求愛されるマリア
「……連休も今日が最終日、色々あったなぁ」
連休最後の日、カナタはこの十日間のことを思い返していた。
序盤はマリアとアルファナ、ミラを連れての帰郷で家族と村のみんなに彼女たちを紹介することが出来た。
そして中盤では体調を崩してアルファナにお世話をしてもらい、後半は今まで特に変わらず王都の中でのんびりと過ごしていた。
「……にしてもあれは……良かったな」
カナタはアルファナにお世話をしてもらった時のことを思い出す。
彼女が部屋に来てくれて会話が出来る程度には持ち直したのだが、その後に起き上がるのすらしんどい瞬間があったのである。
それもすぐに治まりはしたが、アルファナはカナタのことをどうしても見ていないと安心できないらしくその日は泊まることになったのだ。
『もしも私が帰った後にまた酷くなったとしたら気が気ではありません。今日はずっとカナタ様のことをお世話させていただきますからね?』
体調が悪い時に美少女にお世話をしてもらえる、それは男にとって女の子にしてもらいたいことベストスリーに入るのではとカナタは思っている。
しかし彼女は聖女でもあるので、流石に男子寮のカナタの部屋に泊まるのはいかがなものかという考えがあった。
『カナタ様のご実家に泊まったのですから今更ですよ。それに、もしもこういうことがあるかもしれないと思って責任者には既に許可を取っています。割とすんなり許可が下りたのは私も意外でしたが、そういうことなのでもう諦めてください♪』
そんなこんなでアルファナは宿泊した。
ご飯も食べさせてもらい、お湯で濡らしたタオルで身体を拭いてもらい、そして寝る時はカナタの隣で眠りに就いたのだ。
「……ったく、どんだけ献身的なんだよアルファナは」
正しく聖女の慈愛……否、アルファナという少女の持つ純粋なカナタへの想いからの奉仕心、それをダイレクトにカナタは受け止めた。
願わくばまた体調が悪くなった時はそんな時間が来てほしい、なんて願うくらいにはアルファナの存在は大きかった。
『ふふっ、きっと私以外の人たちでも同じことをすると思います。今度もしこのようなことがあったらマリアに言ってみましょう』
流石に王女はダメだろ、そんなツッコミも聖女がこうしてるのだから今更だと笑って流された。
「さ~てと、それじゃあ今日も街中をブラブラ……の前に魔法バンク行くか」
そろそろ財布が軽くなってきたので魔法バンク、つまり魔法によって運営されている銀行のようなものだ。
カナタが配信で得た投げ銭、そしてハイシン様シャツなどで得た収益の全てがそこに保存されている。
「マジで便利だよな魔法って奴は。投げ銭のシステムもこいつのおかげだし」
誰でも持ち歩いている端末さえあれば魔法バンクにアクセスすることが出来、引き出す場合は実際にバンクに向かわないといけないが他の口座に金を移動させることは簡単だ。
配信上で得られる投げ銭システムはそのままリスナーの口座からカナタの口座に送られるだけのシンプルなもの、思えば大金がそれなりに動いているのにカナタに対して接触がないのも不思議だが……もうこうしてずっと過ごしているので今更である。
「えっと、取り敢えず十金貨引き出してっと」
十金貨、つまり十万円と同じ価値だ。
「……にしても目が飛び出る額が振り込まれてやがる」
金貨一枚が一万円、白金貨一枚が十万円、そう考えるとハイシンとしての活動で得た収益というのは本当に凄まじい。
別にもっとお金を儲けようとか考えているわけではないが、自身が金持ちというのは老後の心配も全くない。
「確定申告もないし異世界最高!!」
ある程度の税は納めないといけないがそこまで負担のあるものではないので、本当に稼げば稼いだ分懐が温まるわけだ。
バンクで金を引き出していつものようにブラブラしているわけだが、こうして一人で過ごしているのも寂しいものだ。
「ミラ居るか?」
「ここに居ますよ」
サッと隣にミラが並び、カナタはそれじゃあ一緒に歩くかと提案して彼女との散策が始まった。
「……あ」
「どうしましたか?」
以前にも後から疑問に思ったことだが、こうしてミラが呼べばすぐに現れることにももう完全に慣れていた。
カナタを見つめる視線に悪気は一切ないため、カナタはやれやれと苦笑してミラの頭を撫でるのだった。
「あ、あの……」
「ほんとミラって妹みたいだよなぁ」
「妹……私がカナタ様の妹ですか?」
「あぁ。何だかんだ、マリアやアルファナを除けばミラとの時間も多いからな」
「……………」
私がカナタ様の妹、そう何度もミラは繰り返した。
その後、嬉しそうに笑っていたのでカナタの言葉は彼女にとってとても良い言葉だったのだろう。
「カナタ兄さま……う~ん、カナタ様の方がしっくりきますね」
「俺ももうそっちで慣れちまったわ」
