サポートをする会とは?
「なるほど、ここが主に雑貨が売っていると」
「あぁ。んでこっちが……うん?」
その日、カナタは戦慄した。
隣を歩くミラに王都の更に詳しい部分を案内しているのだが、彼女が傍に居ることに違和感を感じなくなっていることを。
「……………」
「どうしましたか?」
ジッと見つめるカナタにミラはどうしたのかと首を傾げている。
その仕草は彼女の容姿も相まって大変可愛らしいのだが、もう既にカナタの日常に溶け込んでいるミラの姿にカナタは考えることを止めた。
「……よし、次行くど~」
難しいことは考えない、そう切り替えてカナタは歩き出したのだがミラが何かに感動したように固まっていた。
「どうした?」
「あ、あの……あのぅ!」
プルプルと体を震わせながら瞳も潤ませている彼女にカナタは慌てた。
一体どうしたのかと理由を聞くと、その返事はあまりにもしょうもなかった。
「今の……生のハイシン様でしたぁ♪」
「……さよかい」
どうやらたた感動しただけのようだった。
次に行くど~、これは特に意識したわけではないが主にお便りの次を合図する時に使う言葉だったわけだが……まさかこの一言だけでここまで限界化するとは思わずカナタはため息を吐いた。
(……前世で人気の配信者を見る度にチヤホヤされて羨ましいなとか思ってたけど何だろうな。実際に目にすると疲れが出てくるのは気のせいかな)
しかもカナタの言葉一つで自殺までしようとしたほど……大きな爆弾級の荷物を抱えてしまったなと思う反面、センシーに忍び込んでの情報収集能力などには助けられているので無下にも出来ない。
カラスとしての仕事を止めたことで帝国では小さくない混乱があったようだが、それでも血に手を染めるよりは明らかに良いだろうとも思える。
「だが取り合えずミラ」
「はい!」
「お前はどこか別の場所に住め」
しかしながら、いつまでも部屋に居座られるのも気が滅入るというものだ。
童顔でありながらもしっかりと体は成長していて色気を感じさせるし、流石異世界だと思わせる確かな美貌もミラは持っている。
だがそんな彼女であってもジッと部屋に居られるのはごめんだった。
まだ数日ほどではあるのだが、流石にそろそろ住む場所は決めてほしかったのだ。
「そ、そんな!?」
「……なんでそんな風に驚くのか俺には分からないよ」
雷に打たれてしまったように呆然としたミラにカナタはまたため息を吐いた。
そこまでハイシンのことを好きになってくれるのはありがたいことだが、やっぱりあるべき線引きというのは大切だ。
「お前が俺のファンで居てくれるのは嬉しいし、正体を知ったからって言い触らさないのも好感が持てる。更に言えばカラスとしての能力をあの時に使ってくれたのも頼もしかった」
「えへ……えへへ、そんなぁ♪」
「でもストーカーはダメだよな?」
「……はいぃ」
まるで捨てられた子犬のような反応にカナタはグッと耐えた。
取り合えずミラについてはこの王都に住居を構える約束をさせ、何とかカナタの平穏な一人暮らしは戻ってきそうだ。
とはいえ王都に住居を構える時点で既に帝国に戻るつもりはないらしく、更には他の場所に行くことすらも考えていないらしい。
「出来るだけカナタ様のお傍に居たいですから」
そんな風に彼女は笑顔で言ってくれた。
カナタにとって凄く嬉しいはずなのに、そんな愛らしい笑顔を見るとどうしても天井に大の字で張り付いていた彼女を思い出してしまうのだ。
結論、あの時の唾の重みをカナタは忘れない。
「まあ良いか。取り合えず次行くど~」
「……はぁ♪」
「一々反応すんな!!」
そんなこんなで案内の再開だ。
とはいってももうある程度大きな店や生活に必要な物が売っている場所は案内し終えたため、今から昼食を済ませて帰るだけだ。
「ここは……」
「? ……おうふ」
ミラが目を向けたのは派手な建物……そう、娼館ヴェネティだった。
パッと見て娼館とは思えないほどに立派な建物だが、以前にカナタが助けに入ったカンナも務めている有名な娼館である。
「真昼間なのに利用する男性が多いんですね」
「……だな」
マジマジと娼館を利用する男性を観察する小柄な美少女、絵面としてはかなりシュールだった。
「営業してるのは夜だけじゃないしおかしくはないさ。時間に限らず、ダンジョンから帰って来た冒険者たちが癒しを求めてってのもあるだろうし」
「なるほど……へぇ」
だからあまり見るんじゃないと軽く肩を小突いた。
とはいえ、カナタとしても建物に目を向けていればどんな利用客が居るのかも自然と目に入って来る。
際どい姿をした女性と共に一人の男性が出てきたが、そんな男性を見てミラがこんなことを呟いた。
「強いですねあの人……ですがとてもデレデレしています」
ミラに強いと言わしめた男性はかなり女性にデレデレしていた。
別れの挨拶として頬にキスをされ、その瞬間まるで茹でたタコのように顔を真っ赤にしながら彼は手を振って背中を向けた。
