1章18 『4月18日』
4月18日 土曜日。
その日は美景台学園高校は休みだが、午前中から目を覚ました
「……あいつどんだけメッセージ送ってきたんだ」
弥堂をしてゾッとさせるような量の未読メッセージを確かめるのは流石に躊躇するので、出来ればこのままスマホを眠らせておきたい。
だが、本日の予定を熟す以上スマホは必要不可欠なので、仕方なく弥堂は充電ケーブルを挿しこんだ。
続いて湯を沸かすためにキッチンへ向かう。
朝にコーヒーを飲む習慣は普段はないのだが、何故だか今朝は苦味を吐き出したい気分だったのだ。
しかし、周りを見渡してもヤカンが見当たらない。
昨夜も使ったばかりなのですぐに見つからないような場所に仕舞うようなことはないはずだがと、記憶の中の記録を探ってみる。
すると、すぐに思い出す。
そういえばゴミ捨ての際に階下のゴミ捨て場にいる小沼さんになんとなくヤカンを投げつけたのだった。
チッと舌を打ち、しかし特段執着することなくすぐに諦める。
元々そんな習慣はない。
得ることが出来なかったからといっても何かを失ったわけではない。
ヤカンを失った男はそう自分に言い聞かせた。
代わりに冷蔵庫から水のペットボトルを取り出し、万能バランス栄養食である『
朝食だ。
少しは溜まっただろうかと電源ボタンを指で抑えつけると画面に灯が入った。
起動中のスマホをテーブルに放置して、Energy Biteの袋を開ける。
一口齧ると脳が痛むような甘味を感じ、寝起きの意識が一気に覚醒する。
誰も居ない、物が極端に少ない部屋にブロックを齧る音だけが鳴り、ただそれだけの一定の時間が流れる。
覚醒した意識が再びぼやけていくような、時計の秒数がカウントアップされていくだけの時間。
スマホが鳴る。
流れ出した音楽は魔法少女プリティメロディ☆フローラルスパークのテーマ――つまり電話の着信だ。
ペットボトルを傾け、ゴッゴッ――と水を喉の奥に流し込み、それからスマホに手を伸ばす。
「俺だ」
『いよぉ、兄弟。オレだ』
「なんだ」
『あぁ。朝から悪ぃな。つかよ、取り込み中か?』
「いや。何故そう思う?」
『何度か電話かけたんだがよ、ずっと繋がらなかったからな。女でも連れ込んで抱いてんなら邪魔しちゃ悪ぃなってな』
「朝からそんなことをするほど暇じゃない」
『夜からずっとって線もあるぜ? 聞いたぜ? 抜かずに三発だって? クカカっ、やっぱオメーは面白ぇなぁ、兄弟』
「言っただろ。生憎そんな無駄なことに割く時間がないんだ」
『おいおい、そいつぁよくねーぜ。男には立ち返る時間や場所が必要だ。だから女は定期的に抱いておけ。じゃねーと早死にするぜ?』
「そうだな。今抱えている仕事が終わったら考えてみよう」
『女ならいくらでも世話してやるから、いつでも言えよ?』
「考えておこう」
『ハッ、そいつぁツレないねぇ。まぁ、いいぜ。とにかく今は大丈夫ってことだな?』
「あぁ」
『そうかい。そいつぁ重畳』
電話の向こうでニヤリと哂った気配を錯覚した。
「で?」
『あぁ。用件は一つだけだ』
「そうか。例の?」
『あぁ。今日の昼に新美景北口。歓楽街の中。風俗通りの手前あたりに行けば会えるはずだ』
「よく潜り込ませられたな。しかもこんなに早く」
『あぁ。運よく最適な人材がいたからな。だが、時間がなかった分まだ大したネタはねえだろう。今日は顔合わせ程度に考えてくれ』
「わかった。それで、誰に会えばいいんだ?」
『行きゃあわかるぜ。言ったろ? 最適なヤツだって』
「あぁ。あの人か……」
『そういうことだ。いい配置だろ?』
「そうかもな。会うだけでいいのか?」
『あぁ。ヤツを出した時点ではこっちも兄弟が受けてくれるか決まってなかったからな。向こうは誰が来るかわかってねえ。顔なじみだし、問題ないよな?』
「あぁ」
『オレの方からの要望としては今日のところは挨拶だけでいい。何か訊きたいことがあればヤツに訊いてもらって構わねえぜ』
「わかった」
『何か必要な物はあるか? 何でも用立てるぜ』
「必要ない」
『ハッ、ツレないねぇ。チャカでもなんでも用意するって言っただろ』
「なんだ? 今日でもう仕留めて来いと言いたいのか?」
『そいつぁ誤解だぜ。むしろモメねえでくれって気を揉んでるぜ』
「そうか」
『まぁ、なんかあったら言ってくれよな。取引だからってことじゃあねえ。オレぁよ、兄弟。オメーの為なら労は惜しまねえぜ』
