拡大解釈がすぎるっぴ!
王立学院に突如転入してきた聖女アルファナ。
彼女の周りには多くの生徒たちが集まっており、Sクラスの生徒だけでなく当然他のクラスの者たちも一目聖女の顔を見ようと訪れていた。
「聖女様、一度お会いしたく思っていました!」
「ありがとうございます」
「聖女様! どうしてこの学院へ来たのですか!?」
「社会見学のようなものです……と言いたいのですが、目的がありまして」
どうやら転入生に対して質問攻めにするのは何処の世界も変わらないらしい。
そんな中、カナタは聖女の元に近寄ることはせずにジッと席に座ったまま考え事をしていた。
(……聖女か。王国の中でも最重要ポジションの一つ、それこそ王族に並ぶ権限の持ち主か)
カナタにとって聖女と呼ばれる者に関する知識は人並みだ。
曰く何十年かに一度選定される存在であり、類い稀なる魔力と聖女としての適正によって選ばれる。
若いながらも教会を簡単に動かすことが出来る権限を持ち、更には外交の場にも出るということもあって王族との密接な関係を持つのだ。
「……まさかあの時の女の子がなぁ」
なるほど、確かに力で撃退出来ると言えたはずだとカナタは納得した。
もしかしたらあの時、彼女の頭を撫でたりしたことが不敬罪に当たるとして何か言われるかもと内心ビクビクしていたが、彼女は何もカナタに対してアクションは起こさない。
「ま、俺の顔なんか憶えてるわけねえか。その辺の一般人みたいなもんだしな」
それならそれでどうでも良いかとカナタはアルファナから視線を逸らした。
とはいえあんな風に多くの生徒……貴族生徒たちに我こそはと話しかけられている姿は何とも煩わしそうだ。
彼女の友人と言われていたマリアは公務の為今日は休んでおり、本当の意味で彼女と対等な存在がこの場には居ないのだ。
「アルファナ様、私はロンドール家の次男ゼクトルと申し――」
ロン毛頭の貴族がアルファナの名を口にした瞬間、何やら空気が変化した。
「名前を許可なく呼ばないでいただけますか?」
「っ……申し訳ありません」
アルファナの明確な拒絶にすぐさまゼクトルは頭を下げた。
いつもカナタたちに対して威張り散らす貴族の情けない姿に、カナタだけでなく虐げられる平民生徒たちがざまあと笑った。
もちろん彼に気付かれると面倒なことになるのであくまで心の中でだ。
「にしてもなんでSクラスなんだろうな」
それは一つの疑問だった。
無限の魔力を持つカナタと比べるわけでもないが、アルファナの魔力は膨大とされそれこそマリアと並ぶかそれ以上とも言われている。
それならばSクラスではなくSSSクラスに配属されるのが当たり前だと思うのだが、結局その真相はただの生徒であるカナタは知る由もない。
「ま、俺なんかが関わることはねえか。それよりも今日は何の話をしようかね」
早速カナタは今日の配信内容について考え始めた。
さて、こうやって聖女がクラスに加わったが座学や実習の内容に変化はない。
「ウォータースラッシュ」
魔法の実演、そこでアルファナの実力の高さが披露された。
使う魔法はカナタたちが今の段階で習う簡単な魔法だが、威力も規模も桁違いでターゲットの役目を負う的はボロボロになってしまっている。
「流石聖女様だ」
「すげえ……」
「……何としても気に入られなければ」
そんなことより自分のことに集中しろよ、そう思ったカナタは普通だが貴族からすればそうではないらしい。
やはりアルファナのような相手と親しくなることが出来ればそれは家への多大な貢献と、自分自身の大きな功績になる……だから必死なのだ。
「次はカナタさん、どうぞ」
「うっす」
教師に呼ばれたのでカナタも的の前に立った。
その時、入れ替わるようにアルファナとすれ違ったが彼女はボソッと呟いた。
「頑張ってください心優しき方」
「え?」
「うふふ♪」
……どうやらカナタのことに気付いていたようだ。
おそらく、カナタと直接見える場所で会話をすると他の生徒からのやっかみを受ける可能性を考えてくれていたのかもしれない。
心優しき方、また彼女からそう言われるとは思わずカナタは頬を緩めた。
「ウォータースラッシュ」
的に向かって水の刃を放つと、アルファナレベルではないが綺麗に命中した。
魔力を出来るだけ制限し、当たり障りのない範囲での完璧な魔法にいつものように教師は満足そうに頷いていた。
しかし、教師は喜んで生徒はそうではなかった。
「ちっ……相変わらず生意気だぜ」
「薄汚い平民のくせに」
「何なんだよあいつ……」
カナタが活躍すればすぐに周りの空気が悪くなる。
常人ならばこの空気に耐えられないだろうが、生憎とカナタはそのような言葉に動じる性格はしていない。
