通信機の発展は素晴らしい
魔力機器の発展により、遠くの地方ともある程度の通信が可能になった。
以前にも言ったがこれはある意味で革命的な進化であり、今まで以上に国と国の間での情報共有などが盛んになり、良い意味でも悪い意味でも時代の進歩というのは多くの者たちに益を与える。
そして、その恩恵を受けるのはカナタも同様だ。
「まさかこんなやり取りを王国の一般人がやってるとは思わんよな」
『くくっ、一般人とはよく言ったものだ。まあハイシンという仮面を取ればそなたはただの人間か』
『ここに私が混ざって良いのかはともかく、カナタと帝国の皇帝様が揃っているというのはかなり興味深い絵だわ』
とある日の夜、通信という手段で会話をしているのはカナタとローザリンデ、そしてアテナである。
今や全世界で人気者になっているハイシン、恐れられている帝国の軍神ローザリンデ、公国の公爵令嬢アテナ……中々の面子だ。
「来月のイベントではシドーと一緒に来てくれるからな。その意味でもこうして世間話をするくらいの時間は取りたかったんだ」
『そうだったの……』
『うむ。余としても公国の技術発展には目を見張るものを感じておる。優秀な技師を従えているのもそうだが、その若さで王国とも太いパイプを持つそなたを余は評価しておるでな。早く会いたいものだ』
『それは光栄ね――敬語は要らないと言われてどうしようかと思ったけれど、噂と違って接しやすい皇帝様で安心したわ』
いやしかし、本当に凄い光景だなとカナタは苦笑する。
どちらも立場の違いはあるが帝国と公国において間違いなく必要とされる重要なポジションの女性たち……今回は雑談が主になっているが、そんな軽い感覚で集まった面子にしてはあまりにも大物すぎる。
(……これ、普通の人ならひっくり返るか気絶するんじゃね?)
机と椅子、茶でもあったら小さなお茶会にでもなりそうな雰囲気だ。
本来であれば通信だけで映像までは届かないものの、そこはカナタの魔力を供給することにより――彼が関わる通信時のみ、相手方の映像も届くし送ることが出来る。
「それでローザ? 来月にそっちに行くことはほぼほぼ決まりだけど……いくつかやりたいことは勝手に俺が決めて良いのか?」
『もちろんだ。可能な限りカナタの要望通りにはするが、やはり帝都でやる都合上少しばかりこちらにも従ってもらうことにはなるがな』
「それは別に良いよ仕事みたいなもんだから」
その代わりカナタとしてはプライベートなので観光もしたい気分だと、そう伝えるとローザは退屈はさせないと頼もしく笑う。
『帝国の方はトップがこういうことに乗り気だと良いわね……公国でも当然のようにハイシンの名前は知れ渡っているしファンも沢山居る。それでもまだハイシンは民衆をかどわかす存在だって進言してくる貴族も居るから』
『それはどこも同じであろうな。こちらはあらかた掃除が済んだとはいえ、最初の頃は酷かったものだ』
「あはは……なんつうかごめんな?」
とはいえ、カナタとしてもやはり受け入れられない層についての理解はある。
万人にウケる配信者は存在しない……つまり万人に好かれる人間が存在しないと以前に言ったが本当にその通りだ。
ただ邪魔だから殺すなど、誹謗中傷を浴びせまくるなど……そういったことをしないのであればカナタとしては特に気にはならない。
『この辺りに関しては同じことだ。ハイシンという存在が世に現れ、若年層を中心に人気を博した時のことは余が皇帝になった頃を思い出す――両親が病に斃れてすぐ余は力を頼りに皇帝になったが、女であることと若いという理由だけでいくつも妨害があったからな』
「……へぇ」
『帝国の内情はそこまで入ってないけれど、やはりそういうことがあったのね?』
昔を思い出すようにローザリンデは腕を組んで天井を見つめる。
彼女の言葉を遮ることなく、カナタもアテナも興味深い話だとして続きを待った。