「そうか。じゃあ一つ用立てて貰おうか」
『お? なんだ? いいぜ。なんでも言いな』
「ヤカンだ」
『あ?』
「ヤカンをくれ」
『……そいつは何かの比喩か? 聞いたことねえが、人間の首とかって話か?』
「違う。ヤカンはヤカンだ。湯を沸かすヤカン。家にあった物を紛失してしまってな」
『ヤカンって失くせる物なのか……?』
「それと、もうひとつ――」
『あん?』
「――俺はお前の兄弟になった覚えはない」
電話を切る。
やることは決まった。
とりあえずは着替えて出かける準備を始める。
スマホの充電が溜まった時には出掛けるにちょうどいい頃合いだろう。
テーブルを立とうとした時にスマホの画面上部の通知アイコンが眼に入る。
こちらは既に相当に溜まっていることが予測できる。
弥堂は眉を寄せて通知をタップする。
画面に触れた指を下方向へ撫で盛大に顔を顰めると、次は画面下から上へ指を払って画面外へそれを追い出した。
立ち上がり、ケーブルに拘束されたスマホを置き去りにテーブルを離れる。
新美景駅北口。
時刻は12:30を過ぎた頃。
昼飯時で行き交う人の群れに紛れ、弥堂は歓楽街を歩いていた。
ここは基本的には飲み屋街なのだが、日中にも営業をしているキャバクラやバーに加えて通常の飲食店などもあることから、この時間帯でも人通りは多い。
駅の北口から出るとすぐにこの飲み屋街が広がっており、その中を奥に入っていくと風俗店が密集した区域に繋がる。
その為、今弥堂が歩いている通りでは、飲み屋・飲食店・風俗店の各キャッチが精力的に動いているので男女の声が飛び交い、見た目の上では活気があるように映る。
だが、実際にはこの街は澱んでいる。
現行の条例では、こういったキャッチ行為は禁止されているのだが、ここの歓楽街は奥にあるスラム――外人街の影響が大きく、よっぽどのことがなければ警察も自主的に取り締まりをしない。
警察の利権に海外マフィアが食い込んでいるためだ。
過去に一般市民がキャッチのことについて生活安全課に通報をしたことがあり、その場合は警察も動かざるをえないので取り締まりを行ったことがある。
その際に起きたのは見せしめだ。
被害者は警官ではない。
通報を行った罪もない一般市民が“何らかの方法で”外人街の連中に特定をされ殺された。
早朝に駅前に吊るされた裸に剥かれた死体が見つかるという事件が何回か起きるに連れ、通報をする地元の人間は段々と減っていき、現在では誰も触れないようになった。
もちろん、死体が見つかるたびに犯人は捕まっているのだが、そんなものは当然ただの身代わりだ。
だが、表向きはそれぞれの殺人事件は解決されたことになっている。
しかし、身代わりにする手下以下の捨て駒などいくらでもいるので、奴らの気分次第でこれからもいくらでも同じことが出来るだろう。
そんな危険な街ではあるが、奴らもやりたいことは商売なので、特に面子を潰されるようなことがない限りは普通の歓楽街とそう大きくは変わらない。
ここを利用する客も自分が楽しむのに不都合がなければそれで構わないし、ここで働く人間の多くも自分の所属する店が具体的にどの程度闇に関わっているかなど気にもしていない。
一時の快楽、一夜の幻想。
夢から覚めればいつもの日常に帰れる。
その夢をどうやって見ているのかなど考えても割に合わないし、もしかしたらそれは無粋なのかもしれない。
警察や、元々ここをナワバリにしていた地元のヤクザなどには気に食わないことなのだろうが、弥堂にとっては都合がよかった。
他の街に比べ、ちょっとやそっとのことでは警察が出てこないからだ。
殺しさえしなければ、ちょっとくらい人を殴っても咎められることは少ないし、また治安が悪い地域のため、弥堂に殴られた相手も後ろ暗い事情があり警察に頼れないケースが多い。
非常に快適で過ごしやすい街だと謂えた。
足を止める。
人の流れの中で突然それを堰き止めるような真似をすれば当然接触の危険がある。
弥堂の後ろを歩いていた男が舌打ちをし方向転換する。
追い越しざまに目線を弥堂へ向け睨みつけてきた。
弥堂がその男の尻を蹴りつけてやると彼は悲鳴をあげ走って逃げていった。
それには眼もくれず弥堂は辺りを視線で撫でる。
ここは風俗通りや貸事務所などの雑居ビルが並ぶ道にも繋がるちょっとした広場になっているスペースだ。
