外伝06話 『30食目:アグーのコンポート』

「エインシャントトレントってロゼッタは知ってる?」

「ええ。知ってる…というより、私たちは、それを探しに来たのよ!」

「ほんとに?じゃあ、ちょうどいいかも!」


プラトがニコニコ笑顔でそうに言う。プラトって昔から美人さんだけど、磨きかかったよねぇ…やっぱり恋人いると変わるんだね。ほんと自信なくなる。


「ちょうどいいって、どういうこと?」

「私たちエインシャントトレントの木の実を取りに行く仕事を受けていて、準備をしていたんだけど、一緒にいくはずのほかのパーティーが体調を崩しちゃって…」


ふう、とため息をつく。


「協会の事務的には、さすがに二人では厳しいから、ほかのメンバー探してみてくださいって言われていたの」

「なるほど。私もエインシャントトレントのところに行くための仕事をお願いしようと思っていたから丁度いいわ」


そういう事情で、私たち『森狼フォレストウルフ』は、フォームとプラトの二人組『蛮族の二人バーバリアンペア』と共同依頼を受けることになった。


まだ朝方だったので、依頼を受けてから、すぐに私たちは出発をした。


その日はひたすら歩いて、目的地を目指す。目的地までは、2日ほどでつくが、そのため、森の中のどこかで、何回かの野営が必要になってくるだろう。


「プラトが、ちゃんとフォームを捕まえていて安心したよ…私が出たあのときの状況から、私が出ていっても一時的なものだと思っていたから」

「プラトが捕まえたんじゃない。俺がプラトを愛しているから離さないだけだ」


方向を見失わないように、日の向きに気を付けて、歩きながら、ふと雑談を振ると、フォームが胸を張ってそう言う。まぁ、こいつはそういうヤツだよね。


「アハハ。相変わらずお熱いこって」


私があの東方蛮族ダッチア族の村にお世話になっていたときから、フォームはプラト一筋だった。私のことを尊重してくれることもあったが、それは飽くまで『プラトの友達』だからだ。


リーゼが、私たちの会話を聞いてニヤニヤとなっていた。なんか変なこと考えてない?


「なに〜?ロゼッタは、昔、彼のことが好きだったりしたの?」

「それはない。フォームは、悪いやつではないと思うけど…そういう対象としては無理かな…」


全く、ひどい風評被害だ。ゴリマッチョとまでは言わないが、かなりムキムキで、野性的な感じは、ちょっと無理。そういうのが好きな人もいるんだろうけどね…プラトとか。


「あっはっは、ロゼッタひでーな。俺はロゼッタのこと嫌いじゃねーけど、愛してるのはプラト1人だぜ!」

「うーん。その真っ直ぐな言葉だけは、シーくんにも見習ってほしいかな…」


私の言葉に同意するように、リーゼがうんうん、と頷いた。


「なーんだ、そのシーくんっていうのは浮気野郎なのか?」

「浮気はしてないけど、とにかくモテるから、女の子が寄ってきて、それを邪険にできない感じ」

「チートハーレム野郎か〜男の夢だな」


一瞬でプラトの表情が、氷点下になった。


「フォームくん?」

「アーいやいやいや!うそうそうそ!俺はプラトがいればほかにいらないよーあっはっは!」


そんな風にいちゃつく2人の前に、私は静止するように手を出した。そして、口に人差し指を当てて、黙るようにジェスチャーをする。


2人は私の行動の意味を悟ったのか、足を止めて、黙ると、真剣な表情になった。


状況把握サーベイ…うん…前方50メートル先にモンスター。こちらには気づいていないよ…リーゼ…あそこ」

「うん。任せて…ほい」


リーゼが私が指を指した方向へ、正確に投擲斧トマホークを投げつける。ボコォという音がして、そこから落ちてきたのは、投擲猿スリングモンキーだ。


主に樹の密度が高い森に住んできて、樹上から、硬質な樹の実を投擲してくる猿型のモンスターだ。樹の実が硬かったりするので、面倒ではあるが、危険さは低い。適正階級は2だ。


「この森にはどんくらいのモンスターが住んでるの?」

「リーゼ…そういうのはちゃんと事前に調べるべきでしょ…」


投擲猿スリングモンキーに突き刺さった斧を引き抜きながは言う。全く…リーゼは、そういうことは私に任せっきりだ。前もシーくんに任せっきりっぽかったけど。


「この森のモンスターは、主に適正階級2の投擲猿スリングモンキーと適正階級3の毒蔦デッドリーポイズンそして1番階級が高いのが適正階級5の樹上豹ツリーパンサーね」

樹上豹ツリーパンサーって言うのが危ないんだね!」

「適正階級だけで言うとね」

「じゃあ、それ以外だと?」

「普通だったら毒蔦デッドリーポイズンも気をつけなきゃいけない候補なんだけど、気をつければどうとでもなるから、適正階級が3になってはいる」

「気をつけるって言うのは?」

「それはね………」


リーゼが何気なく、近くの樹に手をついた。私はそのとき、リーゼの手にあるを見て、思わず言葉が止まった。そして…


雨傘アンブレラ!」


咄嗟の詠唱が間一髪、間に合った。


リーゼにコップ一杯ほど降り注ぐ黒い液体を私の魔法が受け止める。防御系統魔法ガードブランチングマギーの階位2の、降り注ぐ液体から身を護る魔法だ。あんまり勢いがあると防ぐことができないが。


