第91話 ハンターVSハンター

「悪いがシダンを取り巻いている状況を、俺も全部把握はしていない。が、少なくともいま起きてることに関しては、言えることがある」

「なんでしょう?」

「副本部長が、俺を目の上のたんこぶと思い、クーデターを企てたのだ。だがハンター協会は戦力が渦巻く場所だ。その中でも特にシダン、お前は義足とは言え、それでも今のところロクフケイ本部のトップだ。となるとだ」

「副本部長が、何らかの手段で俺を排除しにかかったと…」


ということは、俺が騎士に追われたりしているのは、そのためなのか?いやいや、そもそも何故、カペルというやつは、武器屋ごときに俺を監視するように言っていたんだ?わけがわからない。


「だああああ!もう!わかりました!」


俺の思考回路は、ショート寸前だ。こんな状況にしやがったクーデター勢力を今すぐにでも、ぶっ飛ばしたい。


「副本部長は、いつかどうにかしなきゃとは思っていたので、本部長に乗りますよ!」

「悪いな…そちらをどうにかしている間に、シダンが抱えている件も調べて対応しておくからな」

「お願いしますよ…」


それはもう当たり前だよな。じゃなかったら、完全に働き損じゃないか。階級が上がると面倒なことばっかり増えている気がする…。


「旦那様がこの話を受けるのなら、妾も全面的に協力するのじゃ!」

「私もぉ~微力ながらぁ~ご主人様ぁ〜のぉ~ために頑張りますぅ~」


アンとルカが、すぐに声を上げてくれた。何というか、俺の味方をしてくれるだけじゃなくて、それをすぐに口にしてくれるのは、安心するなぁ。


「ルカ、アン…ありがとう…」

「ふふ。当たり前なのじゃよ!」

「ルカ、それなら早速なんだけど、この建物に結界みたいなのものを張って、中の連中を外に逃さないようにできる?」

「ふふふ、それは旦那様!妾に任せるのじゃ!だから…んー」


突然、ルカが目をつぶってくちびるを少し尖らせて、俺に突き出してきた。これって…。


「えーと、ルカさん、なんのマネですかね?」

「もちろん接吻じゃ!」

「ごめん…前後の脈絡が見えない…」

「旦那様、古代魔法エインシャントマギーの魔力は、精霊族自身の体から供給されるのは知っておろう?」

「うん。知ってはいるけど」


14年前に、生え揃ったばかりの髪を根こそぎ刈られたしな。


「ということで、古代魔法エインシャントマギーを強化するのは、もちろん精霊族エレメンタルの体をさらに使うのじゃが、流石に、この建物全部となると負担が大きいのじゃ」

「そこまでの説明はわかった…ルカとキスするのとどう繋がる?」

「唾液じゃよ?」


意味がわかってきた。俺の唾液をエネルギー源として補給しろ、と。だからキス?


「つまり、精霊の身体に近い俺からも、魔力の源になる唾液を出せ、ということね」

「その通りじゃ!旦那様の体を取る訳にもいかんからのう…となるとまた髪の毛をハゲにするか、体液を頂くかなのじゃが…」


もう流石に刈られたくない…俺だって外見を気にするのだ。ハゲはイヤだ…。


「…何らかの体液…」

「ここで旦那様に抱いてもらって、旦那様の体液を注ぎ込んでもらうのが、1番効果的なのじゃが、さすがにそれを、この場で、しないくらいの良識はあるのじゃ。でも、汗だと量が少ない。となると唾液が1番なのじゃ」

