残りの休日どう過ごすかね
ロギンの村から帰ってきた翌日のことだ。
故郷で培った大切な思い出はカナタの中でこれからも生き続ける、それだけ強く心と記憶に刻まれる出来事だった。
帰郷を終えて王都に戻ってきたわけだが、まだ連休はあるのでカナタとしては暇な日々を過ごすことになりそうだ。
「……はぁ、シュロウザの奴いきなりでビックリしたぜ」
さて、そんな風に休暇をのんびりしているカナタだが昨夜に唐突な訪問があった。
ロギンから帰ってきたのは夕刻前、寮に戻ってきて風呂から帰って来ると部屋にシュロウザとルシアが居たのである。
『カナタ!!』
彼女たちがどうして居るのかとまず驚いたが、そんな驚きを吹き飛ばすようにまずシュロウザに詰め寄られた。
一体何だと困惑したカナダだったものの、もしかしたらミントのことかもしれないと考えたらその通りだった。
『ミントがお前との間に子供を作ったと報告して来たぞ!! どういうことだ!?』
『そうだよカナタ君! 何故私より先に彼女とズッコンバッコンしたんだ!?』
『ええい! 静まれ二人とも!!』
思わず近くの部屋の男子に声が届いたのではと冷や冷やしたものだ。
シュロウザはともかくルシアの何も隠さない言葉にカナタはドキッとしたものの、もし間違ってサキュバスである彼女とそういうことをしたら搾り取られて死んでしまうのではないかという恐れの方が勝り怖くなったほど。
「……はぁ、本当に疲れたぜ」
そもそもミントがかなり省いて状況を伝えたらしく、それで驚いたシュロウザたちがやってきたというのが真相だ。
ちゃんと詳細をカナタは説明し、彼女たちは安心したように帰って行ったが旅の疲れも相まってカナタはその夜に配信をすることもなく眠ってしまった。
「そこまで気に……するのかなぁやっぱり」
カナタは別にシュロウザとルシアに惚れられていると思ってはいない、気に入られているとは想像が付いているがそこまでだ。
なのでミントのことに関してそこまで気を割いたのはおそらく、シュロウザたちにとって魔族というのは全体的に家族だという認識があるからではないかとそう考えるのだった。
「今日は配信をやるとして……ちょっと暇だな」
カナタは時計を見ながらそう呟いた。
そもそも連休中の予定は里帰り程度しか考えておらず、どこか遠出なども全く考えていない。
『私は城の方で家族と過ごすわ』
『私は教会の方で収穫祭の打ち合わせがあるのです』
マリアは城で過ごし、アルファナは教会が主催する収穫祭の打ち合わせがあるらしく忙しいらしい。
家族と過ごすマリアはともかく、アルファナにとってカナタの故郷に赴いたことが息抜きに繋がったのであれば幸いだ。
「ミラも帝国の方に行ってるしな」
いつもカナタの傍に這い寄る混沌の化身……とは言い過ぎだが、ミラも故郷の方に戻っている。
特にやることもないのですぐに帰って来るとは言っていたが、そういうわけでミラも今は王都に居ない。
『帝国ならではのお土産を買ってきますね! もちろんマリア様とアルファナ様にもです!』
今色々とキナ臭く、カナタにとっても実現するか分からないが誘われている帝国の土産はどんなものか期待に胸が躍る。
「さてと、適当に外をブラブラするか」
暇なら外を散策する、それもまたカナタのルーティンだ。
簡単に荷物を手にして外に出ると、生徒が少なくなった寮の中とは全く違うほどの騒がしさがカナタを出迎える。
学院が長い休みだとしても世間はそうではないため、今日も王都で店を営む人たちは元気に活動していた。
「……そういやギルドってあんまり見たことないんだよな」
そんな街並みを眺める中、カナタはふとギルドを見たいと思い立った。
危険と栄光が隣り合わせの職業でもある冒険者、それに身を置く人々が集まる建物を目指してカナタは歩みを進めていく。
「らっしゃい~!!」
「今日は良いお魚が入ってますよ~!」
「このフルーツはどうだい!」
「お、坊主! 良い肉があるぜ? 小腹は空いてねえか?」
「いただくぜおっちゃん」
ギルドに向かう途中に馴染みの店で肉串をカナタは買った。
モグモグと美味しい肉の味を楽しみながらギルドに向かうと、いつか見たあの冒険者の姿があった。
「……娼館の前で見た兄ちゃんだ」
いつだったか娼館の前で目撃した男だった。
あの娼館の前で見た時はデレっとした様子だったが、こうして依頼の紙を手にギルドから出てきた姿は正に歴戦の冒険者だった。
「特に出入りに制限はない。行ってみるべ」
カナタは物怖じすることなく中に入った。
中に入ると屈強そうな男もそうだが女性も例外ではなく、カナタより背が高く腹筋もバキバキに割れている女性の姿が多かった。
