第40話 カナカ村
空が赤み始める手前で、ようやくカナカ村についた。村…と言っても目の前にはマーガイモの畑が視界いっぱいに広がっているだけだが。
畑を挟んで、遥か向こうに、人家らしきものがあるので、そこに向かうことにする。今日の宿をどこかで借りねばならないだろう。
人家に近づくと、ちょうど畑から帰る途中なのだろう、作業着だろうツナギ姿で、鍬を肩に背負った、村人らしき少女とすれ違った。
「すみません、少しいいですか?」
俺に話しかけられた村人らしき少女は、恐らく見たことのない人物だからだろう。俺たちに対して、胡散臭げな顔を向けてきた。
「ええ、あんたら〜何者だぁ?」
「コーダエのハンター協会から派遣された者です。この村で
少女は、年の頃は俺と変わらないほどだろう。幼さの残る顔立ちに、リーゼより少し高いくらいの背丈だった。だが、毎日の農作業で鍛えられたのだろう、健康的で、引き締まった身体をしていた。
赤茶けた肩ほどまでの髪の毛や、小麦色の肌が、日の下に長いこと立っていることを証明していた。
少女は、俺の説明を聞いても、いかにも疑っています、と言いたげな目を変えなかった。ジロリと、俺とリーゼを上から下まで見る。
「おめさみたいな子供がハンターなんけ?それとも
「安心してください。俺も、こちらのリーゼも正式なハンターです。この通り」
ハンター証を取り出して見せた。
確かに、手がどうしても足りないとき、難易度の低い依頼を
しかし、
ハンター協会は、各国や商人ギルドなどから、討伐を請け負っている組織だ。回ってくる依頼は可能な限り解決しなくては、組織同士の信頼関係に問題が出る。
依頼側も受けるまでもない雑用はハンター協会に回さないようにしているが、そうは言っても人のやること。適当な役人などがハンター協会との窓口になると、討伐とは関係ないようなものや、一般人でも簡単に駆除できるようなものまで回してくるのだ。
ハンター証を確認した少女は、俺らの階級を確認したら、表情を変え、笑顔になった。
「なーんだ、
ちなみにハンター証さえ見せれば、年齢で侮られることは、まずないと思っていい。それだけ、ハンター協会の発行する階級には信頼度があるのだ。
…出会ったときにリーゼがつけたイチャモンがいかに無理筋だったか、という話だ。
「もしかして、以前ハンターが不手際をしましたか?」
「んだ、たしか3年前だったんかな。その時も
よっぽど不満だったのだろう。3年前のことをまだ根に持っているのだから。
「確か、あんときは、キワイトのハンター協会から来たとか言っでだな…俺はハンターだ、凄いんだってな、えばり散らしてばかりの、ひどく太ったハンターでな。あんなんで駆除出来るのかと思ったら案の定、
思い出してイライラしてきたのか、少女は地団駄をふんだ。
「すんばらくして、ようやく正式なハンターが来て駆除したけんど、その間、ホント散々な目にあったんだぁ」
「それは…ハンター協会に問題がありますね…申し訳ありません」
キワイトのハンター協会がやったとこととは言え、向こうからすれば俺も同じハンターだ。頭を下げた。何やってんだ、キワイトのハンター協会。この仕事の報告に行くのキワイトなんだけど、大丈夫かなぁ。
「いや、おめーさにゃ関係ないことだ…悪かったな…おめえ、さっきコーダエからきたハンターだって話してただろ?」
「はいそうです」
「まぁ、じゃななおさら関係ないな、気にしねーでくれ」
頭を搔いて、少女は、少し、すまなそうにした。俺に言っても仕方ないことはわかっているのだろう。しかし彼女の怒りは正当なものだ。
「そう言っていただけると助かります。その…それでですね」
「ああ、狩りの間、泊まるところだんろ?」
「はい」
「
「ありがとうございます」
丁寧に教えてくれた少女に御礼をいうと、少女は、手を軽く振って、俺たちとは反対の方向に歩いていった。
「村長の家はあっちだっけ?」
「ああ、さっきの女の子は、そう言っていたなぁ」
「んじゃ、まずは挨拶に行っとくか」
「そうだね」
先程の村人に教わった家までは、歩いてすぐだった。遠くから見ても特徴のない家だったが、近づいてみても、村長の家はほかの家より一回り大きい以外は、特になんてことのない木造の平屋だった。
骨組みや屋根は木で、壁は恐らく、漆喰か何かで、埋めているのだろう、白い壁だった。
「ごめんくださーい」
リーゼが、結構響く大声とともに、玄関の扉を叩いた。リーゼの怪力だと、壊れないか少し心配だったが、扉は案外厚めの木で出来ていたようで、扉を叩く音は重かった。
中でドタバタする音が聞こえると、扉を内側から開けたのは二十歳程度の青年だった。俺らを見て、やはり訝しげな顔を隠そうともしていない。
「ハンター協会から来ました、
さっきの村人とのやり取りで、青年の訝しげな表情の理由には想像がつく。だから、ハンター証を見せながら、最初からそう説明する。
ハンター証を確認した青年の表情はわかり易いほどに明るいものに変わった。
「ああ、正式なハンターの方なんですね…失礼しました。私は、この村の村長です。実は3年ほど前にですね…」
危うく、先ほどと同じ話を聞かされそうになったので、失礼を承知で話を挟むことにした。
「恐縮ですが…途中で村の方に伺いました。中途半端な者を向かわせたようで、こちらこそ失礼しました」
「ご存知でしたか…ええと、こちらにいらしたのは滞在中の部屋の件ですよね?」
「ええ、そうです」
「少々お待ち下さい」
そう言って村長は一旦引っ込むとまもなくして、手に鉄製の鍵を持って現れた。
「これがハンターさん用の小屋の鍵です」
「ありがとうございます」
「この家のすぐ裏手にあります。何もありませんが掃除だけはしてありますので、自由に使ってください」
ほかにも水場の説明や、滞在中の管理などを一通り説明を受ける。説明後に言われた通りに裏手に回ると、小さな平屋があった。
中はすぐにリビングと竈門、奥に扉が2つ見えた。開けると、どちらも20平米ほどのガランとした部屋で、端にベッドが1つづつ置いてあった。
「俺はこっちの部屋を使う。リーゼはそっちでいいよね?」
「うん。2つの部屋に差はないからそれでいいよ。で…活動は明日から?」
「そうだな。もう日は落ちたのでやれることもないしな。たっぷり寝て、明日からの活動に備えて英気を養うとしよう」
「わかった。じゃあおやすみ」
「ああ、じゃあまた明日」
バタン。部屋を閉じると、ほんとうに薄暗い空間だった。俺としても特にやることもないので、サッサと寝ることにした。
そういえばさっきの女の子が話していた3年前のハンター『俺はハンターだ、凄いんだってな、えばり散らしてばかりの、ひどく太ったハンター』ものすごく心当たりあるんだけど…。イワ…お前ホントに…。
しかし今日は、朝、リーゼに突っかかられて、結婚迫られて、いろんなものも食べて…。いろいろなことがありすぎて寝付けないかと思いきや、始めての仕事で、緊張していたのかすぐに疲れを感じ、あっさり意識を手放した。
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