ここらには人も多く集まるようになっているため、前述したキャッチの者どもも必然的に多い。
恐らくこの辺りが弥堂の目的地になるはずで、ここに会う約束になっている該当の人物がいるはずだ。
人混みの中からその既知の人物を探そうとしていると、一際大きなキャッチの声が聴こえる。
そちらに眼を向けると、そこに居るのは大きな看板を持った小汚い男が居た。
半裸の女性の写真が十数枚貼り付けられた板に棒を打ち付けただけの粗雑な手製の看板。
コーディネートもクソもない着られればなんでもいいとばかりのボロボロの服装。
腰に巻き付けられたロープは地面に引き摺られた網と繋がっており、彼が動くたびに網の中の無数の空き缶がガラガラと音を鳴らす。
ボサボサの白髪。
顏の半分も覆うような伸ばしっぱなしのヒゲの中から、その大きな声を発する度に口が覗く。ボロボロで本数の足りない黄ばんだ歯が、その身から放つ異臭とともに声を掛けられた者に不快感を齎す。
どう見てもホームレスだ。
「シャチョサン! ポッキリ! ポッキリヨ! シンミカゲリュウ イチマンエン ポッキリ! ホンバン ポッキリ! オ〇〇コデキルヨ! オ〇〇コポッキリ! イイコイルヨ! キモチイイヨ! スゴイシマルヨ! シャチョサンノオ〇〇ポモポッキリヨ!」
声を掛けられた男は興味深そうに看板の写真を覗き込もうとするが、異臭が鼻についたのか、すぐに顔を顰めて離れていく。
ホームレスのキャッチはそのことを全く気に留めた様子もなく次の通りすがりの男たちに近づいていく。
ガラガラと空き缶が鳴った。
カタコトではあるが、他にいる普通のキャッチたちよりも威勢よく声を張り出してアピールをしている。
しかし、下に伸びきった眉毛は瞼にかかり、そこから半分ほど覗く目は茫洋としており何処か定まらず、話しかけた相手にもはっきりとはその視線は向いていない。
弥堂はその男の方へ近づいていく。
すぐ背後まで辿り着くと、ちょうど話しかけられた男たちが離れたところだった。
しかし、しつこくしすぎたのか、ホームレスの男に腕を掴まれた男が不快感を顕わに力強く振り払う。
その際に手に持った看板が傾いたせいで大きくバランスを崩しホームレスの老人は倒れそうになる。
「チャンさん」
弥堂は名を呼んで声を掛けながら傾いた看板を右手で持ち、左手でホームレスの身体を支えてやった。
「アイヤーッ⁉ ……ン? オォ……、シャチョサン アリガトネ。シェイシェイヨ、アリガトヨ。オレイニヤスクスルヨ! ポッキリネ! ソク〇メ イチマンエン! ポッキリヨ! イイコ イルヨ!」
ホームレスは自分を支える弥堂に気が付くと嬉し気な声で礼を述べ、すぐに客引きのターゲットを向けてきた。
その視線はやはりはっきりとは弥堂へ向いていない。
弥堂は呆れたように息を吐き、もう一度声をかける。
「チャンさん」
「ダイジョブ! ワカテルネ! ダイジョブヨ! ポッキリヨ! ポッキリダカラ! カワイイコシカイネーヨ! ミンナ ホンバン! ミンナ ポッキリヨ!」
「チャンさん。俺だ」
「ンン?」
そこで初めて気が付いたかのように指で目にかかる眉毛を持ち上げて弥堂の顔を覗き込んでくる。
異臭が漂ってくるが慣れた臭いだ。特には気にならない。
「アー! アー、アー!」
ホームレスの男は弥堂の顔を認め、手を打って大袈裟に納得したような雰囲気を出す。
「ダイジョブ、ダイジョブ! ワタシ ワカテル! ダイジョブヨ!」
汚らしい眉毛で隠れる目の奥がニヤリと獰猛に哂った気がした。
垂れさがった瞼が細められ、歪んだ三日月が描かれる。
「アイヤー! オニサン! ワカルヨ オニサン! コナイダハアリガトネ! シェイシェイヨ! イイオ〇〇コダタロ? キニイッタカ? マタイクカ? ポッキリヨ! イツモ イチマンエン ポッキリヨ!」
「チッ、またトんでんのか。アンタ」
「トベル! モチロン トベルヨ! トベル オ〇〇コ イチマンエン ポッキリヨ!」
「違う」
「チカウ? ナニ チガウ? オマエ オ〇〇コ イラナイカ?」
「そうだ。お〇〇こはいらない」
「アイヤー! ソダタカ! ワタシ マチカエタ! オマエ ソッチダタカ!」
「そっち? わかってんのか?」
「ワカル! ワタシ ワカル! ダイジョブ! アルヨ! エーエフ アルヨ! オニサン エーエフ ダイスキ! エーエフ センモン イチマンエン ポッキリ! ケツアナ ポッキリ! ポッキリア〇ルヨ!」
