外伝07話 『31食目:豹肉のスイル粉包み焼き』

翌朝、早速エインシャントトレントを目指して歩き始めた。


エインシャントトレントへの道は、このあたりから森を超えて、樹海に突入するため、かなり険しくなる。何せ獣道すらなくなるのだ。


地面はゴツゴツした、木の根と地下茎が地面から飛び出し、土は地面の半分ほどしかない。そのため、足元にいちいち気をつけて歩かないと、危険だ。


足元に気をつけながらも、陽の光りと時間とで突き合わせて、方向の確認は常にしながら進まなくては、進路を見失ってしまう。


何故なら、樹海の中には、同じような樹が無数に生えていて、目印になるものがほとんどないのだ。天然の樹海は、仮にモンスターなどがいなかったとしても人を迷い殺す恐ろしさがある。


「噂には聞いていたけど、ホントに頭がおかしくなりそうね」

「だよねぇ…今の道で合っているのか、ボク、だんだん不安になってくるよ」

「陽の光を見ながら進んでいるから、間違いはないと思うけどね」


そんなに大変ならば、目印などを立てたり、あるいは樹にナイフなどで、印を付ければと普通なら思うだろう。


しかし、過去にもそのようなものを設置したことがあるが、いつの間にか、なくなっているそうだ。何らかの力が働いているのだろうが、そのあたりはまた原因不明らしい。


進路を細かく確認しながら、半日ほど歩き、そろそろ到着するだろう距離を進んだあたりで、今度は霧が出てきた。霧はまずい…陽の光が見えないと、方向感覚がなくなってしまう。


「みんな、一旦、停止して…このまま進むと方向を見失う」


パーティーに警告して、リーゼも頷いたため、霧が晴れるまで、小休止にすることにした。


「参ったなぁ…この樹海は霧が出ると、なかなか晴れないんだよねぇ」

「うーん。でも、どうせロゼッタはそれを見越して食べ物たくさん持ってきてるんでしょ?」


リーゼ…私任せが過ぎるよ。信頼してくれていると言えば、そうなんだけどね。


「一応、過去の例を見て、長くて、1週間晴れなかったこともあったから、4人の2週間分は持って来ているよ」

「私も一応、4人の1週間分は持ってきてるよ」


流石にプラトは、そのあたりちゃんと準備してるみたい。脳筋2人バトルドレス組は、全くそのあたりは無配慮のよう。


私とプラトの2人合わせて、3週間分もあれば、流石に足りなくなることはないとは思う。


「まぁ、気長に待とう?」

「だねー流石、ロゼッタ。ちゃんと持ってきてて助かる!」

「リーゼは少しはそこらへん考えてくれると嬉しいなぁ」

「えーボクが手を出すと却って手間がかかるから、できる人に任せるのがいいと思うんだ!」

「はぁ…」


仕方ないなぁ…と、ニコニコと笑顔全開でそう言われると、何となく許してしまう。同性の私でも許しちゃうんだから、これがもし男の人だったら、デレデレしながら、言うこと聞いちゃうんだろうなぁ。


男の人ってこういう甘えてくるというか、頼ってくる女の子のことを好きになっちゃうって聞くけど…。何だかんだシーくんも、リーゼの面倒見てあげてたみたいだしなぁ。



『…な……み…』



腰を落ち着けるように、シートを敷いたそのときだった。ふと、何かの声がした?いや、声が、したというより、頭に直接響くように聞こえた。


ほかのメンバーの様子をそれとなく見てみると、特に反応している様子はない。状況把握サーベイを発動して、周囲を見回しても…やはり異常は感じられなかった。



『……つ……こよ……』

「!?また!?」



一体、なんなの?いくら見回してもそれらしき姿も見えない。声だけが聞こえてくる。


警戒レベルを上げて、しばらく声を潜める。しかし、結局それ以降、声は聞こえなくなった。だけど絶対に気の所為じゃない。2回も聞こえたのだもん。でも、何も出がかりがない現状では、これ以上考えても得られるものがなさそう。


