外伝04話 実質、駆け落ち

ロゼッタがキースさんたちに連れられて、3年が経った。


ロゼッタを外に出したことについて、結局、それでもほかの部族からの嫌がらせが続いた。貴重なギフト持ちを放出するなんて!ということなのだろう。


東方蛮族ダッチア族森人族エルフの方の意思を軽んじるのか!」


親父はそう一喝したので、表だっては、その声がでなくなったが、不満の火はくすぶり続けていた。


そして、ついに、プラトとの婚約が解消されるような話まで出てきたのだ。何と、我が家の中にもこの婚約を反対しだす声があがり始めていたのだ。


その筆頭は俺の兄貴、つまり次期家長であるタケノだ。ギフトこそないが、俺より10も年上で、頭もいい。だから家の中では、両親や俺、ほか叔父叔母従兄弟たちや、その家族なども含み、次期家長になることに誰も反対をしていない。


しかし、俺の家が強くなることを嫌がる勢力が、兄にいろいろ吹き込んだらしい。「俺とプラトが夫婦になって、もしタケノの決定に反対したとき、お前は2人を抑えられるのか」と。


タケノは最初は一笑に付していたが、複数の家から何度も言われているうちに、徐々に気持ちが揺らいで来てしまったようだ。


「兄貴、逆だよ。悪いが、もしプラトとの婚約を反故にされたら、兄貴には全力で反抗するし、一切の協力をしないからな!」

「わ…わかっている。そんなことはしない」


兄貴は、そうは言ったが、どこかまだ疑心暗鬼なようだ。この時点で兄貴と俺の間に溝が出来ているのだから、敵さんもなかなかに優秀だよな。


そんな気持ちを見抜かれたのだろう、俺はある日、両親に呼び出された。呼び出された部屋に入ると、部屋の中には、プラトとプラトの養父母も一緒にいた。


「プラトのお父さん、お母さん、お久し振りです」


そう言って頭を下げる。なんたって、婚約者の父親と母親だ。悪い印象にならないように、まずは挨拶は必須だろう。


「久しぶりだねフォームくん」

「元気そうね、フォームくん」


プラトの両親が揃って返事を返す。一体何で2人がここにいるのか?


「フォームくん、訓練の方はどうだ?」

「先週、師範からは免許皆伝を頂きました」


訓練と言えば、ほとんどの東方蛮族ダッチア族にとっては拳擲トリルの訓練を指す。そうそう、授かったギフトを最大限、活かすべく、子供の頃より訓練は誰よりも必死にやってきたのだ。


「ふむ、やはりプラトは、フォーム君と結婚させるべきだな」

「ええ。私もそう思います」


俺の返事に、そう話すプラトの両親。なんの話だろう?さらに結婚を急がせるようなことが起きたのか?しかし、俺がその疑問を口にする前に、うちの親父が口を開いた。


「フォーム、お前はプラトと一緒に、しばらく武者修行に行ってくるんだ」


※※※※※※


婚約破棄は、俺やプラトと、それぞれの家の家長に対立関係を作ってしまう。それは家にとって致命的なダメージとなるだろう。かと言って、このままでは、それぞれの家長の疑惑が消えない。


…どうやらプラトの家の次期家長にも、うちと同じような工作の手が伸びていたようだ。


ということで、次期家長が家長になり、基盤が固まるまで、しばらく外にいて欲しい、というのが2家の現家長(つまり、俺の親父とプラトの養父)が出した結論らしい。


「ロゼッタが体を張ってくれたのに、3年しかもたないとはな…ほかの一族もウチも救えないなぁ」

「私はフォームくんと一緒にいれれば、ほかに要らないんですけどね…」

「プラトのその一途な愛。ステキ。ありがとう。俺もプラトを愛してるよー!」

「ちょ…ちょっと大きな声出さないでください」


俺たちはすぐに東方蛮族ダッチア族の村を出て、最寄りの街に向かっていた。


街についた後は、ハンターという職業につくことを勧められた。ハンターは、普段から訓練で狩っているようなモンスターを狩ることを生業とする仕事だそうだ。


最初聞いたとき、前世のファンタジーもので見た冒険者的なもんかと思ったら、だいぶ違うようだ。月給制だし、張り出された依頼を受けて〜みたいな自由業ではなく、仕事は向こうから回してくる、要するにサラリーマンらしい。


