第21話 武器の選択

キースさんとの話で、立ち回りに関しては、これから訓練がだいぶ必要そうなのは、よくわかった。何、時間はあるから、ゆっくりやればいいのだ。


「ところで、武器は何を選べばいいですかね?あまり戦わないにしても武器がないというのは…」

「うーん。もちろん一般論で言うと、自身の戦闘スタイルと、パーティーから何を求められるかによって決めるのが当然なんだけど…そうだ」


キースさんは、両手をポン、と叩いた。


「まずは武器のお店行って、どんな武器があるかを見にこうか」


※※※※※※


「うおおお!すげえええ!」


浪漫だよこれは!ゲームとか漫画でしか見たことなかった、あの武器屋ですよこれは!


長剣ロングソード両手剣グレートソード突剣レイピア円盾ラウンドシールド大盾ラージシールド片手槍スピア馬上槍ランス片手槌メイス星状槌モーニングスター両手槌ウォーハンマー長杖スタッフ片手斧ハンドアクス長弓ロングボウ槍投器アトラトル投擲用槍ジャベリン投擲用斧トマホーク…。


いや、これ当たり前だけど、全部、本物だよね。すげぇ。


「初めてここに連れてきた男の子はみんなそういう反応するよね」


キースさんは少し、苦笑いしている。これは仕方ない。男の浪漫だもん。あ、でもこっちの世界の男も同じ反応なんだね。


感動して、武器をじーっと見ていると、入り口の方の扉が開いた。


「すまん、邪魔をするぞ」


そう挨拶して入ってきたのは、恐らく騎士だろう、武装した3人組だった。板金鎧プレートメイルを身に付け、腰には長剣ロングソードを差している。


板金鎧プレートメイル長剣ロングソードかー。憧れる…」


ファンタジー好きの日本人男子なら1度は憧れるスタイルだ。思わず口をついて言葉が出てしまった。


「うーん。若者が板金鎧プレートメイル長剣ロングソードに憧れる気持ちはわかるが野生の猛獣相手にはお勧めしないなぁ」

「そうなんですか?」


キースさんが困ったような顔をしてそう話した。えー、めっちゃ浪漫あるスタイルなのになぁ。


俺は、その説明にいまいち納得していない顔をしていたらしい。雰囲気を察した、騎士らしき3人組が話しかけてきた。


「坊主、ハンター志望か?なら先輩の言葉はよく聞いておけ」


騎士さんはそう話す。キースさんはそれを受けて、軽く頷くと、また口を開いた。


「シダン、あのね、剣は戦士階級の象徴だ。でも、手入れが困難で、扱いが難しい。また専門の鍛冶職人が時間をかけて鍛造した鋼を研いで、刃物として仕上げるから手間がかかってる。値段を見てごらん」


見るとロングソードは安くとも金貨6枚からだ。


これまで、いろんなものを見てきてざっくりわかったが金貨は1枚で8~10万円程度の価値がある。つまりロングソードは5、60万円はする、ということだ。


「つまり、武器としてはかなり高額なんだよね。片手槌メイス両手槍ロングスピア片手斧ハンドアクス長杖スタッフを見てごらん」


片手斧ハンドアックス両手槍ロングスピア銀板1枚2万円から。片手槌メイス銀板2枚4万円、樹を削っただけの長杖スタッフに至っては片銀貨3枚4000円からある。


「金額が、ゼロ1つ、下手したら2つ変わってきますね」

「それだけじゃない。片手槌メイスなんか最悪振ってぶち当てりゃいい。しかし長剣ロングソードはそうはいかない」


キースさんがそう説明したのを受けて、騎士の1人が続ける。


「そうだなぁ、俺らみたいな下っ端騎士でも最低3年は剣の取り扱いを含む戦闘訓練を積む。その戦闘訓練をしているときには、当然仕事はできないが俸給を貰える」

「訓練期間過ぎても、訓練はなくらないし…きついよなぁ」「そうそう」


騎士さんは、ポンポン、腰にある長剣ロングソードの柄の部分を叩いた。


「そんな専業の訓練をこなして、ようやく扱えるんだけど、扱いを少し誤ると、簡単に折れたり、曲がったりして使い物にならなくなるから、ほんと気を使ってるんだぜ」「税金で整備してるからなぁ」「ほんとほんと」


騎士さんたちの説明とも愚痴とも言わぬ話に、ね、とばかりにキースさんは、肩をすくめた。


「騎士は人間相手を想定してるから、それでもちゃんとした使い方をしていれば問題ない。しかしハンターは人間の相手をすることは、めったにないからね」


キースさんは、店にある長剣ロングソードを手に取る。剣を抜き、刃を確かめると、また納めて元に戻した。


「タフで、脂肪が厚く、骨が太く、そして暴れる野生動物に使えば、剣はすぐにダメになる。ハンターは狩りをして初めて金が貰えるし、装備品を自腹で整える。特に駆け出しのうちは、できる限り低いコストで、モンスターを狩らないと利益がでないんだ」

「なるほど、モンスターを倒すことが仕事で、倒して初めて仕事を達成したと見做されるから、コストパフォーマンスのよい武器で、如何に金をかけないで、モンスターを倒せるか、が自分の利益に繋がってくる…そういうことですね」

「シダンは理解が早くて助かるよ…まぁ、高レベルのハンターに、なればそれでもいい武器・防具を揃えるようにはなるけどね」


コストパフォーマンスとなれは、手入れがほとんど不要でかなり雑に扱える片手槌メイスとかが選ばれるのも納得だ。実際、キースさんとかもメインウェポンは片手槌メイスのようだしね。


