1章25 『生命の伽藍堂』


 突然戦場に介入してきた男が口を開く。



「まったく。久々に現場に出て来てみれば、これはなんですか? ボラフさん」


「あっ……、あっ…………!」



 名指しされたボラフは意味のある言葉を返せない。


 目を見開き唖然と見上げるばかりだ。



「大体、ゴミクズーはどうしたんですか? アナタが直接魔法少女と戦闘を行うことは許可されてはいないはずです」


「う……ぁ、ち、ちがう……」


「違う? 許可を得ているということですか? 私はそんな報告は受け取っていませんよ?」



 見上げる先の男の顏が光り輝いて見える。


 それは自分を助けてくれた者のことを救世主だと思い込み、まるで後光が差したかのように錯覚をしてしまっているわけではない。



 少々血色は悪いが美しい女性のような造型の顔がさらに強い光で照らされていく。



「ちがう……っ! そうじゃねえ! 上っ! うえ……っ!」


「上?」



 ボラフの必死の訴えに怪訝そうに眉を動かしながら男は頭上を見上げる。そして、これまで優男風に爽やかな微笑みを浮かべていた顏が真顔になった。



「やれ」


「やる……」



 頭上を覆うほどの数の魔法球の群体が再び降り注いだ。



「うっ、うわあぁぁぁっ⁉」


「はぁ……、やれやれ、ですね」



 反射的に頭を抱えて蹲るボラフを尻目に、男は迫りくる魔法の数々へ向けて片手を翳した。



 その手の指先から発生するように透明な薄い壁のようなものが拡がり、男とボラフをドーム状に覆う。



 それが完成するとほぼ同時に魔法が次々に着弾した。



 シールドに衝突し派手に音を鳴らすが、男の構えるそれを越えることはなく悉く防がれていく。



「…………」



 弥堂はその様子を観察する。



(あの男……)



 新たに現れた銀髪の男。タキシードを着込み派手な装飾品まで付けている。


 その顔は人間の若い男性体のものとして何もおかしな点はない。


 強いて挙げるのならば少々顔色が悪いところだが、その血の気の無さと、美しい女性と見紛うほどに整い過ぎた顔の造形がどこか浮世離れしているように感じられ、それらが強い違和感に繋がるのだろう。



 そういったことを含めた視覚情報と今見せた彼の力から――



(人間じゃない)



――弥堂にははっきりとそう視えた。



「気は済みましたか? まったく、野蛮ですねぇ」



 全ての魔法を防ぎ切った後で、その男にはダメージを負った様子がないのは当然だが、僅かな消耗を強いることすらも叶わなかったようだ。



「魔法少女として仕事熱心なのことは大変素晴らしいですが、生憎アナタの相手をしてあげることは出来ないのですよ。残念ながら私は管轄ではない――」


「――な、なんで……?」


「はい?」



 ボラフが漏らした呟きに反応して男はニッコリとした笑みを浮かべ顔を向ける。



「な、なんでアンタがここに……? ベイオ・フィ――」



 言葉の途中で男はボラフにジロリとした目を遣る。その視線の圧力のみで咎めた。



「す、すまねえ、アス……様……っ」


「よろしい」



 怯えた様子で訂正をしたボラフに、アスと呼ばれた男は満足げに笑みを深めた。



「何故私がここにいるか、ですか? 先程も言ったとおりです。少々手が空いたので現場の視察に来たのですよ」


「……別に、オレはサボってなんかねぇぜ」


「視察です。監査に来たのではありませんよ? それとも、何か後ろめたいことでも?」


「ねぇっ! ねぇよ……っ! オレはちゃんとやってるぜ……!」


「ちゃんと、ねぇ……」



 アスは笑みを浮かべたままで目を僅かに細めた。



「『ちゃんと』では困るのですよ。何故だかわかりますか?」


「……わからねえよ。ちゃんとやってるのに悪いってのか……?」


「悪いですよ。何故なら、ちゃんとやった上で成果が上がらないのでは与えた仕事にアナタの能力が見合っていないということになります」



 まるで人間社会によくありそうな上司と部下のやりとりを始めた二人の会話を耳に入れながら、弥堂は周囲に眼を走らせる。


 逃走を考えてみたが、しかし無駄だと瞬時に判断を下した。


 不意打ちも恐らくは意味を為さないだろう。



 つまり、現状としては八方塞がりであると認識をしているということだ。



 ボラフのあの怯え様、そしてそのボラフとゴミクズーを簡単に追い込めるだけの力を持った水無瀬の魔法への先程の対応。


 ここまでに得られた新たな敵の情報を精査すると、ヤツはボラフよりも圧倒的に格上の存在であると判断出来る。



 一見するとただの優男のようにしか見えないアスと呼ばれたあの男だが、『雰囲気』がある。


 ポンコツコンビやボラフの様に、放っておいても勝手に冗談じみた失態を犯して自爆してくれるなどということは期待するべきではないだろう。



 かと言って、何もかもを諦めて言われるがままに相手に従ったり、無抵抗で殺されてやるつもりも弥堂にはない。



 会話を聞く限り、どうも奴らには直接魔法少女と戦う心づもりはないようだ。


 それが何故なのか、だとしたら何故ゴミクズーには戦わせるのか――そういった疑問は浮かび上がるが、それは今は置いておく。



 戦うにせよ、逃げるにせよ。


 最終的にはどちらを選んでも一か八かになる可能性が高い。



 それならばまずは相手の出方を窺うべきだという判断だ。


 もしかしたらやり過ごすことが出来るかもしれない。


 それを確認してから行動を決めることにした。



 死ぬのはそれからでも遅くはない。



 弥堂がそう考えている間にも、闇の組織に所属する上司から部下への小言は続いている。



「いいですか、ボラフさん。配置した駒が効果的でないということは配置した者――この場合は私ですね――その者の責任になります。一般常識ですが、わかりますか?」


「……あぁ」


「もしもそうであるのならば私は新しい人材を選別して再配置を検討しなければなりません。しかし、それは難しくはありませんがなるべくしたくない。アナタの御父上の手前、ね……」


「……チッ」


「ですからアナタにはしっかりとした成果をあげてもらいたい。誰もが文句なく不満なく納得が出来るように……、わかりますよね?」


「……わかってる」


「では、これらを踏まえてもらった上で訊きましょう。ボラフさん。最近仕事の調子はどうですか? 何か成果はありましたか?」


「…………」



 ボラフは答えずに目を伏せた。



 顔を俯ける際に何故か一瞬だけ目玉だけを動かしてこちらを見てくる。しかしその目線はすぐに外された。



「…………何も、ねぇよ」


「そうですか。困ったものです」



 目を合わさずに答えるボラフにアスは溜息を漏らす。



「まぁ、仕方ありません。この件については対応を考えておきましょう」


「そうかよ」


「では、次の質問です」


「ア?」



 ボラフは三日月型の目を怪訝そうに歪める。



「次ってなんだよ? てっきり話はこれで終わりだとばかり思ってたんだが」


「そんなわけがないでしょう。こちらも大事な案件です」


「一体なんだってんだ」


「先程も訊いたことです。この現状を説明して下さい」


「……どういうことだ?」


「ゴミクズーはどうしました?」


「どうしたって……」



 反射的にボラフはギロチン=リリィが植わっていた場所へ顔を向ける。



 弥堂もそちらを視てみると、水無瀬の魔法で地面から出ている部分の殆どを消滅させられ、僅かにアスファルトから突き出た花茎の根元が残っていたはずだったが、そこにはもう跡形もなかった。


