第48話 依頼しますぅ~
野盗に人権はない。
殺したら、むしろ褒美が出るくらいの存在だ。そのため、話を聞いておきたいボス格以外は、連れ歩くもめんどくさいので、俺の
キワイトの街に連れて行ってもかなり拷問された挙げ句、時間を掛けて殺されるだけなので、ぶっちゃけこれは慈悲でしかない。
俺にとっては、初めての人殺しとなったが、そこまで強い忌避感はなかった。度々、ハンターの先輩から「野盗強盗の類は人と思ってはいけない。喋ることができるモンスターであり、慈悲も不要」と言い聞かされていたからかもしれない。
野球セットを失ったボス格は縛り上げて、完全に動けなくしておいた。
一通りの処理が終わったところで、お嬢様、こと、カトリーヌ様は、一緒に馬車で行かないか?と誘ってきた。横転している馬車は、リーゼが軽く元に戻した。相変わらずの怪力だ。
紐でグルグル巻きにした野盗のボスを、後方の荷台に積んでおき、俺とリーゼはお嬢様のお誘いに乗って馬車に乗らせてもらうことにした。
お嬢様は公務…周辺の村の視察…をした帰りだったらしい。
「そういえば、さっきの仕事を依頼するとか何とか話していたけど、悪いけど、ハンターは、ハンター協会からの仕事しか受けられないって決まりがあるんだ」
ハンター協会は、国際組織だ。地球の国際組織と違って給料がバツグンにいいが、制約もある。その1番大きいのがこれ、ハンター協会以外からの仕事を基本的には受けてはいけないという決まりだ。
ハンター協会は、飽くまで該当する国など自治体がモンスター被害に対する治安維持の要請や、商業ギルドなどによる流通経路の維持の依頼になどのために動く。
移民に仕事を取られて、問題が出ることは地球でも多々あったが、それをハンターにやられたら、国民もたまったものではない。だから、領主やそれに連なる一族とはいえ、個人的な頼みは聞けないのだ。
「ああ、これは例外なんです」
「例外??」
「はい。キワイトには、
「
キワイトはシマットまでの通り道くらいのイメージで、あまり深く調べていなかった。そんな行事があるんだな。
「はい。
「でも…」
「はい。普通ならハンター様を個人的に雇うことはできません。しかし、領主や豪商などは、ハンター協会への献金などの貢献度に応じて、回数などの制限はあれど、個人的なことで、個人を指名して、仕事をさせる権利を持っているんです」
「初めて聞いたわ」
なるほどね。金をメインで出す領主にメリットを提示したんだろうな。領主とハンター協会の関係は良好なのがいいに決まっている。
「だと思います。普通はかなり高い階級の方に依頼するものですから、そんなに知られているものでもありません。キワイトの領主は、ハンター様への個人的な頼みをする権利…個人指名権…を、毎年の、これの行使に使っています」
そういえば、コーダエの領主様が俺にハンターの教師を付けてくれたのって、この個人指名権を使ってくれたんだろうなぁ。
「次期領主にハンター様を見る目をつけてもらうことが目的です。ただ…私の依頼を引き受けてくれるハンター様がいらっしゃらなくて」
「わかったわかった、何か事情があるみたいだな。ちゃんとしたルートでの仕事なら断らないよ」
逆にハンター協会を通しての仕事なら、断る理由もない、というより、逆に断れない。
しかし引き受けてくれるハンターがいないとはどういうことなのだろうか?協会の仕事を断るというのはよほどの理由が必要だから、そのような状態などありえないはずなのだが。
「え?いいのですか?まだ説明していませんが?」
「んー、業務として認められてる正当な手段での仕事なら断る理由もないとういうか、本来的に断るという選択肢がないから問題ない」
と言うと、隣のアンリエッタさんがズイ、と接近してきて、俺の腕を、抱きしめるようにして寄りかかってきた。何か、この子、さっきからめっちゃ近過ぎるんだけど…。
「続きはぁ〜私が説明しますねぇ〜お嬢様」
「え、ええ。アンリエッタ、お願いしますね」
かなり強引に話に割り込んできたアンリエッタさんの申し出を、お嬢様が引き気味に許可した。引き気味だろうが、お嬢様が許可したのなら、アンリエッタさんに聞くしかあるまい。
「で、アンリエッタさん、お嬢様の依頼を受けるハンターがいないってどういうことですか?」
「それはですねぇ〜シダン様ぁ……リーゼさん何かぁ〜?」
手を胸に押し付けたり、腕に抱きついたり、と俺に対しての距離が近すぎるアンリエッタさんを、リーゼがじーっと睨んでいた。それに気づいたアンリエッタさんが、リーゼの剣呑な気配に、どこ吹く風とばかりに聞き返した。
「メイド!シダンに近い!」
リーゼが怒りと混乱から、名前じゃなくて仕事名で呼んでる。
「さっきぃシダン様からぁ『リーゼ様は恋人ではない』とハッキリお伺いしましたぁ〜。だからぁ〜問題ないですよね☆」
「問題だよっ!じゃあ、メイドは、シダンの恋人なの!?」
「今はぁ違いますがぁ〜立候補しますぅ〜♪」
それって、さっき俺が助けたから?あれだけで??さっきからグイグイきてるのは、そういうつもりがあるから???
