第22話 『7食目:パーシモのドライフルーツ』
ズドン!
パラパラパラ
ズドン!
パラパラパラ
ズドン!
パラパラパラ
ということで、
ズドン!
パラパラパラ
石を投げ込むたび、木の葉や枝や木の実など、いろいろなものがパラパラと降ってくる。しかし、さっきから落ちてくるこの木の実、見覚えがあるなぁ。
拾ってみると、手に乗る程度の大きさで、緑とオレンジの間くらいの色をしている。
「この、木の実は?もしかして食べられる?」
「あーそれね。それパーシモの実だよ」
パーシモ…ねぇ。これ、俺からすると地球で言うところの柿にしか見えないんだよね。
「パーシモの実は食べないの?」
「毒ってわけじゃないけど、渋すぎて、ものすごく不味いから誰も食べないよ?」
要するに、渋柿ってことか?うーん、これだけ落ちているんだから、齧ってみるかな。そう思い、1つ拾って齧ろうとすると、ロゼッタが声をかけてくる。
「えーシーくん、やめておきなよ…ほんと不味いから…」
「不味くても、どんな味か確かめてみたいんだ」
服の袖でパーシモの周りを軽く拭く。そして、齧ってみたが、これは確かに渋い。あれだ、渋柿とか、ワインとかの渋み、いわゆるタンニンの渋味だ。見た目通りのものに間違いないと確信した。
え?お前、前世は18で死んだんじゃ?なんでワインの味を、とか疑問を抱いてはいけない。いいね。
「これ、持って帰ろうっと」
「シーくん、た…食べるの?」
「ふふふ。これはね、もしかしたらだよ。おいしくできるかもしれないから」
「ええええ…」
ロゼッタにドン引きされてしまったが…まぁいい。完成された干し柿を食べれば、その目線が尊敬に変わるに違いない。
訓練を中断して、拾ったパーシモを、キッチンに持っていく。昼過ぎにキッチンを使うやつはいないので、占領しても問題あるまい。気になるのかロゼッタも着いてきた。
まずは、皮を剥いて、種を抜く…おお!ちょうどよくさっき買ったばかりの
新品ナイフの切れ味にウキウキしながら、作業をバンバンこなしにこなしていくと、あっという間に30個ほど種皮なしの渋柿が出来上がった。
そういえば、この辺りの天気ってどうなんだろう…。干し柿って確か20日くらい干すよね?
俺の部屋はカラカラだった気がする。干していないはずの布団に湿気が全くなかったのだ。
いやいや待て。渋柿の渋みはタンニンによるものだ。干すとタンニンが抜ける…のではなく、性質が変わるかららしい。
タンニンが舌に触れると、化学反応が起きて、味蕾のたんぱく質を変化させしてしまう。この化学反応を人間は渋みと感じるらしい。しかし干すことでタンニンがこの化学反応を起こさなくなる…これで渋味がなくなるのが干し柿が甘い仕組みだ。
ところがどっこい、俺の特性には
水溶性のものを溶かした水を、この特性を使って吸うとどうなるか、実験したことがある。塩水を吸ったら、後に、塩が残るかどうか、という話だ。
結果として塩は残らなかった。これがもし分離できたら、海水から塩作り放題チートウイイイイって思っていたのでガッカリしたんだが、逆に今回はそれがいい。
柿の水分を吸えば、水溶性のタンニンも吸い取れるので、本当の意味で渋抜きできる。
「
渋柿の水分を、根っこで片っ端から吸っていく。しばらくすると、表面に白いつぶつぶが出てきた。
「え?こんなしわくちゃになってるけど…しかもなんか白いツブツブが出てて腐ってるんじゃ??」
「大丈夫大丈夫…この白いのはお砂糖と同じ成分だよ…よし完成」
干し柿の表面の白いツブツブは正体はショ糖だ。お砂糖と同じ成分という言い方も、雑にくくれば嘘ではないだろう。
うん。あっという間に、俺の知ってる干し柿の姿になった。しわくちゃで、見た目よくないから、知らないと食べようとは思わないよなぁ。
早速、1つ齧ってみることにする。
「おおおお!甘い!めっちゃ甘いぞ!!!」
大成功だ。鬼くっそ甘い!最高じゃん。
この天然モノとは思えない際立った甘さと、ねっとりとした舌触りがたまらない。むしろ地球の干し柿よりも甘い上に、水分を素早く抜いたからか柿特有の風味も残っていて、これは地球のやつよりもうまいかもしれない。
まさか異世界で、こんなスイーツ食べられるなんて思わなかったわ。ドライフルーツいいなぁ。酸味のある果物も悪くないけど、いかにも「ザ・甘い!」お菓子、こっちで食べたことなかったんだよね。
砂糖は高級品なので、流石に砂糖菓子には手が出ない。となると果物とはまた違う『ほぼ甘味』で構成されたお菓子を食べることが、この世界ではなかなか難しいのだ。
転生前、俺は甘味が大好きだった。ケーキやチョコレートなどの洋菓子はもちろん、大福や温泉まんじゅう、羊羮のような和菓子も大好物だった。
しかしドライフルーツかぁ…盲点だったな。前世ではほとんど食べる機会がなかったが、これもなかなかに良いものだ。果物をそのまま食べるよりも、地球時代に好きだった甘味に近い。今度ニードルアイビーの実もドライフルーツにしてみようかな。
俺が嬉しそうにガブガブ食べているのに我慢がならなくなったのか、ロゼッタも干し柿に手を伸ばした。そして恐る恐る口に入れて…目がギン、と開いた。
「えええ!?あっまーい!!なにこれ!!すっごくおいしいんだけど!!うっそーー!!!」
良かった。ロゼッタも気に入ったみたいだ。俺を越える勢いでバクバク食べ始めた。甘味好き女子の、甘い物への熱意は、それはそれはすごいものがあるからな。
ロゼッタのおいしい!を聞き付けた年下の子、そして院長によって、あっという間に残りの干しパーシモは食いつくされた。
あの真面目な院長先生も、この甘味の前では乙女にならざるを得なかったようだ。ふふ。
その後、今度は孤児院のみんなが、地球的に一般的な方法で干しパーシモを作るようになったのは言うまでもない。
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