第17話
まぶたに浮かぶぼんやりとした光と、シャッシャッっという音で意識が戻る。目を開けた海都は、ソファーに座った樹がスケッチブックを傾けているのを認めた。ソファーの上の明かりだけが灯されている。
「樹さん、今何時……って、深夜じゃないですか!」
枕元のデジタル時計の02:15という表示を見て海都は仰け反る。樹はスケッチブックから顔を上げて、
「ごめん、起こした? なんか目覚めちゃって。せっかくだから次の表紙のラフ描いてた」
「秋号はどんな表紙にするんですか」
海都はベッドを下りて、樹の横に体育座りで腰を下ろす。眠ったせいか疲れは感じなかった。覗き込んだスケッチブックには、青い色鉛筆であぶくや飛沫のようなものが描かれている。今までになく柔らかい筆致だった。
「昨日、俺、海入ったじゃん。子どものころ以来でさ。なんか、見てるだけじゃなくて、海の感触とか描きとめておきたくなった。想像してたより優しかったな」
海都にはよくわからない。よくわからないけれど、
「いいと思います。俺――前いた会社で、もうダメかもって思ったとき、樹さんの描いた『BLUE COMPASS』の表紙見て、ちょっと楽になったんです。海の中の街」
体育座りで前を向いたまま話す海都に樹は丸い目を向ける。
「そんなこと思ってくれてたの? もっと早く言ってくれたらモチベーション上がったのに」
「俺が言わなくてもモチベーション高いじゃないですか。今だって」
照れくさくて、膝に顔を埋める。ふいに顔の向きを変えられて、言葉の続きは樹の唇に溶けていった。言葉ではなく舌で想いを伝え合う。繋いだ手は熱く、互いの境目がわからなくなる。
どちらともなくベッドに移動し、互いのバスローブを解いた。海都を横たえた樹は海都の首筋に唇を落とす。
くすぐったい感触に身を捩ると樹が笑う。
「海都、慣れてないでしょ」
「そんなに回数、こなしてないですもん……」
体を重ねても、長続きはしなかったから。でも、これからは。両腕を樹の背中に回す。樹の背中はやっぱり小さかったけれど、思ったより逞しかった。
互いの昂ぶりが擦れる刺激に海都は小さく呻く。薄く目を開けると、樹も眉根を寄せて快感に耐えているようだった。押し寄せては引いていく波。樹の言葉が上から降ってくる。
「海都はどうしたい?」
「樹さんに挿れたい……です」
樹は頷いて、枕もとに置かれていた避妊具に手を伸ばし包みを破ると、海都の昂ぶりに被せた。指を唾液で濡らしてしばらく入口を解し、頃合いを見て海都へ腰を落としていく。
「ん……っ」
「く……っ」
同時に声が漏れる。樹はゆっくりと前後に、海都は緩く突き上げるように腰を動かす。少しずつ潮が満ちていく。限界まで昇り詰めると、海都は勢いよく精を放ち、樹も海都の腹を潤した。
頽れる樹を下から受け止め、頭に軽く口づける。心地よいだるさが体を巡る。
他人のそばで深い眠りに落ちたのは初めてだった。たぶん、樹も。
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