カナタ以外の存在が配信をする時代は来るのか?
カナタにとって、基本的に学校が終わるとすぐに寮に戻るのがルーティンだ。
そうでない場合はマリアやアルファナであったり、ミラやアニスと過ごすのが普通だが……今日の彼は一味違った。
(これが……これが友達と過ごす放課後!!)
そう、今のカナタはテンションが爆上がり中だ。
「お~い! どうしたんだよカナタ!」
「ボーっとしてないで行くぞ~!」
カナタを呼ぶのはロンとトーマ――アニスと出会うきっかけになった模擬戦、それに共に出向いた別クラスの男子生徒だ。
あれからもちょくちょく交流があるわけだが、カナタにとっては学生として寂しい日々を送っていたのが嘘かのように仲良くなれた。
「悪い悪い。ちょっと考え事しちまっててな」
二人に合流すると、しっかりしろよと笑われながら肩を叩かれる。
カナタはそれすらも前世を思い出してしまうくらいなので、マリアやアルファナが嫉妬するくらいにはロンとトーマに対して笑顔だった。
「そろそろかな?」
「あぁ……ってあれじゃね?」
さて、そんなこんなでカナタたちが今居る場所は王都から少し離れた場所だ。
王都のギルドに出されている依頼の一つであり、出没した少数の魔物の群れを討伐してほしいという内容だ。
本来であれば冒険者であったり騎士たちが対処するものではあるのだが、こんな風に確かな実力を認める学院からの許可があれば、ギルドに掛け合って依頼を受けることが出来る。
「ロンとトーマは冒険者でも目指してんのか?」
「一応家のこともあるからさ……ま、選択肢の一つとして悪くなくね?」
「いつまでも家が存続する可能性……いや、俺たちがそれを考えたら終わりなんだけど……無限に続く栄華ってのは存在しないと思ってるからさ」
「……へぇ」
確かに、永遠に続く栄華というものは存在しない。
もちろんこの世界の貴族がどのように時を刻んでいくかはその家次第ではあるものの、そのもしもを考えた末で第二の道について考えるのは大切なことだろう。
どうやらロンとトーマは色々と考えているようだ。
「ま、軽くやっちまおうぜ」
「おうよ!」
「サポートするわ」
狼型……よく出没するタイプの魔物だ。
このタイプの魔物たちは基本的に鋭い牙で食らいつくか、或いは鋭い爪で切り裂く程度の攻撃パターンしか持ち合わせていない。
「ファイア!」
「スプラッシュ!」
まずは軽い魔法でジャブを入れるようにロンとトーマが牽制するが、カナタは後方で魔物がどんな動きをしても対処出来るように目を光らせている。
模擬戦でのカナタの動きを知っているロンたちは、カナタからの厚いサポートがあると分かっているからこそ伸び伸びと魔物を狩っている。
「はああああああっ!!」
「せやあああああっ!!」
魔法だけでなく、武器も使いながら一匹ずつ確実に討伐していく。
「……後方腕組みおじさんってわけじゃないけど、やっぱ俺はサポートだな」
直接戦うよりもサポート的な面が合うなとカナタは考えている。
元々前世でもそういったポジションのキャラクターが好きだった部分はあるが、そんな立ち位置でもいざという時は己が持つ力を解放し、戦いに勝つために全力を出すという動き……それがカナタは大好きだった。
「おっとあぶねえ!!」
二人の動きを見つめながらそう考えていた時、死んだフリをしていたらしい一匹の狼がロンの背中に飛び付こうと跳躍したのをカナタは見た。
「アイスブレイク」
アイスブレイク――それは氷属性の魔法だ。
氷属性のプロフェッショナルでもあるアニスに教わった中級魔法であり、瞬時に空気そのものを凍らせることが出来る。
「っ……おぉ」
「すげえ……」
ロンに飛び掛かった狼は空中で止まっている……否、氷漬けになっている。
心なしか空気だけでなく空間そのものが凍っているような気がしないでもないが、それもまたカナタの持つ無限の魔力による性質かもしれない。
カナタは異世界に転生したものの配信に力を入れる変わり者だが、無限の魔力というチート能力を持っているので何をしてもおかしくはなかった。
「砕けろ」
カナタが握り拳を作ると、氷漬けになっていた狼はそのまま爆散した。
飛び散った氷が幻想的な美しさを醸し出し、ルビーのような赤く散りばめられた塊をいくつも飛散させる……果たしてこの赤は何なのか、それを深く考えることをカナタたちはしなかったが。
「伸び伸びと動けたのはカナタのおかげだな」
「手堅い支援があると思うと安心出来るわマジで」
「ありがとな。でも後ろから見てたけど二人とも良い動きだったぜ」
そうして三人で見つめ合い、笑い合ってパシッと手を叩き合った。
これぞ青春! これぞ友情とカナタはそれはもう笑顔である――その時、背後で女の子の黄色い悲鳴のようなものが聞こえた気もしたがそれは気にしたらダメだ。
それからカナタたちは王都に戻り、無事に依頼を完遂した。
トーマは家の用事があるとのことですぐに帰宅したが、ロンはまだ残っている。
「……なあカナタ」
「どうした?」
二人っきりになった瞬間、ロンが周りを気にするようにボソボソと話し出す。
「そのさ……ハイシンのファンなのは前に言ったけどよ」
「え? あ~そうだったな」
「もしもこの先……何年か経って配信活動がメジャーにでもなる日が来たらさ。俺もちょっとやってみたいとか思うんだよな」
「へぇ?」
そんなことを考えていたのかとカナタは目を丸くした。
カナタの配信活動は無限の魔力があるからこそ成り立つものであり、その無限の魔力の代替えとなる何かが生まれない限り絶対にカナタ以外では無理だ。
その時が来るのもそれはそれでカナタにとっても楽しみではあるものの、前世では大量の配信者が居たのでそれも良いんじゃないかとカナタは思っている。
「どうしてそう思ったんだ?」
「えっと……ハイシンみたいに有名になって……女の子にモテたい」
「……ぷふっ!?」
「わ、笑うんじゃねえよ!」
「いやいやごめんごめん! めっちゃ良いじゃんか」
有名になってモテたい、それは誰しもが考えるであろう真っ当な願いだった。
「試しにやってみてくれよ。どんな配信か」
「あ、実はいつも寝る前にやってたのがあるんだ! 行くぜ」
「おう。見せてくれ!」
ロンは恥ずかしさを押し殺すように、ポーズも交えて配信開始の口上を口にするのだった。
「どうも~! みんなこんにちはロンだぜ! 今日も元気に配信活動をやってくからみんな、最後まで付いてきてくれな!!」
「おぉ……めっちゃありそうじゃん」
喋り方に関してはどこかハイシンをリスペクトしているのが見て取れた。
この世界ではまだまだカナタ以外の人間が配信をするのは不可能……だがそれでもこんな風にカナタが配信を広めたからこそ、それを夢のように語ってくれる存在の登場はとても嬉しかった。
「どうした? すげえ笑顔だけど……」
「いやいやそんなことはないって……ふへ♪」
全く笑みを隠し切れないカナタ君だった。
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