「ちげーつってんだろ、このクソジジイ」
まるで意思の疎通が図れずに辟易し、弥堂はこのままの状態でコミュニケーションをとることを諦めた。
ジャケットに手を突っこみ内ポケットを探る。
そこから小さめの密閉袋を取り出しジップを開ける。
そしてその袋を逆さまにし、未だ勢いを失わずに営業トークを駆使する老人の目の前に中身をぶちまけた。
老ホームレスの反応は顕著だった。
「アヒャアァーーーーーっ! シケモク! シケモクジャアーーーーーっ!」
手に持っていた物を放り出し、ガバっと地面に這いつくばる。
倒れそうになる看板を弥堂は危なげなくキャッチし、老人の様子を醒めた瞳で見下ろす。
「シケモク! シケモク! ワシノ! ワシノ! ポッキリシケモク!」
地に撒いたのは予め用意してきたタバコの吸い殻だ。風紀委員のボランティア活動や校内巡回中に拾い集めた物である。
老人は路面に膝を着け両手でそれを搔き集めて、動作の定まらぬ震える手で懐からクシャクシャのビニール袋を取り出す。
それから骨ばった痩せた手で吸い殻の塊を握り込み、指の間からボロボロと溢しながら袋に詰めていく。
その目はギンギンにギラついている。
そうしているとやがて落ち着かぬ様子で自身の身体のあちこちをポンポンと叩きつつ辺りをキョロキョロとする。
「チャンさん。ほら」
弥堂は嘆息しつつチャンさんと呼んだ老ホームレスの眼前に100円ライターを差し出してやる。
チャンさんは弥堂の顏には一瞥もくれずにライターを持つ手に飛びつき両手で摑まえる。
骨と皮しかないような痩せた手の見た目にそぐわぬ強い力で掴まれ、そして奪い取るようにライターをひったくられた。
伸びきって黒く汚れた爪が掌を引っ掻いていった。
そのことに悪びれるどころか気付いた様子もなく、チャンさんは慌ててライターを操作し、2回着火に失敗してから3回目で口に咥えたシケモクの点火に成功する。
そのままンパンパと音を漏らしながら喫煙に夢中になる。
「ンパッ ンパッ シケモク ンパッ」
「ヤクじゃねえんだからよ。アンタ一体どうなってんだ……?」
「ンパッ ウメェ! ンパッ ンパッ シケモク ウメェ!」
「おい。そろそろいいだろ」
声をかけるがチャンさんは弥堂の声など届いていないかのようにンパンパしている。
弥堂は3度目の嘆息をすると手に持った棒を持ち上げ板を縦にし、無言で老人の後頭部目掛けて振り下ろした。
ヒュオ――っと風を切った板が地面にぶつかる直前でピタっと止まるまで、弥堂の手に何の手ごたえも伝えてはこなかった。
振り下ろした看板と地面との間には誰もいない。
「おいおい。年寄りになんちゅう真似しやがるんじゃ、このクソガキャぁ」
その声が聴こえてくるとほぼ同時に、手に感じる重みが増す。
地面から視線を上げ、手に持った看板の先を視る。
縦にした板の角に乗ってその老人はしゃがんでいた。
ニィっと唇を歪め、僅かに残った黄ばんだ歯と色の悪い歯茎を見せつけてくる。
その視線は鋭く、はっきりと弥堂へ向いていた。
「アンタがいつまでもボケてっからだろ」
「ダァレがボケてるってぇ? ワシャァもう現役じゃあねえがまだそんな歳じゃあねえぞ」
「そっちのボケじゃない。シケモク吸わねえと正気に戻らないってアンタどんな病気なんだ? 医者行けよ」
「カカッ、そうしてえのも山々だが生憎ワシャァ保険証がねえからなぁ」
「だろうな。そろそろいいか?」
「アン? せっかちなガキだな。まぁいい。ここじゃあ人目につく。こっちに来な小僧」
そう言ってチャンさんはこのメイン通りに空いた小さな穴のような狭い路地の入り口を顎でしゃくった。
黙ってそちらへ歩くと背後からガラガラと喧しい音が着いてくる。
弥堂は先に路地に入り、振り返って老人に看板を返してやった。
それを受け取ったチャンさんは路地の入口に立ちメイン通りの方へ向く。
そして自身の身体の前で看板を持ち、路地に蓋をするようにして仁王立ちになった。
弥堂は路地の壁に背を預ける。
「さて、まずは久しぶりだな、ユウ坊」
「坊はやめてくれよ、チャンさん」
「カカカ。ワシから見りゃあオメーなんぞただの坊主じゃよ」
「それに久しぶりじゃない。先週会ったばかりだろ。華蓮さんの件は世話になった。助かったよ」
「アー? お互い一週間も生き延びたんじゃ。十分に『久しいな』って再会を喜び合うに値するだろうが」