「……ほ~」
正に圧巻の光景だった。
ただの一般人であるカナタを気にした者は誰も居らず、それぞれ仲間内で固まっていたり依頼の掲示板と睨めっこしたりと様々だ。
「まだ昼でもねえのに飲んでんなぁ」
ギルドの建物は酒場のような役割も担っており、まだ昼にもなっていないのに酒を飲んでいる一団が目に入った。
どうやら一角を貸し切り扱いとしているらしく、彼らはおそらく大人数でのパーティを組んでいるのかもしれない。
「今日は良いアイテムが手に入ったからなぁ! みんな飲め飲め!!」
「いただきやす!!」
「よ! 流石我らの団長!」
きっとダンジョンで素晴らしい結果を出したのだろうとカナタは予想した。
もしかしたら結構有名と言うか、力のあるパーティなのかもしれないがカナタにはやっぱり興味はないため、その後も建物の中に居たが特に気になるものはなかったため建物から出るのだった。
「……っ!?」
建物から出た瞬間、正面からカナタは誰かにぶつかった。
「あ、ごめんなさい……」
その声は気弱そうな少年の物だ。
カナタの正面から背中でぶつかってきたということはつまり、誰かに突き飛ばされたということだ。
「おいおい、一般人に迷惑を掛けんなよ雑魚が」
「そうそう、アンタって本当に役に立たないんだから」
「……ごめんなさい」
二人の男女に馬鹿にされる少年の図、カナタはその瞬間にどういう流れかをすぐに理解した。
(出たよこれ、お便りでもあったけどまさか実際に目にするなんてなぁ)
冒険者の中で行われる定番のイベントだった。
こういう場合基本的に見下される側が隠された能力を発揮したりするのだが、果たしてこの少年がそうなのかはカナタには分からない。
結局カナタが何かを口にする前に彼らは建物に入って行ってしまった。
「なんで見下したりするんだろうな。普通に協力し合って労い合えば良いのに」
まあそう出来ないのもまた人ということなのだろう。
今のカナタに出来ることはないのでそのままギルドを後にし、カナタは再びブラブラと街巡りを再開した。
「あら、カナタ君じゃない」
「……うん?」
聞き覚えのある声にカナタは振り向く。
その場にいたのはやはり、カナタの知り合いでもあるカンナだった。
「カンナさん……っ」
仕事が休みなのか、それとも夜に出勤なのかは分からないが雰囲気はオフだ。
しかし、相変わらずの扇情的な格好なのは相変わらずで、その開けた服から覗く谷間を見てしまうとあの時の記憶が蘇ってしまう。
「っ……ど、どうも」
「? あ、そういうことか。可愛いわねカナタ君は♪」
たとえ本番はしていなくても、アレを経験した青少年なら誰でもこうなるとカナタは心の中で呟く。
カンナは男の惑わし方を知っており、カナタのような年頃の少年の可愛がり方もかなり熟知しているはずだ。
「あれ、結構特別なんだけれどね?」
「え?」
「まあ行為の様子を他人が見ることはないけれど、もしも私が今まで相手をしたお客様が見たらきっと驚くんじゃないかしら。それだけカナタ君とした時は私、心を込めて相手をしたのよ?」
人差し指を唇に当て、片目を閉じてウインクをしたその姿は可愛さとエロさを絶妙にマッチさせた表情だった。
「カナタ君はお昼どうするの?」
「特に用はないですね。暇だから出てきたので」
「あ、それじゃあ――」
カンナはゆっくりとカナタに歩み寄り、カナタの腰に手を当てるようにして身を寄せてきた。
体に触れる極上の柔らかさはやはり素晴らしいものであり、ずっと触れていたいと思わせる魔力を備えている。
「ただご飯を御馳走するだけよ。でも望むなら……うふふ♪」
その後、カナタはカンナに昼食を御馳走になった。
流石にあの時のように流されることはなかったが、それよりもカナタは気になることがあった。
「そう言えば今気づいたんですけど」
カナタが気になったのはカンナの服だ。
胸元を開けた服なのはそうなのだが、お腹の辺りに可愛いミニキャラがデザインされていた。
「……それって」
「あぁ。これ可愛いでしょ? ミニのハイシン様よ?」
そう、それはハイシンのミニキャラだった。
これは売りに出されているものではなく、カンナが勤める娼館の娼婦の中で裁縫が得意な女性が居るらしく、その人が作った物らしい。
「これ、娼館の中で流行ってるの。今はもうほとんどの女性がこれを着てるわ」
「……あ、そう」
やっぱり複雑ではあったが、ミニキャラのハイシンはちょっと可愛かった。
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