「なるほど…なるほどなのか?」

「ということで、旦那様、チューなのじゃ!」


ま、恋人なんだから、別にキスくらい構わないか。そう思った直後、あっさりそれくらいと、簡単にキスをしようとする自分の思考に驚いた。


思い返してみると、さっき2人に抱きついたときに受け入れられたからか、俺の中のタガが外れてしまったのかもしれない。


ルカは俺を好いてくれているし、俺から見てルカはひどく魅力的な恋人だ。我慢する必要なんかないじゃないか。何せ、向こうが望んでいるくらいなんだから。


頭の中で、そう結論付けた俺は、再度、口を軽く突き出してきたルカの顔を両手で優しく挟むと、そのまま自分の唇を、ルカの桜色の唇に重ねた。


「!」


ロマンチックさの欠片もねーな、とか思いつつ、少し開いたルカの口腔内に、舌を侵入させて、唾液を流し込む。


「〜ッッ!!」


ルカの目が何だかトロン、となってきた。顔は真っ赤だし、熱っぽいように見える。


俺はそれに全く、構わず、遠慮気味なルカの舌を、自分の舌で絡めとる。そして、こっちの口が乾くまで、絡め、流し続けたあと、ようやく口を離した。


俺の口とルカの口の間を名残惜しくも繋いでいる糸が、妙に艶かしく感じた。


「ルカ…これで足りそうか?」

「…………」

「ルカ?」

「ひゃうわ!」


ルカはボーッとしていたが、俺に何度か声をかけられて我に返った。…いくらなんでもやりすぎたか…俺もさっきの感触を思い出して、照れくさくなってきた。


「ご…ごひゅじんひゃまぁ〜だいたんすぎですぅ〜」


アンは、顔を真っ赤にして、両手で顔を覆って、目を丸くしている。呂律も全然、回っていないし。


「ま、ま、ま、ま、ま、ま、ま、まか、まかせ、せるのじゃ…人・移動・困難マン・ラド・ハガル


ルカはもっと動揺していた。しかし、震える声ながら古代魔法エインシャントマギーを唱えると、パキキキ、と、凍る音がした。


本部長の部屋の窓から外を覗けば、周りが見えなくなるほどの厚さがある氷が、ハンター協会の建物を覆っているのが確認できた。


「治療院まで含めて覆っておいたのじゃ!」

「ルカ、良くやった!氷が溶ける前に、クーデターした連中を捕獲しに行こうか!」

「う…うむ」


ルカにそう声をかけると、顔を真っ赤にして顔を背けながら、そう返事をしてきた。ルカの照れまくってる態度を見るたび、こっちも益々照れくさくなってきた。


本部長は、気を利かせてくれたのだろう、ずっと窓の方を向いていてくれた。


※※※※※※


大階段を降りた一階で、待ち構えていたのは、俺とルカで場外ホームランにした龍人族ドラゴンニュートの青年、マクセルだった。副本部長がクーデターのメイン戦力として呼び寄せた、ハンター協会でも最強と名高い男だ。


やつの名前は、俺も知っていた。が、昨日は、単に名前と本人が結びついて居なかった。


マクセルは、世界にたった10人しかいない、階級8のハンターだ。しかも、若干25歳という若さで到達したのだから、世界でも屈指の有名ハンターとも言える。


マクセルは階段から降りてきた俺の顔を見るなり、憤怒の形相で怒鳴り散らしてきた。


「俺の女を横取りした、ゲス野郎め!神の鉄槌を食らわしてくれる!」


マクセルの勘違いした宣言に、ルカが両肩を抱えるようにして、首を振った。


「しつこい!貴様なんぞの女になったことはない!いい加減、黙るのじゃ!」

「何を言っている!俺はお前を助けに来たんだぞ!さぁ、俺のもとに帰ってこい!」

「話が通じなすぎる!貴様は心底、気持ち悪い男なのじゃ!何度も言っておろう!貴様なんぞ、髪の毛ほども興味がないのじゃ!うせよ!」

「照れ隠しするなって!」

「〜〜〜〜!!!」


なんだあのクソバカな変態ポジティブ野郎は。ポジティブというか人の話を聞いていないというか。ああいうのは、徹底的に心を折ってやらないと駄目だな。


「ルカ」

「なんじゃ旦那さっ…んんんっ!」


1回も2回も、今さら変わらないだろう。などと内心で言い訳をしながら、俺はさっきと同じように、ルカの口腔内を蹂躙するようなキスをした。


ああ、もうダメだ俺。俺に強く好意を示してくれている可愛い恋人たちに、完璧に溺れてる気がする。ロゼッタとリーゼが帰ってくるまで持つかなぁ…そう考えると、ヒシヒシと彼女たちへの罪悪感も産まれてきた。


