帰ってからの一幕~これもまたケジメ~

「それじゃあシュロウザ。俺はこれで」

「あぁ。名残惜しいがまた是非とも来てくれ」

「分かった」


 カナタは魔界の長であるシュロウザに挨拶をした後、すぐに王都に戻った。

 今回の魔界への旅は突発的なものであり、基本的に傍で護衛してくれているミラさえも追いつかないほどだったが……カナタとしてはとても楽しかったのは言うまでもないことだ。


「……いやぁ魔界……魔界ねぇ。これで人と魔族がもっと歩み寄れれば良いんだけどなぁ」


 人間と魔族……それこそ種族の違いを除けば国と国でしかない。

 今回の配信で魔界の様子をある程度流すことが出来ただけでなく、魔界に住む魔族たちがどのような営みをして、どのような考えを持っているかも簡単に映せた。

 コメント欄でも魔族に対する認識が変わったと言っていることばもあったので、これが何かが変わるきっかけになればとカナタは思う。


「……うん?」


 魔界から王都に戻った直後だったが、カナタは一つの気配を感じ取った。

 大きな大木を背に立っていたのは王国が誇る聖女アルファナ……カナタにとって、この世界におけるもっとも大切な存在の一人と言える存在だ。


「おかえりなさいませカナタ様」

「あぁ……ただいまアルファナ」


 魔界に向かったことは配信で知っているだろうが、少なくともこうしていつ戻ってくるかは伝えていない……つまり、どうしてアルファナがここで待っていたのかがカナタには分からなかった。


「まさかずっと待ってたのか?」

「いえ、そろそろ帰ってくるかなと思いましたので。決してずっとここで待っていたわけではありませんよ」

「そうか……なら安心したよ」


 ずっと待たせていたのだとしたら……まあカナタに非はなくとも、大きく申し訳なさを感じてしまうところだった。

 アルファナなら何時間も前から待っていそう……なんてことを思うも、嘘を吐いた様子はなさそうなのでカナタは一旦その考えを放棄し、彼女の元に駆け寄る。


「魔界……楽しかったわ」

「そうですか。ふふっ、私も見ていましたが本当に楽しそうでした。全世界がそうとは行かずとも、間違いなくカナタ様の行動によって魔族に対する認識は改められたかと思います」

「そうだと良いんだけどなぁ……」


 自分が人間と魔族の架け橋になる……なんて大それたことを言うつもりはない。

 それでも今を生きるこの世界が争いにない物に近付いていけば……そう思うと、自分がやっていることは無駄ではなく、自分だからこそ出来るんだと自信になるのだ。


「っとそうだ――アルファナ」

「はい」


 アルファナに向き合い、カナタは伝えるべき言葉を口にする。

 それは彼女たちの関係に対するものであり、自分なりのケジメであり……今だからこそ伝えておきたい言葉だ。


「俺はアルファナたち……俺を慕ってくれるみんなを大切に想ってる。ハイシンとして活動していなければ会えなかった大好きな人たちをさ」

「っ……はい」

「正直言うと……流れに身を任せてそういう関係になっちまえよと思った。蓄えは十分だし、何一つ不自由なんてさせることもないから――でも、やっぱりこれは大事なことだからもう少し考えたいと思ったんだ」

「……………」


 マリアとアルファナに想いを伝えられている現状……アニスも入ってくるが、カナタはみんなのことを大切に考えている。

 ハーレムに憧れがないわけじゃないし、さっきも言ったが金もあるので困ることは何もない……それでも、だからこそもっと自分が成長した時にこの先へ進みたいと思ったのだ。


「ごめんアルファナ――もう少し、待たせることになる」

「……ふふっ、そうですか」


 カナタの言葉にアルファナは少し残念そうにしながらも微笑みは消さなかった。


「カナタ様を困らせてしまうことは分かっていたんです。それでも私とマリアは伝えたかった……こうして出会えたあなたに、心から大好きだと思えるあなたに」

「……………」

「止めてくれと言われたら涙を呑んで諦めましたけど、そう言われてしまっては待つしかないじゃないですか」

「……ごめん」

「良いんですよ。カナタ様は配信が好き……私たちもカナタ様の配信が大好きです。変に悩ませるよりも、伸び伸びと配信をしていただくのが良いんですねやはり」


 だからとアルファナは言葉を続けた。


「それなら傍で待ち続けます。私たちはカナタ様から離れることありませんので、いつでも答えを聞かせてくださいね?」

「……分かった」


 つくづく自分には勿体ない子たちだとカナタは苦笑する。

 本来であればこんな風にモテることも、惹かれる魅力があったわけではない……ただこの世界にはなかった特異性を生み出したからこそ紡がれた縁なのだ。


「これから先、いつも以上に忙しくなるのは分かっていましたのに……はい! しばらくはサポートの面でお力になることに集中します!」

「……ありがとうアルファナ」

「良いんですよ――むしろ、私たちが悪かった面もありますから。これも若いってことなんですかね」

「まるでお婆さんみたいな言い方だな?」

「うふふっ♪」


 英雄色を好むという言葉があるように、本来であればかっこよく慕ってくれているみんなを嫁に! なんて考えもあったんだろう。

 それでもカナタはもう少しだけ、自分を成長させたいと思った。

 本当の意味でもっとビッグな男になり、その上で自信を持って気持ちを伝えるのだとそう考えた。


「魔界に行って考えていたことでもあるんだけど、まずは帝国でのイベントだ」

「そうですね。色々と連絡は取り合っていますが、もうあちらは絶対に開くんだと予定を詰めています。これでやっぱりやらないなんて言ってしまうと……本当にカナタ様を奪うために侵略されそうです」

「怖いこと言うなって」

「……想像出来ません?」


 どうしてだろうか。

 カナタの頭の中でその時の光景が容易に想像出来てしまい、そうならないためにも絶対に帝国でのイベントは成功させようと心に決めるのだった。



【あとがき】


お久しぶりです。

ちょっと内容が変わっていて、魔界から帰ってきたところから今回の流れに変更しました。

具体的には恋人云々がまだ先っては感じですね。

まずは配信部分に力を入れつつの描写を増やしたいと思ったからです。

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