 地に空いた穴を睨む。



「……なるほど、もう既に倒された後だったのですね」


「え? あぁ……、まぁ、そうだな……」



 ボラフとしても弥堂同様に、この時に初めて自身の手下が消滅していたことに気付いたのだろう。アスへと煮え切らない様子で肯定した。



「それで? アナタはなにをしているのです?」


「なにって……、アンタらに言われた通りに働いてただけだが……」


「それは変な話ですね。私どもの指示と違うように思えます。アナタに渡したマニュアルに記載はありませんでしたか?」


「…………」


「特定の条件を満たさない限り、またその上で特別に許可が下りない限り幹部候補生が魔法少女と直接戦闘してはいけない、と」



(幹部、候補生……?)



 その言葉を聞き咎めた弥堂が眉を跳ねさせるが、ボラフが慌てた様に弁明を始め会話は進んでいく。



「それは……、待ってくれ! オレは別に魔法少女と戦ってたわけじゃあ……」


「では、アナタのその姿はなんです? いくらアナタが弱いといっても魔法でも使わない限りそんな風に傷はつかないでしょう?」


「……弱い、だと……っ⁉」


「事実でしょう? 綻んでいますよね? それ。私を誤魔化せるとでも?」


「グッ……! そう、は、思ってねぇ、よ……」


「では、それは、誰に、やられたんですか? まさかあそこのゴミにやられたとでも言うんですか?」



 そう言ってアスが視線を向けたのは弥堂――ではなく、メロだ。



 暫く前から随分と静かなままだったメロの方を弥堂も横目で見遣ると、彼女は身を縮こまらせて顔を伏せたまま震えていた。



(畜生なりに力関係は察知出来るのか……?)



 弥堂が知覚している範囲では、あのアスという男が現れてから、メロはただの一度もアスの方を直視していなかった。


 今も柔らかい微笑みを浮かべながらも冷酷さを目の奥に潜ませてメロへ視線を向ける彼の方を、メロは決して顔を上げて見ようとはしない。



「――ちがうっ! これはメロゥにやられたわけじゃあねえ!」


「では?」


「それは……、そうだ。アンタの言うとおりだ。これはフィオーレの魔法をくらって負った傷だ……」



 弥堂は目を細めてボラフを視る。


 彼の物言いに違和感を覚えたからだ。



 さっきからどうも腑に落ちない。



 弥堂もこの現場の当事者であるので、ここで何が起きたかについては理解している。



 ここまでの彼らのやりとりから、上下関係はあれど良好な間柄の上司と部下ではないということは見てとれる。


 かといって、ボラフは別にアスに対して嘘は吐いていない。


 本当のことを報告している。


 しかし、それは直接的な言葉ではない。


 あの言い様はまるで――



「――では、やはり魔法少女と戦闘を行ったということで間違いないですね? 何故です?」


「何故って……別に戦おうと思って戦ったわけじゃあ……」


「どういう状況だったのです? ゴミクズー討伐後に速やかに離脱すればいいでしょう?」


「それは、そうだが……ちっと突っかかれちまってよ……」


「逃げればいいでしょう? 得意でしょう? 逃げることは。それともそうは出来ない理由が何かあったのですか?」


「そ、それは……」



 適格に退路を一つずつ断って追い込んでくるアスの質疑に対してボラフは言葉に詰まり、思わずといった風に弥堂たちの方へ目線を泳がせる。



「やれやれ……、簡単な質問に答えるのにもこんなに時間がかかるだなんて人材不足が悩ましいですね。一体彼女らがなんだと言うので…………」



 部下の逃げた視線を追従し、ここにきてようやく弥堂たちの方をまともに見たアスは言葉の途中で止まる。


 微笑みは浮かべたまま、しかしその笑みは薄まる。


 無言で上着に手を挿し入れ内ポケットから取り出したのは片眼鏡モノクルだ。



「お、おいっ……! アイツらはべつに――」


「――黙れ」



 口調から丁寧さを捨て去りボラフを無視して片眼鏡を左の眼窩に嵌め込み水無瀬を見た。



「ま、まってくれ! アス様っ! アイツはまだ――」


「――アハ」



 アスに食い下がろうと立ち上がろうとしたボラフだったが、漏れ聴こえた声に動きを止める。



「――フフフ……、ハハハハハ……っ、アハハハハハハハハハハっ……!」



 これまで冷静で物腰柔らかく理知的に振舞っていた男が突然大声で嗤いだす。



 チッとボラフが舌を打った音が聴こえた。



 弥堂は黙って心臓に火を入れた。



 生命の器からは燃料が消費されその中身は空っぽになっていく。



 その時は早いか遅いかでしかない。



 その時には必ずただの伽藍洞となる。



 それが全ての生命の無意味さだ。





 狂笑。



 手で目元を覆いながらアスは高笑いをあげる。



 何がそんなに可笑しいのかはわからないが、彼の足元に座っていたボラフが腰を浮かせ、気まずげにしながらも緊張を高めている様子から流れが変わったのだと、それが弥堂にも否応なく伝わってきた。