好きに言ってろ、そう考えながら元居た場所に戻ろうとしたがアルファナの涼やかな声が響いた。
「薄汚い平民、そう言ったのは誰ですか?」
その声は静かな怒りを纏っているようにも聞こえた。
カナタがアルファナに目を向けると、彼女はその可愛らしい顔からは考えられないほどの鋭い視線をしていた。
「今の魔法はとても素晴らしいモノでした。力でモノを言わせる私とは違い、極限まで精密に練られた魔力……流石です……コホン、私としても見習う部分があったほどです」
アルファナの言葉は更に続く。
彼女が何かを喋るたびにカナタを悪く言った者たちの表情が段々と悪くなっていくのは少し爽快だった。
「この学院では……いいえ、平民だからとそのようなことを言う資格は誰にも存在しません。貴族は決して平民を罵ることが出来る特別な存在ではない……まさか、この学院に来てこのような光景を目にするとは思いませんでした――恥を知りなさい」
「っ……」
「……………」
もう貴族たちはカナタに何も言わなかった。
ただ、唇を噛むその姿は行き場のない怒りを抑えているようにも見える。アルファナに何を言われたとしても、それは全てカナタに対する怒りに変換されるらしい。
「どんだけ嫌われてんだよ俺」
あくまで他人事のようにカナタは呟いた。
魔法の実習はそれから特に問題はなく終わったが、カナタはそれ以降もアルファナと話をすることはなかった。
だが、そんな彼女と話をする機会がまさかの瞬間に訪れるのだった。
「おっすお前ら、待たせたなぁ!」
「よおみんな、始まったぜぇ」
「今日もやってくぜおめえらぁ!」
それはカナタが配信で始めに言う挨拶の練習をしていた時だった。
近づいてくる気配を感じ取り、誰だと思ってそちらに目を向けたのだ。現れたのはなんとアルファナであり、カナタはなんでこんなところにと驚いた。
「あ、先客が居られたのですね。少し学院内を探検しようと思いましてここに来たのですが……ふふっ♪ またお会いしましたね心優しき方」
彼女は美しい笑みを浮かべてそう言った。
人懐っこい笑顔で近づいてくる彼女にはカナタに対する一切の警戒心がない。
まあカナタに彼女をどうこうする気はないし、一応助けた側ではあるのでおかしなことはないかと納得した。
「えっと……あの時の子で良いんですよね」
相手は聖女なので流石にマリア同様に敬語を使わねばならない相手だ。
カナタの言葉に頷いた彼女は少しだけ不満顔を浮かべてこう言葉を返した。
「そうですよ。ですが敬語は必要ありませんのであの時と同じようにしてください。私のこれは癖なのでどうしようもないですが、貴方様には普通にしていただきたいです」
「……そうか? じゃあ普通にするわ」
「っ……はい!」
それならとカナタも敬語はやめた。
しかし、こんなところで王国の最重要人物である聖女と二人っきりで居るのを見られたら大変だ。
幸いに他に人は居ないものの、少しだけカナタは不安になる。
そんなカナタの不安を知ってか知らずか、アルファナは更にこんなことまで言い出したのだ。
「一応クラスの方々のことは情報として頭に入れているのですが、もしよろしければカナタ様とお呼びしても良いですか? 私のことは是非アルファナとお呼びください」
「え? 良いのか? さっき名前を呼ばれて嫌そうにしてたけど」
カナタはさっきの光景を見ていたのでそう聞いたのだが、彼女は笑いながら頷いた。
「貴方様には名前を呼んでいただきたいのです。あのような出会いでしたが、貴方様がとても優しい方なのは分かっています。それにせっかくまた出会えたのですからどうか、私の願いを聞き届けてはくれませんか?」
気が進まないのは確かだが、美少女にここまで言われて頷かないわけにもいかない。
カナタは少し戸惑いは残ったものの、アルファナの名前を呼んだ。
「……アルファナ?」
「ふぁ……はい。カナタ様」
何故か妙にうっとりとした表情を浮かべているアルファナの様子は疑問だが、こうして彼は聖女との関わりを持つのだった。
(やっぱ可愛い子だよなぁ……性格も良くて体もエッチとかパーフェクトすぎんか?)
(名前を呼んでくださったということはこれはもう婚姻の儀を結ぶ了承をしてくださったということでよろしいですよね!?)
厄介オタクは何故か拡大解釈する傾向があるのだが、それにカナタが気付かないのも仕方ない。
聖女が内にそんな欲望を秘めているなど、どうあっても気付けるわけはないのだから。
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