後、一週間

 ハイシンによる宣伝効果、それは凄まじい結果として現れた。

 王都の下町……平民たちによって営まれている出店のほぼ全てが今までにない以上の活気を見せている。


「あざっした~!!」

「ありがとうございました~!」

「また来てくださいね~!」


 あの生配信から既に一週間が経とうとしているが、翌日から下町は賑わい出店を営む人たちは忙しくて引っ張りだこ……いつも以上に忙しいのはもちろんだが、それは彼らにとって嬉しい悲鳴として今日もまた騒がしく叫ばれていた。


「流石カナタ様ですね!」

「……でも大丈夫かって少し不安になるけどな」


 もちろん、それをカナタは陰から見守っていた。

 いきなり忙しくなることで在庫が急激になくなったり、或いはあまりに忙しくて倒れたりする人が居ないかが気になったが、今のところは大丈夫らしい。

 まあその辺りはみんな倒れては元も子もないということでかなり気を遣っているみたいだ。


(おっちゃんの所も大盛況だな)


 美味しい焼き鳥を作ってくれるおっちゃんの店も大盛況だ。

 悲しいことにカナタが美味しいと宣伝した部分はあまり力になっていないものの、マリアとアルファナも食べて美味しいと言ったことから宣伝効果は抜群だった。

 普段は立ち寄らない貴族もそうだが、他国から足を伸ばしてやってきた人たちも居て相当な賑わいを見せている。


「……?」


 そんな中、気になる女性をカナタは見つけた。

 その女性は周りからの視線を一身に浴びる妖艶な女性……というか、あまりにも服装やスタイルがエロ過ぎてみんな釘付けになっているほどだ。

 彼女はルシア――魔界のサキュバスである。


「ルシアさん?」

「何してんだ……って、焼き鳥か!」


 そう言えばとカナタは思い出す。

 大量に焼き鳥を購入した日の夜、シュロウザたちを呼んだ際にどうにか魔界に流してもらえないか交渉すると言っていたことを。


「少し見守りますか?」

「そうだな……少し見ていよう」


 カナタはミラと共にルシアの行動を見守る。

 他の人々は当然彼女が魔族だと気付いていないので、普通に現れた普通にエロい女性という認識のようだが……やはり目立つせいで貴族から声を掛けられている。


「あ、今魔法を使いましたよ」

「……ぽいな」


 ルシアの魔法の発動、それはカナタも気付いている。

 おそらくサキュバス特有の魅了魔法だが、その魔法を使われた男たちはボーッとした様子でルシアから離れていく……どうやら危ないことは起きなさそうだし、そこはルシアも一線を引いている模様だ。


「取り敢えず大丈夫そうだな。行こうミラ」

「はい!」


 騒ぎは起こさないだろうという安直な考えだが、仮にルシアが騒ぎを起こしたらシュロウザが怒るだろうとカナタは考えてのことだ。

 下町の出店売り場から離れ、カナタはミラと共に歩く。

 その姿はデートをする男女に見えなくもないものの、やはりいつものことだがミラの背が低いせいで兄妹に見られることもしばしば。


「やはりハイシン様の影響は凄いです! こんなにすぐ結果として出るなんて!」

「……まあでも、ある意味諸刃の剣みたいな想像はあったからなぁ。この忙しさに潰れないようマリアたちも支援はしてくれるみたいだし、何よりイキイキしてるおっちゃんとおばちゃんたちを見たら元気になるぜ」


 以前、公国で初めて予約配信をした時もそうだがハイシンの行くところではこんなにも活気が生まれ話題が駆け巡る。

 それは時として悪いことにも繋がるだろう……だからこそ、カナタはこれからもしっかりと自身の身の振り方に気を付けなくてはならない――それがハイシンであり、この世界で唯一の能力を持つ責任だ。


(まああまり責任だとか重たいことは考えず、俺なりに楽しんでみんなに配信を届けるだけだぜ)


 それからミラと共に歩いていると、遠くの国からやってきた行商人が目に入る。

 彼らは行商人として多くの場所を行き来しているのもあり、情報通なのもあって金で情報を売るようなこともしているのだが……ちょうど、物騒な話をカナタは聞くことになった。


「やっぱりハイシンの影響力は凄まじいや」

「だな……でもだからこそ、今度の帝国でのイベントは大丈夫なのか?」

「王国や公国は大丈夫だが……他の国ではハイシンを手に入れようとする者たち、排除しようとする者たちがひしめいている……果たしてどうなるか」


 それはカナタにとってドキッとする言葉たちだ。

 カナタは無限の魔力を持っており、その気になればチート主人公のように無双することも可能だろうが、カナタはそれに一切興味はなくただひたすらに人々に娯楽を届ける傍ら自分も楽しむというスタンスだ。


「影響力も時には毒だなとはいえ」

「そうですね。ですが前にも言いましたけど安心してください。皇帝が本腰を入れてカナタ様を守るのであれば、それは本当に大丈夫なんです」

「へぇ?」

「彼女の前には敵対勢力は無に帰す……軍神とはそういうものなのです」

「色々教えてもらったけどマジでヤバそうだなローザ」

「ヤバいですよあれは」


 ここに来て嫌な情報を掴んでしまったが、ついに帝国に向かうのも来週だ。

 この時期、王都の学院は一週間ほどの休みに入るのもあって帝国に向かうのに適した時期なのである。

 果たして何が起こるのか、はたまた何も起こらないのか。

 カナタの動向から目は離せない。

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