第49話 悪いのはぁ〜あいつらですぅ〜
依頼を受けるハンターがいなくなるという、現在のキワイトの状態はかなり異常だ。
ハンターは高レベルのギフトを持つ、強力な戦力である。
だからこそ、国家権力に対しては、極力、モンスターの狩り以外の仕事に関わらないことが望ましい。その理念からすると、片一方に、こんな形で肩入れしている今は、かなり問題のある状態だ。
「一応、お嬢様にもう1度確認をしておきたいのだけど。ハンターがお嬢様の依頼を受け付けないという今の状態というのは正常なものではない、という認識でいいんだよな」
つまり、その権力争いの過程も含めて、ハンター協会は、個人指名権の範囲として受けてるのか、どうか、ということだ。それなら、これすら仕事の内の茶番として仕方ないことでもあるからだ。
「はい。正常ではありません。本来は狩りに適したハンターを見極める目を養うことが目的です。ハンターを呼べるかどうかは、対象ではありません」
「さっきの説明からしてやっぱりそうだよねー」
つまりは、ハンター協会側の腐敗。過度な権力との接触か何かか知らないが、シモイシの有利になるようにハンター協会側がお嬢様の邪魔を露骨にしているわけだ。
カナカ村で
「これは、ややこしいことになりそうだな…」
俺は独り言ちだ。
※※※※※※
馬車に揺られて、3時間ほど経つと、キワイトを囲む壁が見えてきた。コーダエと違って、こっちは森に囲まれているからか、モンスター対策が必要なのだろう。
街の入口にも、厳重に兵士が立っていたが、特に検問などはなかった。人を警戒しているわけではないからだろう。
入口をくぐると、綺麗に整備された町並みが目に飛び込んできた。地面は見る限り石畳だ。とは言ってもキレイな石を並べたというよりは、どちらかと言うと、砂利道にも似ている。
「砕石を、細かい砂とかと一緒に敷き詰めて、圧力をかけた…ってところかな?」
砕石舗装とか言うやつだったかな?まだ馬車は、かなり揺れるが、それでも土むき出しよりはだいぶマシになっている。はー、こう見ると、オール土むき出し地面だったコーダエは、だいぶ田舎なんだな。
これは…街中で
そういうときは、地面の表層を走らせるだけなので、別に能力に制限はないが、不意打ちはやりにくくなる。
「シダン様、このままハンター協会に直接行って、いきなり依頼という形でもよろしいですか?」
「それがいいだろうな。変な横槍が入る前にさっさと決めよう」
ハンター協会が、どこまでシモイシについているか、で依頼をねじ込めるかどうかも怪しいところだが…。
馬車でそのまま進み、たどり着いたキワイトのハンター協会は、やはりコーダエの協会よりもだいぶ大きかった。
ただのデカいだけの木造平屋だったコーダエと違い、2階建ての石作りだ。うーん。このあたりは石がよく取れるのかもしれないな。
馬車を協会の玄関に止め、重々しい扉を開ける。流石に昼過ぎだと、人はほとんどいない。これはいいタイミングだ。
暇そうにしている、仕事報告の受付嬢に近づくと、こちらが声をかけるより先に向こうが気がついた。
「ハンター協会にようこそ…それにお嬢様」
「ええ。早速で申し訳ありませんが、彼らに
「わかりました。すぐにやりますね。えーとそちらのハンターの方?」
受付嬢に話を向けられたので、俺は肩掛けカバンをおろして依頼票を中から出した。
「ちょうど仕事完了報告に来たので合わせて手続きお願いします」
「わかりました。では、依頼票と、討伐照明部位の提出をお願いします」
依頼票を渡すと、受付嬢は、中身を確認したあとニコリと笑顔になる。
「お仕事はああ、この
「で、部位が…リーゼ?」
後ろにいるリーゼに声をかける。パワーはリーゼの方があるので、どうしても重めの荷物はリーゼが多くなってしまう。
「おっけー、これね?」
リーゼは、自分が背中に背負っていたカバンから、討伐証明になる部位、
中でも
「何だか、だいぶ大きい牙ですね…って、これもしかして!?」
受付嬢はカウンターの下から虫眼鏡みたいなものを取り出す。そして、
「こ…これ、変異種じゃないですか!?」
「ですよねー苦労しましたよ〜」
「えええ!?見た感じ、ハンター成り立てですよね…やっぱり年齢は二人とも12歳ですよね???」
受付嬢は、俺とリーゼのハンター証をじーっと見て、さらに驚きの色を深くした。
「わ、わかりました。上にも話しますが、間違いなく階級が上がります。お嬢様の依頼も進めておきますので、そこで少々お待ち下さい」
先程から事務員の反応を観察していたのだが、極めて、普通のやり取りしかなかった。それに、お嬢様に対しても何だか妙に協力的だし、特に問題行動をしているようにも見えなかった。
もしかして、今回の狩り祭りの件、ハンター協会の事務方は、シモイシとやらに加担していないのか?