「お、おい、アス……様、これは――」


「――ボラフさぁ~ん」


「――っ⁉」



 堪らずボラフが声をかけると、ピタっと嗤い声をあげるのを止めたアスが顔を向けた。


 その狂気染みた嗤い顏にボラフが言葉を飲み込むと同時、アスは足元で膝立ちになっているボラフの腹部を爪先で蹴り上げた。



 鈍い音を発する暴力的な行為とは裏腹にふわっと柔らかくボラフが浮き上がると、アスは自身の目線まで上がってきた彼の首を片手で掴んで握る。



「グァッ……ガッ……ッ⁉」



 ボラフは反射的に自身の首に食い込むアスの指を両手で外しにかかるが、余程に力の差があるのかビクとも動かせない。



 吊し上げられるボラフを視ながら弥堂はさりげなく水無瀬の背に手を回し指先で心臓の裏に触れる。


 彼女の心臓の鼓動を感じとりながら、そのリズムに合わせてトットットッ――と指で彼女の背を叩く。



 彼らの関心外でそうしている内に、アスはグイと乱暴にボラフの顏を引き寄せ至近で目を合わせた。



「どういうことです? ボラフさん。聞いてませんよ」


「な……っ、にっ、がっ……!」


「開いてるじゃないですか。種が」


「グッ……!」


「何が成果がないですって? 何故報告しないんです?」


「カッ……、カハッ……!」



 ギリギリと強く首を絞めつけられるボラフは言葉を発せない。



 アスは紅く妖しく光る瞳孔の収縮した瞳で数秒ボラフの目を覗き込むと手を離し、足元に崩れ落ちる彼の頭を踏みつけた。


 薄い笑みを浮かべる。



「……まさかこの私を出し抜けるとでも?」


「ちっ、ちがう……っ! そうじゃない……! そんな、グッ……、つもりは、ねえっ……!」


「いつからです? いつから、こうなんです? 隠し通せるとでも思ったんですか?」


「ち、ちがうっ! 少なくとも昨日は、ちがった……!」


「へぇ……?」



 自身の靴底と地面とに挟まれて苦悶する部下をアスはジッと見下ろした。口の端を僅かに持ち上げ浮かべている笑みを冷えたものに変える。


 ボラフは全身から冷や汗が噴き出たように錯覚した。



「……まぁ、いいでしょう」



 ややあって、アスは足を離す。



 顏に貼り付けた表情を元の柔らかい微笑みに戻して、足元で息を荒げる部下に声をかける。



「今日開いた、ということでいいんですね? 勿論、アナタの言い分を信じるのならば――ですが」


「あ、あぁ……っ! 嘘は、ついてねえ……っ」


「そうですか? 先程成果はないと仰いましたよね? まさか彼女のことに気付いていなかったとでも?」


「うぐっ……、そ、れは……っ!」


「フフッ、まぁいいでしょう。これ以上は虐めないであげましょう」


「…………」


「よかったじゃないですか。成果。あげることが出来て」


「……あぁ」


「心配していたのですよ。失敗してばかりでしたので。まるでわざとやってるかのように……、そういえばあまり嬉しそうじゃありませんね?」


「そんなこと、ねえよ……」


「フフッ、そうですか。そういうことにしておきましょう。何にせよこれで問題は解決しましたね。私は配置替えを検討しなくて済みますし、プロジェクトは一歩前進した。これは評価に値します。アナタも昇格できるかもしれないですね」


「そりゃどうも……」


「では、もう少し彼女の状態を確かめてから帰るとしましょうか。アナタは先に帰ってもらって構いませんよ」


「……チッ」



 もう興味はなくしたとばかりにボラフから目線を切り、水無瀬の方へ歩き出そうとアスが体の向きを変えた瞬間――



「――ありったけ撃ち込め」


「ふるばーすと……」



 上空に魔法の光弾の群れが展開し即座に降り注ぐ。



「懲りないですね。意外と頭はよくないのでしょうか」



 先程と同じようにアスは頭上へ手を翳しシールドを展開させる。



 光球が次々とシールドに当たっては消えていくのを視野に捉えながら、弥堂は次の指示を出す。



「最大火力だ」


「さいだい……」



 光弾の雨で縛り付けている隙に水無瀬の持つ魔法のステッキに力が集束しピンク色の魔力光が膨らむ。


 その間に光弾の雨は止んだ。


 光線を放つに足るエネルギーが充填されるまで足止めは保たなかったようだ。



「ほう……」



 しかし、光弾を防ぎ切ったアスは瞳に興味深げな色を浮かべて水無瀬の方へ手を翳してシールドを維持したまま、特にそれ以上は動こうとはしなかった。


 ようやく魔法の準備が整う。



「やれ」


「ふろーらるばすたー」



 ギロチン=リリィを仕留めたものと同じ、人気アニメである『魔法少女プリティメロディ☆フローラルスパーク』のヒロインこと『フローラルメロディ』の必殺技『フローラル・バスター』を模倣した魔法が放たれる。



 直径1.5mほどの光の奔流が襲いかかりアスの展開する銀光が輝く透明な防御壁に直撃する。



 その二つの魔法の力は拮抗した。



「へぇ……」



 前方のアスは楽し気な声を漏らし、



「ダ、ダメだ……、ダメッスよマナぁ……っ」



 後方で蹲るメロからは悲観色の声が零れた。



 それらを聴きながら弥堂は右手は水無瀬の背中に触れさせたまま左手で胸元の逆十字に吊るされたティアドロップに触れる。


 そうして状況の行く末を見据えようとして、ふと思いつき水無瀬に話しかける。



「おい」


「おい……」


「がんばれ」


「がんばる……」



 適当な励ましをかけてみると――



「む……っ? これは……」



 俄かに水無瀬の放つ魔法の力が増し、アスの眉がピクッと跳ねる。



「…………」



 弥堂はその様子を無感情に視詰め、不意にペシッと水無瀬の頭を叩いてみた。すると、魔法少女ステッキから放出されている魔法が直径2倍のごんぶとビームになった。



「――なんですって」



 シールドを掲げる手にかかる負荷が爆発的に跳ね上がりアスは目を見開く。


 片手で難なく支えていたシールドに、思わずもう片方の手を伸ばして両手で支える。



「今だ」


「すぱーくえんど……」



 防御障壁ごとアスやボラフを飲み込む勢いだった魔法光線が大爆発を起こす。



 爆風が四方八方を吹き荒らした。



 粉塵が頬を刺すが結果を観測する為、決して眼は閉じない。



 ほどなくして視界が晴れる。



(そうだろうな)



 最初の奇襲の時と同様、健在なままでそこに立っていた。



 だが、先程と違う結果になった点が一つ。



 アスが展開したシールドに細かい罅が無数に入っていた。


 その罅からガラスが砕けるように透明な防御障壁がパリパリと音を立てて壊れていく。



「へぇ……」



 自身の防御が壊されたことに、アスは慌てるでも憤るでもなく、短く感心したような声を漏らした。



「しょ、少年……っ! ど、どうしよう……っ! どうしたらいいッスか⁉」



 怯え切った様子のメロの縋るような声が背後からかかる。



「大丈夫だ。何もしなくていい」



 振り返りもせず、弥堂は平坦な声で短く返した。



(出来ることなど何もない)



 それ程に力の差は圧倒的で絶望的だ。



 だから、何をしてもしなくても、結果は同じことだ。





 砂煙が漂い、防御壁を破壊されたことで纏わりついてくる塵に些か不愉快気に眉を歪めて、アスは汚れてもいないタキシードの前裾をパンパンと手で二度払う。



 数m級のゴミクズーを一撃で消し飛ばすほどの魔法攻撃を受けてもアスにとってはその程度のことでしかない。



 弥堂はアスのその仕草を無感情に視ながら、この場での打倒は不可能であると断じた。



「フフフ、なかなかではないですか」



 柔らかく涼しげな目で水無瀬を見る。



「ですが……、少しだけ妙ですね。想定よりも力が大きいように思えます」



 誰に向けてというわけでもなく自身の気付きを口に出しながら首を少し傾けた瞬間――その姿が消える。



「――この段階ではここまで育たないはずなんですがね」


「――っ⁉」



 すぐ近くで声が聴こえたことで気が付く。


 消えたと思ったアスは水無瀬の目の前に立っていた。


 彼の声が聴こえるまで、弥堂にはそこに来ていることにすら気付くことが出来なかった。



 先程戦った悪の幹部ボラフよりも、先日戦った希咲 七海よりも速い。



 水無瀬の攻撃を防ぐのに使用していた防御障壁――恐らくあれも魔法のようなものだと弥堂は考えていたが、このアスという男は、どうやらああいった力だけではなく身体スペックに於いても圧倒的に優れているようだ。