「待って。話が進みすぎ!アンリエッタさんは、何で急にそんな俺のことを??」
「アンリエッタさん、なぁんて他人行儀なのはぁ、やめてくださいぃ〜シダン様ぁ♪親しみと愛欲を込めてぇ私のことはぁ『アン』とお呼びください〜♪」
「ええと………………アンは何で?」
「え〜と、ですねぇ…」
俺の問いかけに、目が泳ぎだすアン。
あ、もしかして本当に好意があるとかではなく、何か裏があって、好意があるように振る舞ってるのか?味方のハンターがいないから引き込みたい、的なことも話していたしな。
これだけ急に好意を示されることの方が、おかしいからな。成程、そういう裏がある方が納得がいく。
「何か、言えない事情があるのか?」
「そんなぁ〜まさかぁ〜」
「…じゃあ、一体…」
俺が、改めてアンを問いただそうとしたところで、正面にいたお嬢様が、プッ、と堪えきれないように吹き出した。そして、貴族らしく、口を隠して、声を立てないようにクククク、と笑いだした。
「お…お嬢様ァ…」
「思い出しました。そういえばそんなことを話していました…シダンさま、アンリエッタは、別に裏があるとかではないですよ」
堪えきれないのか、お嬢様はアハハハと大きな声で笑い始めてしまった。
「?では、どうしてこんな急に?」
「それは、簡単です。シダンさまの見た目が、アンリエッタの好みど真ん中だからです」
「は?」
「『黒髪黒目、少し女顔っぽい美少年』でしたっけ、アンリエッタ?シダン様を見て、少し前に貴女が、そう話していたのを思い出しました」
アンは向こうを向いているが、ここから見てもわかるくらい耳が真っ赤になっていた。そんなシンプルな理由だったのか。
最近、俺のチートは、ギフトよりもこの見た目な気がしてきた。会う女の子が、好意的に接してくれる確率が高すぎる。
「好みど真ん中の、同年代の男の子が、王子様よろしく自分の危機に駆けつけてきたら、それはもう当たり前のように好きになっちゃいますよね♪」
「お、お嬢様ぁ〜なぁんで〜全部言っちゃうんですかぁ〜」
「人のことを貧乳だ何だ言うからオシオキです」 「ええええ!?貧乳だとはぉ〜すっごく思ってますけどぉ〜口にはぁ〜してませんよぉ〜」
「たっ・た・い・ま・く・ち・に・し・た・で・しょ・う・がぁっ!」
また主従で漫才を始めた…。ま、まぁ、そういうことなら、俺も話を真面目に聞かないとなぁ。
「えーと、アンみたいな美人が恋人なら確かに楽しそうなんだけど…。恋人になる、ということはここに留まる必要があるよね?」
「それはぁ〜確かにぃシダン様♪とぉ〜愛欲に満ちた巣を〜作ってみたいですぅ」
「あーうん、そうなんだろうけど…俺は今、約束があってシマットまで行く必要があってさぁ。それに俺は子供の頃から、世界を回りたかったんだよね」
あー折角、もんのすごい美少女が、好意持ってくれてるのに、断るのはもったいないよなぁ。変なことばっか言って、ちょっと変わってる子ではあるけど…悪い子ではない。
「だから、今、どこかに留まるということは、できないんだ。ホント、ごめん」
「…すん…」
アンは、一瞬うつむきかけたが、それでも折れなかったらしい。また、こちらをじっと見るようにして、顔を近づけてきた。
「で、でもぉ〜私がぁ好みじゃないとかぁ〜スッキリボディじゃないとぉ好きになれない特殊性癖とかぁ〜そういうのではぁ〜ないですよねぇ?」
スッキリボディ…そんなこと言ってると、またお嬢様にアイアンクローをされるぞ。
しかし…少し潤んで見上げるアンの目。キュッと結ばれた唇。そして、そんな縋るように言われたら…うわあー、これ以上、突き放すのは俺には無理です。
「それはない。アンはすごく可愛いと思うよ」
ああ、言っちまった。女の子に対してだけ、俺の意志、弱すぎるよなぁ。あと食べ物もだけど。
「よかったですぅ〜。じゃあ〜まだチャンスはぁ〜ありますねぇ〜?」
