何かがおかしい……!
「あ、お~いハイシン!」
「うん? どうしたんだ○○」
青年は不思議な世界を感じていた。
それは憧れだったハイシンと幼馴染のような関係となり、昔からずっと一緒に過ごすような……正に夢のような世界だった。
(あれ……なんでこんなことになってるんだっけか? まあいいや、これが夢なら楽しみたい……あのハイシン様と過ごせてるんだし)
そもそも、ハイシンと共に過ごすだけで楽しかった。
まあ彼の前に立つハイシンは相変わらずの仮面とマント姿だが、そんなものが気にならないくらいに幸せだった。
「君の方は仕事大丈夫か? 何かあったら俺も嫌だし、疲れたらすぐに休むんだぞ?」
隣に立つハイシンがそう言い、青年は照れ臭そうに頬を掻く。
憧れだった存在なのに、自分なんかとは違う場所に居るはずなのに、それでも驕ることのない性格と言葉遣い……全てが居心地良かった。
こんな時間が続けば良いと思いながらも、やはり世界の人々に声を届けるハイシンが一番最高だと考えている。
ハイシンによる幼馴染系シチュエーションボイス
▼▽
「そ、そんな……私にこれを?」
「あぁ。君に似合うと思ったから」
女性は幸せの絶頂に居た。
ずっと端末越しでしか聴けなかった声の持ち主、ハイシンが女性の傍で喋っている。
今だけは自分が一番近い距離に居る……それだけで良かった。
(今は私が一番近い……あぁ素敵だわ!)
仮面越しで表情は見えずとも、優しく見つめてくれているのは分かる。
ハイシンがどんな正体であるのか、そんなものはどうでも良いと思えるほどに女性はこの瞬間に浸っている。
しかし……これは何なんだろうという疑問は尽きない。
だが、それでも構わない……それだけの満足感があるのだから。
「ねえハイシン、あなたはやっぱり配信が大事なの?」
「もちろんだ。俺がやりたいこと、その一番がそうだから」
「……………」
「どうしたんだ? もしかして、配信よりも自分を見てくれとか?」
「っ……」
あぁ、なんて愚かなんだと女性は嘆く。
女性も配信が好きでずっと見ていた……それはこれからも変わらないというのに、自分にとって唯一をハイシンに求めそうになる。
そうしてくれたらどれだけ幸せなのか、どれだけ楽しいのか……。
「ありがとう○○。それなら近くで見守っていてくれ――俺にとって、君の応援があればそれだけで良いからさ」
「あ……うん♪」
普段の女性はその派手な見た目を遺憾なく発揮する人柄だが、今だけはどこまでも大人しい少女のよう……これがもしも夢であれば、覚めないことを女性は願う。
(それか……こんな風に、脳が蕩けてしまうくらいに傍で話してくれれば私は幸せだわ)
ハイシンによるお付き合いをする一歩手前の関係性ASMR
▼▽
「……あれ?」
「……あら?」
カナタは仮面の下でホッと息を吐く。
ボイスとASMRをそれぞれ再生した瞬間、二人の様子が分かりやすくおかしくなったからだ。
暴れたとかそういうことではなく、あまりにも静かすぎた……リアクションすることもなく、ただただ別世界の出来事に浸るかのように二人は静かになったのだ。
「さてと、終わったと思うけど……イヤホンを外すぞ?」
二人の耳からイヤホンが取り外され、二人はボーッとしたようにハイシンを見つめている。
全てにおいて調整を施したからこそ大丈夫なはずなのだが……まさか失敗してしまったのか、そう思ったカナタだったが二人は興奮冷め止まないと言った様子になり語り出した。
「ハイシン様……凄い時間だった! まるで本当にハイシン様と幼馴染になったような感覚だった――いや、そんな世界に俺は居た!」
「ハイシン様……素敵だったわ! 本当の世界でないと分かっているのに私はあなたと親しい関係になれたようだった……本当に、素晴らしい夢を見た気分よ!」
「お、おう……」
え、そこまで……なの?
そんな疑問がカナタの胸中を占めたが、確かなことはボイスとASMRに関してそれぞれ満足してもらえたということだ。
ハイシンと幼馴染、ハイシンと親しい関係……そんな気分になれると聞いてファンのリスナーたちは黙っておらず、早く販売してくれと言ったように期待を込めた瞳を無数に投げかけてくる。
「えっと……まあ、まだ体験というか抽選に当たった人が居るからその人たちにも試してもらって、その後に物販開始になるから待っててくれ」
そして訪れる大きな歓声に、カナタは風圧を感じたかのように仰け反りそうになったが堪え、次にステージに通された人にイヤホンを渡す。
ワクワクした様子の新しい二人だけれど、カナタはやはり何かがおかしいと感じてはいるが……結局そのまま続け、また興奮した様子の二人が生み出されることに。
「……??」
まさか何かおかしな不具合でもあるのかと思い、自分で聴いてみたが何もおかしな点はない……むしろ普通だった。
自分でこれを聴くのも恥ずかしいことだが、そんなカナタを安心させたいと思ったのかローザリンデが試しに聴いてみると言った。
「良いのか?」
「もちろんだ」
結果としては、ローザリンデの様子は特に何も変わらない。
強いて言えば顔が少し赤いくらいで、分かりやすい反応は何もなくカナタは安心した。
流石、武神ローザリンデである。
かくして、カナタのボイスとASMRが今回のイベントにやってきた者たちへと拡散されていくのだった。
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