警戒だけは怠らずに、様子を見ることにした。


※※※※※※


「!」


私がかけていた警戒アラートの魔法の範囲に引っかかったのがいた。


警戒アラートは防御系統第2階位の魔法で、直径50メートル内に、警戒すべきモンスターが入ってきた場合に、術者に知らせる魔法だ。入ってきた方角などもわかる。


状況把握サーベイ

「!!ロゼッタ…?」

「うん。モンスター…3体かな?こっちの方角からだね…スピードと大きさ的に樹上豹ツリーパンサーかな?」


警戒アラートが教えてくれた方角を指す。


樹上豹ツリーパンサーは文字通り、樹上を移動して、上空から襲いかかってくるから気をつけて」


説明しながら、私はプラトの近くに寄る。脳筋2人バトルドレス組は放っておいても、勝手にどうにかするだろう。


来ることを警告までした樹上豹ツリーパンサーごときに、遅れを取るようなメンバーじゃないもんね。


「来る!」


3匹の樹上豹ツリーパンサーは、リーゼ、フォーム、そして私たち2人に襲いかかってきた。


リーゼは、樹上豹ツリーパンサーの前足の爪を躱しながら、右脚の前蹴りでカウンター。脚が樹上豹ツリーパンサーの頭に触れた瞬間、パンと乾いた音がして、爆発した。


鶏体蛇尾コカトリスとの、戦いでコツを掴んだって話してはいたけど、相変わらずリーゼの脚技は、危険すぎる。


首をなくした樹上豹ツリーパンサーの身体が、ドサリ、と地面に落ちた。


フォームは、その牙になんと右腕を差し出して噛ませてしまった。そして、痛い素振りを少しも見せず、噛み付いたままの樹上豹ツリーパンサーの首を左腕でギュッと抱きしめた。


メキメキメキメキと枯れ枝を折るような音がして、樹上豹ツリーパンサーの首がありえない方向に曲がった。樹上豹ツリーパンサーの4本の脚がビクビクビクと痙攣したあと、力が抜けたようにダランとなる。


樹上豹ツリーパンサーじゃ、勝負にならないか…)


「さて、私はと…まずは完全障壁パーフェクトウォール


樹上豹ツリーパンサーの前脚と、牙が、私の完全障壁パーフェクトウォールに弾かれて、ガキン、と音をたてる。


完全障壁パーフェクトウォールは防御系統の第5階位の魔法で、本来は消耗が激しいものだ。しかし、シーくんがくれたこの腕輪があるため、第2〜3階位くらいの消耗で放つことができる。


「お次は…投擲スロー


移動系統魔法ムーブブランチングマギー第3階位、投擲スロー。そこらへんにあるものを飛ばして、相手に当てる魔法だ。数少ない私が使える攻撃魔法でもある。


ただし飛ばすものがなくては意味がない。私は竹の水筒を樹上豹ツリーパンサーに向かって飛ばす。


樹上豹ツリーパンサーはこれを避けずに受けるが…。当たった瞬間、水筒が砕けて、中の液体…先程、毒蔦デッドリーポイズンから採取した毒…が樹上豹ツリーパンサーにたっぷりかかった。


「ミギャアアア!!!!!」


大量にかかってしまった毒蔦デッドリーポイズンの毒に、うめき声を上げる樹上豹ツリーパンサー。毒を受けた胴の部分が、見る見る溶けていき…身体に大穴を開けた樹上豹ツリーパンサーは、ほどなく息絶えた。


「怖ッ!?こんなにヤバい毒なんだ…」


自分のところに来た樹上豹ツリーパンサーを狩り終えたフォームとリーゼがこっちにきた。そして、私が狩った樹上豹ツリーパンサーの死体を見て、揃ってギョッとした顔になる。


