02 知らずの愛

 ひとつだけ、市販品のチョコレートがあった。ご丁寧にもメッセージカードがついていて、その気持ちが本物だと分かるや返すことに躊躇いは無かった。

 だってもう結婚しているし……などとそれらしく振る舞う。夫婦の仲は冷えきっていて、正直お互いに別の相手が居たほうが健全とも捉えられるだろう。

「来てくれたんだ、先生。律儀だね、そういうところ」

「俺が結婚してるの知らないの、お前だけだからな」

「いいよ。慣れてるから」

 そう言って静かに泣いた彼女は、とても慣れているようには見えなかった。むせ返るようなチョコの甘い匂いに、ほんの少しの現実を加味したら食べ頃なのだろうか。気づいたら、誘われるようにその唇を食んでいた。

「酷いね。そんな気なんて無いくせに」

「でも気持ちいいだろ? 胸の奥がきゅうっと締まってさ」

 互いの乱れた息遣いだけが響く。チョコを返すだけだったはずなのに、今日の俺はずいぶんと勝手が過ぎるな。脱がしかけた制服も、悦びに滴る蜜が染みた下着も、余すことなく見られるのは今日だけなのだから。

 ――好きじゃないけど 愛してるよ

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