第4話 のじゃロリはスプラッター系?
とは言え、俺にできることはまだ少ない。
「生き残るには…どクズとは言え、家族とは当面、敵対しない方がいいな…」
流石に放り出されたら、どうにもならない。何故か飢えはしないので、それをうまく使って、何とか殺されないように立ち回るしかない。
「味方…味方がほしいなぁ」
どうぜ誰も見ていないと、ついに独り言を喋り始めたが、こんな独り言を1歳が話していたら異様だ。聞かれないようにしないとね。
ぼやきながら歩いていたら、あっというまに反対側の村の端まで来てしまった。歩くことは久々だし、足の筋肉もかなり弱いので、楽ではないが、バランスの取り方自体は流石に覚えている。思いの外すらすらと歩けた。
村の外を見てみると、うちの裏手と大差ない光景だった。広がる荒れ地。まばらに生えた草と、それよりさらにまばらな樹木。そして砂ぼこり。決して生物が生きやすい環境ではないだろう。
父親の話を聞くに、この村はヒュージコブラというクソバカデカい毒ヘビと、ロングコートバイソンという毛が長くて獰猛な野牛を狩って売っているようだ。
そういう生き物はここから少し離れた水場で暮らしている。一方で、村のあるあたりはかなり深く掘らないと水が得られないので、ほとんど生き物がいないそうだ。
「外敵に襲われないメリットはあるが、代わりに死の大地に住んでいるわけで…」
まぁ、ありていに言ってかなりヤバい村だとは思う。こんな、過酷な環境に村を作るのは普通ではない。
「勝手な想像だけど、何らかの理由でこんな、辺境で暮らさざるを得なかった…例えば罪人とか…の末裔なのでは?」
隊商が来るには来る。ということは、狩人が定期的にきて狩ることも可能だろう。それなのに、わざわざ住み着く必要があるのかとも思う。
「ふいー疲れた」
普段喋らないようにしているからか、周りに人影がないので、だいぶ独り言をしてしまった。かなりタマってるなぁ。すっかり気が抜けて、俺はペタン、とその場に座り込んだ。
ぼーっと日差しを浴びると、強烈な日差しではあるにも関わらずむしろ気持ちいい。日本みたいにジメっとしていないからだろうか。ぽかぽか陽気の中にいる感じは眠気すら誘う。
うとうとと、眠りと覚醒の間くらいにいた俺だが、視線の先の草むらが不意に動いて、急に覚醒に傾いた。
(な…なんだ!?)
もしやばい動物だったらどうにもならない。初めての歩きで、調子にのって村の外まで出た自分のバカさ加減を呪う。
(俺バカすぎるわ!1歳児の足で逃げられるわけもないし…くそ!)
ガサ、という音ともに草むらから現れたのは…小さな青いワンピースを着た女の子だった。年齢的な話ではなく、物理的な大きさが、手の平に乗るサイズの女の子なのだ。
「よ…妖精?」
思わず漏らしたその呟きに、女の子が反応して、こっちを振り返る。水のような蒼い髪の毛が翻り、サファイアの様な瞳とぴったり目線が合った。しまった。見た目女の子ってだけで危険かどうかなんて全くの未知なのに…さっきから迂闊すぎる。
「妾の姿が見えるのか?」
驚いたその表情はあどけなさを感じるくらいで危険さはないように思える。よくよく見れば、ひどく整った…いやそれを超えた神秘的な顔立ちだ。小さな丸顔に、青いほどの白い肌、丸い瞳とくりくりとした睫毛。
すっと鼻筋が通っていて、全体的に青い色合いの中にある、ピンクの唇が、まるで美しいせせらぎに流れる花びらのようにすら見える。
大きさを考えなければ、11、2歳くらいには見える。瞳には理性も感じられる。ふと、無視するより、会話した方が安全なのでは?と考えて応答することにした。
「う…うん…見えるよ」
「そうかそうか、ならお前は同族か?」
目の前の少女?は、去年、生まれたばかりの俺よりも明らかにサイズが小さい。この大きさの差はどう考えても個性という枠を越えているだろう。
「同族?ええと、あなたとはサイズ的に同族ではないように思えますが?」
「
「えええええええ??」
うわー。この世界って人以外の種族たくさんいるんだなおい。エルフとか見てみたいな。
「ならば、腕の1本くらい貰ってもよいじゃろ?」
「はァ!?」
