満たない、足りない

水沢

01 気の利く女

 ふう……。

 熱気とどことなく気怠い空気が漂う部屋に、男の吐き出す紫煙だけが燻る。先ほどまでの感情の荒ぶりと身体から吹き出す汗、こごった熱と体液を酌み交わしていたのが嘘みたいだ。冷たいシーツの上でそのまま寝入りそうになって、手元から取りあげられる吸いかけの煙草。

 彼女はいつも気づいて煙草を揉み消してくれる。実に気の利く女だ。かと思えば、余韻に浸ることもなくきっちり身支度を整えているではないか。なんとも可愛げのない女だ。そんなところも、気に入っているのだけれど。

 この心地よい時間もじきに終わるのか、と誰になく独りごちる。いつも通りに始まって、いつも通りに終わる。そこに「好き」とか「愛してる」など無くて、ただ「貪りたい」という我欲だけが確かに存在している。

 それを互いに突きつけあい、深く深く刺し合う。どちらかが頂に上り詰めるまで――それは何度も執拗に繰り返される。実に身勝手な関係だ。付き合うなどと馬鹿らしい。ならば、都合よく会って、酒を嗜み、楽しめる相手のほうがずっといい。

 そう思うのはいつからだったか。自分が結婚などとは無縁だと理解したからだろうか。もう、覚えていない。

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