「それは違いないな」
「啊ァー! 啊ァー! そうじゃろうそうじゃろう。物分かりのいいガキはぁ好きだぜぇ?」
嘆息混じりに仕方なく同意してやると、怪しい中国語混じりの国籍不明の老人は機嫌よく笑う。
「んで? カレンちゃんはどうだったい? ありゃあイイケツじゃな」
「歳考えろよ、じいさん」
「なんじゃい、別にいいじゃろ。んで? オメーもうハメたんか?」
「そういうんじゃない」
「カーー。最近のガキはナイーブだねえ」
鬱陶しい邪推をされるが、老い先が短くなると話が長くなるのは人間の習性なので聞き流してやる。
まだこれから情報を受け取らねばならないので、この老人にはまだ使い道が残っている。
「ところで、
「そのようだな」
「まったくよぉ、あの若様も偉くなったもんじゃ。あのガキ自分で来ねえでワシんとこにパシリ寄こしやがったぞ」
「あいつもまだ顔を売るわけにはいかないんだろうな。特にここいらでは」
「カカっ、人様にもお天道様にも顔向けできねえことばっかやってっからそうなんだよ。オメーもだぞ?
「返す言葉はないが、それでもホームレスには言われたくねえな」
「アァ? ダァレがホームレスだ? そこにあんだろ? 立派なワシのマイホームが」
首だけを傾けてこちらを睨み、弥堂の背後を顎でしゃくってくる。
そちらへ眼を向けると段ボールをいくつか組み合わせて無理矢理造った犬小屋のようなものがあった。
「随分と立派な家だな。固定資産税が高そうだ。ちゃんと払ってんのか?」
「アイヤー! ニホンゴ ムツカシイヨー!」
「調子のいいジジイだぜ」
「そんなことよりオメーこの街に何しに来やがった? えぇ?
ギロリと向けられる瞳の奥に剣呑な光が宿った。
「何、と言われてもな。ヤツから聞いてるんだろ?」
「ワシが聞いてたのは使いが来るってことだけだ。オメーが来るとは聞いてねえぜ」
「誰が来ても同じだろう。何か問題があるのか?」
「おい、ガキ。テメーここで何するつもりだ。そこらの通り中に死体をばら撒くつもりか?」
「人聞きの悪いことを言うな。俺がそんな非道いことをしたことはないだろう?」
「だからそれをこれからするのか? ってワシは聞いとんじゃ」
「さぁな。生憎それを決めるのは俺じゃない。俺はただのパシリだからな」
「お為ごかしはやめな、小僧。テメーがそんなタマかよ」
「…………」
表情のない弥堂とニヤリと哂う老人。
二人の間に緊張感が漂う。
「ガキのする目じゃあねえな」
「ガキじゃないから構わないだろう」
「カッ、そんなこと気にしてる内はガキなんだよ」
「…………」
「
「さぁな。確かめてみるか?」
「オー、コエーコエー、やめとくぜ。年寄りを脅すんじゃあねえよ」
「……よく言う」
一触即発を匂わせた空気はチャンさんが目線を外し、通りの方へ向き直したことで霧散した。
「んじゃあ、仕事といくかい」
「そうだな」
そして二人ともに何事もなかったかのように本題に入る。
「まぁ、そうは言ってもまだハッキリとしたネタはねえんだがな」
「あぁ。それは俺も予め聞かされていた。顔見せだけしてこいと言われている」
「そうか。チッ、あの鼻タレめ。狂犬を寄こして自分の本気度を示唆してやがんのか」
「どういうことだ?」
「フン。オメーはどう聞いてるか知らねえがな。例のヤク。惣十郎の小僧が言ってる程にゃあまだ世間に出まわっちゃあいねえぜ?」
「やはりそうか」
「大方あの嬢ちゃんのこと心配してんだろ? それで神経質になってやがんだろうさ」
「気を付けろ、チャンさん。アンタがそれを知っていることを知ったら、奴は鉄砲玉を送り込んでくるぞ」
「カカ、そいつぁコワイねえ。んじゃあ、ワシは知らんぷりしとくぜ」
おどけてみせる老人には合わせず弥堂はもっと確信部分に斬り込む。
「アンタでも難しいのか?」
「アン? いやぁ、それほどでもねえな。時間があれば売人には辿り着けるじゃろ」
「そうか」
「ヤツら、無差別に捌いてるわけじゃあねえ。これはワシの勘じゃが、どうも売る相手を選んでるフシがある」
「選ぶ、とは?」
「そこまではわからん。言ったじゃろ? 勘だって。これから探ってくさ」
「そうか。ヤサは?」
「そっちの方が難しいなあ。ヤツらヤクザもんと違ってわかりやすく家だの事務所だの構えねえからなあ。スラムの相当奥まで行かねえと拠点の一つも見つからねえだろうよ」