「キミは魔力量が多い個体なのかな? ちょっと見せてごらん……」



 近所の子供に優しく接する好青年のような口調で話しかけながら水無瀬の頬に手を触れ顔を少し上に向かせる。



「や、やめろっ! マナに――ヒッ⁉」



 その行動を咎めようとしたメロだったが、アスに一瞥されると顔を伏せて震えた。



 アスはつまらなそうに鼻を鳴らすと顔を戻し、左目に嵌めた片眼鏡ごしに水無瀬の瞳を覗く。そしてすぐに怪訝そうに眉間を寄せた。



「……変ですね。自我が薄い……? この段階でこれなら期待外れになってしまいますが……ボラフさん?」


「……なんだよ」


「彼女はいつも『こう』なんですか? それとも種が開いてから『こう』なったんですか?」


「いや……それは――」



 問われたボラフは逡巡するように目玉を左右に振ってから弥堂の方へ目線を向ける。



 しかし、向けた先には誰もいなかった。



 ダンッと――強く地面を叩く音が鳴る。



 敵の意識の移り変わる瞬間を狙ってアスに肉薄した弥堂は、彼の腎臓の位置に拳を合わせて零衝を打ち込む。



「――っ!」



 しかし、思ったような手応えはない。


 拳より放った威はどこにも徹らなかった。



 敵との接点に眼を向けてみると、弥堂の拳とアスの身体との間にちょうど拳大の透明な障壁が出現していた。



「うん? ニンゲン……? ニンゲンが何故ここに?」



 ジロリと横目で見遣りながら、まるで今初めて弥堂の存在に気が付いたかのようにアスはそう言った。



「別に直接触れられても問題はないのですが……汚いですからね」



 言葉通り、それまで浮かべていた微笑を不快気に歪めて、羽虫を払うように腕を振るう。



「――っ!」



 弥堂は咄嗟に何か言葉を口にしようとして、止める。


 代わりに歯を食いしばった。



 手の甲が横っ面を打つ。



 ヒットの瞬間に首を捻り、相手の力に逆らわず地を蹴り自分から飛ぶことで威を殺す。


 身体を捻じり宙で回りながらダメージを最小限に近付けつつ姿勢を制御する。


 そうして両足で着地をするが、直立した瞬間に膝が落ちる。


 口の端から血液が漏れた。



 アスは弥堂には興味も向けずボラフの方を見た。



「ボラフさん。何故ニンゲンが結界内にいるんです? 巻き込むなと命令されているはずですが?」


「ち、ちがうっ! オレが引き込んだんじゃあねえ! 勝手に這入りこんできたんだ!」


「そんなわけがないでしょう。ただのニンゲンにそんなことが出来るわけ――まさか……アナタ……」



 ボラフの反論を潰しながら何かの可能性に思い当たったのか、目を細めて弥堂の方へ顏を向ける


 下らないモノは見たくないとばかりに片眼鏡を外し、ただ刺すような冷たい視線で弥堂を探る。


 弥堂は答えの代わりにベッと口の中に溜まった血を唾と一緒に吐き捨て、グイと手の甲で雑に口端を拭った



「……違いますね。一般的で平均的なニンゲンの魔力、生き物が生きる為に必要な最低限の魔力、それしかない……いえ、それよりは少し多いくらいでしょうか。しかし誤差範囲です。ただの虫ケラですね」


「…………」


「こんな虫が何故……? ボラフさん。こういうことは以前にも?」


「…………いや、今回が初めてだ。」



 ピクッと弥堂の眉が跳ねる。


 反射的に視線が動きそうになるのを努めて自制した。



「どういうことだかはオレにもわかんねえけどよ、事故じゃねえのか? 結界張った時に偶々迷い込んだとか。絶対にありえないってわけじゃあねえだろ?」


「そうですね。ありえないという程ではないかもしれませんね」


「じゃあ――」


「――ですが。ニンゲンが密集したショッピングモールで偶々一人だけ結界に迷い込み、いつもは『こう』ではない魔法少女の様子がおかしくなっている。おまけにその日に種が開いた。これらが同時に起こるだなんてことは、ありえないことに分類してもいいのでは? それとも。これらは全て偶々だと?」


「そっ、れ、は……」


「ほら。もっと知恵を絞って上手に誤魔化してごらんなさい。まったく……、私がこういう性質だから楽しんであげていますが、これがアナタの御父上が相手だったら殺されてますよ? アナタ」


「グッ……、ウゥッ……!」


「では、もう一つ訊いてみましょうか。彼女がこうなっていることと、あのニンゲンには、何か関係がありますか?」


「そっ……、いやっ、知らねえ……っ! オレはわからねえ……!」


「フフフ……、そんなわけがないでしょう――と、問い詰めてもいいのですが。そうですね。あちらに訊いてみましょうか」



 楽し気に笑みを漏らしながら振り向くとすぐに、眼前に鋭利な突起物が飛び込んでくる。



 地面に落ちていた車のシャフトが圧し折れて焼け焦げた棒を拾い上げ、それを槍のようにして弥堂はアスに突き出した。



 一瞬にしてアスの浮かべる笑みが凄惨なものに変わる。


 それを無視して、掌の皮膚が爛れるのも無視して、弥堂はアスの眼球を狙う。



 しかし、それは横から伸びてきた黒い手によって槍を掴まれ阻止された。



 ピクリとアスの眉が動く。



「テメェ……、なにしてんだ……っ!」



 割り込んできたのはボラフだった。



 アスや弥堂が何かを喋るよりも速く、ボラフは左手を振り上げながら鎌に変形させ、一息に振り下ろす。



 キンと、金属が打ち合う音を鳴らして弥堂の持つ鉄のシャフトが半ばから斬り落とされた。


 自身の右手で掴んだ斬りとった片割れの棒を地面に放り捨てボラフは拳を握る。


 そしてその黒い拳を弥堂の顔面に叩き込んだ。



「ぐ……っ!」



 数歩たたらを踏み、顔を上げようとした瞬間、追撃の前蹴りを腹に入れられる。


 弥堂は吹き飛ばされた。



 ボラフは飛ぶように地面を蹴り、それを追う。



 吹き飛ばされる最中でもパニックは起こさず、ゴロゴロと地面を転がりながら弥堂はすぐに体勢を整えようとするが、それよりも速く至近で着地したボラフがさらに腹を蹴り上げてくる。