あれ?やっぱりデスエンカウント系でしたカー?交渉前に逃げるべきだったか。まさか可愛い顔してスプラッター系とは恐れいった。
「そんなことしたら痛くて、下手したら死んじゃいますって!」
「痛いもんがあるか。
「ちょ!うわっ!助けてぇ!」
「じゃあ頂きまーす…ってあれ?」
その小さな女の子は、俺の腕に噛みつく前にその動作を止めた。そして首を傾げている。俺を食べようとしたヤバいやつなのに、その首を傾げる仕草が妙に可愛く見えた。美人って恐怖を超えて可愛く思えちゃうんだから、すげー怖いなぁ。
「あれ?やはりお主、
「だから、そう言ってるのに…」
何だか知らないけど、食べるのを止めてくれた?のか?女の子は、俺の腕のあたりをクンクン嗅いで匂いを確認している。
青い少女?の形のいい鼻がつんつん俺の腕に当たる姿に、何とも言えない背徳感がむずむずと背中を走る。
「むーん。美味しそうな匂いはするのになぁなんで
「知らん知らん」
ヒュームって言葉自体、今日初めて聞いたのにそんなこと知るわけない。あと喋れるのはたぶん特別だがそれを話す義理もない。
「
むしろ腕を切り取ってもまた生えてくる種族があるんか。異世界こえええよ。
「ヒュームとやらじゃなかったらいいのかよ…腕をもいでも…」
「なーに妾のように
「こえええな」
「なるほど、ならば、じゃ」
じーっと俺の全身を見つめる
「髪の毛でいーからちょーだいなのじゃ!確か
「髪の毛か…まぁそれくらいなら…また、生えてくるし」
「そうか!ならばじゃあ頂きますなのじゃ!」
口を開けて、髪の毛に噛みつくと前髪が、綺麗に歯形に消えた。そしてあっという間に、俺の髪の毛を食いつくした。
「ふいい、満たされたわーお主かなり美味じゃな」
自分が美味しいかどうかなんて、知りたくなかったよ。それにしても、頭が涼しい…。
「容赦なく、俺の頭を禿げ頭にしてくれたな…」
「いや、でも助かったのじゃ。このままではあやうく餓死するところだったのじゃ」
「そんなに腹が減っていたのか…」
餓死は辛いよね、餓死は。
「うむ。しかし、お主は不思議と地?水?の
「いや、それは俺にもわからないよ」
父親も母親も、たぶんヒュームってやつだと思う。見た目もサイズも俺の知る人間のものだった。そんな訳のわからない精霊の力を持っているとは思えない。
「しかし、とりあえず腹は満たされたが、これからどうしようかのう?しばらく、お主の髪の毛で養って欲しいのだが…」
「悪いが、俺の髪の毛がさっきくらいまで生えてくるのに、それなりの時間がかかるぞ」
「な…なんと…それはまずいのう」
「つーか、これまではどうやって飯食ってたんだよ…」
まさか髪の毛ばっかり食ってきたとも思えない。さっきの話だと同族が食料なのか?
「もともと我ら
ウンディーネねぇ。水の精霊だから、なるほど、全体的に青いシルエットなわけだ。しかし、あいにく、このサバンナの村は水が少ない。井戸を掘って出るのは泥水。これを濾過して飲んでいるのだ。
「この街に来てる隊商についていったら街につくんじゃない?そこなら水はいっぱいあるかも?」
街なら水を使うところはたくさんあるだろう。生活があれば、そのまま飲んだり、煮炊きしたり、風呂に入ったり、用途は死ぬほどある。
「おお!それじゃ!それじゃ!」
「隊商はほら…あそこの人たちだよ」
村の反対側の人混みを指す。先程より集まっている人が少なく見える。よくよく見れば何台かは、すでに帰り支度をしているようだ。
「おお!ありがとうな、少年?名前は?」
「俺の名前は…わからないんだ…ごめん」
そう、わからない。一歳になった俺だが、いまだに親から名前で呼ばれたことがないので、わからないのだ。
「そうか、それはすまないことを聞いた、名もなき少年よ。改めて助かったのじゃ。妾の名前はルカ。また会う機会があったら、恩返しさせてもらうぞ」
どうやってついていくんだろう、とは思ったが、そういえば、普通の人には見えないみたいなことも言ってな。図々しくも馬車に乗せてもらうのだろう。すれ違っただけだが、ルカが街までちゃんと行けますように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます