第42話 『15食目:ポウポーの香草挟み焼き』
「じゃあ森の中を探ろっか?」
「ああ、さっきリーゼが言っていた通り、最初は手分けをして巣を探そう」
巣穴を見つけて、可哀相だが子供から根絶しないと、来年にまた増えてきてしまう。そして、赤ん坊の
「えーと、昨日、ハンター協会で聞いた話だと、3つの
「そうだな、完全に駆逐するためにも、3つの
「おっけー。ボクは森の北側を探すよ」
「じゃあ俺は南側を探そう」
俺は森の南側を指さす。
「ん。じゃあ夕方に、ここでまた待ちあわせかな?」
「そうしよう。あーあとリーゼ?」
「何?」
「今日は探すだけだからな。狩るのは2人揃ってからやるぞ」
「わかってるわかってる。流石のボクも最初の仕事からそこまで飛ばしたりはしないって」
※※※※※※
森に潜り始めて30分も経たないうちに、
「ふむ。これはオスが1頭にメスが4…いや、5頭といったところか」
オスは明らかに大きく、足跡がはっきりわかる。
また
「かなり頻繁に穴を掘ってるから、腹を空かせているのかもな…となると、こいつらが村まで来て、マーガイモを食い逃げしててもおかしくないな。早速犯人の足跡を見つけられたな」
もう一度、足跡を見る。ううむ。この足跡、調べてみるとおかしな点がある。
「周りを擦っていない足跡がないな…時期的に変な感じがする」
子供の
「今くらいの秋口は、独立前の子供を外に連れて、食事をして回ってるはずだがなぁ…」
まぁ、メスの子供の場合は、もう一冬くらい過ごすこともあるみたいだが、それでも追い込みをするのは間違いない。
「お産を失敗したか…?だとすると気が立ってそうだな。いや、まて、あるいは…」
ふと、思い出した僅かな可能性に嫌な予感がしたが、頭を振り払う。
死産の確率が3〜40%ほどあるから、仮に足跡から見て、5頭のハーレムだとしても、0.2〜1%、つまり1〜500群れに1つはそういう一冬に子供0の群れがいるはず。
「普通に考えれば、この
こうして見つけた足跡を追うこと1時間。
慎重に追っていたので、距離としては森の入口から2000メートル、と言ったところか。高さ10メートルほどの壁?丘?に出来た洞窟にたどり着いた。丘は南北にずっと走っていて、端は見えない。
どちらかというと、こちらが崖の下側という感じか。
「あれが、巣穴だな…
しばらく様子を観察していたが、オスは巣の周りをウロウロしながら、時折周りを警戒するように見回している。メスは、どうやら疲れ切っているようで、巣の入口近くで寝ていた。
「ふぅむ。何を警戒しているか不明だが…巣の場所は確認したな。今日はここで引き返すとしよう」
持ってきた紙にこれまでの経路を書いて、印をつける。歩数をカウントするなどして、距離をできる限り正確に把握することで、しっかりとした地図を作るのもハンターには必要な技術だ。
「よし、地図通りに引き返しながら、記述ミスがないか確認するか」
お手製の地図を見ながら、来た道とは逆順に戻ることにした。辿ってきた足跡や、途中の木に付けた印などと突き合わせながら、記入に間違いがないか確認する。
ミスらしいミスの記述も見つからず、順調に道程の半分ほど戻ってきた。
そこで、ふと、疲れを感じ立ち止まった瞬間、不意に「グー」と腹の音が鳴ってしまった。
「んー。そろそろ昼時か。道中、森が茂っていて日が射さなかったしなぁ。日でも浴びて補給するかな」
日を浴びるにいい広場あるかなぁ。どこも鬱蒼としてるんだよなぁ。上を向くと、幾重にも重なった葉、下は腰の高さまで茂りきった雑草が見える。僅かな隙間から日は射すが、この程度の日差しだと満腹になるのに半日はかかりそうだ。
「うーん。よく見ると、結構な数の鳥がいるな」
樹の上にはかなりの数の鳥が留まっているようだ。これだけ森が茂っていれば虫はいるだろうから、それを食べる鳥も自然と集まってくるだろう。
「よし。あの鳥を頂くとするか」
とは言え、俺の腕で、あのサイズの小鳥に、
「罠にかけるしかあるまい」
地面は草が茂っているが、ところどころ、草がそれなりの広さに刈られたあとがあった。これは獣道でも、
「そういえば、カナカ村の人たちが、マリネスマーガを探しに来るとか言ってたな」