「ォラァッ! ニンゲンごときがっ! アス様になにしようとしてくれてんだ! ゥオラァッ!」


「が――っ⁉ カハッ……っ!」



 息が詰まり咳きこみながら胃液を吐く弥堂の前髪をボラフは乱暴に掴んで顔を上げさせる。至近に顔を寄せると弥堂にしか聴こえないほどの小声で囁いた。



「やめとけ……、あいつにはケンカ売るな。シャレじゃすまねえからよ。悪いようにはしねえからもう大人しくしてろ……」



 怪訝そうに弥堂が眉を寄せる。



 ボラフは焦ったように目玉を横に動かして背後のアスを窺うと、弥堂が何かを言い返してくる前に掴んだ頭を地面に叩きつける。


 そして立ちあがり罵声を浴びせながらストンピングを繰り出す。



 その様子をアスは白けたような冷たい目で見て、やがて溜め息を吐いて制止の声をかけた。



「……そのくらいにしときなさい、ボラフさん。死んでしまいますよ」


「…………あぁ」


「興醒めですね。30点です。しかし、私のやる気を削ぐことが目的なら100点を付けるべきなのかもしれません」


「……なんのことか、わかんねえな」


「フフ、まぁいいです。では、訊くことは訊いておきましょうか」


「…………」



 幾分、雰囲気を和らげたアスが歩いて近寄ってくる。


 ゆっくりと歩いて来て弥堂の顏の前で靴を止めた。



「ニンゲン。アナタはなんですか?」


「……今自分でニンゲンと呼んだだろう。見てわからないのかグズめ」


「フフフ、元気がいいですね。ボラフさんに随分と痛めつけられていたはずなのに。おかしいですね。フフッ」


「……チッ」



 ばつが悪そうにボラフが舌を打つ。



「では質問を変えましょうか。アナタ、彼女に何かしましたか?」



問いには答えず、弥堂は血の混じった唾を眼前の靴に吐きかけた。





 革靴の爪先で額を打たれる。



 瞬間的に視界がホワイトアウトし、チカチカと火花が散る。



 正常に回帰する前に顔に靴底を置かれ、踵で頬を踏み躙られる。



 弥堂は目玉だけを動かして、相手の顔が在るであろう場所を睨みつけた。



「弁えなさい。どうしてアナタたちニンゲンはこうも下品なのですか」


「……そういうお前はどうなんだ。人間そっくりだぞ」


「フフフ……、生意気にも情報を探ろうと駆け引きをしているつもりですか? カワイイところもあるじゃないですか」


「駆け引きが気に障るなら取引ならどうだ?」


「……取引?」



 スッと、アスの目が細められる。


 周囲の温度が数℃下がったような錯覚が他の者に強いられた。



「オ、オイッ――」


「――ボラフさん。黙りなさい」



 慌てて弥堂を窘めようとしたボラフを下がらせて、アスは涼やかな笑みを浮かべる。


 なまじ整い過ぎている面差しのため、より残酷性が増したように映る。



「取引とは随分大きく出ましたね。まさか対等なつもりですか?」


「お前は知りたいことがある。俺にもお前に訊きたいことがある。その点に於いては対等だろう」


「ニンゲン風情が。ですが、フフフ……、いいでしょう。興味を持って差し上げます。何故だかわかりますか?」


「さぁな」


「それはですね――」


「――グッ」



 言葉を溜めて弥堂の顏に置いた足に体重をかける。


 靴底の下から向けられる弥堂の目に視線を合わせて見下ろすアスの目が紅く光る。



「痛めつけられても屈辱を受けても、怒りも恐怖も感じていない。もちろん喜びもなく、破滅やスリルを楽しんでいるわけでもない」


「…………」


「アナタ、なんなんです? 生物として、存在として大したモノではないのは確かです。ですが、その精神性の異常さには興味が持てます」


「……それがお前の知りたいことでいいのか?」


「いえ。探究し答えを見出すことこそが私の本分であり悦びです。それよりも、アナタが言った『私の知りたいこと』、何を取り引き材料に出してくるのかを聞いた方が楽しめそうです」


「そうか」


「フフフ。壊れているのか、狂っているのか……、それともこの状況をひっくり返すだけの知や策を隠しているのか。いずれにせよ、私を楽しませてごらんなさい。そうすれば気紛れに手心を加えてあげることもあるかもしれませんよ? ただし――」


「――グゥッ……!」


「ただし、つまらない話をしてみなさい。その時は――殺しますよ?」



 最後に一際強く踏みしめてからアスは足を離す。その際に爪先を弥堂の服に擦り付けて先程吐きかけられた唾を拭った。



「さぁ、立ちなさい。お話を伺おうじゃありませんか」


「……生憎と痛めつけられ過ぎて立てないんだ。このままで失礼する」



 弥堂の断りには答えを口にせず、アスはただ笑みを深めた。細まった瞼の中の目は笑っていない。



「言ってみなさい。アナタごときで測った『私の知りたいこと』を。眼鏡にかなえばアナタの質問も聞いてあげましょう」



 妖しく見下ろす紅い瞳を弥堂は無感情に見返す。



「質問をするのは俺が先だ。それに答えればお前の知りたいことを教えてやる」


「は?」



 想定外のことを言われたとばかりにアスの目が丸くなる。



「これは……狂っているのですかね? ご自分の立場がわかっていないのですか?」


「わかっていないのはお前の方だ」


「オ、オイ……ッ! やめとけっ!」



 脇から声を荒げるボラフをアスは手で制した。



「……それはどういう意味でしょう?」


「俺はお前の欲する答えを確実に持っている。一方でお前は俺が満足するような情報を持っている保証はない」


「あまり調子にのっているようだともう殺しますよ」


「それだ」


「なに?」


「お前は俺をいつでも殺せる。お前がその気になればそれを防ぐ手立ては俺にはない」


「それがわかっていて何故こんな態度を……」


「俺が先に質問をして、お前がそれを気に入らなければそこで俺は殺されて終わりだ。俺の質問が出来ない。一方で俺にはお前を殺す手段がない。俺の質問に対するお前の答えを俺が気に入らなくても、お前は確実にその後で自分の質問をすることが出来る。これは対等ではない」


「なにを――」


「――それに。先にお前が答えたとしても、その後で俺からの答えが気に入らなければ俺を殺してしまえばいいだろう。そうすれば情報を先に渡すリスクはないはずだ。違うか?」


「……フフフ、ククッ…………、なるほど。確かにそれは一理ありますね」


「それに。言ったな? 対等な取引をすると。その言葉を違えてもいいのか?」


「オマエ……」



 上機嫌になりかけたアスの表情がまた冷たいものになる。



「オマエ、知ってて言っているんですか?」


「それがお前の質問でいいのか?」


「いいえ。教会、京都、東京新分庁……」


「…………」


「ふむ……、感情は揺れない。知らないのか、それともそういう訓練を受けているのか」


「その答えが欲しいか?」


「いいえ。私にはアナタの感情の動きが見えます。答えなど要らないのですよ」


「そうか」


「それを知ってもらった上で、アナタの提案にのって差し上げます。これはアナタたちニンゲンがペットのじゃれつきに付き合ってあげるようなものです。それは肝に命じなさい」


「あぁ。とても助かるよ」


(――プライドが高くてな)



 弥堂にとって思うような展開に進むがそこに喜びはない。



「では、どうぞ? 何でも訊いてください。リスクはないらしいので……ククク……」


「お前がボスなのか?」


「はい?」


「闇の組織とか言ったか。お前がそれの頭なのか?」


「あぁ……、それですか。いえ、違いますよ。私などしがない中間管理職のようなものですよ」



(これ以上がまだいるのか……)



