第23話 思いもよらない依頼
「いくぞー」
キースさんの踏み込みに合わせて、足元に
焦って、何度も
「ぐううう。全然できない…」
「目線でバレバレだし、そもそも戦闘中に、そんな悠長に同じ地面に足、着いてないからな。人間ほどでないにしても、モンスターもそんくらいは察知してくるよ」
「うーん。やはり先読みで根っこ配置しないとダメかー」
ハンターになると決めて1ヶ月、ほぼ毎日、こうやって訓練をしている。キースさんがいるときはキースさんにお願いして、いないときは根っこ
「シダンくん、最初は遠距離のサポートと言っていたけど、もう一息で近接戦闘でも、充分対応できるようになりそうだね…うまくいけばオールラウンダーになるかもねぇ」
「精進します」
キースさんのギフトは
チャドさんは中衛、マリーさんが後衛、そしてキースさんはパーティーで前衛として戦っている。
前衛は、中衛や後衛が撃ち漏らした敵を引き受ける言わば命綱だ。単に
そして、キースさんは、前衛だから近接戦特化だと思ったら大間違いだった。その器用さからくる飛び道具の扱いの上手さが半端じゃないのだ。
弓道で、的に刺さっている矢に、当たることを継ぎ矢といい、達人の技の表現として創作などでよく見られる。
が、それを
「要修練だね」
「はい。まだまだ時間がありますし」
キースさんは、町にいるときはこうして訓練に付き合って、立ち回りを教えてくれる。まだまだ大変ではあるが、少しづつギフトの扱いに、慣れてくるのを感じるのは実に楽しい。
さて、もう一回…。というところで、俺らが訓練をしているハンター協会の裏庭に、タガラさんが姿を現した。なんだか焦っているようにも見える。
「おーい、シダン、治療院の方に来てくれーお客さんが二組きてるんだ」
キースさんと目が合った。キースさん武器を下ろして、行ってこい、と手を振った。俺は黙礼をして、その場をあとにする。
「はーい。どうしたんですか?」
「治療院にとにかく来てくれ…治療室2と3にお客さんだ」
「???」
タガラさんに話を聞いても、何だか要領を得ない答えが帰ってきた。が、有無を言わせない感じのタガラさんに促されて、まずは治療室2へ向かった。
部屋の扉を開けると、そこに居たのは目つきの悪い、1人の男だった。パッと見に怪我はしているようには見えないが…いったい何用なんだ???
「お前が、治療の特性を持っているという小僧か」
「は…はぁ」
「孤児のガキが、生意気な特性を持って調子に乗ってると聞いてな…」
なんなんだこいつ。口を開くなり、俺を突然ディスり始めて、わけがわからない。俺に会いに来たとタガラさんは言っていたけど、単に喧嘩を売りに来たのか。
「なんかよくわかんないけど、喧嘩売りに来たなら帰ってください」
「待て…この街の第1席参事官様がお前に目をかけてな…」
何か喚いている中に、明らかに不穏なワードが聞こえたので、さらに知らないフリをする。
「帰ってください。さようなら」
「だからな…」
帰れと言っても帰ってくれないので、俺が無視して部屋を出ることにした。追いかけてきそうなので
「おい!ふざけるな!開けろ!おい!」
何か部屋の中で叫んでいるが、無視することに決めた。こんないきなり喧嘩を売ってくる変なヤツと話す理由はない。なので、もう一組待ってるという治療室3に入る。
こっちには3人の男が待っていた。こちらも特段怪我をしているようにも見えない…。というか、あれ?この人たち見たことあるな。
「あれ?前に武器屋さんで会った騎士さんたちだ」
「ん?おお、この前の見習いハンターの坊主じゃないか?もしかして、坊主が?」
「何の話ですか?」
「いや‥最近、ハンターの怪我を治す変わった特性のギフトの持ち主がいるってな、話題になってるんだ」
「たぶん、ボクのことです」
隠すつもりはあまりなかったから、いつか知れ渡るとは思っていたけどね。もう騎士さんが知るくらいの話になっているんだな。
「なるほど。隠すつもりはないんだな」
「ええ。悪いことをしているわけじゃないですからね」
騎士さんは、頭をポリポリとかいた。
「まぁ、いい。単刀直入に要件を言う。坊主のその能力で領主さまの病気を治療してほしいんだ」
※※※※※※
3週間ほど時を遡る。
それは、治療を初めて1週間過ぎた頃のことだ。その日の作業が終わり、帰るタイミングで、俺はタガラさんに呼び出された。
「よお、来たな」
「?なんですか??」
「お前の報酬についてだ」
ううむ。かなり稼がせては貰ってるからなぁ。とは言え報酬としては妥当なラインだと思うけどねぇ。
「少し長くなるが聞いてくれ…前にも話したが、
タガラさんは大きく一呼吸。
「相場は年俸にして
報酬についてって、そっち側か。てっきりもらいすぎって言われるのかと…うそ…私の月収低すぎ…。
「この給料は、もちろんここから魔法を覚えていくという期待値。そして、雇い主が、
雇い主は、
「さっきも言ったが
