第102話 アンとのデート

翌朝、ノック音がしたので、部屋の扉を開けると、扉の前にはアンが立っていた。いつものメイド服に、髪の毛もいつものように、以前に俺がプレゼントした櫛でアップ気味に纏めている。


「じゃあ、行こうか?」

「はい、ご主人様…よろしくお願いいたします」


そう言って、腕を差し出すと、アンが腕を組んできた。そして、これも、いつものようにグイグイと、大きな山を押し付けられるが…。今日は、デレデレしないように気をつけないとなあ。


今日は1日、アンと二人っきりのデートだ。昨日の夜に、以前の埋め合わせとして話していたデートを1日ずつしようと話した。二人がじゃんけんで順番を決めた結果、アンが先、ルカが後になった。


じゃんけんが、こっちにも全く同じ名称とルールで存在していたのに驚いた。ただしグーは鉄甲羅亀アイアンタートル、パーは強酸粘生物アシッドスライム、チョキは剣爪熊ブレイドベアだったが。


「アンはデートの行き先について、何か希望とかある?できる限り、アンの希望に沿いたいし…」

「そうですねぇ〜1つはぁ〜ありますがぁ〜それは〜最後でぇ〜いいのでぇ〜まずはぁ〜ご主人様ぁにぃ~任せますぅ~」

「そっか、わかった。じゃあ俺も、1軒目に行きたいところがあるんだけどいいかな?」

「はぁい〜」


1軒目は、そう、服屋だ。折角なのだから、余所行きの服を持っていても良いだろう。昨日のウチにリサーチしたのだが、貴族が来ることを見越してか、ロクフケイに出店している服屋が、このレスタにも軒を連ねていたのだ。


「ご主人様ぁ〜?こちらは?」

「服屋だよ」

「服ですかぁ〜?」

「アンにプレゼントをしたくてね、さぁ入ろう?」

「え?えぇ〜ここぉ~貴族も使うようなお店ですよぉ〜?」

「大丈夫、大丈夫」


ハンター階級7凄腕は、貴族の身分が必要となる場面では、上級貴族と同等の扱いをされる。昨日の、あのホテルの対応が単におかしかっただけだ。


普通なら、高位のハンターは、貴族御用達のお店にも入れる。格好が貴族とは違うので、ハンター証の提示は必須だが。もちろん、庶民とも違うので、こうした格好で、堂々と貴族の店に入るのはまともな店なら「あー、ハンターだろうな」と思われる。


お店に入ると丁寧に提示を求められたので、ハンター証を見せる。すると、まもなく奥からちょっと年配の女性がすっ飛んできた。


「いらっしゃいませ、ハンターシダン様。この村には、昨日からいらっしゃっていると聞き及んでおりました。本日は足を運んでいただき、ありがとうございます」


普通は、こういう対応をされてしまう。これはこれで面倒だから、望んではいないんだけど…。店に入れないと服も作れないし、追い出されるよりはましだから諦めることにする。


「本日は、どのような御用でしょうか?」

「彼女…俺の恋人なんだが…彼女に似合う、余所行きの服を作ってほしい」

「用途はどのようなものになりますか?」


恐らく、ハンターへの対応も慣れているのだろう年配の女性は、服の使い道を聞いてきた。ハンターの場合は、何らかの夜会に参加するドレスかもしれないし、旅装の場合もある。使い道を聞いてきたのは、貴族よりも、服の用途を幅広く求められるからだろう。


「彼女もハンターなので、貴族に呼ばれてパーティーに出たり、馬車で街を回ったりするための服ではなく、動き易さを残した、お洒落な服が欲しいんだ」

「なるほど。わかりました。では、採寸しますので、こちらへどうぞ」


奥から採寸担当だろう女性店員が出てきた。アンはその女性店員に連れて行かれ、奥の採寸室に入っていった。


「ハンターシダン様、お待ちの間に、こちらの方など如何でしょう?」


おっと。まだ最初の年配店員さんがこの場に残っていたみたきだ。そして年配の店員さんは、俺にアクセサリーを勧めてきた。うーん。やり手だなぁ。


「こちらなのですが…魔法道具マギーツールになっているアクセサリーです」

「へぇ〜」

「ハンターの女性へのプレゼントはもちろん、貴族女性の自衛のために、プレゼントされる方もいらっしゃいますよ」


並んでいるアクセサリーには、すぐ横に説明書きが置いてあり、効果などが書いてあった。防御系統第一階位硬化ディフェンス魔鋼貨3枚、氷属性第二階位氷盾アイスシールド魔鋼貨10枚。


ちなみに、昔ロゼッタに上げた腕輪。あれは肉体系統第5階位の疲労軽減ワンモアファイトというのがかかっている。


疲労軽減ワンモアファイトの腕輪も、魔法を使うアンにもプレゼントをしたいところだけど、あれ軽減する魔法と使い手を指定しないとダメなんだよね。使い手の指定はともかく、多彩な魔法を使うアンにはあまり向いてないのだ。


ちなみに疲労軽減ワンモアファイトは、魔法として使うと軽減分より、この魔法による負担の方がデカいので、自分では使わない。味方の援護や肩代わりに使うのが正しい使い方だ。