 ボラフ以外の存在を知らない時には悪ふざけの集団である可能性も考えていたが、どうやらかなり大掛かりで、さらに自身の手には余るものである可能性が濃厚となってきた。



「そんなことが訊きたかったのですか? 『私達の目的はなんだ』ですとか、もっと核心に迫ることを訊かれると思ったのですが」


「答えるとは限らんだろう。お前は『何でも訊け』とは言ったが、『何でも答える』とは言っていない。だから答える可能性のある質問を選んだ」


「先程言っていたことと矛盾しますね。答えた後でアナタを殺してしまえば関係ないでしょう?」


「俺は、な」


「……?」


「そいつらは違うだろう」



 言いながら棒立ちのまま立ち尽くす水無瀬の方へ視線で誘導する。



「俺のことは殺せばそれで済むが、そいつらに同じ対応はとれないだろう? だからそいつらが知ったとしても問題がなさそうな範囲で訊いただけだ」


「へぇ……なるほどなるほど……。でも、それでしたら嘘を答えればいいということになりませんか?」


「あぁ……、確かに失念していたな。それは俺の手落ちだ」


「…………」



(それはお前のプライドが許さない。答える以上は絶対に真実を言う。お前はそういう風に出来ている)



 ジッと探るように見下ろすアスの顏を、確信をもって見返す。



「……まぁ、いいでしょう。では次はアナタに答えて――」


「――待て、まだ訊きたいことは――」


「――駄目です。フフッ……、質問を複数許した覚えはないですよ? それともアナタにも二つ以上の答えの用意があるのですか?」


「…………」


「ないようですね。よろしい。では、お聞かせください」



 チッと舌を打って弥堂は質問を引っ込める。


 これ以上挑発をするとこの戯言に付き合ってはもらえなくなる可能性が高い。


 出来ればもう少し情報を引き出したいところではあった。



 このヒトではないモノたちの正体など。



 しかし、それは然して重要ではない。



 少なくとも弥堂にとっては。



 こんな問答も言葉遊びも所詮は時間稼ぎだ。



 ここまでの戦いで大分消耗してしまったが少しは回復してきた。



 ここでこいつらを殺すことは出来ないが、生き延びることは出来る。



 そのためには――



「まずは、アナタの考えている『私の知りたいこと』とはなにか。それから話してもらいましょうか」



――次の一手にミスは許されない。




「――魔法少女だ」



 人外の瞳に鋭い色が灯る。



 ヒトの姿をしたヒトでないモノの怜悧な視線を、地を這いながら弥堂は受け止める。



 その魂の在り方に、その精神性に大きな乖離がありながら、ヒトのカタチを模るモノこそがこの世で最も悍ましい。



(俺も他を謂えたものではないがな)



 心中で――牢獄の中で、自我という自分がそう皮肉げに独り言ちた。



「魔法少女がなんです?」



 微笑を貼り付けたアスと、無表情を貼り付けた弥堂の視線が交差する。



「そいつがどうして『そう』なっているのか、知りたいんだろ?」


「アナタがその答えを持っていると?」


「そういうことだ」



 アスの目が品定めをするようなものに変わる。



「……そういうことですか。確かにその件については立場上、私自身の探究よりも早急に追及することを優先せねばなりませんね。なるほど。ただ壊れているわけでも狂っているわけでもない。小賢しいですね」


「そいつは恐縮だ」


「……随分と手馴れていますね。これまでに我々のような者を相手取った経験が?」


「ないな。今日が初めてだ。あまりの驚きに竦み上がって立つことすら出来ないよ」


「痛みで立ち上がれないと言っていませんでしたか?」


「そうだったな。言い間違いだ。許せ」


「…………」



 無言で探るアスの背後から舌を打つ音が鳴った。



「言いたいことはわかりましたが、ですが変な話ですね。アナタが何故魔法少女のことを知っているのです?」


「何故もなにもそこに居るだろうが」


「そういう話ではありません。わかっているでしょう? 今日初めて魔法少女に出会ったアナタが我々が知らないような情報を知り得るはずがない。違いますか?」


「初めてならそうかもな。だが、俺が初めて魔法少女に会ったのは今日ではない」


「へぇ……、おかしいですね。ボラフさんの報告ではアナタは今日初めて、偶々巻き込まれたと聞いていたのですが……」


「い、いや……、それは……っ」



 悪戯げな視線で嬲るとボラフは口ごもる。



「さて、これは一体どういうことでしょうか」


「クッ……!」



 悔し気に呻きながらアスから死角になったタイミングを見計らい、ボラフは弥堂とのアイコンタクトを試みた。


 三日月型の瞼を動かしバチバチっとウィンクをする。



 弥堂はそれをチラっと見てから口を開く。



「そいつがお前に嘘を吐いている」


「エェーーーーーッ⁉」



 敵なのに散々庇ってやったにも関わらずあっさりと売られたボラフはびっくり仰天した。



「ほぉ。ボラフさんが嘘を?」


「ちょっ、バッ、オマッ……オマッ……っ!」



 元々ボラフの言い分を信じていなかったアスはただ胡乱な瞳を向けるだけに留めた。



「昨日もネズミのゴミクズーを殺した後に、そいつのケツに鉄筋をぶっ刺してやった」


「ゴミクズーのことまで……、というかボラフさん? アナタ、こんなただのニンゲンごときに負けて逃げ帰って来たのですか?」


「やっ、いや……っ! だってよぉ、ソイツ頭おかしいんだもんよぉ!」



 言い訳を並べ立てる部下には取り合わず、「嘆かわしい……」と溜息を吐いた。



「……まぁ、いいです。それで? アナタは何を知っていると?」


「あいつをあの状態にしたのは俺だ」


「アナタが?」



 またも探るような眼つきになる上司を他所に、今度は部下が「もうどうにでもなれ」と溜息を漏らした。



「あの状態にした、とはどういう意味です?」


「言葉通りの意味だ」


「……現在彼女の自我は深く奥底に沈んでいる状態です。あれをアナタが? たかがニンゲンが魔法少女に? どうやって?」



 アスの瞳孔の中心から紅い光が滲み出る。



(喰いついた)



 弥堂は表情には出さず、胸中で手応えを認めた。



「別に奇抜なタネなどない。ただの催眠術だ」


「は……? 催眠……?」



 不可解な答えにアスは一瞬目を丸くし、しかしそれはすぐに細められた。



「催眠だと……? どういうことです? 魔法……? オマエやはり……、しかしそれにしては……」


「魔法? なんのことだ?」


「惚けないでもらいたいですね。言うに事欠いて催眠魔法だと? アナタのどこにそんな魔力がある?」


「だから魔法でも魔術でもない。ただの技術だ」


「甘い顏をしているからと調子にのって……、いい加減に――」


「――あーー……っと、悪い。アス、様。ちょっといいか?」


「……なんですか?」



 平行線になりつつある弥堂との会話にアスが焦れ始めると、気が進まなそうな調子でボラフが口を挟んだ。



「信じらんねえかもしんねえけどよ、魔法じゃねえって。そいつの言ってることは本当だ。オレの目の前でやってたが魔法は使ってねえ」


「なら、どういうことです? そもそもの話、存在として格上である魔法少女に唯のニンゲンが精神操作を仕掛けて成功させるだなんてことがあるわけがないでしょう」


「あー、まぁ、そうな? そうなんだけどよ、催眠魔法だとか精神操作だとかそういう大層なモンじゃなくてだな? もっとチャチな話なんだよ」


「チャチ……? 一体どういう……」


「その、なんだ……? 昔よ、ニンゲンどものTVとかでよ、あっただろ? こう、穴の空いたコインに紐通してよ、それを目の前でこう……ブラーン、ブラーンって……」


「はい?」



 指で紐を摘まみ上げるような姿勢でコインを揺らすジェスチャーをしてみせるボラフに、アスは不可解そうに眉を寄せる。



「怒んねえでくれよ。ガチなんだよ。マジでこれで催眠にかかっちまったんだ」


「そんなバカな……、あんなまやかしで催眠にかかる者などいるはずが……」



 言いながらアスはボーっと棒立ちになっている水無瀬の顏を見る。


 ハイライトの消えた瞳は焦点が曖昧で、決して目が合わない。


 アスは頭を振ると苦々しく呟く。



「理解に苦しみます……」


「個体ごとの適正もあるが、継続的に施すことでより掛かりやすくもなるからな。言っていなかったが俺とあいつは同じ学校に通うクラスメイトだ。俺は常日頃からあいつに催眠を掛けてはいいように扱っている」