『今となっては味方の方が遥かに多く、余のことを女として扱っている者の方が少ない。余は根っからの戦闘狂……こほん、自分のことを戦闘狂と呼ぶのは悲しいがとにかく力こそ全てという人間だった――故に帝国の性質上、単純な武力は憧れと求心力を生み出し余が皇帝であることの疑念を抱く人間を徐々に減らしていったのだ』
『帝国の性質……戦いを求める人が多いのよね?』
『その通りだ。カナタの傍には居るだろう? 笑顔で上級魔法をぶっ放し、キャッキャと笑いながら蹂躙する女が』
「うん」
バッチリとアニスの姿を思い浮かべる。
ミラも戦闘に関してはプロフェッショナルであり、体術だけでほぼ全ての存在を圧倒出来るチートスペック……改めて帝国の人間は規格外だ。
『余はまだ若い……他国の王に比べれば遥かにな。それ故に最初の頃はかつての重鎮共が鬱陶しかったわ。今は既に一新したが、当時の余は話を訊くだけでもイライラしていたからな』
「なんか想像出来るな」
『もしかして……あなたを良いように使おうと思っていたのかしら?』
アテナの問いにうむとローザリンデは頷き言葉を続ける。
『余は軍神と呼ばれるほどの武力を持っていたが、同時に如何にして国が発展出来るかも想像出来ていた。何をすれば良くて何をすればダメ、何を拾い何を捨てれば良いか……それが自分の中に確かな想像としてあったのだ――その上で過去に固執する頭の固い重鎮共を退けた。もちろん正式な手順でな? 色々と不正行為などもあって処分も楽ではあったが……あぁ、如何に自国の重鎮共が阿呆だったのかをまた思い出してしまう』
あのローザリンデが額に手を当ててため息を吐いている。
その姿にカナタとアテナは新鮮さを感じたりはしないが、少なくとも恐れられる存在には見えず、彼女もまた悩みに悩みを重ねていた人間なんだと思えたのだ。
『帝国はあなたの代になって大きく変わった……それは私たち公国の耳にも入っていたわ。ほとんどは決して帝国を敵に回してはダメというものだけど』
『くくっ、侵略するつもりはないがどこの国だろうと敵意を剥き出しにしてくるのであれば叩き潰す準備はしていた。力こそ正義であり、力こそがもっとも問題ごとの解決に向いているからな』
だがと、そこでローザリンデは目の色を変えて話し出す。
『余は帝国を変えたが、そこでそなた……ハイシンが現れたのだ』
「俺が?」
『うむ――今までにない配信という手段と斬新な考え方……そなたの話を聞くたびに余は興奮したし、何より間違っていなかったのだと確信が持てたのだ。昔に固執する古い考え方は国を停滞させ成長を止めるが、新しい考え方と行動は国を一歩先へと動かす……無論やり方を間違えれば進む先は衰退ではあろうが』
良くも悪くも、彼女は自身の進んだ道をカナタによって肯定されたわけだ。
カナタにそんな意図は一切なかったとしても、確かにローザリンデの生き方をカナタは間違っていなかったと道を照らしたのである。
『そこからは早かったぞ? 部下と何度も話し合いをすることで国の成長に邪魔な老害共と、そんな奴らの考えに同調する者どもを重要なポストから軒並み退けた。その度に奴らは横暴だと、民のことを考えているのは私たち以上に存在しないと言い訳を重ねていた』
『やっと上り詰めた地位だもの。そう言いはするでしょうね』
『奴らは平民の苦しみを知らぬ――だからこそ好き勝手言えるのだ。奴らは平民を見ていたが平等に生きる人間とは見ていない……奴ら貴族は自分たちの生きやすい世の中であればそれで良いだけであり、平民たちを見てもそれは見下しているだけだ』
ローザリンデは言い切ったぞと言わんばかりに笑みを浮かべ、そして最後にこう締め括った。
『真に国のことを考えれば、他者の顔色を窺って中途半端なことをすることこそ民たちへの裏切りだ。その点では余も王国も、そして公国も良い運営が出来ているのではないか?』
この日、カナタはローザリンデの大きさを改めて知った。
そんな彼女が統べる帝国だからこそ、安心して良いんだなと笑顔を浮かべ……もう心配は一切なかった。
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