「時間がかかる、と」
「まぁ、気長に待ちな。どうせオメーらワシと違って老い先長ぇだろうがよ」
「…………」
今日のところはそこまで期待はしていなかったが、求めていた新しい情報はなさそうだ。
それにこの老人が難しいと言うことは、そう簡単な仕事にはならなそうだ。
正攻法では。
「オイ」
「……なんだ?」
「オメーよ、早まったこと考えるんじゃあねえぞ」
「何の話だ」
まるで釘を刺すような口ぶりだ。
「フン。しらばっくれんじゃあねえよ。どうせ目に付いた端からぶっ殺していきゃあ向こうから近づいてくるとか考えてんだろ?」
「過激だな。恐いことを言わないでくれ」
「クソガキめ。どっちみちヤツらの本当のカシラはこの国にゃあいねえんだ。パシリの首なんかいくら集めても無駄だぜ」
「何を言っているのかわからんが、記憶には留めておこう」
数秒、無言の時が流れる。
「フン、まぁいい」
「こんなところか?」
「あぁ。週の半分くらいはこの時間にこの辺におる。デカいネタを掴んだら組のモンに報せる」
「わかった。また来る」
名残などなくすぐに歩き出し、老人を追い越しメイン通りに出る。
「待ちな」
しかしすぐに呼び止められ背中越しにチャンさんへ目線を遣る。
「シケモクの礼じゃ。特別にオメーにはイイモンをやろう」
「いいもん……?」
チャンさんはそう言うと看板に貼り付けられた紙の中から一枚を選んで剥がし取り、それを弥堂へ差し出す。
「これは?」
「まぁ、見てみろ」
彼の指示通りに渡された物に目を通すと、それは一枚の写真と名刺大のカードだった。
カードの方をまず読む。
『カイカン熟女クラブ 初回指名料無料優待券』
「…………」
続いて写真を見ると一人の下着姿の女性が写っており、プロフィールのようなものが書いてある。
『当店人気嬢 朝比奈 29歳 熟れ熟れEカップがお客様を天国へと誘います!』
弥堂は一応チャンさんへ向き直した。
「死にてえのかジジイ」
「なんじゃい! 母性たっぷりのイイ女じゃろ!」
「そういう問題じゃねえんだよ」
「カッコつけてんじゃあねえよガキが。いいから抱いとけって」
「なんでお前らは事あるごとに俺に女を抱かせようとするんだ」
「オメーが溜まってる顏してっからだよ。一発抜いてスッキリしとけって」
「余計なお世話だ」
弥堂は付き合っていられないとばかりに写真とカードを地面に放り捨て歩き出す。
「その姉ちゃんな。その店のナンバーじゃったんだが……」
聞きたくもない情報が背後から聴こえてきたが、その声音が先程までの軽薄なものではなく、どこか重みが含まれているように感じられ思わず足を止める。
「先々週くらいからかの。身体のあちこちに不自然に膨らんだ血管が浮かび上がってるとかでよ。気持ちワリーってな、客が減ってるらしいんだわ。おまけに元々おっとりした子で優しいサービスのいい子だって評判だったんだが、どうも近頃妙に苛々してるようで情緒不安定になってるって話だ」
「…………」
「だからその子よ。稼ぎが減って焦ってるんだが、そんな時に限って体調悪くしちまったみてえでよ。休みがちになってたんだが、そろそろヤベーってんで来週あたりからまた出勤してくるって話だ」
「……いつだ?」
振り返り問いかけると老人の眉毛の陰で目が哂う。
「なんだよ、興味あんのか? スケベめ」
「いいから答えろ」
「そうだなぁ……ワシの勘じゃあ火曜か水曜あたりは店にいるじゃろなぁ。遅番じゃ」
老人は答えながら弥堂が捨てた紙を拾い上げる。
「こいつが欲しいか?」
「アンタの勘は当たるからな。寄こせ」
「何に使うんだ?」
「抱く以外にその女に使い道があるのか?」
「女は大切にするもんじゃぞ、ドスケベめ」
「そうだ。俺はドスケベだ。だから風俗キャッチのアンタの世話になる」
「そういうことじゃ。若いうちはそうやって素直にヤればいい。ほれ、もってけ」
「感謝する」
弥堂は『カイカン熟女クラブ 初回指名料無料優待券』と『熟れ熟れEカップ 朝比奈さん 29歳の写真』を手に入れた。
「そうじゃ、そこに行くんなら一つ頼みがある」
「なんだ」
「その朝比奈ちゃんのな、乳輪の大きさを測ってきてくれぃ。出来るだけ正確な数字を頼む」
「何言ってんだジイサン」
「バカヤロウ。乳輪はなデカければデカいほどいい。ガキにはわかんねえだろう」
「…………」