「騎士は、いること自体が仕事だから、直接的には金を産み出さなくとも、国や町に雇用される。装備品も当然、支給される」


あの値段がする武器を自前で揃えて、さらに定期的にメンテナンスして、使うとなると赤貧の生活を送るはめになりそうだ。支給されるのは当然か。


「もちろんしっかりと使えることは大前提だけどね、警備や防衛することが仕事となる騎士や兵士はここにいるぞ!武力があるんだぞ!ってことをアピールすることも必要なんだよ」

「確かにそうですよね…アピールしないと抑止になりませんもんね」

「そうなると地味なメイスやスタッフでは役目を果たせなくなちゃう。見るからに武威となる剣が適切になるわけさ」


つかつか、と、キースさんは店内を歩くと、今度は弓を手に取った。


「あと騎士があまり選択しないのは、遠距離武器かな。大規模の戦いになればまた別だけど、普通はまず使わないよ」

「何故ですか?」

「それは、さっきも言ったが兵士や騎士はいることを誇示するのも仕事だからだね。遠距離武器はその逆に気づかれる前に仕留めるためのものだからな。むしろ遠距離武器はハンターのメインウエポンだ」


同じ武器でも目的が全然違う、ということか。なるほどね。


「遠距離武器はメジャーなところだと弓。刃先の大きい武器として槍投げ器アトラトルも構造が簡便なので好まれる。硬いモンスターには投石器スリングも使われるかな」


キースさんは、マリーさんに近寄ると肩をポンポンと叩いた。ほほう。それだけでマリーさんのたわわな母性が揺れる。マリーさん、実に素晴らしい。


「そして最高の遠距離攻撃は魔法だ。メンテナンスフリーで、維持費がかからないからな。威力や命中率は、まぁほかの武器といい勝負だが、持ち運びも不要で、とにかくハンターにはぴったりのギフトだ」

「あーでも使うまで目立ちませんから」

「そうそう。武威を示す必要のある騎士や兵士にはまったく不向きな武器なんだよねぇ…」


キースさんは俺の前に再び立った。


「それよりどう?しっくり来るのあった?」

「そうですね…自分が飽くまでサポートって立ち位置と考えると、遠距離攻撃ができる武器をまず考えるのがいい気がしてきました」


キースさん、マリーさん、チャドさんが揃ってうんうん、と頷いた。3人もそのイメージだったんだろう。


「訓練は必要だけど投石器スリングは悪くないかも。射撃体勢に入ると片手が空くし、何より費用対効果コストパフォーマンスがいい」

「投げるの石ですもんね…」


コスパがよい。元現代日本人としてその言葉に惹かれた俺はスリングを買った。


ほかにも戦闘用、というよりは様々な用途を目的とした広刃の諸刃ナイフダガーを買った。柄の手前側が金属で覆われていて、こちら側を簡易的なハンマーとしても使える便利アイテムだ。


※※※※※※


武器屋で、キースさんたちと別れたあと、治療院での仕事を終えて孤児院に帰ってきた。俺はさっそく、誰もいない裏山につづく空き地で投石器スリングを使ってみることにした。


しかし…これ…ものすごく難しい。何度投げても「前後左右」程度しか投げわけられない…。


「うーん。難しいなぁ…まぁ、今日始めたばかりだし、まずは練習あるのみかなぁー」

「シーくん、なにやってるの?」

「あ、ロゼッタ」


石を投げる音が聞こえたのかな?ロゼッタが建物から出てきて、こちらにトテトテと駆け寄ってきた。


「あーハンターになるのにね、ボクに合う武器をキースさんたち探してもらったんだ…で、まずはこれを使ってみてるんだ」


投石器スリングを目の高さに上げて見せる。しかしロゼッタは何だかわからないのだろう首を捻った。


「なに、この紐みたいの?」

投石器スリングって言って…見てて」


適当な石を拾い、投石器スリングに入れると、グルグルと回す。勢いがついたところで、狙った方向に飛ぶように回転を止める!


石は的から大きく外れて、横の茂みに飛び込んだ。


「全然、的から遠いんだけど」

「まだ…使い始めたばっかりでへたっぴなんだ…なんかごめん」


ロゼッタに、俺の謝罪は届いていなかった。どうやら、何かを考え込んでいるようだ。


「ロゼッタ…?」

「これ…」

「ん?なに?」

「シーくんの、あのにょろにょろって延びてくギフトでも同じこと出来そう」

「あ…ああ…なるほど。出きるかも」


それなら片手すら塞がらないし、そもそも石を拾う手間も省ける。狙うのも相手にもっと近づいて何かも可能だ。


「面白そうだね…うん。やってみるか…ルート!」


根っこに石を絡ませて…っと。石を絡めた根っこを、伸ばした地下茎で振り回して…回転させる。


ズドンッ!


的には当たらなかったが、手で投げたときより遥かに重い音がした。自分の身体が邪魔にならない分、振り回すときに描く円がデカいからだろう。石のスピードも段違いに早い。


「これは…1ついい武器ができたかもしれない…これを特訓しよう」

「良かったね」

「ロゼッタありがとう!ロゼッタのお陰でいい武器ができそうだ」

「ふふ。私ってば、シーくんの役に立ったでしょ?」

「うん!さっすがロゼッタ!」


えへん、とばかりに胸を反らすロゼッタ。俺はルートを発動して、さっきより大きめの石を掴む。


「よーし、もう一回投げてみるぞ~!」

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