古代人の日記

くろぶちサビイ

古代人の日記

 前文明期の人類が書いた日記帳が、地中深くから見つかった。

 耐久性の高い金属製の箱に入っていたため、保存状態は良好である。紙製の日記帳本体も、そこに書かれた文字も、ところどころは朽ちているが、7割程度も残存していた。

 これを見て、考古学者たちは世紀の大発見だと歓喜し、その日記帳を直ちに調査し始めた。


「前文明の言語はすでに解明されているからね」

 一人の考古学者が、スクリーンに映し出された日記帳の写真を見ながら、仲間の考古学者たちに言った。

 その日記帳は1枚1枚に丁寧に分解されて、画像を撮影されてデータとして保存されている。現物は大切に保管して、研究や調査はこの画像データを使って行うのだ。

「ニホンゴという言語のようだな」

「うん」

「日付が読める。3月30日。歯医者に行く。猫のおもちゃを買う…。この時代も人類は猫を飼っていたようだね」

「この時代にも歯医者があったのか。どういう治療を行っていたんだろう」

「お札を飲ませるとかかな」

「キトウってやつかもね」

「翌日の3月31日。これは何だろう…?『オシカツでアキハバラに行く』と書いてあるけど」

「アキハバラは地名だ」

「この『コスプレ』というのは?」

「当時の風俗らしいが、はっきりしたことは分からない」

「『オシカツ』は?」

「これも分からない」

「この日記には、『オシカツ』や『コスプレ』という言葉が何度も出てくる。この日記から、これらが何なのか解明できるかもしれない」

「この日は『ヒトリヤキニク』を食べたとある。『ヒトリヤキニク』とは?」

「『ヤキニク』という食べ物はすでに分かっているから、それの一種だろう」

 考古学者たちは、興味深げに画像を凝視していた。

 一人が言った。

「この日記帳には、文字しか載ってないのか?写真のようなものは?」

「写真はない。だが、絵はある」

「おお」

 答えた考古学者が、画像データの中のそのページを開いた。

 スクリーンに大写しにされる、何かのキャラクターの絵。

「これが前文明人の絵か」

「この時代には、こういう生物がいたのか?」

「謎だ」

「想像上の生物という可能性は十分にある」

「この『ぬこ』というのは何だ?」

「現段階では不明だ」

「『猫』の書き間違いでは?」

「可能性はある。前文明人がどの程度文字を読み書きできていたのかも、まだ研究段階だ」

「そうだな…」

「この日記帳も、残存しているのは7割だ」

「この1冊だけで前文明期のことが全て分かるはずもないが、貴重な資料であることは間違いない」

 そして、古代に対するロマンは膨らむ。

 ひとつひとつの物証の隙間を、自分達の想像で埋めて…。


「『ぬこ』が何だか分かったかもしれないぞ」

「おお!本当か?!」

「ここに記載がある。それによると…」


(終)

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