第13話
口を塞がれる感覚。お前なんか、いらない。誰も助けてくれない。どこへ行っても、ずっと一人。
「海都!」
誰かの腕が背中に回って、次の瞬間、喉に空気が流れ込んでくる。突然の酸素の供給に体がびっくりしたのか、海都は激しく咳いた。目は痛み、鼻は沁みて、耳はぼわぼわする。
気がつくと、樹とインストラクターに支えられ、腰まで水に浸かっていた。
「大丈夫?」
インストラクターの声に頷いて、はっとする。
「樹さん、海水――」
樹はデニムのまま海に入ってきたようだ。海都の腕に回された白い腕はみるみる赤らんでいく。
「海都。いいから、自分のことだけ考えろ」
樹の言葉に、自分だけで立ち上がった。思った以上に浅い。海は果てなく大きいけれど、ここではちゃんと足がつく。
「あー、面白いの撮れてよかった。もっとこう、アクロバティックな感じにひっくり返ってくれてもよかったのに」
樹はいつもの調子に戻っていた。でも、慌ててここまで来たのなら。
「カメラ――」
「ほら」
樹はまっすぐ浜辺を指さす。三脚の上にカメラが乗っていた。
「ちゃんと連写タイマー、セットしてきたから心配ないよ」
「サイコパスかあんたは」
「いやー、優先度は取材のほうが上だから」
樹は何でもない顔で笑うが、その腕はさっきよりも腫れてきたように海都には見えた。海都は、樹の細い手首を引いて、海から浜辺に歩いた。触れた肌から熱が伝わってくる。
「ありがと。休憩にしよっか。シャワー浴びてくる。念のため薬も持ってきたから平気」
「倒れられても困るし、外で待ってますよ。そのくらいなら俺にもできます」
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