しかし、サラリーマンと違うのは、ハンターに成れると「ハンター協会」に「国籍」が作られることだ。ハンター協会は世界中にあるため、ハンター協会に籍を置くと、旅に一切の制限がなくなるそうだ。


この世界で二重国籍は禁じられているので、通常、ハンター協会に所属すると、以前の国籍から離脱する必要が出てくる。が、俺らは蛮族だから、もともと無国籍。そんなことを気にする必要がないらしい。


「ええと、この街を真っ直ぐ行けば、ワラカ森林国のオーグという辺境の都市につくらしい。そこでハンター協会に登録をしろって話していたな」

「私は…貴族に捕まらないように気を付けてと言われました。捕まる前にハンターにさっさと成れ、とのことです」

「ああ、治癒魔法って貴重なんだっけか?」

「はい」


治癒魔法はその貴重さと、重要性から、貴族や王族に見つかるとほぼ拉致に近い形で強制的に連れて行かれるらしい。ただ、ハンター協会に籍があれば、手が出せなくなるそうだ。


ハンター協会も、もし治癒魔法の使い手がいたら、スカウトしようとするが、拉致はしない。様々なパーティーから、勧誘はものすごいことにはなるみたいだが。


「しかし世界を自由に旅って面白いなぁ」

「ですよね!ワクワクします」

「何だったらずっと帰らなくてもいいかね」

「それは…よくない気もしますけど…でも、フォームくんと…なら…」


※※※※※※


ハンター協会には無事着いた。東方蛮族ダッチア族は時折、この街に出入りして、狩った獲物を持って交易しているようだ。聞くと簡単にハンター協会まで案内してもらえた。


建物に入ると…やはり冒険者の酒場的なものではなく、市役所の受付、という感じだった。


受付の上にはハンター登録受付、とか、仕事完了報告受付、とか、仕事依頼窓口、など案内の看板が下がっている。俺らは迷うことなく、ハンター登録受付に行った。


「すみません、ハンター登録したいのですが」

「お二人とも?ですか?」


キレイに化粧を施した実に可愛らしい受付嬢は、澄んだ声でそう返してくる。


「あ、はい、そうです」

「では、まず簡単な質問からさせていただきますが…」


まずハンターになると国籍からの離脱と、その後どういう扱いになるのか、ハンターになるためには訓練校に通い、卒業と同時に階級2になること。正式なハンターは階級3以降であること、などすでに両親から聞いた説明をここでも聞くことになった。


知っている、と受付嬢の説明を端折ろうとすると感じが悪いし、うちの両親が間違っていてもあれなので、説明は全て聞いたが。


「なるほど東方蛮族ダッチア族の武者修行ですか。なるば国籍の件は気にしなくて大丈夫そうですね…では訓練校で訓練を積むために、ギフトを鑑定させてもらいます…ギフトはお持ちですか?」

「はい」

「わかりました。では、こちらの鑑定士に、ギフトの詳細を鑑定をさせますので、よろしくお願いします」

「了解しました」

「では、5番のお部屋に行ってください。鑑定士がいますので…」


そんな風に鑑定を済ませて、また受付に戻ったのだが、プラトと俺は、受付のお姉さんにガシと手を掴まれてしまった。


戦闘強化バトルドレスのランクAに、治癒系統魔法素養キュアブランチングマジョリー?すぐにお二人に階級3のハンター証を発行します!」

「はい。お願いします」


ものの数分でこう、交通系ICカードっぽいやつを渡された。表面には、フォーム、ギフト戦闘強化バトルドレスランクA:金剛力ストレングス、階級3、と書かれていた。


プラトのカードを覗き、見たら、同じように階級3と書かれていた。


「それがハンター証になります。仕事を受けるときや身分の証明に使います。特にプラトさんのギフトは貴重です。貴族や大商人が無理やり連れて行こうとするかもしれません。そうなったら、ハンター証を見せてください。それだけで、まず手出しは出来ませんから!いいですね!」

「はい」

「では…最初のお仕事なんですが…」


俺はこうして、ほとんど駆け落ちみたいな感じで、幼い頃から好きだったプラトと2人で旅に出ることになった。

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