「チャンスと言われても、俺は旅を辞めるつもりは当面、ないんだけど」
「ふふ〜わかってぇますよぉ〜」
おいおい。何をするつもりだ?リーゼみたいな無茶苦茶はやめてほしい。さすがにハンターでない子が旅に着いてくるのは無理があるしなぁ。
「シダン様ぁ…なが〜く私の話をしてすみません〜話を元に戻しますねぇ♪」
最初に文句をつけたはずのリーゼは、この主従の勢いに完全に飲まれてしまって、あうあう言ってるだけになってしまった。俺も何か勢いに飲まれて、言われるがままになってるけど。
「あ、ああ」
「
「なるほど…出る勇気のないやつは、領主の資格もないってことね」
妨害を想定していないなら、出るのは意志を示せば良いはずだ。難しくない。
「そういうことですぅ〜。で〜お嬢様は15歳でぇ〜今年初出場ですぅ。この
「みんな妨害にあったのか…」
おいおい、陰謀のクライマックスに来てるじゃん。そんなときに飛び込んだ俺。めぐり合わせかなぁ。
「そうですぅ〜初出場の子息様はぁ〜すでに出場経験のあるぅ〜上の子息様の妨害に合ってぇ〜ハンターを一人もぉ〜連れてくることができずにぃ〜出られなかったんですぅ〜」
「ひどいなぁ…ルールをそういう風に利用してきたわけかぁ」
「そうなりますぅ〜。現状〜残っているのはぁ次男のぉ〜シモイシ様のみですぅ。ここで姫様の妨害に成功すればぁ〜ほかに
事情はわかった。キワイト領内で活動しているハンターが、すべてお嬢様側ではないということか。そこまで意思が統一されているなら、お嬢様をハブるというのは難しくない。
「拠点を全部移させる、全員休業届けを出させる…などなど、その次男に着くハンター以外、キワイトに居ない状態にしちゃった、ということね」
「そのとおりですぅ〜。お休み中のハンターにはぁシモイシ様からぁ〜ど〜せぇ〜裏金なんか渡していると思いますぅ〜」
そうしないと、お金がなくなるもんな。むしろハンターとしての給料より金を渡して、従わせているのだろう。
「なるほど。で、俺たちにその
「祭り自体はとーってもカンタンなものですぅ〜。ハンターを引き連れてぇ〜モンスターを倒すだけですぅ〜」
それは確かにシンプルだな。
「モンスターにはぁ〜得点が決まっていてぇ〜モンスターのぉ〜討伐適正階級を2回かけた数字がぁ〜そのまま得点になりますぅ〜。祭り終了時にぃ〜得点が高い方がぁ〜勝ちというやつですぅ〜」
強いモンスターほど、得点がどんどん増えていく訳ね。適正階級6のモンスターの得点は、36。適正階級2は4だから9倍にもなる訳で、時間制限があるなら、どっちを倒すべきかという判断も必要だな。
俺は、話をしきったアンから、お嬢様に視線を移した。お嬢様は、先程アンをお仕置きしたときの修羅のような表情はしっかり消えて、貴族らしい貼り付けたような微笑みを湛えていた。
「で、俺らでいいのか?見てわかる通り、まだ俺もリーゼも若い。というか、少し前にハンターになって初めての依頼を終わらせてきて、キワイトに初めての報告に行くんだぞ?」
「私の目は節穴じゃないですよ?しかもその言葉で確信に至りました」
「へー?」
「二人旅。つまり最低でもどちらかの階級が4以上ということです」
ふむ。パーティーは最低でも階級4以上がリーダーを務める必要がある、と決まっている。
「しかも初任務で、
なるほど。
「先程、アンリエッタの話しによると、シダン様は
「お嬢様、やるなぁ…ほぼ正解だよ。俺が階級4で、
「やはり、そうですか…しかし『ほぼ』というのは?」
チラリ、とリーゼを見ると、俺が言いたいことを察知したのか、口を開いた。
「へへ。それは、ボクもランクBのギフトを持ってて
「なるほど。つまり、私の予想より上、ということですね」
「そういうこと。さっきボクとシダンの二人で
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