なら兄とか妹は無しだなとお互いに苦笑した。
それからカナタはミラと共に街中を歩いていたのだが、どうもギルドの前を通った時にいつにない騒がしさを感じた。
「何かあったのか?」
「何でしょうか」
ミラと共に建物の中を見てみると、屈強そうな出で立ちをした四人の男女が多くの人々に労われていた。
「まさかあのダンジョンを攻略するなんてなぁ!」
「やっぱりホワイトファングはすげえよ!!」
「それが最奥で見つけた伝説の剣なのか!?」
どうやらホワイトファングというパーティが最難関の一つとされていたダンジョンを踏破したらしい。
今までどこの国に所属する冒険者も突破出来なかったダンジョンらしく、果たしてどこの国の冒険者が一番最初に攻略するのかと注目されていたらしい。
「おそらく彼らが向かったのはちょうど王国と帝国の真ん中に位置しているイリュージョンスパインでしょうか。生息する魔獣も強力で死者も多く確認されていると聞きます」
「へぇ」
最難関ダンジョン、冒険者なら死と隣り合わせだが夢のある場所ということだ。
カナタももしかしたら無限の魔力というチートを使って攻略する世界もあっただろうが、もうカナタにとってはどうでもいいことだ。
「ま、どうでも良いな。行くぞミラ」
「はい!」
カナタとミラにとって彼らの功績には特に興味はないため、二人で仲良く兄妹のように寄り添っての散策を再開するのだった。
「ご苦労だった。まさか我が国からイリュージョンスパインの攻略者が現れるとは思わなんだぞ」
「光栄なお言葉でございます。僕にとって、どうしても王にお目通り出来るほどの功績が欲しかったもので」
「ほう?」
目の前で頭を下げているホワイトファングの面々、彼らの功績は王国のトップ自らが祝福するに値するものだ。
(……早く終わらないかしら」
そんな中、城に戻っているドレス姿のマリアは面倒そうに父と彼らのやり取りを眺めていた。
もし昨日にでも寮に戻っていればカナタと一緒に過ごせるし、何なら教会に赴いてアルファナを手伝うことだって出来た。
第三王女という立場ではあるが、マリアにとって彼ら冒険者の成す功績というものには一切の興味がない……王女らしからぬことではあるが、興味のないことに興味を持てる人間など居ないのだ。
「マリア、表情に出そうだぞ?」
「……これは失礼しました」
兄のユリウスに注意されたが彼も似たようなものだろう。
「こんなものを眺めるよりもハイシン様のグッズを眺めたいものです」
第二王女レオナ、マリアの姉の一人に関してはもう言葉に出してしまっている。
そんな風に退屈な時間が過ぎるのか、何か褒美が欲しいかと王が彼らに提案するとリーダーのマットが声を上げた。
「よろしいでしょうか?」
「うむ、言ってみよ」
以前にカナタを前にした時に見せた王としての情けない姿はそこになく、正に国を背負う強き王の姿がそこにはあった。
王の放つ威圧に負けることなく、マットは大きく口を開いた。
「では、僕にマリア様との婚約を認めていただきたいのです」
その言葉に場の空気が固まった。
当の本人であるマリアはポカンと口を開けて大変間抜けな表情だが、マットは手応えを感じたと言わんばかりに言葉を続けた。
「初めて見た時から僕は彼女に心を奪われています。冒険者として既に成功はしていましたが、それでも僕が欲しいものはいつも彼女でした。だからこそ、ただの冒険者ではダメだと思いこうして今回のことを成し遂げたのです。全てはマリア様への想いによって」
まあ何か功績を打ち立てた時に王女が欲しいという願いを口にするのはある意味よくあることかもしれない。
彼も彼でそのためだけに研鑽を積んで今日という日を迎えたのだろう。
(……っていうか私からすれば初対面なんだけど)
対してマリア、全く彼のことを覚えていなかった。
隣で兄と姉が面白そうに笑っている中、ずっと黙っていた王が口を開いた。
「寝言は寝てから言え。何故貴様のようなものに可愛い娘をやらねばならん」
「……え?」
そしてこの王、かなりの親バカである。
第一王女と第二王女も可愛いと思っているが、それより下のマリアたちに関してはもっと甘々だ。
国と国の繋がりを強くするためであっても、絶対に嫁に出したりするわけがないのである。
「他の願いを口にするが良い。娘はやらん」
絶対的な拒絶にマットは呆然とし、マリアは心の中でパパ好きと口にしていた。
「マリアを嫁に出すとすればハイシン様ほどの者でなければならん、だから諦めるが良い」
マリアは更に大好き愛していると口にした。
マットは悔しそうに拳を地面に叩きつけた。
「……へっくしょ~~~い!!」
カナタはそれはもう芸術なまでのくしゃみを披露していた。
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