魔人族マギーの女性でしたら、これなんかはどうでしょう?」


そう言って年配の女性が、出してきたのは、金色の宝石を携えた指輪だった。とは言え『魔人族マギーの女性でしたら』なんて前置きするということは、当然のごとく、魔法道具マギーツールなのだろう。


肉体系統魔法フィジカルブランチングマギー第二階位、体力譲渡トランスファーとエネルギーを貯める性質を持った魔石獣カーバンクルの額の石を使った魔法道具マギーツールです。石から一定程度、体力を引き出すことができます」

「石は使い切り?」

「いえいえ。毎日、周囲の魔力を吸ってエネルギーにします。使えば空にはなりますが、また勝手に補充されます」


めちゃくちゃ便利じゃん。値札を見ると…魔鋼貨20枚って、わーお。とはいえ、妥当な値段ではあるし、買えないこともない。彼女の戦闘方法を考えても、将来一緒にハンターとして活動するのだろうから、かなり欲しい。


「それは、欲しいな。彼女に合わせて調整してくれる?」

「わかりました。すぐに調整してきますね」


※※※※※※


「似合いますかぁ〜?」

「……」


蒼を基調としたワンピースタイプのドレス。シルエットには白のフリルがあり、ところどころに金色の刺繍が施されている。アンの目の色と合わせたのだろう。


ぎりぎり膝下くらいまでの膨らんだスカートがなんとも、可愛らしさと艶っぽさの間を突いていて素晴らしく似合っている。


「あのぉ〜?ご主人様ぁ〜」

「………可愛い…」

「へ?」

「すげー似合ってる…めちゃくちゃ可愛い…」

「ふわぁ〜」


俺のストレートな言い方に、顔を真っ赤にしたアンは、顔を隠すように俺の右腕に抱きついてきた。


「ご主人様ぁにぃ〜そんな風に言われるとぉ〜おかしくなっちゃいますぅ〜」

「いや、だって可愛いんだもん」

「へへへへ〜」


ギュッ、と腕に抱きついてくるアン。顔を俺の腕に押し付けているから、表情は見えない。が、隠しきれていない耳が真っ赤になってるので、想像はつく。


「ご主人様ぁ〜ほかにぃ〜何かプランあるんですぅ〜?」

「ん?ああ、貴族向けの店に、気になる店があってさ、そこに行こうかなぁと」

「うん〜すごくぅ〜いいですねぇ〜でも、そうなると馬車が必要じゃないですか?」


先程の服飾店は、商人も来る店だったから大丈夫だが、完全に貴族向けの店となると徒歩で行くわけにはいかない。


「ああ、だから手配してあるんだ」


と指さした先には、毛並みのいい馬と黒がメインで派手さはないが明らかに作りのいい綺麗な馬車。ここは馬車を手配してくれる店で、昨日のじゃんけんで順番が決まったすぐ後に、急いで予約をしたのだ。


小綺麗な店に入ると、昨日の慌てて予約を受付したときに対応してくれた中年男性がいた。


「昨日、予約した、シダンですが…」

「シダン様ですね、はい、ではこちらになります」


案内されたのは、やはり先程、店前にあった馬車だった。アンを先に乗せてから、続いて乗り込む。座ってみると、なかなか座り心地のいい椅子だった。どうやら、クッションがかなり効いているようだ。


アンと俺が座ると、中年の御者の男性が扉を締めてから、前の御者台に乗って、話しかけてきた。


「どちらに行かれますか?」

「オールマートまでお願いします」

「オールマートですね、わかりました」


馬車の中は広いのに、アンは、俺にぴったりとくっつく様に隣に座ると、俺の肩に頭を乗せて、寄りかかってきた。可愛い…。


「ご主人様ぁ〜オールマートってなんですかぁ?」

「昨日、いろいろ探していたら見つけてね。ま、見てのお楽しみかな?」

「わかりましたぁ〜楽しみにぃしてますぅ〜」


石畳がかなり滑らかなためか、馬車の揺れは気にならなかった。スイスイと進む馬車が10分ほどで、オールマートに辿り着いた。


かなり立派な店構えの店で、見る限りなんの店かは伺いしれない。入口には、豪華な馬車が多数つけていて、かなり繁盛しているのが伺える。


「ふぇ〜ここがオールマートですかぁ〜」

「うん。そうだよ…さ、行こうか」


馬車から降りようとするアンに手を差し出さてエスコートする。俺の手を握るとき、アンが何とも嬉しそうな顔をしていた。


「どんなお店かぁ〜楽しみですぅ〜」


ドアボーイが扉を開けると中は、綺羅びやかな世界が広がっていた。天井のシャンデリアがキラキラと照らす室内は、かなりの広さがある。


ガラスに覆われたショーケースには、宝飾品や、化粧品、魔法道具などが並べられていた。


「ふぁ〜いろんなものがぁ〜置いてあるんですねぇ〜」

「でしょ?見て回るならこういうのが楽しいかなぁと思って…ね」


そう言って、右腕を差し出すと、アンはまた抱きついてきた。腕によりをかけ抱きつかれる度、腕にムニュムニュのとても大きなやつスイカップが押し付けられて、我慢をしきれず、ニヤニヤしてしまった。


その後は、あれが欲しい、これが見たいというアンの言われるがままに店内を見て回った。アンといちゃいちゃできて最高の時間だった。

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