「気になるの?」
「まああんな奴も居るんだなって……あん?」
自然と言葉を返したが一体誰だと振り向いた。
聞き覚えのある声だなと思ったカナタだが、そこに居たのはやはりカナタにとって知った顔だったのだ。
「カンナさん?」
「えぇ。あの時ぶりねカナタ君」
娼館ヴェネティに勤める高級娼婦のカンナだった。
相変わらずの美しさと駄々洩れしているのでないかと思わせる色気にクラクラしそうになるが、カナタはキリッと表情を引き締めた。
「……あなたは」
「……………」
そこでカンナはミラに目を向けた。
カナタを挟んでお互いに無言で目を合わせ続けたかと思いきや、うんと二人で頷き握手をした。
「よろしく、カンナよ」
「ミラです。なるほど……そういうことですか」
「えぇ。そうみたいね」
一体何を言ってるんだとカナタが疑問を持ったのは言うまでもない。
その後、カナタとミラは娼館の中に通されひと際ご立派な部屋の中に居た。
「……すっげぇ」
「お金どれくらい掛かってるんですかね」
どうやらここはカンナの私室らしく、あまりにも煌びやかな部屋だった。
一つのテーブルを囲んで三人は座っているが、目の前にあるのはそこそこの高級料理店ですらお目に掛かれないほどの料理が並んでいる。
「どうぞ食べて、私もこれからお昼だったしちょうど良かったわ」
「マジっすか!」
「良いんですか!?」
どうぞと言われたなら遠慮はしない、育ち盛りの子供だからとカナタとミラはカンナの厚意に甘えることにした。
カナタにも配信の投げ銭で得たお金があるので困ることはないしこのような贅沢も出来ないわけではない。だが基本的に平民と変わらない生活をしているのでこういう高級料理は新鮮だった。
「実はさっきまで聖女アルファナ様に会っていたのよ。マリア王女も傍に居てね」
「へぇ?」
「そうなんですか」
どうやらカンナは朝からマリアとアルファナの二人に会っていたようだ。
流石高級娼婦ともなれば何かの繋がりで王女や聖女ともコネクションが出来るのだろうとカナタは思った。
……だがしかし、告げられた内容にカナタは料理を喉に詰まらせた。
「ハイシン様をサポートする会に入れてもらったわ。会員ナンバー三番よ」
「っ……ごほっ……ごほ!?」
突然のハイシンの名前とその内容にカナタは分かりやすい反応を見せた。
ミラが即座に水の入ったコップを渡してくれたので大事には至らなかったが、なんだその会はと聞きたくなるのは当然だ。
「な、なんすかその会は……」
マリアとアルファナがサポーターとなることは聞いていたが、まさかそのようなファンクラブのようなものを作るとまでは聞いていなかった。
というかそもそも、カンナが配信を聴いているというのも初耳だった。
「カンナさんもハイシンのことを?」
「えぇ。私にとって何よりも大切で、そしてどこまでも尊き存在だわ」
カンナはカナタを見つめながらそう口にした。
マリアやアルファナ、ミラと違ってカンナはカナタの真実を知らないはず……だからこそ少しだけむず痒かった。
「……王女マリアと聖女アルファナが……なるほどなるほど」
ミラが何やらブツブツと呟いたがカナタにはあまり聞こえなかった。
それから料理を食べ終え、ミラが少しお手洗いに行ってくると席を外した隙を突くようにカンナがドレスの胸元をずらしながら口を開いた。
「カナタ君、せっかく来たのだから相手……してあげようか?」
「っ……ま、まだ早いので!!」
「あら、じゃあ時期が来たら良いの?」
「……あの……あのあの」
興味のあるお年頃だがいざそんな空気を出されるとカナタはパニックだ。
カンナとしても揶揄うだけだったのか、ごめんなさいと笑って元居た場所に戻るのだった。
こうして娼館での出来事は終わったが、カナタは学院の休み明けに二人にどこまで進めようとしているのか改めて聞いて確かめようと思った。
ハイシン様をサポートする会、それはアルファナが中心となって作り上げた物だ。
全てはハイシンの……否、カナタをサポートし彼がどこまでも伸び伸びと配信を行えるようにと設立したのだ。
最初の内は色々と事情を知る存在のみで固め、後からは際限なく人々を取り込んでいこうとこの聖女は画策している。
「……あら、誰でしょうか」
そして今日、新たに会員ナンバー四番と五番になる存在が現れた。
「失礼します! 私も入りたいです!」
「失礼する。我も入りたい」
「え?」
「うん?」
教会の一室でこれからのことを考えていたアルファナの元に、気配ゼロの状態から姿を現したミラと漆黒の魔法陣から現れたシュロウザ……もう全てがカオスな光景だった。
本来ならば交わることのない聖女、暗殺者、魔王、果たして……。
「よろしくお願いします。全てはハイシン様の為に」
「合点です! ハイシン様の為に!」
「無論だ。ハイシンの為に」
ダメだこりゃ。
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