貴族のバッグがあれば、ということなのだろうが…んん…金は貰えるが…貴族の支出を回収するためにブラック会社臭もなかなか…。
「歳を重ねて、
「しかし訓練が必要となると、
「それは確かに個人差がある。ただいずれにしても魔法は訓練を続けて、ようやく使えるようになる。せっかく貴重な
「なるほど。勉強の環境を作ってあげることも貴族はするわけですか」
「そのとおり。お前はほんとに理解が早いな。金持ちや権力者は素質があるというだけで囲い、勉強に専念できる環境を整えて、魔法を覚えさせるわけだ」
うんうん、と頷く俺をタガラさんは、ギロリと見る。そして、大きくため息をついた。
「で、飜ってお前だ」
「はぁ?」
「治療ができることは価値がある。だが、お前の場合、修練を積んで効果を上げることはできるかどうかわからない」
「前になんで進化したかもわかってないですからね」
「シダンの特性の、
「
「それでも効果としてはすごいんだよ。何せ最上級の
やべぇなそれ。死んでなければどうとでもなる、というやつか。
「そんな訳で、簡単に言うと、シダンがどうしたいのか選べ。いくら成長が読めないと言ってもこの性能を持つ特性となると、相場的には今の給料という訳にはいかない。しかしこの治療院で、そんな給料は払えない」
「料金を支払う側のハンターの生活もありますからねぇ」
「このまま活動を続け、権力者の目に止まり、ハンターになるのを辞めて、高い報酬を頂くか、一応それを拒否したいならその選択肢も用意してやる、っていう話だ」
何だ。そこまで絞ってくれてるなら話は簡単だ。
「実は先日、キースさんに誘われて、将来、ハンターになると決めました。貴族に囲われてイージーモードも悪くないですけど、そんなん歳を食ってから考えればいいでしょう。若いうちはもっといろんなものを見たいですよ」
タガラさんにそう話すと、彼はニヤリとする。
「なら俺に任せておけ…ただ金はいまのにちょっと色つけるくらいしか出せねぇがいいか?」
「それで構いません」
俺はキースさんに誘われて、食べることが目的で準備をしてきた。しかし、毎日ギフトを試してきた俺はすでに、ハンターとして自分のギフトがどこまで通用するのかを試したくなっていたのだ。
※※※※※※
「頼む…領主様は、容態が悪化して、かなり危険な状態なんだ…この通りだ!」
領主ね…。1年前から突然、孤児院に一切運営金を出さなくなった。合理的というか、非情というか、俺にはネガティブな印象しかないが…。
3人の騎士さんはひどく真摯な顔で、さらに頭を下げて俺に頼み込んできた。それはきっと忠誠だ。つまり少なくとも騎士から見れば、領主は忠誠に値するのだろう。
そんな忠誠を尽くせるような相手ならば、なおさら、孤児院に世話になってる身としては、聞かなければ、ならないだろう。
「領主様は…何で、孤児院へお金を一切出さなくなったんですか?ボクは…孤児院でお世話になってます。孤児を見捨てておいて、自分が大変になったら、孤児を利用するのは、流石に虫が良くないですか?」
孤児院からすると金を出さないケチなやつだが、領の経営的に孤児院は何かを生み出しづらいこともあり、金を渡さないから悪とまで言うつもりはない。福祉などは、時代によって価値観も変わるだろうしな。
しかしそれは領主の都合であり、切られる側に取ってはなんの慰めにもならない。手足を切ったら確かに痛いだろうが、切り捨てられた手足側の深刻度は比にならない。
切り捨てておいて、今さら手足がやっぱり必要といわれても、うん、とは言えないよね。
「すまない。俺らは騎士であって領地の運営については口は出せないし、詳細も知らない…ただ」
「ただ?」
「領主様はお優しい方だ…何の理由もなく、領民を困らせることはしない。何らかの理由があるのだと思う」
騎士は、事実を否定しない。しかしそれでも領主を信じているようだ。少なくともこの気の良さそうな3人から見れば、そこまで信じることができる領主なのだ。
実は3人のことはあの武器屋以降、町中で何度も見かけていた。この領地の騎士には、治安を守る仕事もあるのだろう…街の警備をして、街の人からも慕われていたようだった。とても悪いやつには思えない。
「何らかの理由…?ですか?」
「ああ、治療をして、領主様が喋れるようになったら、必ず理由を説明するように俺から話す」
騎士さんたちが真摯すぎて、これ以上文句言ったらこっちが悪人みたいになっちゃいそうだ。まずは、観念するか。
「わかりました。それに答えて頂けるというなら、治療を試みるのは、構いません」
「おおお!ありがとう!!」
騎士さんは、涙ぐまんばかりに喜んでいる。いや、参ったな…そこまで喜ばれると罪悪感がでるんだよな。俺は領主に文句言ってやろう…ついでに報酬として孤児院に再び、金を出させてやろうという魂胆なんだから。
「ただし
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