第41話 『14食目:焼きマーガイモ』
翌朝、カナカ村の小屋で目が覚めた俺は、ベッドから起きて、早速、出かけるための準備を始める。
携帯する持ち物は特に変わりないので、そのあたりの準備は不要だ。あとは、着替えて、朝飯かな。
寝る様の楽な格好から、フィールド様の安全な格好に着替える。上下の丈夫な長袖に、マントに、荷物が入った肩掛けカバンを持てば完了だ。
自分の部屋を出て、隣の部屋をノックしてみたが、返事がない。リーゼはもういないようだ。
「まずは水で顔でも洗って目を覚ますか」
木製の、ガタガタの玄関扉を開けると、ギィー、と取り付けが悪いのだろう音がした。外に出ると、まだ暗く、地面に近いところが薄く白を帯び始めている程度だ。
昨日、村の人から教えてもらった井戸で水を汲んで、顔を洗おう…。そう思い、井戸に向かうと、その横でリーゼが…スクワットをしていた。
そういえば、こっちの世界にも筋トレという概念はあったな。ハンターが仕事の休みに、ハンター協会裏の運動場で、身体が鈍らないようにやる姿をよくみる。
「リーゼおはよう」
「シダン、おはよー」
紐がついた桶を井戸に投げ込むと比較的早く、水に当たる音がした。
そういえば、昨日、移動中の休憩時に、
スクワットを終えたらしいリーゼが、こちらに近づいて、話しかけてきた。
「今日は…まずは下調べかな?」
「そうだね。今日1日は
「おっけー。わかった…手分けする?」
北のコーダエからエゴワカ道はほぼ南方面に開かれていて、キワイトまで続いている。その街道の東側沿いに、ここカナカ村はある。
街道の東側に畑が広がり、さらに東の奥に村落がある。ハンター協会からの情報によると、
村民は木の実を拾ったり、あるいはモンスターには分類されない兎や鹿などの大人しい動物を狩るために森に入る。
「そうしよう。一口に森と言っても広いからな。ざっくり森の北側南側くらいで区切って探すか」
「
「だろうな。今日1日見て、ダメならまた考えよう」
「うん。わかった。で、話変わるんだけど…」
話をまとめた俺に、リーゼはそう言って、大きな葉っぱに包まれた何かを差し出してきた。
「朝ごはんにってこれ、ほら昨日あった女の子が…」
リーゼが後ろをチラリと見ると、昨日の少女だった。背中に農具を背負ってるので、どうやらこれから畑に行くところなのだろう。
うーん。スタイルいいなぁ…農作業で鍛えられて無駄な肉がない感じ。
「昨日はいきなり疑って悪がったな、お詫びにこれを受け取ってくんろ?」
何かわからないまま、それを受け取ったのだが、葉っぱを通してほのかに温かいのがわかる。葉っぱの包を外してみると、中から甘い匂いが漂ってきた。
「ん?これはマーガイモ?を焼いている?」
「そうだべ。マーガイモさ、焼いたんだ」
マーガイモはこれまで何度も食べてきたが、そういえば、こんな単純な調理法である「焼く」ってことをしなかった。
何故なら、街に流通しているマーガイモは、一度煮て、乾燥させたものがほとんどだ。雑菌が多いのか、生のままだと日光に弱いのか、理由はわからないが、掘り出してそのままだと保存が効かないらしい。
一度煮てから乾かすと、塩分などを使わないで保存が効くため、孤児院でもマーガイモは作って主食にしていた。
「普通、マーガイモは掘り出してすぐに煮るんだんが、これは煮る前の芋を焼いたんだ。するってーと甘くて、うまいんだべ?」
そうなのか、孤児院でのマーガイモの収穫=芋煮大会だったので、焼くなんて考えもしなかった。
「へー…じゃあ、もらうね」
「んだんだ」
感心しながら、包みから出して見ると、ほんとに単なる焼いただけのマーガイモだった。パリパリまで焼けて、ところどころ皮が破れていた。食べる箇所の皮を剥いて、まずは一口頬張る。
「これは…ウマいな!」
「だんべ?」
地球で食べた焼き芋と味の方向性は変わらない。変わらないが、まず甘さが段違いだ。口当たりとしては、ホクホクした焼き芋ではなく、ねっとりした系統の焼き芋などが近い。が、たぶんそれらよりも糖度が高いと思われる。
「コーダエで何度もマーガイモは食べたけど、こんなに蜜が溢れてるのは、食べたことない」
地球の焼き芋が糖度20〜30程なのに対して、ジャムなどは糖度が50あるというが、この焼きマーガイモは、ジャムくらいの甘さというか砂糖感がある。
一口目の断面を見たら、蜜が溢れてきていた。すごいなぁこれ。
「焼きマーガイモにするのは、出荷できないダメなやつなんだべよ。だからさ、村さで消費してるんだべ」
少女はそう言って、ニカっと笑った。いい笑顔。しかし出荷できないダメなやつ?こんなに美味しいのが??
「こんなにおいしいのに何がダメなの??」
「村でマーガイモ作ってっと、たんまにそういう甘いマーガイモが出来るんだが、そういうのは煮て、乾かしても、すーぐ傷んじまうんだよなぁ」
だから、ダメなやつということか。ダメなやつだから、出荷せずに自分らの食事にしている、と。
「でも…俺は孤児院出身で、その裏庭でマーガイモを毎年、作ってたけど、こんな甘いものは見たことないよ?」
「孤児院の裏庭じゃできねぇだべなぁ…あれは栄養さ、うーんとあると出来るマーガイモだっぺ」
「??栄養状態を調節すれば、失敗もでないんじゃ?」
「そうすると採れる量が落ちちまうんだ。失敗作出してでも栄養をうんと上げた方が利益はでるんだよ…んじゃワシは畑仕事あるでね」
少女はそう答えると、農作業に戻っていこうとした。が、すぐに立ち止まり、こちらを振り返った。
「あーワシは、カンナちゅーんだ、おめさは?」
「シダン、こっちがリーゼ」
俺の紹介に、リーゼが軽く手を振ったら、またニコリとカンナが返してきた。実に健康的なカントリーガールって感じだな。顔立ちもキレイだし、村の中で、かなりモテそうだな。
「短い間だけど、滞在中、よろしくね」
「んだ。いる間は、毎日、焼きマーガイモ持ってきちゃるけんね、狩りカンバレよ」
「ああ、ありがとう」
カンナは今度こそ農作業に戻っていった。
焼きマーガイモね。あの条件じゃ孤児院では作らないなぁ。そういえば、マーガイモが傷む原因はあの甘い部分じゃないかとも言われているんだよな。
それにあまり土壌が良くなくても育つのがマーガイモのいいところ。栄養状態よくしてまで収穫量あげようとは考えていなかった。
「しかし、孤児院でやるには土壌改良から必要だしなぁ…難易度高いよな…」
それに、この世界にも農協みたいな組織がある。加盟しないと流通に乗せるのがかなり難しいし、加盟すると作物に一定の品質が求められるようになる。
孤児院は基本的には孤児たちの自給自足のみを目的としている。現状、マーガイモが足りないということはないから、土壌改良の必要はなさそうだ。
「流通に乗せるビジネス農業ならでは、というところか」
焼きマーガイモ。ビジネス農業の現地のみで味わえる地域限定グルメ。滞在中、カンナは持ってきてくれるとはいったが、いくらかお金払ってでも、食べさせてもらうべきだな。
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