「その貴女が手をついた樹のところ、変な模様のツタがあるでしょ?それに触らないってこと」

「ううう。ロゼッタごめん…」

「全く…毒蔦デッドリーポイズンの毒はわかりやすい細胞毒だからかかるとそこから腐るから、怖いんだからね!」

「は…はいぃ〜」


ま、リーゼに戦闘任せて、こっちはバックアップと考えると分担はわかりやすくて、やりやすいといえばそうかもしれない。


「フォームと…まぁプラトはわかってると思うけど…気をつけてね」

「うん。ありがとね、ロゼッタ」


優しく微笑むプラト。うん、プラトは癒やしだよね。いつでも優しいお姉さん。フォームみたいなやんちゃなやつは、確かにプラトみたいな子が一緒だと助かることも多いだろう。


「うん、みんな、そろそろここらで野営の準備をしない??リーゼは、どう思う?」

「う、うん。そろそろにしよう!」


プラトがポン、と手を叩きリーゼに聞くと、リーゼはそれに頷いた。この中では、一応、リーゼが1番階級が高いから、確認したのだろう。まぁ、昼から5時間ほど歩きづめだ。そろそろ日が落ちるから、野営の準備をした方がいいのは間違いないだろう。


避難所セーフハウス


防御系統魔法ガードブランチングマギー第5階位の避難所セーフハウス。野営においては最高に便利な魔法だ。


「これでここを中心に20メートル内は『何となく避けたくなる』場所になって、モンスターはまず近寄らなくなるわ。明日の朝まで効果あるけど、あんまり大きな音を立てると魔法の効果が消えるから…特にフォーム!」

「はい」

「あんた、大きな音立てないでね!」

「はい。気をつけます!」


※※※※※※


「さて、晩ごはんを準備するね」

「ロゼッタが作ってくれるの?」


プラトがそう疑問を呈したが、私はシーくんに着いていくと決めたときに、モンスター料理についてもかなり勉強したのだ。


「うん。ちょうどいい食材もあるしね」

「食材が揃っている??」

「まずはこれ、毒蔦デッドリーポイズンの毒!」

「「「えええ!?」」」


驚くのも無理はないが、これちょっと工夫すると、ものすごく、美味しくなるのだ。


「あとは、この投擲猿スリングモンキーが投げようとしていた、樹の実…これはアグーね」

「アグーって…味が全然しないあんまりおいしくない実だって聞いたことあるんだけど…」


リーゼが驚き半分、引き半分でそう言う。でも、味がないから良いのだ。ふふふ。


まずは毒蔦デッドリーポイズンの蔦を傷つけて、毒を採取する。この時、自分に雨傘アンブレラをかけておくことを忘れない。


アグーを切り、皮を剥いて、実を取り出して、食べやすい大きさに切る。そして切ったアグーの実を鍋に入れて、まずは何も入れずにひたすら煮る。すると水分が出てくるので、それを全て捨てる。これを水分が出切るまで繰り返す。


そして、アグーの水分が出切ったところに、次は今度は毒蔦デッドリーポイズンの毒を入れて一緒に煮ていく。やがて毒の色が薄くなり、透明になったら、念のために、もう一煮して完成だ。


「よし。出来た。早速、味見を」

「ええええ!?ロゼッタ!危ないよ!!!」

「大丈夫だから」


一切れ口に入れてみると…甘い!毒蔦デッドリーポイズンの毒は、煮ると毒素が消える。揮発というらしい。理屈はわからないけど、水分より先に毒だけが沸騰してなくなり、信じられないくらい甘い水だけがそこに残る。


で、味のないアグーの水分を抜いたものを、この甘い液につけれていれば、この美味しいものが出来上がるわけ。アグーはしゃりしゃりしてて、食感は悪くないのだ。


伊達に、ブキョウ博国の大図書館で調べてないわよ!ほかにも、シーくんに何か食べさせて上げられるかなーと、調べたり、実際に料理したりしていたんだから。


「ロゼッタ…大丈夫なの?」


リーゼが心配そうに言うので、問題ないよと返す。すると、リーゼは、ホッとした顔になった。何だかんだリーゼは心配してくれるのは、ライバルでもあって仲間でもある、という意識を持ってくれてるんだろうなぁ。


「じゃあボクも貰うよ」

「私も」「俺もー」


みんなが自分の皿に入れて、恐る恐る口に入れていく。が、すぐに声を合わせて「あまーーーい」と大合唱になった。


「あ、これ要するに、コンポートかー」


フォームが何口か食べてから、ボソ、とそう呟いた。ボソとではあるが、私の耳には届いた。


「コンポート?そういう料理があるの?」

「あ、いや、何か小耳に挟んだつーか、果物を砂糖水で煮るのって、そんな名前だったような気がして…アハハハ!」


なんか歯切れ悪い。何かを隠してるのかわからないけど、まぁ大したことでもなさそうだから放っておくか。


「でもコンポートって名前は悪くないかな…じゃあこれは、アグーのコンポートってことで」


いつかシーくんにも食べさせて上げたいなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る