「……我々のような者が言うのもなんですが、アナタ。日常的にクラスメイトの女子に催眠を用いるなど常軌を逸していますよ。唾棄すべき行いです」


「最悪だよ……、こいつマジモンのクソヤローじゃねえか。どうかしてるぜ……」



 弥堂は人外のモノどもから人としてのモラルを説かれたが聞く耳はもたなかった。



「しかし、催眠ですか……。自意識を沈めて自我の境界を薄めればより馴染みやすくなる……? たがが外れれば魔力運動に対する無意識下での抵抗がなくなりよりスムーズにより活発に行われる。それによって周囲の魔素濃度が高まり副次効果として吸収量も高まる……。その結果として種が開いた……? クソッ……、理屈としては通っている……! 業腹ですね……」



 情報整理をしながら無意識にぶつぶつと漏れ出てくるアスの呟きを耳で拾う。



「納得のできる話になってしまうのが納得いきませんが、まぁ仕方ないでしょう」


「目の前にある事実以上に説得力のある理屈やデータなど存在しないからな」


「それは至言ですね。ですが、催眠によって齎される効果についてはそうですが、アナタが魔法少女を催眠状態に陥らせたという話は別です。催眠術だと? ふざけるな」



 アスの発する雰囲気が急に変わる。



「気が変わりました。アナタは始末します」


「オ、オイッ」


「黙りなさい。取引には応じましたが別に契約は交わしていません。咎められる筋合いはないですよ」


「そりゃぁ……、そうかもしんねえけどよ……」



 殺気立つアスを宥めようとしたボラフは一瞥で黙らされた。


 アスは弥堂を最期の審問にかける。



「それに。偶々巻き込まれたニンゲン。偶々二日も続けて。偶々魔法少女とは元々の知り合いで。そして偶々催眠が使えて魔法少女を意のままに操れて。そんな偶然があるはずがない。そうは思いませんか?」


「改めて他人の口から聞かされると返す言葉がないな」


「ペテンで存在の格の壁を越えられるわけがない。魔法少女を操れるニンゲンなど生かしてはおけません」



 右腕を振るうと手の延長線上に透明な光の刃が顕れる。



「俺が何者か確認しなくてもいいのか?」


「もうその段階にはありません。アナタが何者であろうとここで始末します」


「そうか。それは残念だ」


「いつまで余裕ぶっているつもりで? アナタは失敗したんですよ」


「そうかな。まだやれることはある」


「なにが出来ると言うんです」


「言ったろ? 目の前の事実こそが全てだと」


「へぇ? 私に催眠でも掛けてみるつもりですか?」


「それもいいな」


「減らず口を。命乞いでもしてみればどうです? 私に価値を示せれば生き残れるかもしれませんよ?」


「そうか。では、命乞いをしてみようか」


「なに?」



 訝し気に細められたアスの目が足元の弥堂を刺す。


 銀光煌めく実在があやふやな切っ先が揺れない弥堂の瞳に写る。


 弥堂は肺を膨らませる。



「助けてープリメロー」



 場に響く声量とは裏腹に壊滅的に棒読みなそのSOSが発信されると――



「せみなーれ……」


「――なっ⁉」



――無数の光球が展開され射出される。



 弥堂は反射的にそちらに顔を向けたアスの足首を掴み、回避・逃走の選択を狭める。



「チィッ!」



 アスの判断は速い。確率の高い方を選ぶ。


 右腕の刃を消して防御障壁を展開させた。


 まもなく水無瀬の魔法が障壁に着弾する。



「――アナタ……っ! どうやって……⁉」


「言っただろう。実践してやると」


「催眠……? いつの間に指示を……⁉」


「さぁ、どうだろうな」



 睨み合いながら言葉を応酬させていると――



「ふろーらるばすたー……」



――水無瀬の魔法ステッキに魔力光が集束する。



「「――なんだとっ⁉」」



 その破壊的な光の存在感に弥堂とアスは驚愕する。



 そんな指示を出した覚えはないので弥堂もびっくりしたのだ。


 アスの足から手を離す。



 集束した魔力が放たれる。


 光球の弾幕が尽きる前に障壁に魔法光線が直撃する。



「グ、ゥ……ッ⁉」



 アスはそれを両手で抑え込みにかかった。



「先程よりも全てが効率化されている……⁉ なんだこの成長速度は……っ⁉」



 魔法少女が起こした現象に対する驚きを口にするが、それでもアス自身を脅かすレベルには達していはいないようで、やがて水無瀬の魔法は防ぎ切られ消失する。



 弥堂は既に動き出している。



 ボラフに半ばより斬り落とされていたシャフトの鋭利な切っ先を喉元に突き付けた。




「全員動くな」




 斜めに切断された金属の断面が鈍く光る。



 その先端を近付ける。



 水無瀬の喉元に――




「動けばこいつを殺す」




 弥堂 優輝はクラスメイトの女の子の首筋に凶器を付きつけ、この場に居る全てのモノを脅迫した。


 水無瀬の背後に立ち油断なく鋭い眼つきでこの場にいる者たちを睥睨する。



「ナナナナナニやってんだテメェーーーーッ⁉」



 突然自分の味方であるはずの魔法少女を人質にとった狂った男に、悪の怪人は混乱した。



「……一体なんの真似ですか」



 一方でアスは呆れたように白けた目を弥堂へ向けた。



「というか、アナタいつの間に抜け出したんです」



 つい今まで爆心地にいたはずなのに、水無瀬の魔法光線が着弾するドサクサで離脱をする抜け目のなさまでは評価出来るが、その後の行動に関してはアスには不可解すぎて眼つきが胡乱なものになる。



