みんなで集まれ

 魔法団体模擬戦が無事に終わり、カナタにとっていつも通りの日々が戻ってきた。

 まあとはいっても数日の遠征含め、模擬戦の為に時間を使う以外に特に今までの日常と変化はない。


「……ふぅ」


 いつも通りに学院が終わった後、アルファナに誘われて教会に赴いたカナタはのんびりしていた。

 教会の古参シスターに用意してもらった栄養ドリンクを飲んで一息吐き、カナタはチラッと部屋の中央に位置するテーブルに集まる女性たちに目を向けた。


「アルファナよ。ハイシン様シャツに関してなのだが、次の増産までには魔界でも売るための体制を整えるつもりだ」

「分かりました。では生産する数は……このくらいでしょうか?」

「うむ。それだけあれば半日は持つだろう」

「バッジに関してもそうだし、今新たに考えているのはハイシン様のミニキャラを模したグッズね」

「それに関しては是非、私の勤める娼館の女性から話を聞いてくださいな。諸手を上げて協力してくれるかと」


 これからのハイシン様グッズに関する展開の仕方について、支える会に所属する女性たちが話し合っているのだ。

 王女のマリアに聖女のアルファナ、魔王のシュロウザに娼婦のカンナ……そして遠い場所ではアテナも色々と協力してくれている。


「……すっげえ濃い面子だよなぁ」


 シュロウザが魔王である事実が隠されているとはいえ、元は争っていた人間と魔族がハイシンのグッズ展開について意見を交わし合う様子はシュールの一言だ。

 争うよりも協力し合っている光景が平和であることは確かなので、ある意味種族間の架け橋になっているといっても過言ではなかった。


「凄い面子ですよね本当に」

「そうだなぁ」

「でも不思議な光景だよ。こんな風にあの方が人と親し気にしているのはね」


 眺めるカナタの元に暗殺者のミラとサキュバスのルシアも控えており、実際に彼女たちを知らない者たちからすればどんな集まりなのか非常に気になるだろう。

 シュロウザとルシアが魔族であることを抜きにしても、今この場に集まる女性たちは誰もが手にしたいと願うような美女たちである――カナタにとっても正に夢のような光景と言えた。


