第20話 ギフトの生かし方

ハンターになる決意をした翌日。ハンターになるべく準備をするには何が必要か、いろいろ考えたがまとまらなかった。


「下手の考え休むに似たりって言うしな」


朝御飯を作り終えたら、治療院に行くまで時間があるので、ハンター協会に行くことにした。ハンター協会には顔通しも済んでいる。


ギフトなどもハンター協会には伝えていることもあるので、話をすれば相談くらいはのって貰えるだろう。


ハンター協会への道を歩いていると、少し前をキースさんたち3人組が歩いているのを見かけた。そういえば、3人は「北限の疾風ノースゲイル」ってパーティー名らしい。中学2年生ェ…。


「キースさん、マリーさん、チャドさん、おはようございます」

「あ、シダン君おはよう♪」


振り返り、1番に反応してくれたのはマリーさん。うーん、今日も艶っぽい。将来一緒に旅できるの楽しみだわー。でも、たぶんだけど、マリーさんとキースさん、デキてるっぽいのよね。


「何か、キースがいきなり誘ったみたいでごめんね」

「いえ!ぼくも、誘って頂いて嬉しいです」

「でも、私もキースの立場だったら、その場で声をかけたと思う。それくらいシダンくんのギフトは魅力的だから」


今度は、す、と進み出たチャドさんが、軽く頭を下げた。


「ああ、それとパーティー入りを了承してくれて感謝する。3年後ではあるが、楽しみにしている」


チャドさんが手を差し出してきたので、両手で握り返す。チャドさんはゴツイ髭面に、ニィ、と笑みを浮かべた。この3人と一緒に旅なんて楽しそうだな。


「そう、12歳となればまだ時間があります。昨日お話した通り、できればそれまでの時間をハンターとして仕事をするための準備に当てたい、と思っています」

「そういえば、そう話していたね。とてもいいことだと思うよ!」


キースさんが、右手で、ぐっと親指を立てた。握手といい、親指といい、地球と文化似ているのなんなんだろうなぁ。


「できればギフトを軸にした戦い方も、護身程度でもいいので学びたいんです…どうすればいいでしょう?」

「なるほど、ギフトの使い方かー。技能憑依ライカンスロープのギフト持ちが必ず突き当たる壁なんだよね?」


両腕を組んでうんうん、と頷くキースさん。壁?どういうことだろう?


「そうなんですか?」

「おう。何せ、ほかのギフトは人間族が考えた技術体系を応用すれば使えるが、モンスターや獣の力を憑依させる技能憑依ライカンスロープはそうはいかない」


あ、そうか。剣や盾の使い方1つとってもサイズ、重さも、バランスも、何もかも人間基準だもんな。


巨大熊ヒュージベア技能憑依ライカンスロープだとして、熊に合わせた格闘技なんて技術体系はないからねー」


技能憑依ライカンスロープはもともと数が少ない。もし誰かが熊の格闘技を考えたとして、それが伝承されるとなると、複数の使い手がいないと成り立たないもんな。


「かと言って巨大熊ヒュージベアと同じように力任せに戦っていては、巨大熊ヒュージベアと同じ能力にしかならない。巨大熊ヒュージベアの能力に人間族の知識、技術と合わせることで、初めて強力なギフトになるんだ」


と、なると、俺のギフト。レアらしいからなぁ…1から自分で考えないとダメそうだな。


「まーとりあえず、シダンくんのギフトを見せてくれるかな、まずは自分のギフトを知るところから始めよう。将来のパーティーメンバーなんだから、相談にはできるだけ乗るよ」


そう話すキースさんに連れられて、ハンター協会の裏手にある、運動場のようなところに連れてこられた。100メートル四方はあるタダっ広い、広場だ。


ほかの何人かのハンターっぽい人が筋力トレーニングをしたり、武器の使い勝手を確認したりしている。誰でも自由に使えるみたいだな。


「さて、じゃあ何ができるかやってみてくれ」


特性のうち、植物の身体ドライアド植物の食事プラントミール薬効の子葉メディカルリーフはまったく戦闘では使えない。俺の命を守ってきてくれた特性ではあるが、こればっかりはどうしようもない。となると…これくらいだろう。


ルート


ぼこぼこ、とキースさんの足元から地下茎と根が伸びて、脚に絡み付く。


「お!?なるほど」


キースさんは、絡み付いた地下茎と根ルートを、引っ張って剥がそうとするが、剥がれないようだ。地下茎と根ルートは、俺は粘土みたいに動かせるが、他人からすると木と全く同じ強度なので、丈夫だったりする。


「これ、切っても大丈夫かい?」

「大丈夫です」


やがて諦めたキースさんが、切っていいか、と聞いてきたので了承する。


「樹属性魔法の蔦による拘束スネアに似てるけど、蔦ではなく、木だからか、あれより強度がかなり高いね」

地下茎と根それは、足の裏から生やしたものを自在に操る特性なので、別に拘束である必要はないです」

「自在?」

「はい。場所や動きもぼくが、意思で操っています」


ポイ、と手元の石を投げる。


それを地下茎と根ルートで拾わせて、俺の手元に持ってこさせる。


「なるほど…あー、もう1回巻きついてくれる?」

「はい…地下茎と根ルート!」


今度はキースさんが巻きつこうとした地下茎に対して、手や腕、脚で押し返して抵抗している…がキースさんのような大人からすると簡単なことだろう。


「木の堅さ、丈夫さはあるが、パワーはないのか…なるほどね」


俺のギフトは現状のままでは、戦闘に使うのは難しい。何故なら、この地下茎のパワーは、俺と同程度なのだ。だから地下茎と根ルートで巻きつこうとしても、巻き付く前なら抵抗は簡単にできるし、ましてや握り潰すなどの攻撃に使うのは難しい。


1度巻きつけば、パワーではなく、単に「巻きついた形の木」になるので、剥がすのが難しいというわけだ。


「なるほど…じゃあ戦闘で使うには工夫が必要そうだね。まずは、体捌きや、身の守り方とかそういうのを教えた方がよさそうだな」

「そうですね…みなさんの足を引っ張らない程度には護身できれば、と思っています」


回復役として期待されているのだ。戦闘は邪魔にならない程度を目標に鍛えていこう。


「あと、味方のサポートは充分にできると思うぞ。根っこを使って敵の足止めを的確にできれば、前線で戦うヤツも楽になるからね」

「なるほど…やることが山積みですね」

「ふふ、嫌になったか?」


キースさんが尋ねてくるが、いやまさか。むしろどこまでできるか試してみたくなった。


「まだ時間はあります。頑張りますよ…あ、指導はしてくださいね」

「狩りの合間になっちまうがな、将来のパーティーメンバーのためだ、一肌脱ぐぜ」

「よろしくお願いします」


やることは決まった。さーて、これから12歳までの3年間。俺はどこまで準備できるかな?

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