「言ったとおりだ。こいつを殺されたくなければ下手な真似はしないことだな」


「私達はその子の敵ですよ? 人質として成立しないでしょう? せめてボラフさんを人質にとりなさいよ。もちろん見捨てますが」


「オイ……」


「本当にそうか?」


「なんですって?」


「困るだろう? こいつが死ねば」


「アナタ……」



 アスの顏から微笑が消える。



「水無瀬にとってお前らは敵かもしれんが、お前らにとってのこいつはどうかな?」


「……なるほど。なかなか賢い子ですね。ですが、どうやって殺すつもりです? 魔法少女の防御をそんな工業製品で抜けるとでも?」


「忘れたか? 俺はこいつを操れる。変身を解かせればいい。なんなら先に結界を解いて大勢の人間の前で変身を解除させてからこいつを殺してやろうか?」


「チィッ……、狂人め……」


「調子にのって喋り過ぎたな」


「そうでしょうか? 例えば、アナタたちニンゲンは家畜を育てますよね? 明日どの個体を出荷するかと同僚と会話をして、それを牛や豚に聞かれたからといって失敗をしたと考えますか?」


「…………」



 問いには答えずただ視る。



(家畜か。なるほどな)



 奴らにとっては人間がそれなのだろう。


 違う生き物であり、違う存在であるからこその発想であり感性だ。



「……お前らの目的はなんだ?」


「おっと、ここでようやくそれを訊くのですね。なるほど、ちゃんと考えられている。狂っているようでしっかりとロジックがある」


「お前の寸評など訊いていない」


「ですが、それは最終的に捻じ伏せられるだけの力があるか、最低でも拮抗していなければあまり効果的とは言えませんよ?」


「だがお前はそれを好まないだろう?」


「ククク……」


「…………」



 言葉を応酬する二人の間の空気が張り詰めたものになる。



 同じ場に立たされるメロとボラフは目には見えない重圧を感じた。



 アスだけならばともかく、存在として格下であるはずの人間の弥堂にも圧倒される。


 力ではなく遣り口で格上の存在と渡り合ってみせる弥堂に、言い知れぬ畏れを抱いた。



「答えろ」


「そうですね。どうせ理解できないでしょうから具体的に説明するつもりはありませんが、戯れに少しだけ答えてあげましょうか」


「…………」


「私達の目的は大枠では『世界』の環境を保全することです。その為にニンゲンに迷惑をかけています」


「環境とは自然のことか? そんなことを気にかけるようには見えんが」


「そんなことはありませんよ。我々には死活問題です」


「人間に迷惑をかけると何故環境が守られる?」


「それは説明するつもりはありませんが、正確に言うと結果的にニンゲンの迷惑になることが多いだけで、アナタたちを苦しめることそのものが環境の改善に繋がるわけではありません」



 水無瀬たちやボラフから聞いていたことと近い答えだ。


 ただの悪ふざけでそう言っている可能性もあると考えていたが、このアスの口から聞くとどうやら本気で言っているらしいし、より具体的な話であると、そう思える。



「なら何故魔法少女を生かしておく? こいつは邪魔な存在ではないのか?」


「そうですね……、説明はしないと言いましたが、そうしないことで逆に話すのが難しくなりますね……。まぁ、これに関しては別プロジェクトなので。最終的には同じ終着点に繋がるのですが、我々も一つのことだけをやっていればそれで済むほど暇ではないのですよ」


「言っている意味がわからんな」


「そうでしょうね。ですが、しっかり説明したとしても普通のニンゲンの範疇を超えた話になるのでどうせ理解できませんし諦めた方がいいですよ? 簡単に言うなら少子化対策、と言ったところでしょうか」


「少子化……だと……?」



 弥堂の眼つきが鋭いものになる。



 少子化。



 昨今この国で嫌でも耳にする言葉だ。


 あまり世情に関心が高いわけでもない弥堂であっても日常生活の中で多少の知識や事情はインプットされている。



 しかし、それらの知識と実際彼らがやっていることに近似性を見いだせない。



 それに、彼らの言う少子化問題とは彼らの種族の話なのだろうか。



(おそらく、違う……)



 チラっとボラフを視る。



 彼らが人間ではないのは間違いないが、だが、かといってこのボラフやアスが生物的な意味での同じ種だとは思えない。そうは視えない。


 弥堂の考えではこいつらはそうやって増えるものではないと考えている。



 であるならば、ここで言う少子化問題とは人間の話をしていると弥堂は踏んだ。


 家畜と言った。


 もしも奴らにとって人間が家畜なのだとしたら。


 人間が家畜として一部の動物を繁殖させているように、奴らも人間を繁殖させようとしているとも考えられる。



 問題は奴らの行動がどう人間の繁殖に繋がるかということだ。



(闇の組織……、魔法少女……、ゴミクズー……、触手……っ! そうか――)



 弥堂は閃きを得た。



(魔法少女を苗床に、卵を産ませるつもりか……っ!)



 闇の組織の真の目的に気が付く。



 しかしその一方で、果たしてそれだけだろうかと自身の気付きを疑う。


 効率が悪いように感じたからだ。



 チラリと目線だけを自身が拘束している水無瀬へ向けて、この少女は一体何人ほど産めるのだろうかとそのポテンシャルを探る。



 魔法少女という存在の全容は未だ知れないが、常識的に考えてたった一人で一国家で問題となるレベルの少子化現象を覆せるほどの出産をやり果せるとは考えづらい。



 魔法少女を母体とした繁殖、それだけではないはずだ。



 自分が生きている間だけ機能していれば、死んだ後に社会が破綻しようとどうなろうと構わないと、弥堂はそう考えるタイプのクズなので今まで真剣に少子化問題に向きあってはこなかった。


 しかし、彼の所属する部活動の上司である廻夜朝次めぐりや あさつぐはそうではなかった。



 彼は少子化問題に対して熱心に考察をしているようで、部員である弥堂にも知識や危機感を共有すべく自らの手で集めた文献資料やPCで起動できるシミュレーションソフトを渡してきて、その内容を網羅するよう命じてきた。


 そして忠実な部員である弥堂は部長から課されたそのタスクを全て熟した。



 強い興味や関心はなくとも、その知識は確実の己の裡に記憶として蓄積されている。



 弥堂は素早く記憶の中からこの状況を見通すことを可能とするような記録を引き出すため該当するキーワードを掘り起こす。



(孕ませ許可証、性交の自由化、種付ける権利、ドスケベ法令、出産クーポン、Go To デリバリー……!)



 多くの大人たちが少子化問題に真摯に向き合った結果生み出された様々なパワーワードが記録から浮かび上がる。


 これらの多くは国によって行われる施策で少子化を解決しようというものであったはずだ。


 ということは、ヤツらは人外の武力を以て人間のナワバリを侵略することが目的ではなく、国家の中枢に這入りこみ法令によって人間の社会の在り様を変えてしまうことが狙いなのではないだろうか。


 それはもはや国家転覆だ。



 人間では倫理や道徳が邪魔をしてこのような政策は執れない。しかし人外のモノどもならばそのような抵抗感はないだろう。



 自立心の強い人間である弥堂は法を守るか守らないかは必要性に応じてその都度臨機応変に自分で決めるので、例えどんな法律や制度が定められようとも別に関係ないと考えている。


 しかし、責任感が強く基本的には博愛主義者である廻夜であればそうもいかないだろう。



 こういった少子化対策について彼は何か言っていなかっただろうか。


 神算鬼謀の権化である廻夜部長ならばこの状況を見通すヒントのようなものを自分に授けてくれていたかもしれない。



 糸口を求めて記憶の中から記録を喚びだす。


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