おかしな日記

幻典 尋貴

おかしな日記

ある日の日記を見返すと、書いた覚えのない内容があった。


 『「知ってますか安藤さん」

 教室には対戦ゲームをしている連中が少し残っているだけで、先程の授業中とそこまで変わらない静寂が流れていた。

 山奈先生は綺麗になった机の上を斜めから眺めながら、綺麗になった黒板消しを眺めていた僕に言った。

 「ゲノセデという星には宇宙人がいるそうですよ」

 あの真面目そうな山奈先生の口から宇宙人なんてワードが出ると思っていなかったので、一度裏返った変な声で聞き直してしまった。

 もちろん知らないので、私は「知りませんでした」と正直に答えた。そもそもゲノセデと言う星自体を知らない。

 「まぁ、ゲノセデなんて星は無いのですが」

 どうしたかったんだ、この人は。後ろの奴らも「へ?」と言う顔でコントローラーを動かす手が止まっている。盗み聞きは良くないな。

 「それでは、ごきげんよう」

 貴族みたいな挨拶をして教室を出て行く山奈先生は、スーツの背がチョークの粉で白く汚れていた。』


 まるで小説の書き出しみたいな内容に、文才のない僕が書き得ないものだと思っていた。しかし、よく考えたらこの日記は鍵のかかった引き出しに入れていたし、開ける手段もないはずだ。

 さらにおかしいのは、同じ日記帳が引き出しの中に何冊か増えていて、機械人間になった男のこととか、便利屋のような猫のことなどが書かれている。

 母に話を聞いて見ると、この家には至る所に日記帳が現れるらしい。

 どうやら、過去から未来までのこの土地に住む人の日記らしいが、真実は定かではない。

 

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