弥堂は胡乱な瞳になり懐に手を入れると袋を取り出し、その中のシケモクを地面に撒いた。
「アヒャアァーーーーーっ! シケモク! シケモクジャアーーーーーっ!」
歓喜の声を上げ再び地面に這いつくばる老人を置いてこの場を立ち去る。
用事は済んだ。収穫もあった。
後は駅の逆口の路地裏を下見してから、ヤカンを買って帰ることにしようと、一定の満足感を得て弥堂は歓楽街を後にする。
「あんだぁ、テメー? 誰に断ってここ歩いて――」
路地裏を征く。
この美景市は、ここまで散々治安が悪いだの穢れているだのと記してきたが、それはあくまで多少なりとも裏側を知っている者たちからの印象である。
そういった事情を知らない者たちからすれば、見た目上、表面上は再開発されてまだそうは年月が経っていないこともあって、比較的綺麗で新しい街であると思われている。
「――オエっ…………、オエエエェェェェっ……!」
「――イデェ……っ! くそっ、テメー一体――」
どこの街もそうであるとも謂えるが、それに倣うのならば、この美景市も多分に漏れずに陽の当たる場所とそうでない場所がある。
一度滅んでもそれでもなお、そういうことになる。
光と陰。表と裏。
新美景駅周辺での話であれば、表となるメイン通りと、文字通り裏となる路地裏とで、明確に明暗が別れる。
「――じゃあーーーっ! コラァっ! テメー!」
「ぎゃああぁぁっ⁉ やめっ……やめて……っ!」
表に居るのは所謂一般人だとか社会人だとかと呼ばれる者たちで、裏側を知らぬ者、知っているから避ける者、そしてそんなものはこの世に存在しないと見て見ぬフリをする者だ。
わざわざ暗がりに首を突っこまずとも平穏、無事に暮らしていける者ということになる。
「――デェェェっ⁉ イデエェよぉ……っ!」
人間とはこう在るべき、そう成るべきと教えられ、そしてそれに大きくは違わずに居られた者たちだ。
一般的に社会と謂えば、そういった光に照らされた場所で、その光の下を歩くことを許された者たちのことを指す。
だが、光が差せば必ず陰となる場所が生まれ、全ての物事には背景があり、さらにそれには裏側があったりすることもある。
「あん? 見ねえツラだな……オマエどこ――」
平穏に無事に日々を暮らす中で、口にする美味しいもの、便利に使う道具、楽しんでいる娯楽。
それらがどうやって作られているか、どうやって成り立っているかを多くの者が知らないし、知らないフリも出来る。
「ヒッ――⁉ お、お前らっ! 逃げるな……っ! まて――」
もしかしたら、今着ている衣服は世界のどこかの侵略された国の住民を強制労働させて作られた物かもしれないし、世界中の人間に大きな感動を与えた催しが行われた会場は、奴隷のように働かされた人々が死傷者を出しながら完成させた物かもしれない。
十分に暖の足りた部屋の中で着飾り、泣きたいという欲求に従い感動を探し涙を流し、生きる為でない食べ物を口に入れながら「美味しい、美味しい」と笑うのだ。
しかしそれは決して咎められることでも、恥ずべきことでもなく、誇るべきことだ。
「外人だっ! 外人どもが殺し屋送り込んできやがった……っ!」
「ミタケさんにっ! ミタケさんに伝えてこいっ! 行け……っ!」
何故なら『世界』がそれを許したからだ。
「ギッ――⁉ こいつ……っ⁉ ツエェぞ……っ!」
「ヤマトくんは……っ⁉ ヤマトくんはいねえのかよ……⁉」
表側に居られる幸運、裏側を見ずに済む幸運は、『世界』から能えられた『加護』だ。
無知なままで、不感症のままで生きていられる幸福をただ喜べばいい。
「ヤベデ……っ! やべでぐだざい……っ! もうなぐらないでぐだざい……っ!」
明日は我が身と怯えてもいいし、怯えなくてもいい。
己で選んで幸運となったわけではないのと同じように、今の幸運が永続的なものなのか、そうでないのかもどうせ自分では選べないのだ。
だから、裏を知らず、闇を覗かず、今日も『世界は美しい』と謳っていればいい。
知ってしまえば、視てしまえば。
その瞬間に世界は美しくなくなってしまう。
たった一歩足を踏み入れただけでもう二度と戻れなくなってしまうこともあるのだから。
だから、知らぬままで、覗かぬままでいて欲しい。
こちらも知られぬよう、覗かれぬよう上手くやる。
気安い好奇心や気紛れのような正義感でこちら側に来られては迷惑だ。
知られなければ、見られなければ。
