カナタだってご褒美が欲しい
「いやはや、大成功って言っても過言じゃないな」
カナタは満足そうに頷いた。
というのもこれはいけるんじゃないかと試したキャンプASMRは、カナタが想定した以上の反響となった。
視覚的楽しみもそうだが、聴覚的楽しみも兼ね備えた配信に対してもっとやってほしいという声をもらった。
「しかもキャンプグッズが爆売れしてるみたいだし……」
そして今、世の中ではキャンプがプチバズりしている。
王国内部でもその動きは顕著だが、公国や帝国の方でも……はたまた魔界でもそうらしい。
もちろんそれ以外の国も例に漏れずだが、キャンプ道具を売っている店は爆売れとのことでウハウハ状態だ。
「これだもんなぁ……」
そして、カナタが見つめるキャンプ用品の店も長蛇の列だ。
カナタが道具を買ったのもここなのだが、その時は当然のようにここまでの客足は無く、むしろいつ畳んでもおかしくなかったほどだ。
「いらっしゃいませ~! 当店では、ハイシン様がお使いになった同モデルの道具が置かれていますよ~!」
「数はありますので、ゆっくりと列を乱さずにお願いしま~す!」
死んだ顔で営業していた夫婦も、表情に活気が戻っていた。
もちろんこれが一過性のものであることは誰もが分かっているが、カナタの心を温かくさせてくれる光景もそこにはあった。
「今まであまりお前と遊んでいなかったからなぁ……これを機会に、キャンプでもして遊ぼうか」
「うん! パパ大好き!」
「ハイシン様がやってたのもあるけど、純粋に楽しそうだもんな」
「自然の中で食べるご飯とか凄く美味しそうだったしなぁ」
中には家族と出掛けることを計画している人たちも居る。
確かな家族の絆を感じさせるその姿に、カナタは決して自分のおかげでこの景色が産まれたなどと傲慢なことは思わない。
だがやって良かったなとは素直に思うのだった。
「よしっ、それじゃあ行くとするかね」
そうしてカナタは、目的である教会へと向かうのだった。
▼▽
「なんだか……この面子で集まるのも久しぶりね」
「そうですね。カナタ様から声を掛けていただけたことを嬉しく思いますよ♪」
「二人とも、今日はありがとな」
カナタが訪れたのはアルファナの私室だ。
既にアルファナだけでなくマリアも来ていたが、今日この三人だけで集まりたいと言ったのはカナタだったりする。
マリアもアルファナも服装は特に変わらないが、控えめ程度に付けている香水であったり、髪もいつも以上にサラサラで身嗜みはバッチリだ。
「それで……なんで二人を集めたかなんだけど」
「うん!」
「はい!」
カナタの言葉に、マリアとアルファナは期待でいっぱいだ。
(っ……ちょっと緊張するぜ)
二人にまだ何も話していないのに、カナタは顔を赤くして俯く。
今までハイシンとして頑張り続けていたこともあってか、少しだけご褒美が欲しくなったのである。
そのご褒美というのが、カナタからすれば一番絆を深めているであろう二人からもらいたかった……というか、カナタも緊張してしまい二人のことしか頭になかったのだ。
「その……ご褒美が欲しいんだ」
「っ!?」
「ごほうび……!?」
カナタの言葉に、マリアたちは目を大きく見開いた。
(こ、この状況でのご褒美……!? 顔を赤くしてそんなことを頼むだなんてもしかして……もしかしてそういうことなの!?)
(カナタ様の方からそんな……望むところです! いつだってカナタ様のために清めているこの体! いつだって準備は万端ですからね!)
下を向き続けているカナタには、二人の卑しい表情は見えない。
だがもちろん今までそのような提案をしたことがないカナタなので、少し考えればそういうことではないと分かりそうなものだが……恋に盲目な彼女たちはそれに気付けないし、口には出さずに表情にだけ留めているのはまだまだ理性のある証だ。
「えっとだな……」
顔を上げたカナタ、同時にマリアとアルファナは瞬間的に表情を正す。
「何かしら?」
「何でも仰ってください」
手を握った女子二人に、カナタはついに言い放った。
「二人に……俺専用のASMRを録ってほしいんだ!」
・・・・・・・・
「……え?」
「……はい?」
カナタの言葉に、部屋の中の時間が一瞬止まった。
一体何を言い出したのか分かっていない様子の二人に、今度はカナタが興奮した様子で言葉を続けた。
「いやさ、この世界で俺が配信を広めたしASMRだって開発した。でも本来は、俺も逆の立場への憧れが少しあるわけさ。つまるところ、俺も大好きなASMRでゾクゾクって感覚を味わいたいんだ!」
実は最近、ずっとカナタは考えていた。
配信関係における全てを生み出したことは誇れることだが、元々はカナタも一視聴者としてそれを享受する側だったわけで、そうなってくると久しぶりに前世の感覚を味わいたいと思ったわけだ。
「自分の配信というか……ASMRに興奮なんてしないし、良い出来だなって思うくらいしかないんだわ」
だからこそ、カナタも囁かれる側になりたかった!
その相手がマリアとアルファナであることは、役者として全く不足はないし、そもそも二人とも凄く良い声をしている。
(マリアとアルファナだけじゃなくて、他の女性陣も凄く良い声をしている……でもやっぱり、色々と気軽に頼めるのはマリアとアルファナが一番だからな!)
それもまた、絶対の信頼を置いているからこそだ。
もちろん強制するつもりはないし、二人が恥ずかしいから嫌だと言われたら諦めるつもりでも居る。
「わ、分かったわ!」
「や、やってみます!」
「マジか!」
しかし、二人は頷いてくれた。
カナタはその瞬間にテンションがぶち上がり、持ってきた道具を綺麗に並べていく。
流石に寮に二人を招くのは大変だったが、こうして荷物を運ぶことももっと大変だった! だがカナタの探求心の前には、そのような苦労はあってないようなものである。
(キタキタキタキターーーー!! いやぁ、二人が頷いてくれてマジで良かった! なんつうか、本当に二人とも良い声だからさ!)
というかこの世界、見た目だけでなく声も綺麗な人間が多い。
しかも前世の記憶があるカナタからすれば、この声はあの声に似ているなんて想像出来ることも少なくはなかった。
(マリアの声は、前世でやってた音ゲーに出てくるキャラというか……良い子を演じようとするあまり心が病んだあの子! アルファナは星から星を旅するRPGのゲームで、言葉遣いとかクッソ生意気だし煽るような言動が多いあの子! かあああああああテンション上がって来た~!!)
もはやカナタの想像しているのがどんなキャラかは分からないが、少なくともカナタのテンションはぐんぐんと上がっている。
こうして、
カナタによるカナタだけのASMR録音が始まるのだった。
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