さあ、再び破壊の序曲を奏でよう
「帝国でハイシン様のイベントやるらしいじゃん……はぁ、絶対にいけないよぉ」
「そうよねぇ……旅費も結構掛かるし」
「俺は行くぜ! 拍手とか出来るかな!」
帝国を発端とする形でハイシンのイベントが予告され、それは当然のように王都内でも駆け巡っている。
元々薄ら伝えていたことではあったが、これでようやく形になった。
学院内でも行けないと嘆く者や行けると喜んでいる者で二分されており、カナタとしては改めてこれほど多くのファンが居ると思うと嬉しくなる。
「……ふへ」
「カナタぁ? ちょっと表情を引き締めた方がよくな~い?」
「ふふっ、カナタ様の笑顔を見ていると私も嬉しいです♪」
カナタの傍に居るのはアルファナとアニスだが、学院内の生徒だと残りのマリアを除けばカナタの秘密を知っているのは彼女たちだけであり、そんな彼女たちによって周りから隠れているからこそカナタも気を抜いている。
(チヤホヤされるのって悪くねえな……でも、この快感を力に変えてこれからも頑張って行かねえとな! 俺はハイシン……楽しさを追求しお届けする男なんだ!)
どんなに高みに立とうとも、どれだけチヤホヤされても邁進を止めない……それが大切だと改めてカナタは考え、口にチャックをするように強く噤んだ。
「……ふへ」
だがしかし、所詮は彼も転生者とはいえ体は高校生のものだ。
前世で経験したことのない状況に置かれれば気も抜けるし、このように嬉しさでどうにかなってしまいそうになるのもおかしな話ではない。
「……ふぅ」
とはいえ、少しばかり真面目なことも彼は考える。
実は既に来月のイベントに向けて何をするのか、それを一応考えてはいた――その中で試したいものの一つがその存在は仄めかしていたし、何なら実験も何度か行った生物兵器……ではなくASMRだ。
(ASMR……人に届かせる周波の調整はもうお手の物だ。シドーも来るし何が起きたとしても調整はその都度出来るからな)
そう、あのASMRをようやく本当の意味でお披露目しようと考えたのである。
そしてゆくゆくはカナタの声だけでなく、マリアやアルファナたちの声も同じように出来ないかと模索中だ――もちろんそれは他人に配るものではなく、カナタだけで楽しむためのものだが。
「カナタ様……?」
「カナタ……?」
「あん? どうした?」
ASMRについて考えていると何故かアルファナとアニスが不安そうにしている。
どうしたんだと問いかけると、二人は恐る恐る口を開いた。
「何か……世界が終わりそうな予感がしたのです」
「うん……世界の破滅が足音を立てて近付くような……」
「君たちは何を言ってるんだい?」
思わず言い方が他所他所しくなったがカナタはそうツッコミをした。
アルファナたちもどうしてそんなことを思ったのかは分からないが、おそらく気のせいだから気にしないでとカナタに伝える。
(……なんつうか、何もないんなら良いんだが)
おそらく何か心配事があるというわけでもなさそうなので本当に彼女たちの気のせいみたいだ。
しかしながらしばらくシドー作のASMR用マイクを使っていないのもあり、壊れていることは絶対にないだろうが、やはり来たるべき日のために改めて調整はしておくべきかと一考する。
「……ふむ」
早速近いうちに誰かを誘ってまた調整の手伝いをしてもらうことにカナタはするのだった。
カナタとしてはこのように忙しくも充実した日々を送っているものの、相変わらずクラスメイトとの仲はそこまで良くはない……まあ昔に比べれば遥かにマシとも言えるのだが、それでももう少し仲良く出来ればなと言ったところだ。
「あの、アルファナ様」
「なんですか?」
「ハイシン様についてまたお話を聞かせていただけないでしょうか?」
「あら、良いですよ全然」
クラスメイトに連れて行かれたアルファナが何を語っているのか……それをカナタは考えたくなかった。
何故なら興奮した様子で話すアルファナとうんうん頷いている彼女たち……まるで何かの宗教に見えてしまったからである。
「凄いわねぇ」
「……………」
「あたしもフェスと話すときはあんな感じ……かもしれないわね」
「……そうか」
そういえば帝国に行くということはフェスとも会うことになる。
彼もまた熱狂的なハイシンのファンだったのもあるし、カナタがこうしてアニスと親しくなったことで話すことはかなりあるだろう。
果たしてどんな再会になるか、それもカナタにとっては楽しみだ。
「……うん?」
その時、ふと何やら視線を感じてカナタは辺りを見回した。
だがどこにも彼を見つめる存在を確認することは出来なかったので、それもまた気のせいかと頭を振った。
「それではみなさん、本日もお疲れ様でした」
無事に学院での授業も終わり、カナタも一人で教室を出た。
ただ今日は先生方の方が何やら忙しいらしく、いつもより一時間近く早く終わったため自由な時間はそれだけ増えた。
「……お」
「え?」
学院から出る際に目に留まったのはマリア。
彼女もまたカナタの気付いて近付くのだが、ポンと手を叩いてカナタは彼女にこう提案をするのだった。
「マリア、今から俺の部屋に来てくれ」
「……へっ!?」
「忙しいなら全然良いんだ。したいことがあって」
「し、したいこと……っ!?」
もちろん、彼女が想像しているようなことはないのだが……カナタは早速ASMRの被害者……ではなく協力者に彼女を選んだ。
この時間帯に用事がなかったことと、一応ASMRの存在を知っているからこそ頼めるマリア……彼女は少し残念そうにしたものの、喜んで受けるわと言ってカナタの部屋に付いてきてくれることになった。
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