第83話 『32食目:メイド手作りのキワイト風定食✕2』
俺が寝泊まりする部屋を案内してもらいながら、アンに、1年前、キワイトで別れてからの話を聞いた。何も言わずとも、アンは俺に歩くスピードを合わせてくれた。
「カトリーヌ様のところ、辞めたの?」
「はい〜。あのあとぉ、後輩を〜育ててからぁすぐに〜ご主人様とぉ一緒になれるようにぃ〜ハンターになりましたぁ〜」
「まじか…」
「
仕事やめてまで、俺を追いかける準備までしていたのか…そこまでされちゃあ、ちゃんと向き合わないと申し訳ない。
ロゼッタの言うとおりだ。ここまで思ってくれている子に対して、不誠実なことはできないよね。
「アン」
「はぁい〜ご主人様ぁ〜♪」
「リーゼたちから連絡受けたなら、知ってるかも知れないが…そのロゼッタ…俺の幼馴染だが、それとリーゼから告白されて、それを俺は受けている」
「はいぃ…」
アンは仕事を辞めて、ここまで追っかけてきてくれたのだ。そのアンに対して、こんな提案をすることをとても申し訳なく思う。
「だから…その…こんな…ものすごく、身勝手な話ですまない…ちゃんと、全員を平等に愛すようにはする…だから…」
「ふぇ?」
「そのアンがよかったら…アンも、俺の恋人になってくれないか?」
「ええええええ!?」
アンがひどく驚いた顔をしている。俺としては、こう言うしかない。いや、かなりのクズ発言の自覚はあるが、もう俺は後に引き返せないのだ。
ほら、さっきハーレム入りを了承してくれたみたいな発言もしてたし、ワンチャン許されないか?
「いや、そうだよな…かなり図々しいこと言ってるのは承知してるけれど…」
「是非!是非ですぅ!私〜ご主人様のぉ〜ハーレムメンバー入りぃさせて貰えるんですね〜!」
満面に喜色の色を出すアン。これって、三股することを堂々と宣言しているんだけど、ホントにいいのか?
「こんな申し出をしておいてあれだけど、本当にそれでいいのか?」
「もちろんですぅ〜!むしろぉ想定内ですぅ〜」
「想定内…」
えーと。なんだろう…本当のこと言うのやめてもらっていいですか?
「だって〜女の子にぃ〜ついつ〜い優しくしちゃう〜、イケメンなご主人様のぉ恋人が1人なんてぇ〜むしろ変だと思いますぅ〜」
これは、褒められているのか、ディスられているのか…わからない。何でもいいや、許可が出たのは間違いないだろうな。
「というかぁ〜リーゼからはぁ〜『アンの身体を使って、ボクたちが留守にしている間、ハーレムメンバーが増えるのを阻止して。シダンはおっぱい大好きだからアンならいける』とぉ〜ミッションを頂いておりますぅ〜」
「そ、そうなの?」
「なのでぇ〜もとよりぃ~ご主人様が私も受け入れて下さるなら〜そのつもりでしたぁ〜よぉ~。よかったぁ〜ご主人様がぁ〜私を〜受け入れてくれて〜」
そこらへんがすでにグルなの?そしてそれだけ信用ないの?俺、おっぱい星人なの?
「いや、その別に増やそうとか、そういう不埒なことをしようとしているのではなくてですね」
「でもぉ結果としてぇ〜女の子がぁ〜こうやってぇ集まっているぅ〜わけですからぁ〜いまぁ〜私に〜三股許してね〜とお願いしてきたぁ〜ばかりですし〜」
「アッハイ」
あ、ダメだ。もう完全に女性陣の尻に敷かれてる。こっちが好きになっちまった時点で、相手の尻に敷かれるの確定なんだよなぁ。
いやな気分では、ないけどね。マリーさんの尻に敷かれてニヤニヤしているキースさんの気持ちが、ちょっとだけわかった気がする。
「さぁて、ご主人様ぁ、荷物を纏めたりぃ〜出したりぃ〜しておいてくださいね。ここにぃ5年は居る予定なんですからぁ〜明日になったらぁ家具とかぁ買いに行きましょうぅ〜」
「そうだね」
「私はぁ〜この間にぃ〜ご主人様のぉ〜晩御飯作っちゃいますねぇ〜」
「お願いします」
アンの料理はおいしいんだよなぁ…あれ…胃袋も握られているな、俺。
※※※※※※
「はい〜ご主人様〜できましたよぉ〜」
「おおお!おいしそう」
白米の飯ことハンと、味噌汁ことソスー。
「急ぎぃだったのでぇ〜簡単なものですがぁ〜」
「いやいやいやいや、充分にしっかりしたものをありがとう!…いただきます」
「どぅぞぉ〜」
ハンの炊き加減はハイ、神ですね。降臨してます。ふっくら、かつ粒立ちハッキリ。だからこのソスーを啜ると、またこの水分と塩味と薫りとコクと、これが良いのですよ。これだけでラコメット何杯でもイケる。
「ご主人様はぁ〜いっつもぉ〜美味しそうにぃ〜食べてくれるのでぇ〜作りがいがぁありますぅ〜」
「いやー、アンのはマジで別格だと思うけどなぁ…俺がとかじゃなくて、単純に美味しいからだよ」
「ふえええぇぇそんなぁ〜まっすぐにぃ褒められるとぉ〜私ぃ〜おかしくなっちゃいますぅ~」
くねくねしながら、喜びを表すアン。
以前、こんな風にアンが反応していたときは、苦笑いをして誤魔化していた気がする。あまり褒めたりすると、距離が近づきすぎる気がして、ブレーキをかけていたのだ。
しかし、はっきりと『恋人』になった今、距離を縮めることにブレーキをかける必要は一切ない。そうだよなぁ、何も遠慮する必要ないんだよ。
「それは、俺が褒めると嬉しい、そういうことだよね?」
「え?あ、は…はいぃ」
「じゃあ、もっと褒めるね…このマーガミンで味付けされた肉も、ハンが進みすぎるし、合間にニームルを食べるとちょうどよいアクセントになってて、ほんとに完璧!」
「はうう!」
「料理がプロなみに上手で、しかもめちゃくちゃ可愛いアンが、俺の恋人なんだもんなー、すごく嬉しいよ!」
「あうあうあう…」
真っ赤な茹でダコみたいになったアンが、両手で顔を覆ってイヤイヤみたいに顔を振っていた。なんだ、この可愛い生物は。
俺も流石に照れくさくて、顔が熱くなるのを感じる。でも、恋人なんだよね?曖昧な関係ではなく、恋人なら、褒めたって、全力で仲良くしたって何も問題なくね?