今度は、さっきと違って、ルカも俺の首に抱きつきながら、積極的に舌を絡めてきて、実に嬉しそうな顔をしている。


ここまで見せられれば、いい加減、自分の幻想に気がつくだろう。


「な…き…貴様ッ!」

「悪いな…ルカはもう俺の女なんだ…てめぇの出る幕はない…お前が勘違いして、しつこいから、ルカも困っているんだ」


あんれぇ?なんか俺、悪役っぽくない?BSS僕が先に好きだったのにの寝取り役みたいになってる気がする。


「ゆ…許せないっ許されない!許されない!許されないッ!許されないッッ!許されないいいいッッッ!」


地団駄を踏んだマクセルは、ギリギリと歯ぎしりをして、怒りを顕にした。癇癪起こした子供かよ。ルカはドン引きしてる。


雷龍の吐息サンダーブレスだっ!」


まーた、それかよ。龍人族ドラゴンニュートは、とにかく自信過剰なやつが多い。自分の必殺技にも絶対的な自信を持ってるからこそ、懲りもせずに、この技を使うのだ。


ワンパターンのバカが、口をパカっと開いた瞬間、俺は若木の根ルートを這わせて、マクセルの顔を


もちろん、縛り付ければ、口は閉じられる。それでも必殺技の雷龍の吐息サンダーブレスは、発射される。となればどうなるか?


ズドン、という、鈍い音とともに、マクセルの顔面が大爆発を起こした。しかし、プスプスと頭から煙を上げて、顔面を真っ黒にしたマクセルは、それでもまだ立っていた。


(さすがは龍人族ドラゴンニュートと言ったところか…)


龍人族ドラゴンニュート種族特性ミラクル龍人族の誇りドラゴンニュートプライドは、真竜のギフトに似ている。


特性は、吐息ブレス超強化ドラゴンパワー龍鱗ドラゴンスケイル龍の身体ドラゴンボディの4つだ。


超強化ドラゴンパワーは筋力と生命力を30倍にする。反則級の肉体能力で、ほかの特性がなくても、普通の種族はまず敵わない。


龍鱗ドラゴンスケイルは、魔法への耐性と、不変硬鋼アダマンタイトと同等の硬度の龍鱗を体に纏う。鋼鉄製の鎧よりも、頑丈なのだ。そのため、龍人族ドラゴンニュートは自分の肉体に自信を持ち、まず鎧を着ない。


龍の身体ドラゴンボディは、翼と尻尾が生え、空を飛び、尻尾で殴りつけたりなど、実際の龍と同じようなことが、可能になる。


無敵の防御と生命力を持つ龍人族ドラゴンニュートだが、口の中に龍鱗ドラゴンスケイルはない。当然のことながら、ダメージは、そのまま受けるに決まっているのだ。


「へ…へめぇ」

「はは…少しはいい男になったじゃねーか、勘違いストーカー野郎」


いくら龍人族ドラゴンニュートと言えど、口内からブレスを受ければ、大ダメージは逃れられないだろう。見ると自慢の牙は抜けて、頬が裂けていた。呂律もまわっていない。


顔のあちらこちらに出来た裂け目から、自慢の龍鱗も剥がれて落ち、ボタボタと垂れる血は止まる気配がなかった。


「く…くそ…」

「悪いが、容赦は出来ねーな…何せ、俺の方が格下だからな…巨人の指フィンガー


4本の鞭で徹底的に、怪我した箇所を狙う。マクセルとしては、ガードせざるを得ない。まさか普段、龍鱗に覆われて、ガードなんて考えたこともない、王者の種族、龍人族ドラゴンニュートが、縮こまって身を守るなんて、本人も思わなかっただろう。


それにいくら腕でガードをしたところで、龍鱗も無敵ではない。龍鱗の強度は不変硬鋼アダマンタイトと同じ程度。だから、それと同等の硬さを持つ俺の若木の根若木の根には通用しない。


くほぉクソォいちへきいちへき一撃一撃は、そこまでてもないが…かずゅかずがおおすぎて…」


4本の鞭が縦横無尽に襲かかり、スキが全くないようにみえるはずだ。


「悪いな…巨人の槌スリッジハンマー


マクセルが完全に怯んだところで、巨人の指フィンガーの4本で、両手両足を掴む。そして、1度10メートルほど、空中に上げると、そのまま両手両足を掴んだまま地面に叩きつけた。


「へぶぅ」


全く受け身が取れないまま、無防備に顔面から地面に叩きつけられて、マクセルは完全に気を失った。


「ふう…先制攻撃でどうにか出来たな…」

「へへ…なら次は俺の相手を頼まぁ…へへ」


厄介なやつが来たな…。騎士カペルもどうやら結界の中に入ることが出来たみたいだ。

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