第7話 貞操の危機とギフト
ギフトってなんだったのか、知りたかったなぁ。ぼーっと3人を見送っていると、俺にまた近寄る人影があった。
「こんにちは~今日も可愛いわねぇ」
うわ。今度は会いたくないやつにあっちまったよ。さっさと家に帰ればよかった。
…俺に声をかけてきたのは、でっぷり太ったハゲ親父だ。そうおっさんだ。たぶん40代後半~50代。まるで樽のように太った身体は、ひどく弛んでいてこいつが肉体労働が一切できないことを示している。
「やっぱり、あなた好みだわ。今回は女の子じゃないけど、あなたにするわ」
今回は、あなたにする、何のことかわからないが、ものすごく嫌な予感がする。
こいつは一昨日、村にきてから、俺のことを何度も、何度も、つけ回してきた隊商のリーダーらしき人間だ。このでっぷり太ったおっさんは、唯一の味方だった姉を金貨と引き換えに連れていっている。
どうやら金を死ぬほど持っているようで、この村の連中は、このキモ親父に、まったく頭があがらないらしい。
「ねぇあなた」
前にこのキモ親父を無視したら、そのことを知ったリアル親父にしこたま殴られた。そのために絶対に無視できない。仕方なく応じることにする。
「なんでしょう?」
「なんで、そんなに肌艶が綺麗なの?ご両親からそんなに可愛がられているの?」
「わかりません。が、両親が可愛がっている、ということはないでしょう。ご飯すらまともにもらえないので」
「ふーん、じゃあ何かのギフトの影響かしら?」
ギフト。
さっきもマリーさんが言っていた言葉だ。文脈的に、何かの節目に渡すプレゼントのことではないだろう。
「ギフトってなんですか?」
「あらやだ、ギフト知らないの?」
「はい。知りません」
「うーんと、ギフトはね。貴族も庶民もなく、100人に1人くらい持って産まれてくる特殊な力のことよ」
「特殊な力?」
「そ、特殊能力。普通の人では再現できない神の恩寵遠き種族が得る星の情けが生んだ奇跡の力ね」
奇跡の力、ね。地球の物理法則ではありえない話だなぁ。異種族といい、奇跡の力といいつくづく、異世界転生しているなぁ。
「ギフトは大きくわけて4種類、
「その4つ何が違うんですか?」
「
おー、強化系。さっきのキースさんとかそういうギフト持っていたのかなぁ。俺は肉体能力は普通だから持ってなさそう。
「
「魔法!?」
思わず食いついてしまう。うおおおお!キタコレ!魔法があるのか、この異世界最高じゃん。
「あら?魔法は知っているのね。そ、魔法を扱うための才能のことね。このギフトがないと
おう。才能がないと魔法って使えないのか。一気にテンションが下がった。
「
「なるほど」
「そして、最後の
能力だけ引き出すってことは、地球の作り物に出てくるライカンスロープみたいに、半獣半人の怪物にはならないみたいだな。どっちかというと、あれだな、スパイダー○ンとか仮面ライ○ーとか、それ系だ。
「ギフト…どうやってそんなの持ってるかわかるんですか?」
「専門の
「
「そうそう、ギフトよ。
「買う…」
やはり、そうか…。それで目をつけられていた訳だな。そして、買われて、このおっさんに愛でられるのか。いやすぎる未来像だな。有り体に言って地獄だ。
「フフフ。楽しみにしててねぇ。うちに来たら、おいしいもの食べれるし、水汲みなんてしなくてもいいわよぉ、その代わりいっぱい可愛がって上げるから」
ねっとり、となで回すようにおっさんは俺を見る。ああ、終わった。もともと終わっているような人生だったけど、完全に詰んだかな。逃げ出そうにも、さっきようやくサバンナの果てを知ったくらいで、その先、どうするかまだ計画が立っていない。
でも…。
(この豚の服装や体型的に、それなりの規模の町で住んでいるっぽいんだよね)
狩猟や農業で食べていく職業なら、このおっさんの体型はありえない。そもそも世界全体がこのクソ村みたいなところばかりなら、貨幣すらないだろう。
姉貴が買われて、そしてオヤジたちがその金を有り難がっている、そもそも隊商が来るたび、村人は大事そうに貨幣を握りしめているところから、貨幣経済くらいはそれなりに存在しているのは間違いない。そして、このおっさんが住んでいるのは、それなりの種類の職業と、貨幣のある経済規模の存在する町の可能性が高い。
(逃げ出すのを考えるのはそれからでも良いかな…お腹が空かないギフトも知りたいし)
おっさんからの愛玩…お尻へのダメージなどは一時的に諦めるしかないだろう。絶対に諦めたくないけど、むしろ俺に選択肢はない。それに、おっさんに気に入られれば、ここより文化的な生活はできるかもしれない…と自分を慰めた。
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