「それでね、アンのね…」
「す…ストップですぅ、ご主人様ぁ、もう私のぉ許容量を超えてますぅ〜」
「え?でも、全然、褒め足りてないんだけど」
「またぁ〜明日にぃしてくださぃ〜」
「じゃあ最後に…アン、愛してるよ。こんな美味しい料理作ってくれてありがとう!」
「きゅう」
あ、倒れた。
※※※※※※
「
アンの詠唱と共に、発射音、と続けて的が射抜かれる音が訓練場に響いた。
俺はハンター協会にある訓練場で、アンのマスケット射撃を見ていた。いや、惚れ惚れするようなキレイな姿勢による射撃は精度はもちろん、的に当たった際の破壊具合を見るからに、威力も相当なものだ。
でも、なんで、いきなり朝からほれぼれするアンの射撃を見ているかというとだ…。
今朝、アンは、俺の顔を見るや否や、顔を真っ赤にして、顔を背けたり、目を合わせないようにしていた。
いや、褒めすぎたかなぁ、今さら気まずくなる様なものかなぁ、とか反省してた。まぁ、と言うか普段、アンが口にしてることの方がよっぽどだと思うんだけど…。
顔を赤くしながら用意してくれた朝ごはんは、ハンとソスー、ほか香の物として、俺が渡した山菜からニームルを作ってくれていた。
そうニームルって香の物らしい。何と渡した昨日から下準備して漬けてくれていたらしい。女子力高すぎだろ。
酢らしきもので、アクを抜いて、そのまま漬ける、ピクルスのような味付けの山菜だった。これは確かに美味しい。いや、酒が進むわ…あ、いえ進みそうな気がする。
「このニームル、すっごく美味しい。口がさっぱりするから、朝食べるのにちょうどいいね。アン、ありがとうね」
とこんな感じで褒めたら、顔を隠しながら、部屋から出て行ってしまったんですわ。
参ったよなぁ。慌てて、追いかけて、呼び止めて、戻ってきてもらったのはいいけれど、完全に黙りこくっちゃって…。沈黙が続き、話題も思いつかなかったので、
「そういえば、アンってハンターのとき、どんな戦い方をするの??」
と、話を振った結果なんです。前説明が長かったですね。
アンは、
以前、出会ったマスケット使い、ショークは、二属性魔法使いだった。
まず、マスケット本体をほかのタイプの使い手のように魔法道具にする必要がなく、かなり安価になる。
「
ヒュン、と音がして、的に再び弾丸が突き刺さった。
「へぇ。魔法詠唱速度も早いし、バランスもいい。魔法の面は文句なしだね…出会ったときは、攻撃魔法そのものが使えなかったのに、練習したんだね」
「ご主人様ぁ〜にぃ~早く会いたくてぇ〜必死に練習しましたぁ~」
なんちゅう可愛いこと言うの、この子。嬉しくて思わず、ニヤニヤしちゃったよ。
「それにぃ〜私はぁ〜
「だからって生まれつき使えるわけじゃあないでしょ?ここまで練習して出来るようになったんだからすごいことだと思うよ」
「はっ…はうぅ〜」
ほかにも
本来なら風向きや、湿度などに合わせて、そのあたりの調節をするべきだ。しかし、
またドワーフのマスケット使いの場合は、魔法のような微細な調整をするところを、手作業で行うため、さらに時間がかかる。
威力、バランス、コスト、伸び代、あらゆる面から
単に優秀なマスケット使い、というだけではなく魔法使いの中でも、屈指のコストパフォーマンスを誇る攻撃魔法の使い手でもある。
何せ使う魔法全てが初歩的なものばかりなので消費が馬鹿みたいに少ない。それをうまく組み合わせて強力な攻撃としているからだ。
使う魔法は、全て第一階位の魔法のみで、構成されているので、第五階位の…例えば
「
再び、ヒュン、と音がして、先ほどと寸分違わず的弾丸が当たる。魔法としてキレイなだけでなく、何回やっても魔法が安定している。これだけで十分な過ぎる戦力である。
「うん。あとはマスケット本体を、何らかの魔法道具にすれば、さらに強力な射撃ができるね」
あと…これはたぶんやられていないだろうが、銃身にライフリングを入れたり、弾丸の形状を球から半楕円球状に変える…などもできるだろう。変えられることはたくさんある。
そして、最大の違いは
「アン、ありがとう。素晴らしい腕前だったよ」
「ありがとうぅごさいますぅ〜」
「そのうち、そのマスケットを魔法道具のやつにしよう…まずは治療院の仕事に向かおうか?」
「はぁい〜」
良かった。普通に話せるように戻ってる。今後は手加減して、少しづつ慣らすようにしないとなぁ。
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