「ロゼッタ…これはちょっと…ボクが言うのも何だけど…グロ過ぎない…?」

「うん。倒し方はいろいろあるだろうに、よりによってこんなんはねーだろよ」


そんな言わなくてもいいじゃん。私の場合は、そんに倒すことに特化していないんだからさー。


「それはそうと、ロゼッタ、この樹上豹ツリーパンサーって食べられる?」


リーゼが自分が頭を吹き飛ばした樹上豹ツリーパンサーを引きずりながら、そう聞いてきた。


「うーん。毒はないから食べられないことはないと思うけど…たぶん美味しくないと思うよ?」

「えー?なんで?」

樹上豹ツリーパンサーのことは調べたけど、食用という話はどこにも、書いてなかったからね…美味しくないから書かれていなかったんだと思うよ?」

「えー?それでも試してみようよ?シダンへのお土産話にもなるよー」

「土産話…か…」


食べ物に興味が強いシーくんなら「これは食べてみたけど、こんな味で美味しくなかった」というのも確かに面白い話になるかもしれない。


「よし。わかった…やってみるよ」

「いえーい!面白ーい!」


※※※※※※


リーゼに手伝って貰いながら、樹上豹ツリーパンサーの解体をした。順当に考えると一番柔らかい、お腹か太ももあたりの肉が食べるのに適しているだろう。


リーゼが狩った個体が1番、血抜きが簡単だったので、そこらから腹肉ともも肉を切り取り、まずは炙って塩を振って、味見をする。


「…これは…臭い!臭すぎる!」


あまりにも、獣臭が強過ぎる。しかし、肉質自体はそこまで筋張っていなかったので、やり方次第では食べられないこともない気がする。


「うーん。そうだな…」


まずは、もう少し細かく切って、黄色い脂身を切りはずして、こちらはすてる。そして、赤身樹上豹ツリーパンサーの肉を鍋の底に敷いて、ゆっくり加熱する。するとさらに脂分や肉汁が、溢れてくるので、これをどんどん捨てていく。


「捨てちゃうの?」

「うん。調べたらモンスターの肉の臭みの原因は脂とか肉汁にあることが多いらしいからね。取り除くと臭いが収まったりする…こともあるんだって」

「へー」


リーゼは興味があるようだが、疑問以上のことはしてこない。だからリーゼにはよく作ってあげている。


たまに偉そうに人の料理に文句つけるヤツとかいるけど、はっきりそういうヤツには二度と作らないと決めている。


シーくんは、いつもおいしいおいしい言って、さらに褒めながら食べてくれるから、超大好き。


「脂が出きったら、さらに細かく切って、スイル粉とちょっとの水で溶いたものに、塩で味をつけて、これで包み込むようにまとめてから…焼く」

「……………ギョウザ…いや…シャオピン…か…」

「ん?フォーム?また何か言った?」

「んんんん。いや何でもない」

「???」


何かボソ、と変な単語を口走っていたけど…。何か知っているのかなぁ?まーた何か隠してるみたいだけど、追求しても隠しそうだから、ほっとこう。


火が通りやすいように薄べったくしたら、裏表焼いておしまい。


「特に名前はないので、豹肉のスイル粉包み焼き、ということで、どうぞ」

「おーさすがロゼッタ、ボク、お腹減ったよー」


全員の皿に1つづつ置いて渡す。


「さて、頂きます」


さて一口頂くと…うん。悪くはない。もともと、スイル粉を使うのは、シーくんがよく作ってくれた。前に似たのを作ったときは、水を温めて出た湯気で温めるっていう変わった調理法で作ってくれたんだよねぇ。


蒸すっていう方法らしくて、南方ではよく使われるみたい。北方蛮族イーサマータ族出身のシーくんがよく知ってたよね。


ここでは水がそこまでないから、最後の締めの部分で蒸す代わりに焼いてみたって感じ。思ったより悪くない。脂分を徹底的に捨てたせいか、樹上豹ツリーパンサーの肉も臭みがだいぶ減ってたが…。


「まぁこんなもんだよねぇ。これなら、同じことを突撃猪チャージボアの肉で作れば手間もないし、もっと美味しいもんなぁ」

「ロゼッタ〜それ言っちゃ元も子もないじゃん!あの樹上豹ツリーパンサーの肉をここまで食べられるようにした、ロゼッタの手腕に拍手だよ〜」

「アハハ…ありがとう」

「次は突撃猪チャージボアの肉で作ってね♪」

「ちょッ!?」

「アハハハハ!!」


他愛のない会話で盛り上がれたから、料理はある意味成功かもね。霧は、まだまだ晴れそうにないから、さて、のんびり待つとしますか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る