04 傍から見ればよきことかな

 彼とふたたび遭遇エンカしたのは、冬が終わり、新しい年の春。たった数回しか遭遇できず、ろくに話したことの無い私を、数多いメンバーのなかでも、覚えていてくれたようだった。年が開けたことを祝う言葉も、何も、こんなに嬉しく思ったのは初めてだ。

 年甲斐の無い、と思うだろう。けれども、彼の前での私は、まるで恋を知ったばかりの生娘しょうじょさながらなのだ。どんな話題なら楽しんでくれるだろう? などとあれこれ探してみるも、これが意外と見つからない。

 見つけられずに行きつくのは、彼の得意な分野の話題だ。私はそれを耳馴染んだ音楽でも聴くように心地よく聞いて、稀に意見を返し、ふたたび相槌をうつ。そんな他愛ない時間が緩く流れていると、時間そのものを忘れてしまうものだ。

「ねえ、そろそろ寝ないとさすがにダメじゃないですか?」

「――お。もうそんな時間か、早いな」

「私がセンチメンタルな気分だったことは忘れてくださいね。それじゃあ、おやすみなさい」

 通話を切って、そそくさとアプリを閉じる。すっかりバッテリーの減った端末を充電しながら、私も布団にもぐりこむ。明日が来るのがこんなに楽しいなんて、この年齢になるまで知らなかったよ。

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