「そう言えばルシアさん」

「なんだい?」

「先ほどカンナさんと親し気にお話をしていましたが知り合いだったのですか?」

「あ、それは俺も気になってたわ」


 少し前の話になるのだが初対面に関わらずカンナとルシアは意気投合したかのように笑みを交えて会話を楽しんでいた。

 まるで旧知の友人同士を思わせるような雰囲気にカナタは気になっていた。


「あぁそのことか。もちろん知り合いじゃないし、カンナと知り合ったのは正真正銘今日が初めてさ」

「だよな」

「ですよね」


 そうなると一体何が二人をあんな風に繋ぎ合わせたのかだが……ルシアは意味深に笑みを浮かべ、サキュバスが放つ特有の色気を醸し出しながら言葉を続けた。


「お互いに男を手玉に取るのが得意だからね。そういった部分で意気投合したのさ」

「……あ~」

「娼婦とサキュバスですから……なるほど?」


 確かにカンナもルシアも種族の違いはあっても男を手玉に取るプロには違いない。

 ルシアにはサキュバスという色気の権化と言える強みはあるが、カンナは人の身でありながら男の扱い方をこれでもかと理解している。

 そんな二人が出会ったならば話が弾むのもおかしな話ではないなとカナタは頷くのだった。


「カナタ君、少しいいかい?」

「え?」


 ルシアはそう言ってカナタの肩を抱いた。

 相変わらずの際どいドレスのような服装なので、そんな彼女が傍に近づけばカナタとしてもドキドキしてしまう。

 おそらくルシアもそれを理解しているので、カナタの迷惑にならないレベルで自慢の豊満な体を押し付けてくる。


「カンナから濃く君の香りを感じたんだが」

「……おう」

「彼女は何も言わなかったけれど、その匂いにサキュバスである私が気付かないわけがないんだ。本番はしてないようだけど――」


 ルシアはそう言って親指と人差し指で輪っかを作り、口の前で動かすような仕草をカナタに見せた。


「後はこっちも……だね?」


 豊満な谷間に胸を指を向け、その指で谷間の肉を掻き分けるようにして中に侵入させていく。

 その動作だけでルシアがカンナとの秘め事について気付いているのは明白であり、カナタとしてはやっぱり顔を赤くして下を向くしかなかった。


「やっぱりか。羨ましい限りだよ」

「……いや、まあ俺も流された感はあったんだが」

「男だし当然じゃないか? まあでも、それくらいなら私でも君の相手をさせてほしいんだが……」


 そう言ってルシアはギュッと体を更に近づけてきた。

 カナタは当然のように体に伝わるルシアの豊満さにドキドキはするのだが、今はそれよりもルシアのこの後が心配だった。

 何故かと言うと、ルシアの後ろにシュロウザが腕を組んで立っているからだ」


「何をしているのだ貴様は」

「……へっ?」


 ガシッとシュロウザがルシアの頭を掴み、まるでアイアンクローのように持ち上げてしまった。

 このままリンゴを潰すかのような勢いでギシギシと音を立てているが、流石は魔族ということでルシアの頭が潰れることはない。


「痛いです! 痛いですから!!」

「この色情魔が!! 油断も隙も無い!!」

「だって私、サキュバスですから」

「キリッとしてるんじゃない本気で潰すぞ!!」


 こうなっては話し合いも何もない。

 結局その後はシュロウザがルシアと言い合いを繰り広げ、それを賑やかだなとカナタを含め女性陣は眺めていた。

 一応の流れとしてハイシングッズの売り方と展開の仕方については話を詰めることが出来たので、魔界ではシュロウザはもちろんルシアとガルラが主導して売り子も兼任するとのことだ。

 そのような話を終えた後、集まっていた面々は解散した。


「それではカナタ様、私はお先に失礼しますね!」

「おう。気を付けて帰れよ~」


 カンナとシュロウザ、そしてルシアは先に帰りミラもまた背中を向けて歩いて行った。

 カナタは残されたマリアとアルファナを寮に送るため、彼女たちを連れて教会から離れるのだった。


「それにしてもカナタ様? やっぱり多くの人から一目置かれましたね」

「そうね。カナタ君にちょっかいを掛ける連中については色々と考えていたけれどこれはこれで良かったかもしれないわ」

「まあな。なんつうか……変に注目はされてるけど嫌がらせなんかはないしな」


 寮に続く道を歩く中、カナタたちの話題はここ最近の学院でのことだ。

 魔法団体模擬戦を終えてからというものの、グラバルト家のアニスを単独で撃破したという噂はすぐに広がりを見せた。

 トーマやロン、一部の平民生徒はカナタのことを凄いと褒めてくれた。

 反対に貴族生徒たちは嘘だろと言った視線を向けてはくるのだが、教師たちも各クラスで話したらしくカナタに突っかかってくることはなかった。


「ま、これで平穏になってくれるのならありがたいことだよ」


 ハイシンとしての日々が騒がしくなるのは必然だとしても、せめてカナタとして学院生活を送るのであれば静かであってほしい……その願いはこういう形ではあっても実現出来るのであればカナタにとっては嬉しいのだ。


「まあ注目されることは間違いないだろうけどね」

「そうですね。でも私たちはいつだって傍に居ますから」


 そう言ってカナタの手を二人が握ってきた。

 カナタは両手に伝わる温もりを感じながら二人の存在に感謝をし、女子寮が見えてくるまでずっと手を繋ぎ続けるのだった。

 魔法団体模擬戦が終わったことで直近の大きなイベントは終了した。

 マリアやアルファナが言ったようにこの結果を持って少しばかりカナタは注目されることになるのだが、それでも変に絡まれることはないだろうなと思えた。


「あ~、諸君」


 しかし、現実はそう甘くはなかったらしい。

 それは更に数日後のことで、そろそろシドーから頼んでいたものが届くことにカナタがワクワクしていた時だ。

 どこか疲れたような表情をした教師が姿を見せた。


「……なんだ?」


 教師が教室の中に入ってきたが扉はずっと空いており、まるでまだ誰かが中に入って来ることを暗に教えているかのようだ。


「帝国からの留学生を紹介する。突然のことだが……いや、私もビックリしている」


 帝国からの留学生、その言葉に何故かカナタは嫌な予感を感じてしまった。

 そんなカナタの予感を裏付けるように、学院指定の制服を着て姿を現したのは美しい青い髪の女性だった。


「初めましてぇ、アニス・グラバルトという者よ。よろしくぅ♪」


 その涼し気でありながらどこか挑発するような妖艶さを醸し出すアニス、彼女は辺りをチラチラと見回しカナタを見つけてニコッと微笑んだ。


「……マジかよ」


 どうやら別のことでカナタの学院生活が騒がしくなるのは確定したらしい。 

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