何が起きても、何をしても、その全てはなかったことだ。
だから――
(――俺の邪魔をするな)
弥堂は必要な作業をしながら路地裏を進む。
もう何度角を曲がっただろうか。
大分奥まで這入りこんだ。
ここいらの建物は街の復旧の最初の方に建てられたものだ。
これから街を復旧するにあたっての“とりあえず”で、適当とまでは言わないが速さを優先させて作られた地区となっている。
そのため、この街の中ではわりと古い方になる建築物が、碌に区画整理もされず乱雑に建てられている。
その復興開始の当時ここいらの建物を使っていた者たちは、後から完成した綺麗に整理された新しい区画へとっくに引っ越してしまっている。
本来であればひと通りの復旧が終わった後にこの辺りも整理される予定だったのだが、復旧のどさくさに紛れて金に糸目をつけずに外国の者たちがここらの土地や建物を買い漁ったため、市も自治体も手が出せなくなってしまい、その末にこのような裏の街が出来てしまった。そのように聞いている。
それが顕著なのが北口の外人街であり、今のところこちらにまでは手が付けられていないようだが、それも時間の問題に過ぎない。
ここを売り飛ばした元の所有者たちは、その取引で得た金で治安の良い場所に綺麗な家を建て、何も知らずに幸運と幸福を謳歌していることだろう。
表のメイン通りを歩いている者たちも同様に、週末の買い物や食事に遊びに心躍らせながら光に照らされた場所を歩いている。
その裏側に何があるのか、何が起きているかなど知ることもなく。
ここで何が起きてもそれは誰にも知られることはない。
ただ運のない者がひっそりと息を引き取るだけのことだ。
それは誰であっても例外ではない。
当然、弥堂 優輝も、例外ではない。
ガリッ、バリッ、ゴリッ――と。
潰して砕く音に紛れてピチャピチャと水音が鳴る。
その音の発生源は進行方向の先。
この路地裏でも一際明かりの届かない暗がり。
積み重なったゴミ袋のような塊が蠢いている。
足を止め眼を細めてそれを視る。
ドッドッドッ――と頭蓋の中身が脈動する。
「ギィっ……?」
ガラスを擦ったような不快な鳴き声とともに形を崩した蠢きから赤い目が浮かぶ。
それが弥堂を見た。
ネズミだ。
昨日もここらで見たネズミの化け物。
(ゴミクズー……)
水無瀬はこれをそう呼んだ。
大型犬ほどのサイズのある在り得ない生物を視れば――
(――なるほど。1種族につき1個体。そんなわけはないよな……)
どうやら二日も続けて交通事故レベルの貧乏クジを引いてしまったようだ。
そして今日はそれだけでなく――
「オイオイオイオイ。ダ~メだぜぇ~? よいこがこんな所に来ちゃあ……」
ネズミのいる場所よりも奥から、化け物の身体の脇を通って何かが近づいてくる。
成人男性ほどの大きさのヒトガタのシルエット。
化け物ネズミ以上の存在感を発しながら、ここに居るようで居ないような、より曖昧に感じられる存在。
その姿の詳細ははっきりと見えない。
辺りが暗いためによく見えないというわけではなく、全身が真っ黒で闇と同化している。
闇夜に浮かぶ三日月が三つ。
二つの目と一つの口。
輪郭のない顏に表情だけを造っているように見える。
(全身タイツの黒い人、ね……)
水無瀬はそう表現していたが、弥堂にはライダースーツのように見えた。
全身を覆う黒のライダースーツに黒いヘルメットを被ったようなシルエット。そしてそのヘルメットに三つの三日月。
(まぁ、どちらでも一緒か)
タイツだろうがスーツだろうが、そんなものはどちらでもよく、そして意味がない。
弥堂はさりげなく周囲を視る。
この場所に辿り着くまで暫くの間、ギャングたちも見掛けなくなっていた。
どうやら自分は奥の奥、裏の裏までノコノコと来てしまったようだ。
世界の裏側で何が起ころうとも表には知られない。
こんな奥では、こんな裏では。
例え人が死んだとしても誰にも知られない。
化け物に食い殺されたとしても誰にも気付かれない。
例え、その“人”が弥堂 優輝だったとしても。
ネズミの少し前でその闇の化身のような黒が立ち止まる。
三日月のような口がニィっと歪められた。
「ドウモ コンバンハー! 悪の幹部デエエェェェッス!」
弥堂は眼を細めさりげなく右足を半歩引いた。
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