽の照らす湖岸、二つの影が静かに村の方へと歩みを進めていた。
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