マリネスマーガは、コーダエからキワイト付近の森林地帯で見つかる薬の材料となる、根菜だ。見た目はチョウセンニンジンに似ていて、効果も似ているらしい。
「売ると金になるらしいからな…村人が収入源にしている、と聞いたことがある」
村人が切り開いただろう場所に餌を置いて、その周りに
餌は…昨日の
生肉よりは日持ちするし、スープに入れても案外旨い。それに匂いも強いので、こういう罠や、あるいは釣りの餌にもできる。万能。
少し開けた地面に、あぶらかすを置いたら…10メートルほど、離れる。餌の周りに
何と、5分と待たず捕まえられた。村人は、あまり鳥を狩ったりしないのかな?警戒心の欠片もなかった。
「ええと、こいつは…ポウポー?だったかな?」
捕まえた鳥をまじまじと見た。大きさといい、シルエットといい地球で言うところの鳩だ。が、色合いは茶1色でそのあたりは地球産とは異なる。あ、でも地球にも茶色の鳩っていたっけ?ま、いいや。
「あんまりじっくりやるほど時間が余ってるわけじゃないから、サクッと焼くか…まずは解体からっと」
暴れるポウポーの首をナイフで首を落とす。鳥は首を落としても、神経回路が反射的に身体を動かすので、しばらくは暴れ続ける。
暴れるのが収まったら、枝に吊るして、血抜き。湯をかけると、羽が毟りやすくなるが、水はあまりないので、血抜きが済んだら羽を無理矢理毟る。腹を裂き、腿と手羽を切り落として、内臓を外す。
内臓は洗わないと砂やら消化中のものやらにまみれて、食べるのに抵抗がある。今回は水節約のために諦めて地面に埋めた。すまぬ。
もも肉、胸肉、手羽をバラバラの肉にしたら、それぞれの真ん中あたりにナイフで切れ込みを入れる。切れ込みに、塩を軽く塗り込んでから、道中で拾った香草を包むように挟む。そして、香草と塩を挟んだ肉を、突き通すように鉄串で刺した。
次は
肉を焼いていると、モクモクと煙が出てきた。が、上を見上げると、茂った葉が空を完全に隠すほど、覆っている。
「うーん。このままだと煙が篭もりそうだな…」
肉の向きをちょくちょく変えながら、火に直接当てないくらいの距離で、薪を供給しながらじっくりと焼く。
30分ほど経つと、いい感じに焼き上がった。名付けて、ポウポーの香草挟み焼き、ってところだろうか?
焼けたいい匂いがちょっと広がり過ぎな気がしないでもないが、まーそれに釣られたモンスターが出てきたら出てきたで駆除すればヨシ。
「さて、モモ肉から頂きますか」
王道のモモ肉を手に取る。一口噛み切ると、じゅわ~っと肉汁が滴った。ほどより柔らかさ、脂身があり、臭みは…香草とキレイに相殺されている。
先に塗り込んでおいた塩味がちょうどよかった。地球で食べる鶏の肉に比べるとやはり野性味には溢れるが、却って、この屋外での食事という「アウトドア感」のちょうどよいスパイスになっている。
半分くらいで口内の脂感が強くなってきたので、次は胸肉を口に放り込む。うん。やはりこれはイイ。さっぱりしていて、モモ肉との合間に食べるくらいがちょうどいい。
脂身が少ない分なのか、香草の染み込みもよいように感じる。肉厚なため、肉肉しくありつつも、臭みはモモ肉より少なく、香草のさっぱり感が、強く出るので、食が進む。鶏と違って空を飛ぶ鳥だからだろう、より筋肉質で、大きい。
そして手羽。先、中、元を分けずに一本で焼いてしまったが、これを豪快に齧る。皮のゼラチン質が、モモや胸とは違う味わいを醸し出してる。
よく焼けてカリっとなる表面と、プルプルの内側。そして、その下にある引き締まった肉。このトリニティにやはり香草が加わり…この口に溢れる脂感…酒だ!酒が欲しくなるぞ!!!
「はー、仕事中の酒は駄目だよなぁ」
この世界では12歳で大人扱いなので、一応、酒は飲める。だが、ハンターも仕事人。仕事中の酒は禁止までとは言わないが、推奨はされていない。
諦めて、胸肉で、口内の脂身をリセットする。
「いや、これも悪くない…悪くないどころが、上々なんだけど…冷えたビールが欲しい…」
何故、前世では18歳で死に、今でもまだ酒を飲めるようになったばかりの俺が酒を知ってるかってそんなことを考えてはいけないよ。いいね。
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