第9話 初めて自分で決めたこと
暖かい。
暗闇に意識が落ちた俺は、また意識が再浮上してきたことを自覚した。暖かさの元は、少し離れたところにある熱源か。
「あっ…」
目を開けると、星空が視界いっぱいに広がった。そういえば、こっちに来てから、この星空だけは、前世より素晴らしいと思っていた。星座はよくわからないが、たぶん地球とは全然、違うんだろうなぁ。
「あ、マリー、起きたぞ」
「あら良かった」
視界の外から聞こえてくる男女の声。この声、聞き覚えがあるな。そう、昨日、村の井戸の前で会った。
「キースさん、マリーさん」
「おう。よく無事だったな」
身体を起こして、声の方を見ると、真っ暗な闇の中、焚き火で3人の輪郭が浮かび上がっていた。
マリーさんとキースさん、そしてもう1人、先日、2人を呼んでいたチャドさんだった。3人は火を囲うように座ってくつろいでいたようだ。
「ぼくはいったい…」
「前に会ったとき、俺らが森で出た猛獣追ってたって話しただろ?」
そういえば、3人は
「はい…井戸の前でそのお話は伺いました」
「それだ。俺らが追ってた
「馬を食べられちゃったから大損だね」
マリーさんがため息をつきながら、キースさんの愚痴に同調するように応えた。
「つーか、山から抜けられるルートがあるなら、教えてくれればいいのによー。ルートがないっていうから、わざわざイーサマータ経由したっていうのによー」
「でもあのルートだと馬連れては無理だから、荷物持って往復は無理かもしれない。ほら逃げてる途中にも迷い込んだのか知らないけど、全滅してた別の商隊があったじゃん」
「あったなー。そういうことかー」
あの牛狼(仮)は
「…ぼく…助かったんですね…そして助けて頂いたんですね…ありがとうございます」
一応、子供であることを意識して、一人称はぼく、にしておこう。
「助けたのはついでだ、気にすんな。隊商の方は、全滅していておかしくなかったが、不思議ときみだけ襲われていなかった…怪我1つなかったぞ」
「つまり、運がよかったんですね」
「みたいだな」
そこで言葉が途切れた。焚き火が爆ぜる、パチパチという音だけがしばらくその場を支配する。
「ぼく、どうなるんですか?」
「うーん。そもそも、この前まで村にいたきみがなんで隊商と一緒にこんなところに居たんだ?」
「…親に…売られました」
「………そ…そうか」
俺のあまりと言えばあまりの回答に閉口したのか、キースさんはそれ以上なにもいわなかった。再び、沈黙がしばらくその場を支配した。しかし、やがて沈黙に堪えかねたのか、マリーさんが口を開く。
「なら、村に戻すのも難しいわね」
「ぼくも正直、戻りたくないです…どうせまた売られるだけでしょうから…」
俺はマリーさんたちに家庭の状態…姉は売られ、長兄以外の兄や弟が全員死んだこと…を細かく話した。そして、改めて村には帰りたくない旨を説明した。
「村の状態見て何となくわかっていたけど、やっぱりそんなんだよねぇ…うーん」
腕を組む、マリーさんとキースさん。するとそれまでずっと黙っていたチャドさんが、会話に加わってきた。
「お前らの古巣でいいんじゃねーか?」
「ああ、その手があったか~」
チャドさんの提案に、キースさんがポン、と両手を打ち、マリーさんが頷く。
「古巣ですか?」
「ああ、俺もマリーも孤児院の出身なんだ」
「そうなんですね」
「孤児院って言っても、俺とマリーの居た孤児院は、院長が立派な人でな、たぶん戻るよりもちゃんとした生活送れるとは思うぞ…どうする?」
キースさんやマリーさんとは、まだ少ししか話をしていないが、うちの両親よりはるかにまともな大人に見える。まさかこんな偶然なタイミングで、俺を騙したりなんてことはしないだろう。そもそも俺を騙して得られるもんなんてないだろうし。
まぁ、どう転んでも、あそこに戻るよりも、まともだろうしね。ならばこのチャンス逃がすわけにはいかない。
「マリーさん、キースさん、チャドさん、その孤児院に連れていって貰えませんか?よろしくお願いします」
こうして異世界に転生して、サバンナの真ん中でド底辺の生活を9歳まで送った俺は、ようやくあの底辺の村から出ることができたのだった。
※※※※※※
3人に孤児院に連れていってもらうことを約束してもらってまもなく、夜が白み初めてきた。見れば、背後には大きな山が見え、その隙間から太陽(?)の光が差してくる。さっきのキースさんとマリーさんの会話からも何となく察せたが、どうやら、昨晩、俺が気絶している間に、黒狼から逃げるためにかなり遠くまで来たようだ。
狼はナワバリが数十キロに及ぶ。しかもあのサイズの狼ならさらに広い可能性もある。
白み始めた空を見たキースさんたちは焚き火を消した。キースさんは立ち上がってうーん、と伸びをすると、俺の方を振り返って、ニカリ、と笑顔になった。
「孤児院まで、すぐだからよ、朝飯はそっちでくった方がうまいもん食えるぜ」
「そうね…私たちも街で食べた方がいいしね」
キースさんにマリーさんが同意して、チャドさんは無言で2人についていく形で移動を始めた。俺も3人に慌ててついていく。
1時間ほど森をウォーキングすると、ちょうど森の切れ目に差し掛かった。さらにその少し向こうの開けたところに、大きめの建物が見えた。
「よーし、坊主、ここが俺とマリーが昔居た孤児院だ、ここはコーダエって街の郊外にあたる。んでコーダエは、マーリネ農業国の都市の1つだ」
「…ぼくたちが居たのはマーリネ農業国という国だったんですね」
そういえば、国とかもあるんだな。自分が世界のどのあたりにいるか、考えたこともなかった。
「……そこから説明が必要性か…。そうだ。お前の村があったのは、マーリネ農業国でも最北端…厳密にはマーリネの国境北端からは出ているけどな…そんな場所にいたんだ」
キースさんと合流出来たことから考えるに、やはりここは地球的に言う南半球なのだろう。太陽に背を向けて歩いて、北端にある俺のいた集落から、マーリネ農業国に入った。つまり、太陽があるのが北向きなのだ。
ま、そんな発見や驚きをキースさんに伝えるわけにもいかないので、無難な質問を重ねることにする。
「マーリネの国境から出てるということはなんと言う国になるんですか?」
「坊主のいた村からさらに北には大きな森があるらしいが国の名前というと、よくわからない…というかどこの国でもないというか…」
「え?それってもしかして…」
国に所属していない未開地土着の、なんというべきか。
「ぼくの居た村ってド辺境って言うか、ぼくらって、世間から見ると、いわゆる蛮族ってやつってことですか?」
「ま、まぁそうなる…世間的にはマーネリより北方に住んでいて 、国に所属していない人間は、
そういや、あの村では、村のために金を集めるが、さらにどこかに持っていく、つまりどこかの領主に税金を納めるという行為を見たことがないな。
「坊主の居た村の近辺には、あのあたりにしかいない
それがなければ住む価値もない、クソド底辺の辺境、国ですらない未開の蛮族が住む村だもんな〜。
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