05 ある兄の葛藤

 彼女いもうとがあの人と再会した。

 それは僕のなかでは、いずれ訪れる未来の話しで――とはいえ、こんなに早く再会できるなど想定外だった。誰かの、それこそナハト兄様の手引きとか? 分からないけど、考えられる線として一番濃いのは彼が一枚嚙んでいることに行きつく。

 あの人の人脈ってすごい分からないし、やっぱり可能性としては一番高そう。セス兄様はあんなだし、姉上は中立領から戻ったばかりだし……時期が合わないから間違いないと思う。

 嫌だな。僕の大切な半分なのに、また、好き勝手されるんだ。大人の都合おもわくで、また泣いてるかもしれない。

 それを考えたら、ふつふつと腸が煮えてくる。

 僕はあの頃よりずうっと大人になったのに、肝心な時に守ってやれない。それは兄として、いいや、一人の男としていかがなものかと思う。

「お帰り、カノン。ごめんね、あれから寝ちゃってたみたいで」

 そう言って恥ずかしそうに下肢を覆う彼女。

 ねえ、どこの男と寝たんだい? どれだけの見返りがあったんだい?

 そう問い詰めたかったけれど、どことなく満たされた様子を見せる姿に、おおよその事柄は察せた。

 どうして僕じゃ駄目なんだい?

 そう言葉にして詰め寄るのは、彼女に哀しい表情をさせるから、僕はそっと溜飲と一緒に飲み下した。

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