そんなことを考えていたら、まもなく、事務員が戻っていた。
「シダンさん、リーゼさん、初仕事お疲れ様でした。こちらの仕事は終了の手続きをしておきました。お疲れ様です」
「ありがとうございます」
「ハンター証もお返しします。
見れば、ハンター証に書かれた階級が、
しかし、ハンターは、実力重視と聞いたが、ホントにその通りなんだな。逆に実力が認められないとあっさり降格もあるというから、油断しないで、気をひきしめていきたい。
「また
なるほど、こういう場合は、特別報奨に追加されるのか。6月の給料が楽しみになってきた。
「そして、次の仕事についてですが、まずは手続き済ませておきました…こちらに確認印をお願いします」
そう言って、受付嬢が、依頼書をカウンターの上に置き、印を押す場所を指で示した。俺とリーゼはハンター証の印を起動して、依頼書の指示された場所に2人で並べた焼印を押した。
「では、一応ですが、仕事についても説明させていただきます」
「はい」
「仕事内容は、お嬢様…カトリーヌ・キワイト様の護衛。期限は、5日後に開催される
依頼書には、そのあたりが一通り書かれている。受付嬢は、説明に合わせて依頼書に該当してある内容が書いてある場所を次々と指していった。
「了解しました」
「では、よろしくお願いします…シダンさん、リーゼさん…支部長からも、よろしくと伝言を受けてます…私からもですが、くれぐれもお嬢様をよろしくお願いします」
支部長からもよろしく、か。よくよく考えてみるとお嬢様が真っ先に来たのは、事務方がシモイシ側ではないことを知っていたんだな。…教えてくれよ。
先程、抱いた印象通り、このハンター協会の事務方は、少なくともシモイシに加担をしていないし、何なら反対側の立場だろう。
しかし、それでも現状はこの通りだ。うーん、情報が少ない。俺は、そういうのは専門じゃないんだよな。地球で数少ない友達とやったTRPGでも、ハクスラが大好きで、シティアドベンチャーは苦手だった。
かと言って、身に降りかかる事態を放置もできない。シティアドベンチャーでも、情報収集は基本だ…ということで、まずは目の前の情報源、受付嬢に少し顔を近づけて、小声で話しかける。
「わかった。誰に気をつければいい?」
「領主の次男シモイシは、領地側の、ハンター協会との窓口のトップの役職についていますので、注意してください。ほかは、キワイトに滞在しているハンター全員です…っと、話はここまでです」
受付嬢がふと、俺の後ろに目配せをして、話を止めた。扉を開ける音ともに、ハンターらしき連中が中に入ってきたのだ。
少なくとも現在の印象だけで言えば、協会内部は事務方ではなく、ハンター側に問題があるということか。
例えば、ハンターと領主次男で結託して、ほかのハンターを締め出す。などは出来る。次男が窓口のトップの役職なら、そんなのはやる気になれば簡単にできることだ。
ハンター協会は、仕事を領地から請け負っている。
だから領地が仕事を出さない、とすればキワイトでの仕事はなくなる。次男は、領地側の窓口トップだから、そんなことは簡単に出来るだろう。
協会側としては、ハンターを遊ばせておく訳にもいかないため、別の場所の仕事を回すしかなくなる。するとハンターは、協会からの業務命令にしたがって、外に出ていく。
が、次の仕事を入れられる前に休職なり、休暇なりを入れて、ハンター協会から仕事を出されない状態にすれば、キワイトに留れるようになる。
次男が囲っているハンター以外がいなくなったところで、狩り祭りの依頼を出すわけだ。これでほかの候補者は狩り祭りに参加できない。
もちろん問題はある。何せその期間中は、狩り続けることで適正な数に抑えるべきモンスターを狩らないのだ。領内のモンスター被害は増えるだろう。
「休職を出すという手まで使ってるかわからないけど、ある程度、可能性あるんだよね」
(シダン様、流石です。金に困ってる低階級ハンターに、それなりのお金を渡して、シモイシはこの状況を作ったと思われます)
お嬢様が俺のボヤキに、ヒソヒソ声で賛成を示してきた。
これで、エゴカワ道沿いの村が荒れていた原因もはっきりした。要するに、狩り祭りのために、普段の狩りを止めていたのだ。街道沿いではあまり見かけない野盗なんてものが居たのもその影響かもしれない。
いや、野盗は、もっとシンプルにシモイシからの刺客かもしれないけどね。
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