第24話 領主との対面
「こっちだ」
騎士さんたち…コーワさん、ナスリマさん、カアツさんの3人に連れてこられたのは、町外れの屋敷だった。
「いま、コーダエの街を治めているのは、領主さまではなく、第1席参事官だ。第1席参事官ってまぁ要するに事務方で1番偉いやつで、領主様の補佐的なことをする役職なんだがな…。領主さまは、この屋敷で療養中になっている」
第1席参事官…第1席参事官?うん…どこかで、その名前を聞いた気がする。それも割と最近…思い出せないな…いや、今は忘れよう。
屋敷の大きさは…孤児院とあまり変わりないかもしれない。しかし、造りが違う。堀も塀も見張りの騎士もしっかりしていて…いくらなんでも孤児院と比べるのは失礼か。
屋敷に着いたところで、ナスリマさんとカアツさんは別件があるとのことで別れた。あとは3人のリーダー格っぽいコーワさんが、付き添ってくれるらしい。
コーワさんが見張りの騎士に声をかけると、敬礼をして通してくれる。門、玄関、廊下…。コーワさんに連れられ、いろいろ歩いて、ようやく1番奥の部屋にたどり着いた。
「ここが領主さまの部屋だ…領主さまは堅苦しい方ではない。この場も正式な場ではないので…そもそも意識がないので気にしないでくれ」
「わかりました…たぶん一刻を争っているんですよね…すぐに治療しましょう」
扉の前に立っていた騎士が、扉を開けてくれる。
部屋はこじんまりとして、質素だった。広さは2、30平米くらいで、家具はベッドくらいしかなかった。
ベッドには恐らく50程度の豊かな髭の紳士風の中年男性が寝ていた。中肉中背で、顔が少し黄色い…黄疸か?…肝臓が悪いのだろうか?
「こちらの方ですね?」
「そうだ」
「では、早速…失礼して…
返事も待たず、布団をめくると、肝臓のある腹の当たりに
間もなく、領主の体が動き、そしてゆっくりと目を開け……俺とばっちり目があった。
「お…おはようございま…す?」
「…きみは?…そうか…治療できる特性を持っているという…」
とっさに俺は変な挨拶が出てしまったが、領主は、すぐに事態を理解したのか、開口すぐにそう話しかけてきた。コーワさんは、堅苦しいのはうんぬん言っていたが…できる範囲では礼儀正しくしておくか。
「はい。初めまして、領主さま。ボクはシダンと申します。外れの孤児院に住んでいます」
俺の挨拶を受け、領主は上半身を起こした。周りは起き上がるのを止めようとしたが、
「なるほど。お陰で助かったみたいだな…腹の苦しさが嘘みたいになくなっている」
俺の
一方で、
ただ、ウイルスや細菌の類は、体組織の修復をする際に、推測だが、免疫が活性化して治してしまってる。毒の類は体が排除しなくてはいけないので、どうにも仕組みが違うようだ。
「まだです…様子をしばらく見てください。病の原因による身体の損傷は治しましたが、病の原因そのものは取り除けていません…通常の病ならそれでも身体の持つ力で自然と治るのですが…」
俺がいい淀む。つまり、そうでない場合は、何か絶対面倒くさいやつだ。めんどくさいのに巻き込まれる。言いたくないなぁ。
「ですが…なんなのだ?」
「…あの…質問いいですか?」
領主の言葉を無視して重ねる。本来なら無礼ではあるが、知るか。こっちは命の恩人だぞ!
「…………先程申し上げた通り、ボクは孤児です。なんで領主様は、孤児院に対してあれだけ冷たい対応なのですか?」
俺は睨みつけたくなるが、流石にそこまではしない。だが、表情に出さないよう無表情を貫く。
「ボクがこの仕事を受けたのはもともと孤児院にお金を渡さなくなった理由が聞きたくて来たので…そのあたりキチンと説明をお聞かせください」
俺の言葉を受けて、領主は驚いたような、虚を突かれたような顔をする。
「待て待て…冷たい対応とは何のことだ?」
「孤児院はここ1年、この地から銅貨1枚も援助を受けていません。帳簿も付けていますから間違いありません」
ロゼッタと俺で、院長先生がつけるのを手伝っている。まぁ、孤児院は自給自足。借入も売上もない話なので、単式帳簿で、家計簿に近いもんだが。
「なんだと…!?そんなはずはない…予算を月ごとに
領主は、慌ててベッド横のチェストから、書類を取り出し確認する。
「やはりそうだ…今月も大金貨3枚金貨1枚銀板1枚…支出がある」
なんだと…それって…。
「…つまり、途中で誰かが横領した、と」
「考えたくはないが、仕方ない…体調が治ったらすぐにでも調査する…すまない」
領主が謝罪を口にした。
領主という偉い立場の人は謝罪をすることが困難だ。立場の問題があるからな。しかも非公式とは言え、コーワさんという別の人の目があるのだから、尚更だ。
この様子だと本当に知らなかったっていうのが妥当だな。よし、孤児院に金を出さなかった件は保留にしてやる。まーその方が、人のいい騎士さんたちが忠誠誓うっていう人物像とも矛盾なくてしっくりもくるしね。
まぁ、いいや。疑いは晴れた…わけではないが、俺の内心では、この領主について、不甲斐ないという点以外では、もう許してしまっているみたいだ。ならば、俺の良心に従って、さっきの続きを説明するとしよう。
「さっきの話ですが」
「ああ」
「体調不良の原因が、毒の類だと、毒による身体のダメージを治しただけです。毒そのものは消えていないので、またぶり返します」
喜んでいた領主がなるほど、と言ったあと、自分の腹に手を当てる。少し考え込むと、首を横に振った。
「なるほど…そうか…そうだとするとダメだな…。体の中の何か燻るものを感じる」
「待ってください…!」
コーワさんが、少し大きめの声を出す。
「それはつまり…やはり…毒物を盛られたということですか!?あのとき…
「ふむ。なる程な…そう言えばそうだったな…」
領主は、威厳のある顔の彫りを更に深くして考え込む。
「シダンだったね。ハヤミーを呼んでくれ…君は孤児院の子だったな…」
ハヤミー?え?院長先生のことだよね??なんでいきなり院長先生なんだ??
「なんで…院長先生を…?」
「あの院長とは、昔からの知り合いでね」
領主に毒。使ったはずの予算が現場に届いていない。療養中の領主に、第1席参事官が領主代行。もう典型的過ぎて、展開が読み安すぎる…。で、先程の流れで院長先生を呼ぶ…意味がわかったぞ。
「以前に領主様を鑑定した鑑定士は、領主さまに毒を飲ませたヤツ…つまり第1席参事官が抱き込んでいたかもしれない、だから信用できる院長先生を呼ぶということですか」
「……きみはなかなかに話が早いな…子供とは思えない」
これはこれは、第1席参事官には、キチンとしたお仕置きが必要そうだな。
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